はじめに
この記事は、IT業界に従事していて、「デジタルトランスフォーメーション」の単語は知ってるけど具体的に何?って感じている人を対象としています。DX推進の中で、IT人材やAI人材の不足が問題視されていますが、一方では「自分に関係あるのかな?」と思っている方も多いと思います。
経産省がAI人材の育成に向けて様々な施策を打ち出している中、IT業界に従事している人にとって必要とされるDXの認識について考えてみました。
デジタルトランスフォーメーションの定義
一般的には2004年エリック・ストルターマンが提唱したDX(デジタルトランスフォーメーション)の定義を指しています。
「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる。」
Wikipedia
しかし、ビジネス界で言われているDX(デジタルトランスフォーメーション)はデジタル技術を活用して、競争上の優位性を確立することとして定義されています。世間で騒がれているDXはこちらを指します。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
経済産業省、「DX 推進指標」とそのガイダンス
この記事内においてもDXとはデータとデジタル技術の活用とその効果と定義します。
2025年の壁
はじめに、なぜ経済産業省が真剣にDX推進をしているかの理由について見てみます。2019年に経産省がDXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~というレポートを発表しました。レポートによると、このままだと2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性があると提言されています。回避するためにDXを推進する必要がある。そのために知識を持ったIT/AI人材が必要になる。育成しましょう。という物語になっています。
DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(簡易版)(PDF形式:2,693KB)PDFファイル 20ページ
「デジタイゼーション(Digitization)」と「デジタライゼーション(Digitalization)」
少しややこしい言葉の定義となります。似ているけど意味が違うってことで面白いと思いました。デジタイゼーションとデジタライゼーション。日本語だと「ラ」があるか無いか、英語だと「al」があるか無いかです。Google翻訳ではどちらも「デジタル化」と翻訳されますが、実は意味が大きく異なります。
文言 | 定義 |
---|---|
デジタイゼーション | 情報のデジタル化。非デジタルであったものをデジタルに移行すること。(例:紙ベースで管理していた顧客情報をデータベース化) |
デジタライゼーション | デジタルに移行した結果得られたデータ(情報)から新しい価値を見い出すこと(例:顧客情報から顧客の趣向を得て新たな商品開発に活かす) |
DXとはデジタライゼーションのことになります。注意点としてすでにデジタイゼーション(データのデジタル化)は行われている前提となっています。デジタル化自体をDXと勘違いしてしまうと、2025年の壁を回避することができません。
DXとAI
ここからDX推進の内容になります。上で「デジタルに移行した結果得られたデータ(情報)から新しい価値を見い出すこと」がDXと説明しました。ここでデジタル化されたデータを活用する(価値を生み出す)技術としてAI、特に深層学習(ディープラーニング)の導入が高まっています。
この点に対して、通常システムを構築しているIT系の方にとっては、なかなかピンとこない話の流れだと思います。デジタル化されたデータがあり、決まったルール(仕様)で処理する話なのに、なぜそこに深層学習って技術が出てくるとDXなのかよく分からないと思います。実はDX推進を進める上で、今ITに関わっている方がここを理解することこそ重要なポイントだと思います。
オブジェクトとしてAIを導入するということになりますが、AIに置き換えることによって何が変わるのかは以下の図の通りです。
少し乱暴な話ですが、仕様に基づいてプログラミングしたモジュールが既存データで学習したモデルに置き換わるとイメージしていただけたらと思います。(ここでは仕様を基にプログラミングしたものをモジュールと表現しました。正確な表現では無いのですが説明しやすさのためです。)
それぞれの特徴についてです。
オブジェクト | 構築 | 処理性能 |
---|---|---|
モジュール | 決められたデータに対して、仕様に基づいた処理をプログラミング | 既知のデータに対しては100%の精度。一方未知のデータは処理できない |
モデル | 既存のデータから特徴量を学習 | 未知のデータに対しても高精度で処理可能 |
お互いの長所を利用して、システムのどこにAIを導入するのか考えられるようになれればと思います。そのためにはAIモデルの概要も理解しておく必要があると思います。
AIモデル
なぜ、AIだとデータから価値を生み出すことができると言われているのかについて考えてみます。実はAI(人工知能)という言葉はかなり範囲が広く、あまりにも漠然としていますので、ここではAIとは深層学習モデルのことを指すことにします。このモデルは2つのフェーズがあり、一つは既存データを利用してその特徴を学習するフェーズです。もう一つは学習した結果で未知のデータに対する推論を行うフェーズとなります。学習と推論をシステムとしてすることによってデータから価値を生み出すことが出来るとなります。深層学習は、現実世界は何かしらの分布に従っていると仮定し、その分布を既存のデータから学習します。この学習自体が人の手によって仕様化できない点が大きなポイントとなります。なぜ、深層学習を利用すれば、データから価値を生み出すことにつながるのかは、この仕様化ができないことと大きく関連します。例えば、熟練工が持つ経験や勘と言われる属人化した仕様化できないノウハウを深層学習(ディープラーニング)で学習することで、誰でも使える技術へと落とし込むことが可能になります。
PoCとアジャイル開発
PoCとはProof of Conceptの略で、「概念実証」という意味です。AI開発の際は前章の通り、既存のデータを元に学習を行いますが、どういった結果が得られるのかはやってみないと分からない点が多くあります。その検証をPoC工程として行うことが一般的となります。通常の開発におけるプロトタイプ制作等と考えるとイメージしやすいと思います。また、明確な仕様書がありませんので、出来上がるまでお客さんとともに開発を行うという点でアジャイル開発が採用されるケースが多いです。こちらについてはMLOpsというプロダクト開発手法も提言されていますので、興味のある方は調べてみてください。
まとめ
DX推進と言っても、既存のシステム開発の一種となります。形態として、WEBアプリにするのか、クラウド上にシステムを構築するのか等、通常のシステム開発と考慮すべき点については変わりはありません。ただ、コアとなる部分にAIモデルをオブジェクトとして組み込んでいるだけです。通常のモジュール開発と少し視点が違うAIモデルとなります。この違いをIT業界に従事している方が認識できれば、日本のDX推進も大きく進むと思います。