この記事は、AEON Advent Calendar 2023の23日目です。
みなさん、こんにちは
イオンネクスト CTO の樽石です。イオンネクストはイオングループのDX戦略事業会社で、今年「グリーンビーンズ」という倉庫出荷型の食品EC事業を開始しました。イオングループにおける本格的な事業会社です。2019年末の会社設立から3年半をかけ、2023年7月にグランドオープンしております。
グリーンビーンズとは?
グリーンビーンズはイオンの新しいサービスブランドです。混乱しやすいのですが、実はイオンは、イオンがつかない様々なサービスを展開しています。例えば、マイバスケットは都市部のお客さま向けの小型スーパーで、コンビニより大型で品揃えの豊富な店舗というサービスです。同じように、グリーンビーンズはイオンの名前がつかない新しいサービスです。オンラインマーケットという新しい提案をしています。
オンラインマーケットとは?
オンラインマーケットは新しい言葉です。単なるネットで買えるスーパーマーケットという存在を超えた、オンラインによる新しい購買体験の場を創り上げたいという想いをこめてグリーンビーンズ事業の開始時に自ら命名したものです。
例えば、
ネットだから新鮮:「コールドチェーンによる長持ちする鮮度」
ネットだから安い:「持ち帰れないサイズの大容量」
ネットだから楽しい:「スーパーでは取り扱えない量の品揃え」
ネットだから買える:「大型店舗が作れないエリア・時間帯でのサービス提供」
など、様々な新しい購買体験によりお客さまに全く新しいライフスタイルを提案するものとなっています。「グリーンビーンズとはなにか?」「グリーンビーンズです。」という唯一無二の世界観の創造を目指しています。ですので、この先グリーンビーンズが提案するものは益々進化していくでしょう。
モノだけでなく、コトやエモの提案
などが考えられるかもしれません。数年後には全く違うものになっていることでしょう。経年優化というデジタル業態の特徴を最大限に活かし、社会を変革していければと思います。
事業立ち上げの成果物とデジタルプラットフォーム
この3年の間、
- 前半は主に事業コンセプトや倉庫の建築
- 後半は業務オペレーションの具体化やその全体を統制するソフトウェアの整備
に取り組んできました。このように書くとシンプルに聞こえますが、実際にはグリーンビーンズのサービス運営に関するそのすべてを自前で構築しています。お客さまの目にみえるECサイトだけではなく、その裏側にある、サプライチェーン、医薬品販売、カスタマーサービス、マーケティング、データ、メディア運営、会計、人事、大型自動倉庫、配送トラック、トラック中継所に至るすべてが含まれます。ソフトもハードもオペレーションも法人も全てです。
下図は、こういったグリーンビーンズの全体を統制するために作り上げたプラットフォーム「イオンネクストプラットフォーム」の現在の状況を整理したコンポーネント図です。
その業務システムの数は総勢 104 個、フィーチャー数は 196 個あります。これを約20名のIT部メンバー(ソフトウェア開発開始時点では数名)でゼロから組み上げて、オンスケでローンチしました。また、半年間、円滑に運営することも出来ました。これは一重に本システムの開発・運営に関わったすべてのメンバーの賜物と思います。この場を借りて感謝を申し上げます。
この開発物語の舞台裏については、今年の9月に SRENext というイベントの基調講演で軽く触れております。ご興味があればこちらもご覧いただけますと幸いです。
また、先日イオングループのエンジニア採用サイト公開においても、イオンネクストはイオングループのデジタル投資におけるメインの企業として紹介されました。こちらもぜひご覧ください。
このサイトの記載の通り、イオングループでは現在ソフトウェアエンジニアの採用を大幅に強化しています。こちらのサイトをご覧いただき、ご興味を持っていただいた方はぜひカジュアル面談にご応募いただきたいなと考えておりますが、今日は、年末恒例のイベントであることを踏まえ、上記のエンジニアサイトで言及していないポジション「CTO」を募集してみるというのをやってみたいなと思います。
CTO 募集!?
CTO 募集とはどういうことでしょうか?私が退任するという計画があるわけではありません。私の持論ですが、成長する企業はサクセッションプランがしっかり機能している企業だと考えています。同じ人がずっと同じロールを担当すると組織が硬直化し、成長に悪影響があるからです。私はイオンネクストを成長させたいと考えていますので、当然ながら CTO についても硬直化しないように、しっかり将来を見据えておく必要があります。
その一貫として、今年後半よりIT部ボードチームの組成を行いました。イオンネクストプラットフォームの開発・運用に関わるシニアマネージャ陣とIT部部長で構成されます。
CTO募集というのは、具体的にはこのIT部ボードチームへの招待となります。これは既にイオンネクストで働いている従業員の皆さんでも構いませんし、新たにご参画いただく方でも構いません。ぜひ、イオンネクストが目指す世界の実現に共に歩んでいければと思います。
やることはシンプルで
イオンネクストプラットフォームを育て、活かしていく。
ですが、これについてもう少し触れさせていただきたいと思います。
職務規定
まず、イオンネクストCTOの任務は以下となっています。
- 会社の経営及び管掌職務を通じた企業価値の最大化
- グループ基本理念・行動規範の浸透と法令順守の徹底
- 新技術の活用とオペレーション改革による最適な経営基盤と営業体制の実現による企業価値最大化
グループの基本理念や法令遵守を前提に企業価値を最大化することが任務です。すなわち、お客さまを原点に社会に貢献すること、現在イオンネクストが取り組んでいるグリーンビーンズの事業価値を最大化すること。この二つを同時にやりなさいということになります。
これらの推進のために今大きく取り組んでいることは以下のものになります。
- 成長痛の発見
- 技術以外にも目をむける
- グロースをやり切る
- ITボードチーム = グロース推進チームにする
成長痛の発見
私は前職などを含めるといわゆるCTOを10年近くやっています。が、CTOのやることはタイミングによって全く異なると感じています。特に急成長企業では成長痛の中身がフェーズによって全く異なります。会社の経営に関わるということは、成長痛に真摯に向き合う必要があります。成長痛の中身を誰かが教えてくれるわけではありません。課題を自ら調査、特定し、対策を打つ。課題の調査から始めなければいけないのが特徴的なところと思います。
組織上の課題、技術上の課題、事業上の課題。そのどれかの課題が特に大きな問題になることもあるし、すべてが同時に発生することもありますが、技術上の課題だけ解決すればうまくいくことは稀のように思います。というのも、課題を解決した時には、その解決策は既に時期を逃していたというような事が多いからです。
技術以外にも目を向ける
従って、CTO は技術課題以外にも目を向けることが必要です。特に、食品ECサービスは技術で解決できることは全体のほんの一部です。お客さまは技術がすごいから使うわけではありません。その技術によってお客さまの課題を解決できなければいけませんし、解決できることが伝わらなければいけません。またその技術を直感的に使いこなせるようになっていなければいけません。それは商品の品揃えかもしれないし、UI/UX の改善でもあるかもしれない。技術と関係ないことでもあります。この現実をしっかり踏まえる必要があります。
グロースをやり切る
グリーンビーンズはおかげさまでサービスローンチからわずか半年で注文数は約5倍に成長しています。しかしながら、当社の目標は2030年に売上高4000億円という極めて高いものとなっています。この規模まで成長しなければ、社会に貢献できるレベルに到達できないためです。
従って、今当社にとって最も大事なことは、力強いグロースをしっかり作り上げることです。経営メンバー、そして従業員全員がグロースに責任を持っていく必要があります。
イオンネクストCTOの現在の職務は、いわゆるテクノロジーの活用という領域だけにとどまらず、グロースのためのあらゆる戦略、戦術、アクションの牽引も含んでいます。
「ITボードチーム」 = 「グロース推進チーム」にする
この推進チームを作りたい。これが「CTO募集の真意」となります。やることはシンプルで、グリーンビーンズをグロースさせること。やることを自ら考え実行する。極めてやりがいのあるミッションです。
そして「企業価値を最大化する」という任務を実践するチームがデジタル人材で構成されること、これこそが本当の意味での DX であるともいえるでしょう。
余談ですが、企業価値を最大化するミッションとは別に、「日本の小売業界課題を牽引する」話も盛り上がることがあります。業界リーダーであるが故、社会への貢献が前提であり、リーダーシップも発揮していく必要があります。
イオンネクストプラットフォームの特徴
では、今イオンネクストが開発している「イオンネクストプラットフォーム」はどういうものなのでしょうか。少し紹介したいと思います。
グリーンビーンズはイオンネクストプラットフォーム上で稼働しています。このプラットフォームは、このサービスを立ち上げるためにゼロから創り上げたシステムで、おもに以下のような特徴を持っています。
- Software Defined Company
- マイクロカンパニーズアーキテクチャ
- マルチプルマネジメント
Software Defined Company
最大の特徴は、イオンネクスト社を運営するために必要な主要な要素をすべてソフトウェアによりデザインしています。
具体的には、お客さまにサービスを提供するためのシステムと、会社の運営のために必要なシステムを同じ基本コンセプトにより、統合しています。シンプルにいうと、フロントオフィスとバックオフィスがシームレスに統合されています。そして各オフィスはいくつかのコンポーネントから成り立ちます。例えば、バックオフィスには会計コンポーネントと人事コンポーネントなどがあります。これらのコンポーネントは API により疎結合で繋がります。
バックオフィスとフロントオフィスを統合するとなにが良いのでしょうか?それは生成AIが会社の経営に参画することが簡単になることです。実際、現在は、イオンネクストプラットフォームのマルチプルマネジメントの経営顧問をしていただいています。この具体例については、後ほど紹介させていただきます。
マイクロカンパニーズアーキテクチャ
次の特徴は、イオンネクストプラットフォームを皮切りにイオングループ300社の疎結合を可能にする、マイクロサービスの進化形となる新しいアーキテクチャです。会社は資産や負債、益金や損金の計上を正確に行う必要があります。会社の事業活動として、ソフトウェアの開発、運営を行う場合、これを前提にしなければいけません。
また、会社は有機的な存在です。会社は生まれたり消えたりします。または事業だけを売却することも出来ます。しかし事業を売却するには事業の評価額を算出しないといけません。ソフトウェアアーキテクチャが事業売却の単位と足並みが揃わないと、事業譲渡が困難となり、会社運営を複雑にしてしまいます。
また、会社間取引は正しく行わないといけません。別の会社のシステムを利用した場合、適切な請求がされないと贈与の対象となる場合があります。
通常のマイクロサービスは分割統治により、開発の生産性を向上することが目的ですが、マイクロカンパニーはそれに加え、ソフトウェアによる役務の提供による正当な対価を算出できるようにすることが目的となります。
通常の第三者間の会社取引では、役務の提供による対価は頻繁に行われますが、事業譲渡の数はそれほど多くありません。一方、グループ内の兄弟会社はそのような事は頻繁に起こり得ますし、人材が出向することも頻繁です。そのため、資産管理が極めて重要となります。
イオンネクストプラットフォームは将来起こりうるこれらのグループの進化を見据え、はじめに作り上げたコアコンセプトとなります。
マルチプルマネジメント (ITの多角経営)
次はマルチプルマネジメントです。イオンネクストプラットフォームは様々な領域で多様な概念や基礎技術を組み合わせています。これは技術的なマルチプルだけでなく、組織的なマルチプルも含め極めて多様です。ここでは主要なものについて紹介します。
マルチクラウド
クラウドだけが全てではない、オンプレだけが全てではない
ソフトウェア開発領域のトレンドであるクラウドプラットフォームを、複数組み合わせて実現しています。AWS / Azure / GCP の3大パブリッククラウドとプライベートクラウドであるオンプレミス・イオンネットの4クラウドを活用しています。
現在、イオンネクストプラットフォームの各クラウドの使い分けは以下のようになっています。
AWS | Azure | GCP | Aeon | |
---|---|---|---|---|
目的 | ユーザー向け | 業務向け | データ | グループ基盤 |
説明 | greenbeans.com などのお客さま向けサイトのホスティング | 業務システムやプラットフォームのコアとなる基盤 | BigQuery などのデータプラットフォーム | グループ共通会計システムや発注システムなど |
マルチエンジニア
社員エンジニアだけが全てではない、ITベンダーだけが全てではない
イオンは昔オンプレミスのシステムを自ら内製化していました。その後、情報システムのコモディティ化の流れの中で、ITシステムを外注により実現する体制が形作られ、最適化されました。
イオンネクストでは、この体制のメリットを活かしつつ、アジャイルにソフトウェア開発可能な体制を作るため、社員エンジニア、副業エンジニア、フリーランス、ベンダーによる混成チームを作り、ソフトウェア開発を行っています。
社員 | 副業 | フリーランス | ベンダー | |
---|---|---|---|---|
目的 | アジャイル | リーチャビリティ | フレキシビリティ | スケーラビリティ |
説明 | プラットフォーム開発の根幹、システム理解の自前化 | 人材不足への対応 | 柔軟な発注 | 開発パフォーマンスの一時的向上 |
マルチ開発
内製開発だけが全てではない、委託開発だけが全てではない
ソリューションベンダーのパッケージ製品や SaaS、内製開発したソフトウェアを組み合わせています。
内製開発 | パッケージ製品 | SaaS | |
---|---|---|---|
目的 | 独自性、優位性 | コモディティ | コモディティ |
説明 | パッケージや SaaSを導入してもあまり意味がない。マネジメントやインテグレーションコストが跳ね上がるパッケージ製品や SaaS | どこにでも溢れているようなシステム | どこにでも溢れているようなシステム |
マルチウェア
ソフトウェアだけが全てではない、ハードウェアだけが全てではない
倉庫、ロボットなどのハードウェアと、それを制御するソフトウェアを高度に組み合わせています。全体を通じて、事業活動を営む法人をソフトウェアによりデザインすることにより、統合管理を可能にします。
マルチロール
エンジニアだけが全てではない、非エンジニアだけが全てではない
従業員一人一人の特性を活かしつつ、各人がさまざまな領域に果敢に挑戦できる組織運営を実践しています。そのため、極めて幅広い開発経験を積むことが可能です。一つの部署の中に、企画・設計・開発・テスト・運用のすべての機能が含まれており、それらすべてにアクティブに関わることが出来ます。
DevOps エンジニア | リライアビリティ・エンジニア | PdM | |
---|---|---|---|
目的 | 開発・運用・信頼性 | 信頼性・運用伴奏 | 企画・PJ 推進 |
説明 | How の推進 | SLO の推進 | WHY / WHAT の推進 |
マルチエポック
最先端だけが全てではない、枯れた技術だけが全てではない
ソフトウェアの進化は日進月歩です。新しい技術はすぐに陳腐化します。今最先端とトレンドとなっているものは来年にはレガシーとなっているでしょう。イオンネクストプラットフォームでは、さまざまな時代に生まれた革新的な技術を、適切に組み合わせて作り上げています。オンプレもありますし、コンテナプラットフォームもありますし、サーバーレスもあります。最近流行っている何かだけが素晴しいという前提は持たず、むしろそれらはすぐに新しいものにリプレイスされていく、ネクストレガシーであるという発想で開発を推進しています。
オンプレ | VM | コンテナ | サーバーレス | |
---|---|---|---|---|
目的 | 長年稼働した枯れたシステム | オンプレの柔軟化 | VMの簡素化 | ロジック実行の簡素化 |
説明 | グループ基盤など | docker compose などの実行基盤 | 各種業務システム | シンプルなロジック |
他にもさまざまなマルチプルは存在します。やはりサービスの推進というのは一朝一夕に何か一つのことで形作られるわけではない。それは技術という領域だけで捉えてもそうですが、組織など多種多様な切り口において、マネジメントしていくことが必要であることが再確認できます。
イオンネクストでは、今後もマルチプルマネジメントの強化により、社会を変革するデジタル事業を創造していきたいと思います。
終わりに
この写真は先日私が宅配をしてきた時の出発時の光景です。配送の課題を抽出し、改善に活かすことが目的です。今後、定期的に現場での作業を行い、継続的な改善に繋げる予定です。
答えは本社にはない。
これはイオンの会長がよく発言される内容です。グロース推進チームは、やり切る必要があります。そのためには本社で要件定義を待っていたり、想像で考えたアートプログラミングをしていれば良いわけでは無いでしょう。
毎日は常に小さな一歩から始まります。次期イオンネクストCTOのトップダウンとは「トップが現場に入る」ことであるし、ボトムアップとは「現場が経営目線になる」ことである。
そんなメンバーが育ち、それによってイオンネクストを牽引し、サービスが育ち、社会が変革されていく。そんなことを期待して今年の Advent Calendar としたいと思います。
ぜひ一度イオンネクストに遊びにきてみてください。
来年もよろしくお願いいたします。