こんにちは、tmrtjと申します。
私は現在株式会社音圧爆上げくんという会社に所属しており、プロKagglerとして活動しています。
私は現在プロKagglerとして、業務の一環で、現在Kaggleで行われているコンペの一つであるJPX Tokyo Stock Exchange Predictionに参加しています。
はじめに
JPX Tokyo Stock Exchange Prediction は株式投資のコンペです。
1営業日ごとに買い持ちする銘柄を200個選びランク付けし、また売り持ちする銘柄も同様に200個選びランク付けし、そのランクに応じた重みを仮想のポートフォリオとし、パフォーマンスを競います。
これは、実際の資産運用ビジネスにおける、株式のロングショート戦略に相当します。
そこで、今回はこのロングショート戦略について論文などをサーベイするなかで、興味深い論文を見つけたのでシェアします。
その論文は、Quant Bust 2020という論文です。
タイトルの「Quant Bust 2020」というのは、2020年のコロナショック時に、多くのクオンツファンドが酷いパフォーマンスを叩き出したことを指しています。
この論文を紹介することにした理由は、ドルニュートラルな投資戦略、すなわち、株を同じ金額だけ買い持ち、売り持ちするような戦略に焦点を当てているからです。
今回のコンペの問題設定は、買い、売り、それぞれ200銘柄を1日ごとに選んでポートフォリオを組み、そのシャープレシオを競うというものですが、これは、この論文で想定しているヘッジファンドのポートフォリオの組み方と同じだからです。想定されているヘッジファンドは、ドルニュートラルの、トレード期間が1~20日のStat Arb戦略だとされています。
この論文では、短期のStat Arb戦略の利益がどのように生まれるかの仕組みについて解説されているため、今回のコンペに取り組むにあたり有用だと思ったのでシェアします。
今回の記事では、この論文のポイントに絞って紹介します。
もし、より詳しく知りたい方はリンク先から読んでみてください。
論文のポイント
・Stat Arb戦略を支えているのはロングオンリーの長期の投資家の資金であり、彼らがPERやPBRを見て売買することで、例えば、同じ産業セクター内の銘柄で株価の間に相関が生まれる。
・また、ロングオンリーの長期の投資家は、動かす金額がヘッジファンドに比べ大きく、小さい金額の損失を気にしないので、比較的小規模なファンドであるStat Arb系のファンドの収益源になっている。
・相場全体が大きく下がる場合、ロングオンリーの投資家もポジションを解消するため、巨額の売りが出る。こうした投資家による売りが同産業セクター間の相関を乱す。
・相場急変時には相関を元に戻そうとする力も働かず、多くのStat Arb戦略ファンドもポジション解消するので、さらに平常時の相関が乱れる。
・ドルニュートラルなポートフォリオは暴落の影響を受けないわけではなく、むしろパフォーマンスが悪化する。
・機械学習モデルは、より長期目線の、大きな資金を動かす投資家が市場に生み出す非効率性を見つけ出すことはあっても、その根本的な原因(今回の論文で言えば、コロナショックで経済のファンダメンタルズが変化し、長期投資家がポジションを解約したがっている)を見つけ出すことはない。
コンペティティションに対する示唆と考察
一番重要な示唆は、相場全体の変動リスクを取らないと思われているロングショート戦略であっても、それが平均回帰戦略であれば、相場全体が暴落するときにはパフォーマンスが悪くなるということです。
これは平常時のポートフォリオのバックテストの結果だけを見ていると分からないことだと思います。
暴落時には平均回帰戦略のパフォーマンスが悪化するなら、その時にだけ順張り戦略を取ればいいと思うかもしれません。
しかし、このアイデアにもいくつか問題があります。
一つは、今回紹介した論文でも指摘されているように、市場全体が暴落するような大きな相場変動を機械学習により予測することは非常に難しいということです。これは、機械学習が大量のデータから繰り返されるパターンを認識するものであることを考えると理解できると思います。市場全体が暴落するようなイベントは全体を通しても稀なため、こうしたイベントのパターンを機械学習モデルに学習させるのは難しいでしょう。
二つ目の問題は、今回の問題設定が、同額のロングショートポートフォリオを組むというものであることです。たとえうまく相場の急変を予測できたとしても、ルール上必ず一定額を買い持ちする必要があるため、株式相場全体が暴落するなかで、どの銘柄を買い持ちすればよいかを選ばなければいけないということになります。
まず一つ目の問題の対策ですが、自分はレジームを判定し、そのレジームに応じて戦略を変えることを検討しています。レジームとは相場環境のことを指し、上げ相場、低ボラティリティ相場、下げ相場など、異なる値動きをする相場は異なるレジームに分類することが一般的です。こうしたレジームをどう判定するかですが、ひとつのアイデアとしては、教師なし学習を用いらというアイデアがあります。たとえぼ、リンク先ではGMMを用いてマーケットのレジームを分類することを試みています。こうした対策は、相場に大きく影響するイベントをあらかじめ予測することはできないものの、よりシャープレシオを高めることには役に立つと思われます。
次に二つ目の、暴落相場においてどういった銘柄を買い持ちすれば良いかという問題ですが、ひとつの答えは、よりディフェンシィブな銘柄を買うようにするというものだと思います。ディフェンシブ銘柄とは、企業業績がより景気悪化の影響を受けにくい株式のことで、例えば生活必需品である食料品や社会インフラなどのセクターに属する銘柄を指します。しかし、多くの人考えることは同じなので、ただ、こうした銘柄をポートフォリオに組み入れるだけでは良いスコアを出せないと思います。
これら二つの問題のうち、一つ目に関しては、上に書いたこと以外にあまりやれることが思い浮かびませんが、二つ目の暴落時に、相対的に有利な投資先の選定はさまざまな工夫の余地があり、かつ、シャープレシオ改善に対する効きが大きそうだと感じます。
以上のことから、自分は主に後者に注力していくつもりです。
論文に対する解説は以上です。
今回の記事が何らかの参考になれば幸いです。
最後に
この記事と同内容のものをNotebook上にも投稿しています。
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