1. はじめに
NVIDIA Triton Inference Server は、機械学習(ML)モデルを スケーラブルにデプロイし、高速に推論を行う ためのオープンソースの推論サーバーです。複数のフレームワークをサポートし、GPUとCPUの両方で動作可能なため、AIアプリケーションの本番環境における推論の効率化に貢献します。
本記事では、Tritonの 特徴、ユースケース、実装方法、落とし穴(ハマりやすいポイント)、最適化のヒント について詳しく解説します。
2. NVIDIA Triton Inference Server とは?
2.1 特徴
- マルチフレームワーク対応: TensorFlow, PyTorch, ONNX, TensorRT, XGBoost, LightGBM などをサポート
- GPU & CPU推論の両対応: NVIDIA GPU に最適化されているが、CPUでも動作可能
- バッチ処理の自動最適化: 複数のリクエストを1つのバッチとして処理し、スループットを向上
- 複数モデルの同時デプロイ: 1つのサーバーで複数の異なるモデルを管理可能
- REST & gRPC API対応: クライアント側は簡単にリクエストを送信可能
- 動的モデルロード: モデルをホットスワップ可能(再起動不要)
- Prometheus + Grafanaでの監視: 推論パフォーマンスの可視化が可能
2.2 主なユースケース
- リアルタイム推論: WebサービスやAPI経由で低レイテンシー推論を実現
- バッチ推論: 事前にデータを処理し、一括推論を行う
- エッジAI: Jetsonデバイス上でのローカル推論
- クラウドデプロイ: AWS, GCP, Azure の Kubernetes 環境でのスケーラブルなデプロイ
3. NVIDIA Triton のセットアップと実装
3.1 環境構築
1. Docker で Triton Server を起動
# NVIDIAコンテナツールをインストール(未インストールの場合)
sudo apt-get install -y nvidia-container-toolkit
# Triton Inference ServerのDockerコンテナを起動
sudo docker run --gpus all -d --rm --name triton \
-p 8000:8000 -p 8001:8001 -p 8002:8002 \
-v $(pwd)/models:/models nvcr.io/nvidia/tritonserver:latest \
tritonserver --model-repository=/models
-
8000
: HTTP (REST API) -
8001
: gRPC -
8002
: Prometheus用のメトリクスエンドポイント -
models
: デプロイするモデルの保存ディレクトリ
2. モデルの配置
mkdir -p models/resnet50/1
cp resnet50.onnx models/resnet50/1/model.onnx
- Triton は、
models/<モデル名>/<バージョン>/model.<拡張子>
というディレクトリ構造を使用 - ONNX, TensorFlow SavedModel, PyTorch TorchScript などに対応
3.2 推論の実行
1. クライアント(Python)からリクエスト送信
import tritonclient.http as httpclient
import numpy as np
# Tritonサーバーへ接続
triton_client = httpclient.InferenceServerClient(url="localhost:8000")
# 入力データを作成
input_data = np.random.rand(1, 3, 224, 224).astype(np.float32)
# 推論リクエストの送信
response = triton_client.infer(
model_name="resnet50",
inputs=[httpclient.InferInput("input", input_data.shape, "FP32")],
outputs=[httpclient.InferRequestedOutput("output")]
)
# 推論結果の取得
print(response.as_numpy("output"))
4. Triton の落とし穴(ハマりポイント)
4.1 モデルフォーマットの違い
- Triton は ONNX, TorchScript, TensorRT などの異なるフォーマット に対応しているが、適切なフォーマットでないと エラーやパフォーマンスの問題 が発生
- 特に TensorFlow の
SavedModel
vsGraphDef
、PyTorch のTorchScript
vsEagerMode
に注意
対策:
- 公式ドキュメントを確認し、適切な形式でエクスポートする
- 事前に
tritonserver --log-verbose 1
でデバッグ
4.2 バッチ処理の最適化
- Triton は バッチ推論を自動最適化 するが、
- 適切な バッチサイズ設定(例:
max_batch_size=8
)を行わないと、スループットが悪化 -
動的バッチング (
dynamic_batching
) を設定しないと、単発リクエストが遅延
- 適切な バッチサイズ設定(例:
対策:
-
config.pbtxt
でmax_batch_size
を適切に設定 -
dynamic_batching { preferred_batch_size: [4, 8] }
を追加
4.3 コンテナのメモリ管理
- 推論モデルが巨大な場合(例: GPT-3, Vision Transformer)、GPUメモリが枯渇しやすい
- Tritonはモデルをメモリに保持するため、OOM(Out of Memory) が発生することがある
対策:
-
tritonserver --exit-on-error=false
で安定稼働 - モデルの圧縮(TensorRT, ONNX Runtime)
5. まとめ
Triton のメリット
✅ 複数フレームワークのサポート(TensorFlow, PyTorch, ONNX, TensorRT)
✅ スケーラブルな推論環境(バッチ最適化, GPU活用)
✅ REST/gRPC API対応で簡単にデプロイ可能
✅ KubernetesやAWS/GCPと統合しやすい
Triton を使う際の注意点
⚠ モデルのフォーマットを適切に選択
⚠ バッチ処理を最適化しないとスループットが低下
⚠ 大規模モデルではGPUメモリを圧迫する可能性あり
Tritonは、本番環境での高パフォーマンス推論に最適なツールですが、設定や最適化が重要です。しっかりと準備を整えて、最大限のパフォーマンスを引き出しましょう!