序章
東京の人口が半分になるお盆休み、我々は暇だった。
仕事が暇だったら何をするか、そう、勉強会をやればいいじゃない。
私はチームメンバーに問うた。
「君達、今、最も勉強したいことは何かね?」
皆、ちょいちょいと意見を出してきた。しかし、その内容は、某A社の基本設計を読み込んでるのでその質問を…とか、工場LAN の設計をどうやったのかとか、そんな意見に留まった。私には、彼らが自分のために勉強したいことというよりは、仕事のために対処的に勉強する必要があることのように感じた。
彼らには、自らの人生における主体的な勉強衝動が欠けているのではないか…?
私は提案した。
「ICTインフラにおけるグランドデザインの勉強会をしよう。しかし、この勉強会を通して学習するのはネットワークやセキュリティといった話ではない。君達自身の人生におけるグランドデザインの話だ。」
第1章「デザインを定義する」
勉強会が始まった。
しかし、突発的な話なのでドキュメントも何も無い。
あるのは熱い想いと真っ白なホワイトボードだけである。
まずは、チームメンバーに対処療法的な考え方が癖になっていることを認識してもらうべく、「トラブルシュート」と「デザイン」の違いを説明することにした。
##トラブルシュートは問題に対してのアプローチ
下記図は、ある問題に対処する場合の考え方である。
この考え方をトラブルシュートとする。
先に「問題」があり「対処」し「解決」に導く。
対処の中に色々とやらないといけないことはあるが、考え方としてはトラブルシュートである。
##デザインは目的に対してのアプローチ
次に、デザインについて考える。
この図のように、デザインは目的に対するアプローチである。
そして、デザインの達成は目的をこそ成果としなければならない。
トラブルシュートとデザインの決定的な違いは、アプローチを行う対象である。
では、例えば
「無線LANを安定化する」
というのは目的とはならないのだろうか?
##目的は上部構造(スープラ)に属する
ここで、藤井聡氏のインフラ・イノベーションから「スープラ」という言葉を借りる。
H28.10 連載インフラ・イノベーション第1回(総論).pdf
「スープラ」とは、「暮らしや社会・経済」のような上部構造を指すが、ここではまるっと「人の働き方・意識」とか「企業の戦略・意思」みたいなものと解釈する。全然まるっとしてないけど。
このように、目的とはスープラに属するものと定義する。
この定義で最も重要なのは、インフラにおける目標を達成することで、スープラが成果となるということだ。つまりは目標が達成されることにより、我々の働き方や意識が変わるということ、これがデザインの本質である。
今回は例として「無線LANを安定化したい」という依頼を前提としているが、トラブルシュートとして「無線LANの安定化」に対処した場合、それはインフラの為のインフラ整備になる。デザインに必要なのは、スープラの為のインフラ整備だ。
トラブルシュートとデザインの比較
この2つの考え方の違いについて比較することで、利用シーンをまとめる。
これは、社内メンバーにも埋めてもらったもので、一概にこうとは言えないものの面白い観点で分析出来ていると思う。
項目 | トラブルシュート | デザイン |
---|---|---|
成果 | 課題 | 目的 |
アプローチ | 対処的 | 根本的 |
期間 | 短期的 | 長期的 |
対象 | 個別的 | 全体的 |
思考法 | 帰納的 | 演繹的・帰納的 |
技術オプション | 狭い | 広い |
まとめ
トラブルシュートとデザインの考えをまとめることで、普段の業務が如何にトラブルシュート的であったかをチームメンバーに自覚してもらうことが出来た。この考え方の認識は、グランドデザインの話をするのに最も重要な話だ。エンジニアニとっては、グランドデザインが今までの業務の延長線上にある話ではないことをしっかりと自覚することが、グランドデザインを始める第一歩だ。
では、グランドデザインを始めよう。
~ 第2章に続く ~
・エンジニアは無意識的にトラブルシュートの対処療法的な考え方に陥っている可能性がある。
・グランドデザインには目的に応じたデザイン側の思考が求められる。
・トラブルシュートは問題に対してアプローチを行い、デザインは目的に対してアプローチを行う。
・目的とはスープラに属するものである。