はじめに
本記事は、プロダクトマネージャー Advent Calendar 2023 12/10公開記事になります。
初めましての人は初めまして。AlphaDriveでPdMを担当している @tarox です。
先日、PM Career様が主催したオンラインイベントに登壇させていただいたのですが、イベントの最後に視聴者からの質問コーナーがありまして、そこでPjMからPdMへのキャリアデザインについて質問がありました。
以下について私は以下のようなコメントしました。
- PjMとPdMでは仕事内容がものすごく異なるので、PjMから一足飛びにPdMにはなれない
- PdMはドラクエで言うところの賢者のような上級職なので、最初からなれる物ではない
- ただ、自分も20代の頃PjMを経験し、現在PdMを担当しているので、その経験が全くつながってないとはいえない
イベントの後で、改めてこのテーマについて整理したいなと思っていまして、今回のアドベントカレンダーのテーマとすることにしました。
本ページではPdMに必要なスキルについてまとめた後、どのようなキャリアデザインを描いてスキルを獲得していけばよいか、についてまとめていきます。
あくまで私の経験に基づくまとめですので、一意見と捉えていただければと思います。
PdMの役割
必要なスキルについて話すまえに、PdMの役割について簡単に整理します。
- プロダクトの価値向上に責務を持ち、そのための活動を行うポジション
事業オーナーやPMM的な役割も兼務する場合は
- プロダクトの売り上げに責務を持ち、そのための活動を行うポジション
という役割も担うことになります。
それぞれの業務は各メンバーとの協業で行われますが、PdM、PMMはビジョン策定し全体の旗振り役となるべき存在だと言えます。
様々なプロダクトのPdM人材要件
ここではプロダクトを大きく6種類に分類したいと思います。
- toCか、toBか
- 0→1か、1→10か、10→100か
のかけ算での6タイプです。
それぞれのプロダクトの状況によって求められる人材要件が違うと思っております。
まずは、toC、toBそれぞれのプロダクトにおける人材要件についてまとめてみます。
なお、前提条件としてプロダクトの運営と開発はすべて内製でアジャイル開発で行うとします。
toCプロダクトで求められるスキル
うまくいくtoCプロダクトは、大勢の人が思う「あったらいいな」を形にしたようなプロダクトほど伸びると思います。
そのプロダクト・ビジョンに多くの人が共感し使ってみたいと思わせる、「プロダクトアウト1」的なアプローチで企画していかなければなりません。
toCプロダクトはターゲットユーザーの範囲を広く設定するために、「NICE TO HAVE」なプロダクトになりがちです。
「NICE TO HAVE」なプロダクトはチャーンしやすく、クローズしやすいです。そういったプロダクトの運営を継続するためには、かなり高度なビジネススキルも要求されます。
また、toCプロダクトのユーザーはそれぞれの思惑でプロダクトを利用しているため、ユーザーインタビューしても断片的なその人固有のニーズばかりフィードバックされ、プロダクト全体の方針を示唆するような情報は基本的に得られません。
「最大公約数の価値」につながるようなニーズを拾うセンスが、PdMには求められると思います。
ニーズを拾うセンスも必要ですし、定量的なデータの傾向から課題を探索するデータ分析スキルも求められます。
toCはプロダクト成長につながる課題を見つけるのが難しいため、定量データ分析を頻繁に行いデータドリブン的な意思決定が求められます。
以上まとめると
- プロダクトビジョン策定スキルと周りのメンバーへの丁寧な説明スキル
- チャーンしやすいプロダクトであってもビジネス継続できるようにするスキル
- 最大公約数の価値に結びつくニーズを拾うセンス
- 定量データ分析によるデータドリブン意思決定スキル
といったようなスキルセットが求められます。
もちろん、toBプロダクト運営においても大事なスキルですが、よりtoCで求められるスキルだと捉えてください。
例えば定量データ分析はtoBにおいても必要なスキルですが、toCほど利用者の規模が大きくなくデータが集まらないので、直接クライアントヒアリングした方が良いフィードバックが得られることもある、といった感じです。
toBプロダクトで求められるスキル
toBプロダクトは、様々な顧客が抱える共通の課題に対して「マーケットイン2」的アプローチで解像度高く向き合い、それをスマートに解決するアイディアから最高のプロダクトが生まれるとおもいます。
toBプロダクトはルーティン化した業務の課題解決するプロダクトほど、多くの顧客ニーズを獲得し、解約されにくい「MUST HAVE」なプロダクトになっていきます。
どういった課題に向き合いツールを使って解決していくか、その選択が伸びるプロダクトになるか、ならないかの大きな分かれ道になります。
スマートな解決法にたどり着くには、
- 既存の技術で可能なこと・不可能なことは何かという知識
- その課題を取り巻くドメイン知識3
- 対象となるユーザーに対する深い解像度
これらがそろって初めて到達できるとおもいます。
これら3つの知識がそろっていれば自分一人で起案できると思いますが、通常のPdMにそんなスーパーマンはいません。
ではどうすればいいか?
顧客解像度の高いBizメンバー、技術情報に詳しいTechメンバー、対象ユーザーのドメイン知識情報を集めインサイトに迫るUXリサーチのメンバー、そういった人たちと目線を合わせて協働して動いていくリーダーシップ力が求められます。
以上まとめると
- 顧客課題を解決し、その先にある成功体験をユーザーに提供したいと思う熱量
- MUST HAVEなプロダクトデザインを設計するセンス
- 「スマートな解決法」にたどり着くための必要な知識・テクニック
- BizやTech、UXメンバーとのコミュニケーション力とリーダーシップ
こういったスキルが求められます。もちろんtoCプロダクトでも求められますが、よりtoBでは重要と捉えてください。
プロダクトのフェーズごとに求められるスキル
さて、ここからはプロダクトのフェーズごとでの求められるスキルについてまとめていきます。
0→1フェーズのプロダクト
0→1フェーズのプロダクトを担当しているPdMは、基本的に1人でPdM業務を回すことになります。
ここでいうPdMは事業オーナーに近いあるいはそのものの立場としてのPdMです。そのプロダクト自体の起案者であるケースもあります。
このフェーズのPdMに求められるスキルは、最小コストでプロダクト価値検証をするスキルだと思います。
重要なのは作りすぎないこと、その判断ができること、だと思います。
そのために必要となるスキルは以下だと思います。
- そのプロダクトが価値提供する領域のドメイン知識
- 仮説立てして、ユーザーヒアリングして狩野分析法など使い、必要な価値を検証するスキル
- そのプロダクトの価値を端的に説明するプレゼン力
- ペーパープロトタイピングをするスキル
があります。
1→10フェーズのプロダクト
1→10フェーズのプロダクトはまだプロダクトの規模としては小さいので、一人で1プロダクトのPdMを担当するケースが多いと思います。
ただ事業自体スタートしているので、事業責任者がPdMとは別にいるような状況です。事業責任者がPMMを兼務していたり、ベンチャー企業だとCEOが事業責任者というケースもあります。
事業責任者が立てた事業プランに沿って、プロダクトの価値向上にコミットしていくような働き方になります。
この時期はMVPでリリースしたプロダクトのユーザーが増えつつ、フィードバックをヒアリングしながら機能を増やして、PMFの道筋を模索しているときだと思います。
PdMとしてはPMF4させるために必要な価値の仮説を立て、検証し、実装に向けた要求をPRD5にまとめ、エンジニアと協議しながら仕様をブラッシュアップし、リリース後の機能検証を行うというHCDプロセスを回していくことがタスクの中心になります。
定性情報を集める活動と定量情報を分析するスキルも求められます。
特にノーススターメトリクス6について検討を始める時期でもあります。
まとめると以下になりますが、これらはHCDプロセスでやるタスクの内容と大体同じです。
- ユーザーヒアリングしてPMFに近づけるために解決すべき課題が何なのかを明らかにするスキル
- その課題を解決するためにUXフローを書き、プロダクト上の体験をデザインするスキル
- エンジニアとやりとりするためのPRDを書くスキル
- リリースされた機能を評価する分析する分析スキル
10→100フェーズのプロダクト
10→100フェーズのプロダクトは、機能が増えユーザー数もそれなりの規模になっている状態です。
1プロダクトを一人のPdMでは抱えきれない場合、複数PdMを置くことになります。
このフェーズだと、エンハンス開発を回すことがタスクの中心になってくるので、アジャイル開発のPjMを経験された方にとっては仕事内容が似てきます。会社によってはEM(エンジニアリングマネージャ)が担当することが多いです。
(なお、ウォーターフォール開発PjMの経験が生きないか?というとそんなことはなく、数10スプリントにも及ぶような大玉開発する場合は、アジャイルではなくウォーターフォール的に開発マネジメントすることが求められます。)
PMF達成できていないプロダクトの場合、プロダクトをMUST HAVEに導くPRD起案と優先順マネジメントスキルが求められます。
PMF達成しているプロダクトの場合、PdMは「プロダクトの更なる成長を描く戦略」を立てなければなりません。
ホリゾンタルに最大公約数の価値を広げる戦略をとるか、さらにバーティカルに特定ユーザーにとって愛されるプロダクトを追求するか、機能を別々のプロダクトに分離し、それぞれ成長する道を描くか。
そのプロダクトが対峙するマーケットサイズと自プロダクトのシェアだけ見るのではなく、今後の推移や競合の戦略を鑑みながら、適切なサイズのプロダクトと開発体制に移行する判断もしなければなりません。
PdMになるためのキャリアデザイン
さて、ここまででPdMに必要なスキルについてあげてきました。まとめると以下の項目に集約されます。
- 価値探索スキル
- プロダクト設計スキル
- リーダーシップスキル
この3つは必須スキルです。さらにプラスして
- ユーザーリサーチスキル
- 定量データ分析スキル
- 開発マネジメントスキル
- ビジネス戦略スキル
- 担当プロダクトのドメイン知識
も求められますが、自分にないスキルがある場合、そのスキルを持つメンバーとのコミュニケーション力が求められます。
PdM業務はPjMだけのスキルではとても足りないことを感じていただけたと思います。
あともう一つ、PdM業務はPdM専門のスキルというよりも、複数の専門スキルを組み合わせて業務を遂行しているという点に気づいたでしょうか?
- 価値探索スキル → 経営企画・新規事業立ち上げ
- プロダクト設計スキル → 新規事業立ち上げ・UXデザイン・情報設計
- リーダーシップスキル → 組織マネージャ・リーダー
- ユーザーリサーチスキル → UXリサーチャー・カスタマーサクセス
- 定量データ分析スキル → データエンジニア
- 開発マネジメントスキル → エンジニアリングマネージャ・プロジェクトマネージャ・開発ディレクター
- ビジネス戦略スキル → 経営企画・新規事業立ち上げ
- 担当プロダクトのドメイン知識 → その業界での実務経験
これがRPGの上級職と言われるゆえんでもあります。
つまり、プロダクト運営に携わっている人なら、誰でもPdMになるための門戸が開かれているとも言えます。
では、どうやってPdMへのキャリアデザインを描いていけば良いでしょうか?
ハードスキル・ソフトスキルとキャリアデザイン
ハードスキルとソフトスキルという分類を聞いたことがあるでしょうか?
ハードスキルとは専門知識を習得することによって身につけたスキル、ソフトスキルとはコミュニケーションスキルなど対人関係の中で身につけていくスキルです。
PdMに求められるスキルを分類するとこうなります。
- 価値探索スキル → ハードスキル
- プロダクト設計スキル → ハードスキル
- リーダーシップスキル → ソフトスキル
- ユーザーリサーチスキル → ハードスキル
- 定量データ分析スキル → ハードスキル
- 開発マネジメントスキル → ハードスキル
- ビジネス戦略スキル → ハードスキル
- 担当プロダクトのドメイン知識 → これは業界での業務経験
ほとんどがハードスキルで構成されています。
私のオススメは、新社会人スタートしたときからハードスキルを磨く研鑽を積んでいくことです。それが自分の自信につながりますし、自分らしいPdMとしてのあり方にもつながっていきます。
ある程度やりきったなと思ったら、次のハードスキルを磨く環境を自分から求めていってください。場合によっては転職してそういった環境を求めても良いと思います。かくいう私は現在8社目です。
特に新規事業立ち上げに携わらないと得られない経験も多いです、本業に携わりながら副業でそういった業務を手伝ったりすることもできると思いますが、スタートアップに転職して新規事業立ち上げ経験をすることで得られる知見はPdM業務を行う上で非常に有用な経験になると思います。
キャリアデザインに置き換えると、以下の順番でスキルを成長させていくと良いと思います。
- 上記のハードスキルどれでもいいので1つ携われる仕事につく
- そのハードスキルで十分にバリューを発揮できるようになったら別のハードスキルを身につけるチャレンジをする
- その繰り返し
- 複数ハードスキルを身につけたときには、自ずとチームリーダーを任されることになるので、そこでリーダーシップ力を磨いていく
こういった順番になるかなと思います。
ハードスキルが不十分な状態でチームリーダーなどやってしまうと、先ずうまくいきません。
マネージャー職は様々な判断が求められますが、経験が浅いと客観的に見て正しい判断をすることが出来ず、メンバーの信頼を損なうことになります。
終わりに
年が明けて2024年にはついにVisionProがリリースされます。VisionProが普及したら、また求められるスキルの更新が起きるかもしれません。
絶え間なく変化するIT業界でコンペティティブにバリューを発揮し続けるには、「陳腐化しにくいハードスキル」を育てていくのが正解だと思います。
そして、それらの複合スキルがPdMに求められるスキルだと思いますし、それらのスキルを鍛える仕事に関わり続けることがPdMになるためのキャリアデザインにつながっているように思います。
以上、PdMになるためのキャリアデザインについてまとめてきました。
あくまで私の経験則からの見解ですので、これ以外のキャリアパスもあると思いますが、皆さんの参考になればと思います。
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プロダクトアウトとはユーザーニーズよりも企業側の理論を優先させる物作りの考え方、作り手がいいと思った物を作る、というアプローチ。 ↩
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マーケットインとはユーザーニーズを優先し、ユーザーが欲しいものを作るという物作りのアプローチの仕方。 ↩
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ドメイン知識とは、ある特定の専門分野・業界についての知見・知識のこと。 ↩
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プロダクトマーケットフィット、フィットジャーニーにおける最後の状態。プロダクトがその対象となるマーケットのニーズを満たしたものになった状態。 ↩
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PRDとはプロダクトへのビジネス要求やユーザーニーズを解決するための企画をまとめたドキュメントであり、システム設計仕様書ではないです。なお、DesignDocというフォーマットではPRDとシステム仕様を1枚にまとめて書きますが、EMがPdMを兼務している場合はDesignDocのフォーマットでも良いと思います。 ↩
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ノーススターメトリクスはプロダクト価値がユーザに届いているかどうかを確認するための指標。PMMのKPIがARRやチャーンレートなら、PdMのKPIはノーススターメトリクスになる。 ↩