はじめに
この記事では、2020年10月30日の電波法の改正で導入されたLDCとFHを、限られた周波数帯にどれだけ収容できるか1という観点から机上で比較してみます。
法改正の解説については、こちらの記事"「920MHz帯の壁」崩壊の音"を参考にして下さい。
LDCの最大収容台数
はじめにLDCの場合について考えます。
LDCの送信時間に関する制約の一部を下記に示します。
- 連続送信は4秒以下に抑える。
- 送信したら50ミリ秒休止する。2
- 1台について1時間あたりの送信時間の総和を36秒以下に抑える。
1時間あたり送信時間の総和を36秒以下に抑えるので、送信する機会は9回(36秒/時間 / 4秒)あります。
実装としてもっともありがちなのは、400秒(3600秒 / 9回)毎に4秒以内で通信する使い方です。これまで何秒送信したかを記憶する必要がないので実装が簡単です。受信側がフレームを受け取った事を返す確認応答がないシステムならばさらに簡単になります。
あるいは1時間に1回、50ミリ秒の休止時間を挟みながらバースト的に送信時間の合計を36秒に抑えて通信する使い方が考えられます。
いずれにしても、1時間あたりの送信時間を36秒以下に抑えるので、机上では100台(3600秒 / 36秒/台)収容できると言えます。3
FHの最大収容台数
次にFHの場合を考えます。FHの送信時間に関する制約の一部を下記に示します。
- 連続送信は400ミリ秒以下に抑える。
- 1つのチャネルでは次に送信するまで4秒休止する。2
- チャネルを切り替えて送信する場合、休止は必要ない。
- 1つのチャネルあたり1時間に送信する時間の総和を36秒以下に抑える。
- 1つの機器で1時間あたり送信する時間の総和を720秒以下に抑える。
今回の法改正で導入されたFHを使えばチャネルを切り替えさえすれば休止時間を挟まずに送信を開始できます。
1台の機器で11チャネル使って送信することを考えます。そして、400ミリ秒送信して次のチャネルに切り替えてすぐに送信を開始します。すると、11チャネルを順番に切り替えて送信すると4.4秒後に1周りします。1周すると最初のチャネルではちょうど4秒間休止したことになります。
1つのチャネルあたり1時間に送信する時間の総和を36秒以下に抑えるので、400ミリ秒間連続送信し4秒休止を繰り返すと1チャネルあたり90回(36秒/時間 / 0.4秒)送信できます。
11チャネルを使い4.4秒間の送信を90回繰り返すと396秒(4.4秒 x 90回/時間)かかります。つまり1台では1時間あたり396秒間連続送信できます。
11チャネルを切り替えるので、完全に同期すれば369秒間に11台収容することができます。
すると、このルールに従った機器は1時間あたり机上では100台(11台 x 3600秒 / 396秒)まで収容することができると言えます。3
LDCとFHの比較
11チャネルを使って送信するシステムで比較します。
LDCは1時間あたり100台収容できるので、11チャネル使うならば1100台収容できます。上で述べたようにFHは100台となり収容効率が1/10以下になります。
1台あたりの連続送信時間は、LDCの36秒に対して、FHは396秒となり11倍になります。
20チャンネル以上使うシステムでは、FHは720秒送信できるのでLDCの20倍になります。
LDCの実装と比べると、FHは扱う時間の粒度がより小さくなり高価になります。また、通信する機器同士が時刻を同期させるためのプロトコルが必要になり、システムが複雑になります。
まとめ
920MHz帯は、RFタグやスマートメータなど比較的少ない情報を定期的に送信するような利用が主に想定されています。
その中でも比較的情報量が多いユースケースでは、FHを使うと効果的に通信する事ができると言えます。
見方を変えると、LDCと比較してFHは少ない機器で帯域を専有してしまうので、他のシステムへの影響が大きいと言えるのではないでしょうか?
ただし、あくまでも机上の話です。実際は現地で確かめることをお奨めします。