逆演算子法において、$\frac{1}{f(D)}$ を処理する際に「因数分解した方が良いのか」それとも「公式($D^2 \to -k^2$ や $D \to a$ など)を適用した方が良いのか」という判断は、右辺の関数の形と**$f(D)$ の因数分解のしやすさ**によって決まります。
以下に判断基準と、それぞれのケースでの考え方を示します。
1. 右辺に指数関数が含まれる場合
- $e^{ax}$
これは最も優先的に考慮すべきケースです。
判断基準: 右辺が $e^{ax} V(x)$ の形である場合($V(x)$ は多項式、三角関数など)。
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優先的にやること: 指数関数シフトの公式 $\frac{1}{f(D)} (e^{ax} V) = e^{ax} \frac{1}{f(D+a)} V$ を適用します。
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理由: この公式により、$D$ を $(D+a)$ に置き換えることで、$e^{ax}$ を演算子の外に出すことができ、残りの演算子 $\frac{1}{f(D+a)}$ が $V(x)$ に作用する形になります。これにより、残りの処理が簡略化されることが多いです。$f(D+a)$ が因数分解できればその後因数分解、三角関数なら $D^2 \to -k^2$ といった形で処理を進めます。
2. 微分演算子が容易に因数分解でき、かつ右辺が多項式の場合
- $x^n$
判断基準: 右辺が多項式 $x^n$ のみの場合、または指数関数シフト後に残る演算子が多項式に作用する場合。
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やること:
- $f(D)$ を $(D-a)(D-b)$ のように因数分解します。
- $\frac{1}{(D-a)(D-b)}$ を部分分数分解します(例: $\frac{A}{D-a} + \frac{B}{D-b}$)。
- 各項に多項式を作用させます。$\frac{1}{D-c} x^n = -\frac{1}{c} \left(1 + \frac{D}{c} + \frac{D^2}{c^2} + \dots \right) x^n$ のようにテイラー展開して計算します($D^{n+1}x^n = 0$ となるため有限項で終わる)。
- 特に、$D$ が因数に含まれる場合: $\frac{1}{D} x^n = \int x^n dx$ と積分を実行します。
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理由: 部分分数分解することで、より単純な $\frac{1}{D-c}$ の形の演算子に分解できます。それぞれをテイラー展開して作用させる方が、複雑な演算子をそのまま展開するよりも計算が系統的になります。
3. 右辺が三角関数の場合
- $\sin(kx)$ または $\cos(kx)$
判断基準: 右辺が $\sin(kx)$ または $\cos(kx)$ のみの場合、または指数関数シフト後に残る演算子が三角関数に作用する場合。
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やること:
- まず、$D^2$ を $-k^2$ で置き換えます。
- もし $D^2 \to -k^2$ と置き換えた後、分母に $D$ の奇数次項(例: $AD+B$ の形)が残る場合、その共役な項(例: $AD-B$)を分子分母に掛けて有理化し、再度 $D^2 \to -k^2$ を適用できるようにします。
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理由: 三角関数の微分特性($\sin \to \cos \to -\sin \to -\cos \to \sin \dots$)から、$D^2 \sin(kx) = -k^2 \sin(kx)$ となるため、この置き換えが可能です。これにより計算が大幅に簡略化されます。$D$ の奇数次項が残る場合は、最終的に $\frac{1}{C} (AD+B)\sin(kx) = \frac{1}{C}(A D(\sin(kx)) + B \sin(kx))$ の形になり、微分を実行できます。
4. 複素数を用いて三角関数を扱う方法(より高度な方法)
判断基準: 三角関数を含む場合で、計算が複雑になりがちな場合。
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やること: $\cos(kx) = \text{Re}(e^{ikx})$、$\sin(kx) = \text{Im}(e^{ikx})$ を利用し、右辺を $e^{ikx}$ とみなして解き、最終的に実部または虚部を取る方法です。
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理由: この方法を使うと、三角関数の公式を直接適用するよりも、指数関数シフトの公式と、その後の多項式処理($\frac{1}{P(D+ik)} \cdot 1$ のように $1$ を扱うことになる)に帰着させることができるため、計算が統一的になります。
まとめると
- 最優先: 右辺に $e^{ax}$ があったら、指数関数シフトの公式で外に出す。
- シフト後、残った関数が 多項式 $x^n$ なら、残った演算子を 因数分解 して 部分分数分解 し、各項に作用させる($\frac{1}{D-c} x^n$ の形にする)。$\frac{1}{D}$ があれば積分、それ以外はテイラー展開。
- シフト後、残った関数が 三角関数 $\sin(kx)$ or $\cos(kx)$ なら、まず $D^2 \to -k^2$ を適用。もし分母に $D$ が残ったら、有理化して再度 $D^2 \to -k^2$ を適用できるようにする。
このフローチャートのような考え方で判断すると、適切な方法を選びやすくなります。