msvcrt.dllに依存しない実行ファイル（HelloWorld）を作る

msvcrt.dllに依存しない実行ファイルを作ることにあまり意味はないですが、気になったためやってみました。

hello.c

void WriteFile(void *, void *, int, void *, void *);
void *GetStdHandle(int);
void f() { WriteFile(GetStdHandle(-11), "Hello,World!", 12, 0, 0); }

これがHelloWorldを表示するコードです。main関数がありませんが、その代わりにf関数から実行開始します。

$ clang hello.c -e f -nostartfiles -nostdlib -lkernel32

コンパイル時にはf関数から実行開始することを指定します。また、C言語の標準ライブラリを使用しないことを指定し、kernel32.dllを使用することを指定します。

$ ./a.exe
Hello,World!

作成された実行ファイル(a.exe)を実行すると　”Hello,World!”　が表示されます。

$ objdump -d a.exe

a.exe:     file format pei-x86-64


Disassembly of section .text:

0000000140001000 <f>:
   140001000:   48 83 ec 28             sub    $0x28,%rsp
   140001004:   b9 f5 ff ff ff          mov    $0xfffffff5,%ecx
   140001009:   e8 32 00 00 00          call   140001040 <GetStdHandle>
   14000100e:   48 89 c1                mov    %rax,%rcx
   140001011:   48 8d 15 e8 0f 00 00    lea    0xfe8(%rip),%rdx        # 140002000 <__data_end__>
   140001018:   41 b8 0c 00 00 00       mov    $0xc,%r8d
   14000101e:   31 c0                   xor    %eax,%eax
   140001020:   41 89 c1                mov    %eax,%r9d
   140001023:   48 c7 44 24 20 00 00    movq   $0x0,0x20(%rsp)
   14000102a:   00 00
   14000102c:   e8 07 00 00 00          call   140001038 <WriteFile>
   140001031:   90                      nop
   140001032:   48 83 c4 28             add    $0x28,%rsp
   140001036:   c3                      ret
   140001037:   90                      nop

0000000140001038 <WriteFile>:
   140001038:   ff 25 0a 40 00 00       jmp    *0x400a(%rip)        # 140005048 <__imp_WriteFile>
   14000103e:   90                      nop
   14000103f:   90                      nop

0000000140001040 <GetStdHandle>:
   140001040:   ff 25 fa 3f 00 00       jmp    *0x3ffa(%rip)        # 140005040 <__IAT_start__>
   140001046:   90                      nop
   140001047:   90                      nop
   140001048:   0f 1f 84 00 00 00 00    nopl   0x0(%rax,%rax,1)
   14000104f:   00

実行ファイルの機械語は余計なコードがなく非常にシンプルです。

$ objdump -p a.exe | grep -i -E "\.dll"
        DLL Name: KERNEL32.dll

動的リンクしているDLLを確認すると、kernel32.dllのみリンクしています。
msvcrt.dllはリンクしていません。

$ strip -s a.exe

stripコマンドで実行ファイル(a.exe)から余計な情報を削除します。
そうすることで、実行ファイルは4kB程度の小さなものとなります。

WinAPIのWriteFile関数、ReadFile関数など使えば、printfやscanfなどの入出力機能、fopenやfread,fwriteなどのファイル入出力機能を実装することが可能です（浮動小数点数を文字列を変換するためにはRyuアルゴリズムなどを実装することが必要です。）
また、VirtualAllocEx関数、VirtualFreeEx関数など使えばmallocやfreeなどのメモリアロケーターを実装することが可能です（VirtualAllocEx関数である程度大きなメモリ領域を確保し、そのメモリ領域をglibcのmalloc/freeのような高速なアルゴリズムで管理するコードを自力で書く必要があります。）

頑張れば低レベルなWinAPIのみを使ってC言語標準ライブラリにある関数を自作することは可能ですが、車輪の再発明も甚だしいですね。素直にmsvcrt.dllを使えばいいと思います。