「集合と位相をなぜ学ぶのか」1日読書感想文
経緯
2020年の12月30日、年末で時間があったので「集合と位相をなぜ学ぶのか」という本を1日でざっくり通しで読んでみた。動機としては最近Haskellをやっていて圏論を少し勉強し始めたのでその一貫で読んでみた。
とても良い本だったので感想文を書いておこうと思う。思ったより数学書色が強くて、ちゃんと定義や定理の証明がある。ただし、いわゆる行間をよく埋めてくれいているのでとても読みやすい(7:3くらいで7くらい数学書みがある)。途中でたくさん挟まれる、各数学者のエピソードも面白い。
証明は2つおきくらいにちゃんと読んだが、やはり行間を埋めてくれているので読みやすい。
印象に残った点
印象に残った点を備忘録としていくつかまとめておく。(誤っているところも多々あると思います。一度読んだきりで書いているので、単なる感想と思ってご容赦ください。もっと良いまとめあれば読ませていただきたいです)
そもそも集合の何が面白いのか
集合は元々単なる要素を1つ1つ集めて作るもので、それはたとえば{1,2,3}や、{りんご,ばなな,すいか}などという、特に面白味もないものだ。これを一体どうやって面白くしていくのかと思っていたが、次のようにやっていて、おお、こういうことかと思った。
まず、集合に距離の概念を入れる(ここまではいい)。距離の概念を入れた上で、その要素や部分集合について考えていく。とりあえずの目標としては、とある大きな集合(A)をまず用意し、その一部を部分集合(B)として決める。そうした上でBに対して、Aの要素を分類していく(3つに分類できることになる)。たとえば、xy平面上の全ての点という集合(A)を用意する。そして、その中にある部分集合として半径1の円盤(B)を考える(つまりx^2+y^2<=1
)。その円盤の境界部分(=円周の部分=x^2+y^2=1
の部分)の要素と内側の要素は明確に異なる性質を持っている。具体的には、円周部分はそのちょっと外側は円盤集合に含まれない要素(これはxy平面上の要素ではある)があるが、内側はそのすぐ近くにも同じ集合(B)の要素がある。このちょっと外側とかいう概念は、距離の概念(つまり距離の公理)を利用して表現される。結局、距離の概念の入った集合の要素は、内部、外部、境界の3つに分類できる(すごい)。これは印象に残った。距離の概念を入れるだけで、確かに(非常に抽象的な)集合の性質について解釈のとっかかりができてしまった。ここから、例えば「R(実数全体)に対してQ(有理数全体)という部分集合を考え、Qに対してRの要素を分類すると、なんとQの要素含めてRの要素は全て境界である(Qを部分集合として考えたら、境界の方がQより大きい!)」などというびっくり論が展開されていく。
濃度について
無限の要素数をもつ集合(無限集合)において、その無限集合のサイズに差があるという話について、ようやく最低限引っかからずに理解することができた。浅くしか理解できていないが、要は全単射な関数が少なくとも1つあればそれらの集合は同じサイズ(濃度)なのだ。パッと聞いただけで、「全単射な関数を見つけて同じサイズであることを示すこと」以外の議論が非常に難しそうに見える(全単射な関数が存在しないことをどうやって示す。。?)が、うまくやってしまうのですごいなーと思った。特に僕が印象に残ったのは本文でも丁寧に説明されていた数列(自然数を定義域とする関数の値)と実数の濃度が違うことを示す部分と、1次元実数集合とN次元実数集合の濃度が同じということを示す部分。あと、無限の集合の濃度がある程度定量的に求められること。これは興奮しただろうなと思った(僕も興奮した)(ただし、無限集合の濃度においては、aを無限集合の濃度としてa+a=aが成り立ってしまうなど、必ずしも明快ではないが、それでもa+b=a*b=max{a,b}程度は成り立ってしまうのが面白かった)。補足だが、濃度というと誤解を招くと思う(要素数が有限の集合の場合は、その集合の要素数が濃度になるので)。
ティーカップとドーナッツが位相レベルでは同じ、というテレビとかでやる話について
まあ確かにそうかもしれないけど、結局そんな幾何学になんの意味があるの?と思っていたが、今の理解だと要はあれは必ずしも物理学的な話ではなく、どちゃくそ抽象的な話(ティーカップを構成する要素はなんでもいい)なので、なにをティーカップの要素と思うかで面白さが全然違うんだな、と思ったという話。巻末にあるが、集合論はとかく抽象的なので応用が広く、そしてその分理解しづらい。多分だけど、え、それ(ティーカップ集合)とそれ(ドーナッツ集合)が同じ形(位相)なの!?みたいな例があるんだと思う、知らんけど。
有限集合の濃度について、もう少し
まず比較的、なんでも直感通りに成り立つ(たとえばAの濃度+Bの濃度=AまたはBの濃度、みたいな)のが面白かった。あと(行列同士の累乗みたいに)集合同士の累乗(とは実際は言ってないけど集合が肩に乗ってるし実質累乗でしょ)も定義されてて、ちゃんと濃度も累乗になるようなってて面白かった(僕の理解だと、行列同士の累乗はマクローリン展開の類推で定義されていたと思いますが、集合の場合は集合同士の片方から片方への写像の集合として定義されます)。
特に印象に残ったのが、「集合Aに対して、Aの全ての部分集合(つまり、A={1,2,3}なら、{},{1},{2},{3},{1,2},{2,3},{1,3},{1,2,3}の8集合を要素とする集合)」で定義されるP(A)(=Aのべき集合)についての話。このPはAから{真,偽}への写像の集合とみなせるので、P(A)={真,偽}^A=Aから{真,偽}への写像(各要素について、真に写したら残す、偽に写したら残さない、というような写し方をしていると言えるので)。になる。そして、Aの濃度はA={1,2,3}の場合3だが、P(A)の濃度は8=2^3になる、というお話。
集合同士の冪乗の定義や計算方法を忘れたら、A^Bにおいて(AとBの)どっちを{真,偽}にしたら濃度の計算の辻褄が合うかを思い出せば2^Nの形になるかを思い出せばいい。
積分でさえも、一見計算に利用できなくてもちゃんと定義すると意味があるんだな、ということ。
例えば積分について、「コーシー積分」「リーマン積分」「ルベーグ積分」と、積分の汎用度のレベルが上がっていくが、どれも一見して定義になんの意味があるか分からない(計算に使えると思えない)が、一線を超える(ルベーグ積分までいく)と、今までの定義だと定義上積分できなかったディリクレの関数が積分できるようなる(0であることが分かる)。またルベーグ積分までいくと、一定の条件を満たせば集合に対して自由に積分の概念を入れることができるようになる(ようである)。ここまでくると何かすごいことができそうだなあと思った(本当は具体的に計算してみたいが、何かいい問題と計算例があれば教えてください。。)
言語化が大切なんだなあということ
実数とは何かについて、ざっくりと「数直線上の全部の数」、程度の理解で(歴史的に)それまで特に問題なかったが、本に出てくるような数学者がもっと厳密な定義を行った。その結果、色々と発見が出てくる(というか、別概念との共通点が見出せるようになっていく)ので、言語化(この場合は厳密な定義化)は大切なんだなあと思った。
終わりに
すごくいい本なので、僕みたいに集合とか位相の本で挫折したことがある人は特に読んでみたらいいと思った。これは数学書一般について思っていることだが、数学書において「具体例」とか「背景」などはその本が説明したと謳える範囲を大きくしないので、著者にとってあまりメリットのないものである。淡々と定義と定理とその証明を載せていくのが効率がよい。ただし、これは持論だが抽象数学の難しさの理由はほぼほぼ、数学書の中で挙げられる「具体例」の数の少なさである(あと、その事実がどうして嬉しいか、どうして悲しいかなどというような喜怒哀楽を含めた解説)。その意味で、確かに一般的な数学書と比べると一冊で説明している量は少ないが、わかりやすくてとても良い本だと思った(どんなに短いページ数で色々な概念を正確に説明してようが、理解できなければその本は悪い本だと思う)。
あえていうならもっと現実への応用例をたくさん知りたい(実用例を理解するために理論を勉強するような、天下り的勉強法をしたい)なと思った。数学の具体例.comがほしい