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登記所備付地図から原野商法の痕跡を探す

Last updated at Posted at 2024-11-11

はじめに

この記事は2024年11月10日に開催されたイベント「FOSS4G 2024 Japan コアデイ」での発表「登記所備付地図データを使って〇〇してみよう」の内容を要点を絞ってまとめたものです。

原野商法とは

「原野商法」は土地に関する詐欺で1970〜1980年頃に行われていたものです。

例えば、政府広報オンライン2019年6月3日の「原野商法」再燃!という記事では

山林や原野について「将来高値で売れる」などと勧誘して不当に買わせる

と表現されています。

また、ウィキペディアには

広大な原野の中に、あたかも区画整理が行われたかのような整然とした街区や道路の絵図を描くように細切れの分筆登記

と書かれています。

実際には森林や崖地であるにも関わらず、登記された土地の形状は住宅地のように見えるように作られています。

北海道虻田郡京極町の登記所備付地図を描画すると次の画像のように住宅が並んでいるように見える場所があります。

image.png

しかし地理院地図の航空写真と重ねてみると、実際の土地は森林で家が立つような場所ではないことが分かります。

image.png

このような場所を登記所備付地図から探し出してみたいと考えました。

データの準備

登記所備付地図データはG空間情報センターからダウンロードできます。(注:ダウンロードにはユーザー登録が必要となります)

京極町のデータセットから2024年度のファイル 01399-4334-2024.zip をダウンロードします。

zipファイルの中にはさらに複数のzipファイルが含まれていますが、MIERUNE社が開発したQGIS用プラグインを使うと簡単にzipファイルをインポートして、QGIS上でレイヤーを作ることが出来ます。レイヤーのデータは任意のフォーマットでファイルに出力することが出来るので、ジオデータの標準的なフォーマットであるGeoPackage形式で保存します。ひとまずファイル名は 01399_kyogokucho.gpkg としておきます。

データの読み込み

Pythonでジオデータを処理するには GeoPandasを使うのが便利です。

GeoPandasでファイルを読み込むには read_fileを使います。

読み込んでデータは to_crsを使って座標参照系を変換することが出来ます。後ほどポリゴンの面積を計算するためメートル単位を用いる平面直角座標系を利用します。京極町のエリアは11系なので EPSG:6679 を指定します。

df = GeoPandas.read_file("01399_kyogokucho.gpkg")

df = gdf.to_crs("EPSG:6679")

読み込まれた登記所備付地図データのポリゴンは次のようなものです。地物(ポリゴン)の数は32162個含まれています。

image.png

ポリゴンの絞り込み

次に、原野商法と思われるポリゴンに絞り込んでみます。ここではポリゴンの面積を1000平方メートル未満で矩形形状のものを選択します。

ポリゴンの面積は geometry からarea を取り出すだけです。

矩形を選ぶためには、shapely.count_coordinatesによって座標点数を計算します。座標点数が5個のものが矩形に対応します。(頂点を一回りして始点に戻るので5個になります)

df['area'] = df.geometry.area

df['count'] = df.geometry.apply(lambda g: shapely.count_coordinates(g))

df_rect = df[df['count'] == 5]

df_rect_area = df_rect[df_rect['area'] < 1000]

選択されたポリゴンの数は11130個になりました。原野商法らしきエリアが見えてきましたが、まだ通常の住宅も残っています。

image.png

国土数値情報を利用する

ここで土地の属性と組み合わせて、原野商法の土地をさらに洗い出してみます。

  1. 土地利用細分メッシュデータ
    • 100mメッシュごとに森林、荒地、農地、住宅用地、道路、鉄道、河川などのカテゴリに分類されているデータです。
  2. 標高・傾斜度5次メッシュデータ
    • 250mメッシュごとに標高と傾斜度について、それぞれ最大・最低・平均の値が属性として含まれています。

以降の画像は地理院タイルの淡色地図と重ねて描画したものです。

建物用地

土地利用細分メッシュデータの 建物用地 を重ねてみます。京極町の中心部に建物用地が集中しているのが分かります。このメッシュ内にある登記所備付地図のポリゴンは本物の住宅と考えて間違い無いでしょう。逆にそれ以外のポリゴンは原野商法である可能性が高くなります。

image.png

森林

土地利用細分メッシュデータの 森林 を重ねてみます。京極町のとても広い範囲が森林となっています。森林のメッシュ内でポリゴンが複数並んでいるエリアは原野商法である可能性が高くなります。

image.png

農用地

土地利用細分メッシュデータの 農用地 を重ねてみます。今度はポリゴンがほとんど重なっていません。明確な理由は分かりませんが、農用地は持ち主と用途がはっきりしているため詐欺としては使いづらいのかもしれません。

image.png

傾斜度

傾斜度のメッシュを重ねてみます。平均傾斜度が15度を超えているメッシュを赤く着色しています。このような場所に家が立つことは無いでしょうから、原野商法である可能性が非常に高いです。背景地図の等高線が密に並んでいるところからも、崖地のような場所であることが見てとれます。

image.png

まとめ

登記所備付地図がデジタル化されたデータとなったことで様々な処理が可能となりました。ポリゴンのジオメトリに対して特徴量を計算したり、他のデータと重ね合わせて比較することなどが出来るようになったわけです。

登記所備付地図を分析すると、その土地の隠された歴史が見えてきます。データを眺めて過去に何があったのか思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。

参考情報

最近、北海道新聞に次のような記事が掲載されました。

ニセコ、原野商法の土地は今 リゾート活況が追い風、一部は宅地に(北海道新聞 2024年9月3日

原野商法で売られた使い途の無い土地ですが、ある程度条件の良い場所では、ごく一部に売却される事例が出てきているようです。

また当時購入した方々は今では高齢化しているため、処分する必要に迫られることもあるようです。

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