1. はじめに
Kubernetes(K8s)はスケーラブルで柔軟なコンテナオーケストレーションプラットフォームですが、デフォルト設定ではレイテンシーが発生する要因が多く、パフォーマンスを最適化しないとレスポンスが遅くなることがあります。
レイテンシーが発生する主な原因
- Podのスケジューリング遅延(適切なノードに即座に配置されない)
- ネットワーク遅延(Pod間通信やServiceのロードバランシング)
- CPU/メモリのリソース競合(リソース不足によるスローダウン)
- ストレージI/Oのボトルネック(PVCや永続ストレージの遅延)
- コンテナの起動遅延(Cold Start問題)
本記事では、Kubernetesのレイテンシーを向上させるための具体的な手順と実装について詳しく解説します。
2. Kubernetesでレイテンシーを向上させる方法
【1】Podのスケジューリング最適化
⏳ 問題点
デフォルトでは、Kubernetesはスケジューリングのたびにノードのリソースを計算し、最適な配置を決定します。しかし、これが遅れると、新しいPodの立ち上げが遅くなります。
✅ 解決策
-
ノードのリソース最適化
- ノードのCPU・メモリ使用率が高いとスケジューリングが遅くなるため、十分なリソースを確保する
- 不要なPodを削除し、ノードのリソースを整理する
-
PriorityClass を利用して重要なPodを優先的にスケジューリング
apiVersion: scheduling.k8s.io/v1 kind: PriorityClass metadata: name: high-priority value: 100000 globalDefault: false description: "This priority class is for latency-sensitive workloads."
- value の数値が大きいほど優先度が高くなり、リソースが限られている場合でも即座にスケジューリングされる
-
Preemption(事前削除)を有効化
- 低優先度のPodを削除して高優先度のPodをスケジューリング
apiVersion: scheduling.k8s.io/v1 kind: PriorityClass metadata: name: high-priority-preempt value: 200000 preemptionPolicy: PreemptLowerPriority
【2】ネットワークの最適化
⏳ 問題点
KubernetesのServiceは、デフォルトでkube-proxyを経由してトラフィックをルーティングします。これにより、ネットワーク遅延が発生する可能性があります。
✅ 解決策
-
Serviceのロードバランシング方式を最適化
- iptables → IPVS に変更(パフォーマンス向上)
- 設定を変更するには
kube-proxy
を設定:以下のように変更:kubectl edit configmap kube-proxy -n kube-system
mode: "ipvs"
-
Direct Pod-to-Pod 通信を許可
-
HostNetwork
を使ってServiceを経由せずに直接Pod間通信
spec: hostNetwork: true
- ただし、ホストのポート競合に注意が必要
-
-
CNIプラグインの最適化
-
Calico
,Cilium
,Flannel
などのCNIプラグインを選定し、適切なネットワークポリシーを設定 - Ciliumの例:
helm install cilium cilium/cilium --namespace kube-system
-
【3】CPU/メモリのリソース管理
⏳ 問題点
リソースを十分に確保しないと、コンテナのパフォーマンスが低下し、レイテンシーが増大します。
✅ 解決策
-
適切なリソースリクエストと制限
resources: requests: cpu: "500m" memory: "512Mi" limits: cpu: "1000m" memory: "1Gi"
-
requests
: 最低限確保するリソース -
limits
: 最大利用可能なリソース
-
-
垂直オートスケーリング(VPA)の導入
- Podのリソースを動的に調整
kubectl apply -f vpa.yaml
apiVersion: autoscaling.k8s.io/v1 kind: VerticalPodAutoscaler metadata: name: my-app-vpa spec: targetRef: apiVersion: "apps/v1" kind: Deployment name: my-app updatePolicy: updateMode: "Auto"
【4】ストレージの最適化
⏳ 問題点
KubernetesのPersistent Volume(PV)やPersistent Volume Claim(PVC)のパフォーマンスが悪いと、レイテンシーが増加。
✅ 解決策
-
ストレージクラスの最適化
- SSDベースのストレージクラスを使用
kind: StorageClass apiVersion: storage.k8s.io/v1 metadata: name: fast-ssd provisioner: kubernetes.io/aws-ebs parameters: type: gp3
gp3
はgp2
よりも IOPS が高い
-
ReadWriteMany(RWX)の最適な設定
- NFSやCephを利用し、ストレージレイテンシーを削減
【5】コンテナの起動時間の短縮
⏳ 問題点
コンテナのCold Start(初回起動時間)が長いと、スケーリング時のレイテンシーが発生。
✅ 解決策
-
軽量なコンテナイメージを利用
-
Alpine
やDistroless
を使用してコンテナサイズを最適化
FROM gcr.io/distroless/static:nonroot
-
-
Pre-pulled イメージを活用
- すべてのノードに事前にDockerイメージをプリロード
docker pull my-app:v1 docker tag my-app:v1 myregistry.com/my-app:v1 docker push myregistry.com/my-app:v1
-
StartupProbe の利用
startupProbe: httpGet: path: /healthz port: 8080 failureThreshold: 30 periodSeconds: 10
- コンテナが完全に起動するまで、Kubernetesがトラフィックをルーティングしない
3. まとめ
Kubernetesでレイテンシーを向上させるためには、以下のポイントを最適化する必要があります。
領域 | 最適化方法 |
---|---|
スケジューリング | PriorityClassの活用、Preemptionの有効化 |
ネットワーク | IPVSモードに変更、CiliumなどのCNI最適化 |
CPU/メモリ | リソース管理、VPAの活用 |
ストレージ | 高速なストレージクラス(SSD)、NFSの最適化 |
コンテナ起動時間 | 軽量イメージの使用、StartupProbeの設定 |
これらの最適化を組み合わせることで、Kubernetes環境でのレイテンシーを大幅に削減 できます。