こんにちは。@techfavoです。普段はクックパッドのCTO室で技術広報やその他諸々の業務を行っています。
この記事は『技術広報 Advent Calendar 2022』の二日目の記事として、皆さまへ配信オペレーションに関するいくつかの教訓をシェアできればと思います。
はじめに
この記事をお読みになっているということは、何かしら技術広報の活動に関心がある方だと思われます。技術広報の役割として、社内の技術領域を広めるために技術ブログ、カンファレンス、勉強会の運営などを行なっている方も多いのではないでしょうか?
しかし現在において忘れてはいけないのが動画。そう配信です。
ググってみたら、Youtubeの利用率は87.9%もあり、ほぼ全ての日本人がYoutubeで動画や配信を視聴していることになります( https://grove.tokyo/media/g0181/ )。
この巨大なプラットフォームを広報活動の一環として活用しない手はないと思います。しかし、動画の配信はハードルが高いのも事実です。
この記事では動画の配信をしたことがないYoutuber技術広報の方にむけて、配信のオペレーション作業で失敗しないために最低限取り組んでいただきたいことを述べます。
ちなみに私はこの分野では大きなやらかしを繰り返している生ける屍です。
ぜんぜん技術的な話でなく恐縮ですが、どうか皆さまは私と同じ轍を踏まないようにしてください。
今回解説する配信オペレーション状況の前提
今回は登壇者3〜4名が会場に集合し、話している様子をカメラで撮影しつつ、配信オペレーションをするという状態を仮定します。登壇者がリアルに集まると配信オペレーションの難易度が格段に上がるので、正直全員リモートの方が良いです。全員リモートであれば、進行係の方は慣れが必要ですが、運営オペレーションとしてはZoomの映像をYoutubeに流せばいいですし、そもそもYoutubeを使わずWebinarで配信すれば良さそうです。
もし、単なるZoom映像を流すだけに物足りなさを感じた場合、オープンソースで開発されているクロスプラットフォーム対応のライブ配信ツールOBSを導入しましょう。
1.情報収集について
動画配信オペレーションについてのブログやノウハウはコロナ後の世界において、数えきれないくらい発信されてきました。それらの情報を読んでいくと配信オペレーションについてのイメージはだいぶ固まるでしょう。しかし、忘れてはいけないのが、ここ2〜3年で発信されている情報というのは、もともと配信業に携わっている配信のプロが発信しているということです。
配信オペレーション分野の恐ろしいところは、配信初心者が発信する失敗情報がまだほぼほぼ存在しないところです。既存のブログを読んで配信のコツや機材の使い方をわかった気になるのは非常に危険です。なぜならその発信源はもともとプロが書いているからです。
例を挙げます。
皆さまはATEM(エーテム)という機材をご存知でしょうか?
ATEMは2019年にBlackmagic Designという企業から販売されたライブプロダクションスイッチャーです。わかりやすく説明をすると4台のビデオカメラの入力をスイッチで切り替えることができる品物です。値段はUS$295(この記事を書いている12月1日の時点では約40,188円)で、この性能のスイッチャーとしては格安な上、世界中でリモートワーク化が進んでいたこともあり大ヒット商品となりました。
その結果多くの記事でATEMの使い方が解説され、その使い勝手の良さが賞賛されていました。
私もそれらの記事を読み漁り、意気揚々と使用してみたのですが、なぜかMacBookの映像が映らないのでした。そう、プロの方はMacBookの映像が映らないという初歩的なトラブルシューティングなど発信しないのです。これは原因が全くわからない状態なので長い間苦しんでいました。
原因としてはHDMIへの変換アダプタがATEMだと結構選ぶようで、試しに何個か試したところ、Fuyiというブランドの変換アダプタだと映すことができました。
ポイント:配信のプロが流す情報を見てわかった気にならない。
手軽度:☆
危険度:★
2. 香盤表の作成
イベントや勉強会を行うとき、当日の流れは頭に入っていますでしょうか?
リアルのイベントでは開始時間と終了時間が決まっているだけで、厳格なスケジュールを決めている人は少ないと思います。が、同じことを配信オペレーションで行うのは危険です。なぜならリアルイベントの際は場の空気を読みながらリカバリーをすることができるのですが、配信だと場の空気を読むことができずグダグダになってしまうからです。
当日の流れを把握するために用意していただきたいのが、香盤表(こうばんひょう)です。香盤表とは登壇者
の出番が書かれているスケジュール表のことなのですが、演劇やテレビの業界用語のようです。イベント会社の方も普通にこの用語で使用してきますので、名前は香盤表と覚えておくと良さそうです。
この香盤表に書いていただきたいのが、「時間の流れ」と「登場人物」と「スライド(画面)の動き」です。特にスライドの動きは全体像を掴んでおく必要があるので、必ず事前に登壇者からもらっておくべきです。
ポイント:登壇者からスライドをもらって、本番の流れを香盤表に落とす
手軽度:☆
危険度:★★
3. リハーサルについて
リハーサルを行う人は多いと思います。が、そのリハーサル、本番と同じ環境でしょうか?
リハーサルで確認する点として、進行、カメラ位置、照明、音声、電源の確保、ネット速度、マシンの耐久性、部屋の温度等があると思います。これらは本番と同じ環境でやらなければ何も意味がありません。いえ、全く意味がない、というわけではないですが、やはり本番環境と同じでないと、本番でトラブルを起こします。
例えば、単純にケーブルの長さが足りない、電源タップが足りない、というだけでなく、音がハウリングする、部屋が暑すぎてマシンが悲鳴を上げるなどトラップはたくさん存在します。リハーサルは必ず本番と同じ人数、同じ空間で行いましょう。
ポイント:リハーサルは本番と同じ人数、同じ空間で行う。
手軽度:☆
危険度:★★★
4. マシンについて
技術広報の方ですと、会社から支給されているマシンのスペックが低い場合があると思います。
その場合は、問答無用でエンジニアの方からGPUを積んだマシンを借りるか配信用のマシンを申請してください。M1のMacBook Proでも問題はないですが、可能ならNVIDIA製GPUを積んだWindowsの方が良いと思います。MacBook Airは配信するにはスペックが低く、危険なので配信オペレーション作業はやめた方が良いです。
ポイント:底スペックのマシンでは絶対に配信オペレーションをしない
手軽度:☆
危険度:★★★★★★★
5. 音声について
配信オペレーション時に何かしらのマシントラブルがあると、配信や映像の保存に失敗することがあります。
そうすると参加者へは平謝りしかできないのですが、実は音声だけでも残っているとAdobe Premiere Proでなんとかできることがあります。登壇者からいただいているスライドで画面を作り、そこへ音声をはめこむとなんとか動画になります。それをYoutubeにアップするだけでも、当日の様子がわかりますし、なんとか形になります。逆に言うと画面は撮れていても、音声がないと全てがダメになります。それだけ音声は大事なんですね。
さて、そんな音声ですが、録音する際はなにで録音すると良いと思いますか?
ソフトウェアで録音していると、マシンが死んだ時に一緒に音声もダメになります。また、スマートフォンは当日、何かしらの代用品として使うことが多いので、手間でも別途ボイスレコーダーは用意した方が良いです。
ポイント:声が残っていればなんとかなるので、スマホの他にボイスレコーダーで録音する
手軽度:☆
危険度:★★★★★★★★★
6. 2時間前に会場入りする
会場に集まる時間帯は皆さんどのように設定しているでしょうか? おそらく多くの人は30分前、もしくはせいぜい1時間前だと思います。が、安全に進めるには2時間前がベストです。1時間だと準備でバタバタする恐れがありますし、そもそも登壇者が遅刻をしてくる可能性があります。
配信のスタートやクロージングは曖昧になりがちなので、この時間帯でしっかりと全員で確認するべきです。そのためには1時間では足りないので、2時間前に会場入りするのがベストです。そして何より重要なのが、機材が壊れた時や忘れ物をした際に、機材をお店へ買いに行けるのが重要です。
ポイント:会場と登壇者は2時間前に押さえておいた方が良い
手軽度:☆
危険度:★★★★★★★★★★★★
7. その配信、生配信にする必要ありますか?
最後のポイントです。
生配信はどんな時でも危険なものです。リハーサルを行い、全ての準備が完璧でも、本番は何が起こるかわかりません。もしネットワークが落ちたら、もし登壇者がポロッと社外秘の情報を話してしまったら、あなたは責任を取れますでしょうか?
生配信は本当に至る所に危険が潜んでいます。本当にそのイベントで生配信が必要なのか自問してください。
ポイント:生配信は危険なので、そもそも録画を配信するのも一つの手
手軽度:☆
危険度:★★★★★★★★★★★★
最後に
いかがだったでしょうか? これらが私が失敗から学んだ教訓です。配信は登壇者も参加者も楽しいですが、オペレーション側は生きた心地がしません。ただ、技術広報としてはエンジニアが発信し続けられる仕組みを作っていくのも大事な仕事だと思います。私たちは企画内容に集中するのではなく、配信のサポートを行うことでエンジニアの「発信したい!」という気持ちを助長できるかもしれません。