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顧客理解・仮説検証で誰もが陥ってしまう「キメラ顧客」の罠

Last updated at Posted at 2023-12-17

※この記事はリンクアンドモチベーション Advent Calendar 2023の18日目の記事です。

エンジニアの谷です。
最近は、新規事業立ち上げにエンジニア第1号として関わっています。

リンクアンドモチベーションの開発チームでは「Let's Customer」というテーマのもと、プロダクトマネジャー・デザイナー・エンジニアといった職種の枠を超えて、

  • 顧客理解を深め
  • 仮説検証にこだわる

ことを心がけ、真に顧客の課題を解決し、満足いただけるプロダクト作りを目指しています。

私も新規事業立ち上げにおける要求定義の中で、顧客理解を深め、ターゲット設定やペルソナ作成に挑戦しました。
しかし、実際に取り組んでみると、

「あれ?このような顧客は実際に存在するのか?」

と疑問に思うことが何度もありました。

人間は複雑で、注意深く行動してもバイアスが働き、自分たちに都合の良いように情報を解釈・編集しがちです。

今回は、顧客理解と仮説検証のフェーズでよく現れる「自分たちに都合の良い架空の顧客」、すなわち「キメラ顧客」についてお話しします。

「キメラ顧客」とは何か

「キメラ顧客」とは、自分たちに都合の良いように作り上げた架空の顧客を指します。
(※本記事内で用いている造語です!)

例えば、定食屋での新メニュー決定を考えてみましょう。
顧客アンケートをとった結果、以下のような回答があったとします。

名前 食べたいもの
持部太郎 トンカツ
持部花子 たまごサンド
輪怐次郎 カレーうどん

各顧客がそれぞれ異なるものを求めていることは明らかです。
しかしこれを聞いた時に「カツサンドうどん」(?)を顧客が求めていると考えてしまったなら、それが「キメラ顧客」を作ってしまう典型的な例です(笑)。

DALL·E 2023-12-15 18.02.17 - A dish featuring Katsu Sando combined with Udon in the same bowl, a novel fusion of Japanese cuisine. The image should show a large bowl filled with s.png
※ChatGPTの画像生成で「カツサンドうどん」を作ってみました(笑)

このような簡単な例では「キメラ顧客」の作成は起こりにくいですが、より複雑で抽象度の高い課題の場合、課題を一挙に解決しようとすると、「キメラ顧客」を作ってしまいがちです。

「キメラ顧客」には以下のような特徴があります。

①感情/思考/行動が一般的・抽象的・理想的である

「キメラ顧客」の感情や思考・行動は一般的で抽象的、時には開発側にとって理想的です。

これにより、開発側の都合で解決しやすい課題をつい「キメラ顧客」に当てはめてしまい、理にかなっていると思ってしまいがちです。

②複数の顧客の特徴を持っている

「キメラ顧客」は複数の顧客の特徴を薄く広く合わせ持ちます。

その結果、広範で浅い課題を複数持つことになります。

「キメラ顧客」はなぜ良くないのか

「キメラ顧客」に刺さるソリューションは、「リアルな顧客」には刺さらないからです。

「キメラ顧客」の課題は広く抽象的ですが、「リアルな顧客」の課題はより限定的で具体的です。
また、「キメラ顧客」が持つ課題は、「リアルな顧客」の課題と異なることさえもあります。

そのため、「キメラ顧客」のすべての課題に対して取り組んだとしても、「リアルな顧客」一人一人の具体的な課題は解決できず、結果として効果の薄いアプローチになり、無駄なコストを発生させる可能性があります。

「キメラ顧客」を作らないために

以下のアプローチが有効です。順番に実行するよりは、多くの場合同時進行になると思います。

①「リアルな顧客」の感情/思考/行動を具体的に把握する

「キメラ顧客」を生み出してしまう時は「リアルな顧客」についての情報収集・理解が足りていないことがほとんどの原因です。

まずは実際の顧客ひとりひとりの感情/思考/行動をできるだけ多く明らかにすることから始めましょう。

例えば先ほどの定食屋の例で言えば「食べたいもの」だけでなく、「性別」「時間帯」という属性で区切ったり、「食べたい理由」「その時の気持ち」といった情報が追加で明らかにできます。

これらを踏まえて情報収集すると以下のように詳細なデータが得られます。

名前 性別 時間帯 食べたいもの 食べたい理由 その時の気持ち
持部太郎 トンカツ お腹いっぱいになれる 仕事終わりでお腹が空いた...
持部花子 たまごサンド すぐに食べられる すぐに食事を済ませて休憩明けのMTGの準備をしたい
輪怐次郎 カレーうどん すぐに食べられて、お腹いっぱいになれる あまり待たずに、ボリュームのあるものが食べたい
輪怐良子 からあげ定食 からあげが好き 好きなものをゆっくり食べたい!
安藤三郎 たぬきそば すぐに食べられる すぐに食事を終わらせて、残り時間でゆっくり休憩したい!
安藤美香 シーザーサラダ ヘルシーだから ダイエット中だからカロリーは取りたくない
紫苑四郎 ラーメン どのお店でどのメニューにしても当たり外れが少なく、すぐに頼める 昼は好きなものをさっと食べたい
紫苑静香 女性 焼き魚定食 魚は好きだしヘルシーだから 昼は忙しくて食べられないので、夜に好きなものをゆっくり食べたい

こうして見てみると、性別・時間帯・食べたい理由・気持ちのどれもバラバラなので、無理に「カツサンドうどん」のようなメニューを出すのは得策ではないことがわかるでしょう(笑)。

プロダクト開発でも、このように「リアルな顧客」の感情/思考/行動を具体的に把握できれば、「カツサンドうどん」のように課題を一挙に解決しようとするような無理なソリューションを考えることはなくなります。

②ターゲットとする顧客層を絞る

「リアルな顧客」の感情/行動が明らかになっていても、ターゲットとする顧客層が絞れていなければ正しいソリューションは打てません。
その時々の具体的な判断軸を持って、ターゲットとする顧客層をできるだけ絞りましょう。

例えば上記の例を見てみると、男女問わず利用シーンはお昼時が多そうです。
そして「お昼時はすぐに食事を終わらせたい」と考えていることがわかります。
特に男性は麺類を好む傾向があるとわかります。
これらから一例として、「男性がお昼時にさっと食べられる麺類」を新メニューに据えると良さそうだということが推測できます。

プロダクト開発でも、適切な判断軸を元にターゲットとする顧客層を絞ることで、今本当に解決しなければならない課題(バーニングニーズ)を特定することができます。

③さらなるアプローチ:n1顧客に着目する

ここまででかなりターゲットとソリューションは絞れましたが、より具体的で刺さりやすいソリューションを考えるには

  • より解像度高く「リアルな顧客」の感情/思考/行動をイメージして
  • 高速で仮説検証を回す

ことが必要不可欠です。

そのために、n1顧客そのものをペルソナに設定することも大事なアプローチになります。

例えば、上記のデータから「あまり待たずに、ボリュームのあるものを食べたい男性」が多いという仮説が立つ場合、そのようなニーズを持つ輪怐次郎さんをペルソナに設定し、新しいメニューの検証に取り組むことができます。
(まずはカレーうどんから検証することになりますね!)

プロダクト開発でも、n1顧客をペルソナに設定し、仮説を立て、適切に依頼してソリューションの検証にもご協力いただくことで、本当に顧客に刺さるソリューションを高速でブラッシュアップしていくことができます。

最後に

キメラ顧客」は意識しないと意外と簡単に生まれてしまいます。
そんな時に、この記事が「リアルな顧客」と再度向き合うきっかけになれば幸いです。

今後も、「リアルな顧客」の具体的な感情や思考・行動に注目し、本当に顧客の課題を解決し、満足していただけるプロダクトを作り続けたいと思います!

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