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読書の秋に(若い)プログラマーのみなさんにぜひオススメしたいアツい本

Last updated at Posted at 2022-09-29

カズオ・イシグロ “充たされざる者”(1995)(訳:古賀林幸)

1000ページを超えるぶ厚い小説。主人公はある街でコンサートを開くためにやってきたピアニストです。彼が行く先々でのいろんな人たちとの関わりが描かれるのですが、物事がちっとも前に進んでいかない。

まるで終わりのない悪夢のような話。ストーリーらしいストーリーはなくて、でも、ちょっとした葛藤や謎に引っ張られながら、ついつい先へ先へと読んでしまうんです。私はこの作品が大好きで、もう5回くらい繰り返して読んでいます。でもなぜ好きなのかうまく説明できないないんですよねえ。

ただ、この作品を読むたびに思うのは、そこには確かに読書の楽しみがある、ということ。村上春樹は自分の好きな小説を語る時に「文章から滋養を受け取る」みたいな言い方をしていました。私がこの小説から受け取っているのも、おそらくそういうものだと思います。翻訳は古賀林幸という方で、スムーズで信頼できる日本語です。

面白いミステリーに夢中になって、ひと晩で読み終わって、謎が解けたぞーっていう「一気飲み」みたいな読書の楽しみ方もあるでしょうけど、2ヶ月も3ヶ月もかけて「ちびちびやる」楽しみ方もあるんです。

私はこれが本と長く付き合っていくためのコツだと思っています。電車やバスで移動する時間、お昼ご飯を食べた後の休みの残り時間、注文した料理が出てくるまでの待ち時間、夜眠りにつくまでの数分間。こういう細切れの時間を繋いでいくんです。

けっして「キリのいいところまで読もう」なんて頑張っちゃいけません。文章の途中でも、時間がきたらさっさと閉じちゃえばいいんです。

電子書籍ならスマホに入れて気軽に持ち運べますし、時間が空いたらいつでも開けます。1000ページもの紙の本を持ち運ぶのは苦痛以外の何物でもないですから。この作品も、以下で紹介する作品も、すべて電子書籍で入手可能です。

SNSの読書タグで、自分の家の立派な書架の写真を投稿して自慢している人がたくさんいます。本の重み、紙の感触、匂いを味わいながら読むのは素晴らしい経験ですが、今や贅沢な楽しみとなりつつあります。

1980年代にCDが登場した時「デジタルは庶民の味方」と言われました。それまでは高価なアナログのステレオ装置とリスニング環境を所有する裕福な人たちだけが音楽を楽しむ事ができたのですが、CDの登場以降、もっと廉価な、場所を取らない装置で、誰もが音楽を楽しめるようになったのです。その後の技術の進歩は凄まじく、今では1000曲の音楽と1000冊の本をスマホに入れて気軽に持ち運べるようになりました。好きな音楽を聴きながら、面白い小説がどこでも読めるなんて、技術の進歩に感謝するしかないですね。

スティーヴン・キング “ザ・スタンド“(1990)(訳:深町眞理子)

5分冊、2500ページのぶ厚さ。まずは第1巻の無料サンプルを試してみることをオススメします。著者の前書きは長いです。「キングの書いたものなら買い物リストでも読みたい」という熱狂的なファンがいて、著者もそんな読者のために楽しみながら書いているフシがあります。まあ、タダですから読んでみてください。

この文章が気に入らないなら、本篇もきっと読むのが苦痛でしょう。こういうものを面白がって読む人がいるかと思うと、時間のムダだという人もいるんですよね。私はもちろん前者です。後者の方は…そうですね、とりあえず靴でも磨いたらどうでしょうか。

電子書籍のいいところは、買う前に無料のサンプルで冒頭の部分を試し読みできることです。この作者の文章とはどうも相性がよくない、とかありますからね。ちなみにこの本の翻訳者は深町眞理子さんで、このひとの日本語は私は好きです。

ストーリーは、軍の研究所から致死性のウイルスが漏出し、人類は絶滅。僅かに生き残った人々が善と悪に分かれて最後の戦いを繰り広げる、というもの。愛すべき登場人物たち。読み終える頃には、彼らを残してその世界から立ち去るのが辛いとさえ思うようになるでしょう。それくらい夢中になれる小説です。

トニ・モリスン “青い眼が欲しい“(1970)(訳:大社淑子)

「人々が彼女たち(白人の女の子たち)を見て”まあかわいい“と言うのに、わたしに対して言わないのは、どうしてなの?」という、1人の黒人少女の問いから始まる、差別的な社会の底辺を生きる少女の目から見た世界。

白人から黒人への差別だけではない。弱きものたちの世界にも厳然と存在する差別。男による女性に対する暴力的支配。後にアメリカのアフリカ系女性として初めてノーベル文学賞を受賞した著者のデビュー作。あからさまな性表現や差別表現がガンガン出てきます。気の弱い人は避けた方がいいかも。こういう物語を私たちが読む理由って、他人の思いを追体験することですよね。世の中にある様々な理不尽なことに対して、勇気を持って声を上げた人の声に耳を傾けること。

車谷長吉 “人生の救い”(2012)

困難な人生を歩んだ著者による人生相談。「なんかつらい」と感じている人は、まずは無料サンプルの「不況のせいで就職がうまくいかない」という大学生からの相談を読んでみるといいでしょう。私は著者の答えを読んで、ぶっ飛ぶような衝撃を受けました。

村上春樹 “海辺のカフカ”(2004)

世界一タフな15歳の冒険の話。
著者は日本だけでなく、世界中にファンがいるのですが、同時に同じくらいの数のアンチがいます。新作が出れば、賞賛とともに憎しみの声がネットに溢れる。まあ仕方ないですね。カンツォーネが大嫌いなイタリア人もいるでしょうし、ヒップホップが大嫌いなアフリカ系アメリカ人もいるでしょうし、ジャーマンテクノが大嫌いなドイツ人もいるでしょう。だから、村上春樹が大嫌いな日本人がいてもちっとも不思議じゃないですよね。私は大好きですけど。

伊坂幸太郎“砂漠”(2005)

著者の作品ではいつも、愚直に、悪に立ち向かう人の姿が描かれる。彼の作品を読みたくなる時って、自分も、そういう人でありたい、その思いは変わらない、ということを確認したくなる時なんですよね。

プログラマーは技術だけでなく、知性を身につけるべきだと私は思っています。知性を身につけるには、よい映画をたくさん観て、よい本をたくさん読んで、よい音楽をたくさん聴くこと。

スティーブ・ジョブズはiPodのことを”Device for heart”と呼びました。ここで私が知性と呼んでいるものは、そのハートのことです。

この記事が、これからみなさんがよいものを見つけていくきっかけになってくれればうれしいです。

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