背景
Hull Whiteモデルを勉強する中でヨーロピアンスワップションをJamshidian's trickの存在を
知り、概要をまとめてみました。
※筆者はクオンツでもなんでもない素人です。
この記事で間違っている事項があればぜひ指摘のコメントを頂ければと思います。
この記事の概要
Hull-Whiteモデルで数値計算を実施するときにキャリブレーションを実施する。
具体的には市場で公表されているスワップションプライス、Blackボラティリティを参照して
- スワップションプライスが同じになるような
- Hull-Whiteボラティリティを探す
ということをする。
Hull-Whiteボラを探す際にHull-Whiteモデルを使ったスワップション時価計算が必要。
Jamshidian's trickを使うとゼロクーポン債のオプション価格式に置き換えられる。
Hull-Whiteモデルの下でのゼロクーポン債オプションは解析解を使って計算可能となる。
前提
- シングルカーブ前提(すなわち、割引金利と参照金利が同じ)とする
- 参照金利は前決め金利(LIBORなど)とする
Jamshidian's trickを用いた時価計算
まず、計算対象となるヨーロピアンスワップションを考える。パラメータは以下の通り。
- オプションの満期:$T_0$
- ストライク(スワップレート):$K$
- 行使後の決済日:$T_1,T_2, \dots T_n$
- 行使後のリセット日:$T_0,T_1, \dots T_{n-1}$
- 時点tでの期間$t \sim T$のゼロクーポン債の価格:$B(t,T)$
- ゼロクーポン債の割引期間:$\tau_i (=T_i - T_0)$
想定元本は1単位とすると、スワップションのPayoffは以下の通り。
$$
\begin{equation}
\left( 1 - K \sum_{i=1}^{n} \tau_i B(T_0,T_i) - B(T_0,T_n) \right)^+
\end{equation}
$$
式を分解してみると以下がわかる。
- 第2項と第3項の組み合わせは利付債(coupon-bearing bond)の価格である。
- さらに、利付債はゼロクーポン債の和によって書かれている。
- ゼロクーポン債価格はHull-Whiteモデル(瞬間ショートレート)で解析的に記述可能(※)
(※)詳しくは参考文献を参照。
これより瞬間ショートレートを明示的に示すために$B(t,T) = F(t,r(t);T)$とする。
次に、この利付債がパーとなるレートを求める。すなわち以下の式を満たす$\tilde{r}$を求める。
($K\tau_i$がクーポンに相当するので一時的に総和の中に含めた)
$$
\begin{equation}
\sum_{i=1}^{n} K\tau_i F(T_0,\tilde{r};T_i) + F(T_0,\tilde{r};T_n) = 1
\end{equation}
$$
これによって求めた$\tilde{r}$を使って求められる割引債の値を$K_i=F(T_0,\tilde{r};T_i)$とすると、
$$
\begin{equation}
K \sum_{i=1}^{n} \tau_i K_i + K_n = 1
\end{equation}
$$
となる。これが、スワップションのPayoffがゼロになる状態である。
最後に、上式を使ってスワップションの価格を求める。これを$\mathbf{PSwpt_{0,n}(0)}$として、
\begin{align}
\mathbf{PSwpt_{0,n}(0)} \
&= \left( 1 - K \sum_{i=1}^{n} \tau_i B(T_0,T_i) - B(T_0,T_n) \right)^+ \\
&= \left( K \sum_{i=1}^{n} \tau_i K_i + K_n - K \sum_{i=1}^{n} \tau_i B(T_0,T_i) - B(T_0,T_n) \right)^+ \\
&= \left( K \sum_{i=1}^{n} \tau_i (K_i-B(T_0,T_i)) + K_n - B(T_0,T_n) \right)^+ \\
&= K \sum_{i=1}^{n} \tau_i (K_i-B(T_0,T_i))^+ + (K_n - B(T_0,T_n))^+ \\
&= \sum_{i=1}^{n} K(T_i-T_{i-1}) \mathbf{BP}(0;T_0,T_i,K_i) + \mathbf{BP}(0;T_0,T_n,K_n)
\end{align}
ここで、$\mathbf{BP}$はHull-Whiteモデルのもとでのゼロクーポン債のPutオプション価格である。
これより、スワップションの時価はゼロクーポン債のPutオプション価格を求めることで対応できることがわかった。
参考文献
- Stochastic Interest Rates (Mastering Mathematical Finance)
- F.Jamshidian "An Exact Bond Option Formula" Journal of Finance, Volume 44, Issue 1 (Mar., 1989), 205-209.
- "体験デリバティブ マルチカーブのもとで分かるハル・ホワイト・モデル" 中村尚介【著】
- "スワップ取引のすべて【第6版】"杉本 浩一/福島 良治/松村 陽一郎/若林 公子【著】