はじめに
みんなで石仏調査は、石造物を調査してオープンデータとして公開する市民参加型のプロジェクトです。2023年2月にスタートし、日本各地の参加者による地道な現地調査で収集された26,500件を超えるデータを公開しています。データはマップで閲覧できるほか、GitHubでも公開しています。2023年秋にはLinked Open Data(LOD)化して誰でもアクセスできるSPARQLエンドポイントも提供しています。
プロジェクトを運営している石仏情報学会は「石造物のデータ化およびデータに基づく石造物研究」を目指しており、単にデータを公開するだけではなく、データから新たな知見を得るためのツールの開発にも力を入れています。みんなで石仏調査のマップにあるデータのフィルタリング機能はその一つであり、SPARQLエンドポイントの公開も、より高度なデータ分析のための利用を期待したものです。
しかし、LODの活用にはSPARQLという特殊なクエリ言語の習得が必要であり、容易ではありません。そこで、みんなで石仏調査LODのデータを誰でも簡単に検索できるようにするため、みんなで石仏調査LODエクスプローラーを開発しました。
使用方法
はじめに、検索のタイプを選択します。
- データの一覧を取得する
- データを集計する
前者は単純なSELECT、後者はSELECT COUNT ~ GROUP BYですね。
次に検索条件を指定します。検索のタイプによって検索条件の指定方法は異なります。
実行方法を指定して[実行]ボタンをクリックすると、結果が表示されます。結果は表形式で表示するほかにCSVでダウンロードすることもできます。さらに、データを集計した場合にはグラフ表示もできます。
それでは、実際にいくつかの検索の実例を紹介します。
データの一覧を取得
2024年の干支である辰にちなんで、龍に関する石造物の一覧を10件取得してみます。
はじめに、検索のタイプとして「データの一覧を取得する」を選択します。
抽出するプロパティは、はじめから選択されている「ID」に、「種類」と「所在地」を追加で指定します。
抽出条件は「種類」を選び、リストから「龍神塔」「八大龍王塔」「九頭龍神塔」「倶利伽羅龍王塔」を選択します。
- 種類が[龍神塔,八大龍王塔,九頭龍神塔,倶利伽羅龍王塔]のいずれか
と表示されればOKです。
- 種類が龍神塔
- 種類が八大龍王塔
- 種類が九頭龍神塔
- 種類が倶利伽羅龍王塔
のように表示された場合は指定方法が違います。この場合、すべての条件を同時に満たすレコードしか抽出されませんので、結果は0件になってしまいます。
最大件数には「10」と入力します。指定しないと、条件に合ったデータが最大10,000件返されます。
実行方法を「表形式で表示」にして[実行]ボタンをクリックすると結果が表示されます。
データを集計してグラフ表示
路傍で目にする機会の多い石造物のひとつである庚申塔には、そのものズバリ「庚申塔」と大きな文字で刻まれたものもあれば、仏像の彫られたものもあります。そこで、彫られた仏像の種類毎に集計してみます。
はじめに、検索のタイプとして「データを集計する」を選択します。
グループ化するプロパティとして「像容(刻像)」を選択します。これで像容(刻像)毎の集計になります。
抽出条件は「種類」が「庚申塔」を指定し、庚申塔のみを集計対象にします。
並び順は「件数」による「降順」とします。
実行方法を「グラフ表示(対数目盛)」にして[実行]ボタンをクリックすると結果が表示されます。
圧倒的に青面金剛が多く、地蔵と阿弥陀如来を大きく引き離しています。対数目盛にした理由がわかると思います。
庚申塔の「庚申」は、十干と十二支の組み合わせ、つまり干支の一つです。そこで、庚申塔の造立年の干支で集計してみましょう。
グループ化するプロパティとして「干支」を選択します。これで、造立年の干支毎の集計になります。干支は60種類ありますが、すべてを表示すると多いので上位10件のみをグラフ化します。
実行方法を「グラフ表示(線形目盛)」にして[実行]ボタンをクリックすると結果が表示されます。
庚申塔は庚申年に特に多く造立されたことがグラフからよく分かります。ただし実際には、庚申年へのこだわりの度合いは地方によって異なります。
CSVダウンロード
CSVファイルはデータを分析・可視化するツールで汎用的に用いられます。データの一覧を取得する際に、抽出するプロパティとして「緯度経度」を追加しておくと、地図を用いた可視化をすることができます。
三種類の龍神塔「八大龍王塔」「九頭龍神塔」「倶利伽羅龍王塔」の一覧を緯度経度付きのCSVファイルにしてダウンロードしましょう。
実行方法を「CSVダウンロード」にして[実行]ボタンをクリックすると、以下のようなCSVファイルをダウンロードすることができます。
少し技術的な説明をしますと、実際にはサーバーからCSVファイルをダウンロードしているのではなく、SPARQLエンドポイントから返されたJSON形式のレスポンスをブラウザ上のJavaScriptでパースしてCSVファイルを作成しています。
QGISでCSVファイルを読み込んで種類毎にマーカーの色を変えると、龍神の棲み分けマップの出来上がりです。
八大龍王塔は海辺や大河川の近くに多く、九頭龍神塔は内陸の中小河川の近くに多くあります。この地図から読み取ることはできませんが、倶利伽羅龍王塔は湧水地や滝、ため池の近くで見られることが多いです。
おわりに
みんなで石仏調査LODのデータ検索を簡単にする、みんなで石仏調査LODエクスプローラーを紹介しました。プロジェクト参加者の活動によってデータは日々増加しています。有効に活用され、データに基づく石造物研究が盛んになることを願っています。