※この記事はリンクアンドモチベーション Advent Calendar 2023の18日目の記事です。
エンジニアの谷です。
最近は、新規事業立ち上げにエンジニア第1号として関わっています。
リンクアンドモチベーションの開発チームでは「Let's Customer」というテーマのもと、プロダクトマネジャー・デザイナー・エンジニアといった職種の枠を超えて、
- 顧客理解を深め
- 仮説検証にこだわる
ことを心がけ、真に顧客の課題を解決し、満足いただけるプロダクト作りを目指しています。
私も新規事業立ち上げにおける要求定義の中で、顧客理解を深め、ターゲット設定やペルソナ作成に挑戦しました。
しかし、実際に取り組んでみると、
「あれ?このような顧客は実際に存在するのか?」
と疑問に思うことが何度もありました。
人間は複雑で、注意深く行動してもバイアスが働き、自分たちに都合の良いように情報を解釈・編集しがちです。
今回は、顧客理解と仮説検証のフェーズでよく現れる「自分たちに都合の良い架空の顧客」、すなわち「キメラ顧客」についてお話しします。
「キメラ顧客」とは何か
「キメラ顧客」とは、自分たちに都合の良いように作り上げた架空の顧客を指します。
(※本記事内で用いている造語です!)
例えば、定食屋での新メニュー決定を考えてみましょう。
顧客アンケートをとった結果、以下のような回答があったとします。
名前 | 食べたいもの |
---|---|
持部太郎 | トンカツ |
持部花子 | たまごサンド |
輪怐次郎 | カレーうどん |
各顧客がそれぞれ異なるものを求めていることは明らかです。
しかしこれを聞いた時に「カツサンドうどん」(?)を顧客が求めていると考えてしまったなら、それが「キメラ顧客」を作ってしまう典型的な例です(笑)。
※ChatGPTの画像生成で「カツサンドうどん」を作ってみました(笑)
このような簡単な例では「キメラ顧客」の作成は起こりにくいですが、より複雑で抽象度の高い課題の場合、課題を一挙に解決しようとすると、「キメラ顧客」を作ってしまいがちです。
「キメラ顧客」には以下のような特徴があります。
①感情/思考/行動が一般的・抽象的・理想的である
「キメラ顧客」の感情や思考・行動は一般的で抽象的、時には開発側にとって理想的です。
これにより、開発側の都合で解決しやすい課題をつい「キメラ顧客」に当てはめてしまい、理にかなっていると思ってしまいがちです。
②複数の顧客の特徴を持っている
「キメラ顧客」は複数の顧客の特徴を薄く広く合わせ持ちます。
その結果、広範で浅い課題を複数持つことになります。
「キメラ顧客」はなぜ良くないのか
「キメラ顧客」に刺さるソリューションは、「リアルな顧客」には刺さらないからです。
「キメラ顧客」の課題は広く抽象的ですが、「リアルな顧客」の課題はより限定的で具体的です。
また、「キメラ顧客」が持つ課題は、「リアルな顧客」の課題と異なることさえもあります。
そのため、「キメラ顧客」のすべての課題に対して取り組んだとしても、「リアルな顧客」一人一人の具体的な課題は解決できず、結果として効果の薄いアプローチになり、無駄なコストを発生させる可能性があります。
「キメラ顧客」を作らないために
以下のアプローチが有効です。順番に実行するよりは、多くの場合同時進行になると思います。
①「リアルな顧客」の感情/思考/行動を具体的に把握する
「キメラ顧客」を生み出してしまう時は「リアルな顧客」についての情報収集・理解が足りていないことがほとんどの原因です。
まずは実際の顧客ひとりひとりの感情/思考/行動をできるだけ多く明らかにすることから始めましょう。
例えば先ほどの定食屋の例で言えば「食べたいもの」だけでなく、「性別」「時間帯」という属性で区切ったり、「食べたい理由」「その時の気持ち」といった情報が追加で明らかにできます。
これらを踏まえて情報収集すると以下のように詳細なデータが得られます。
名前 | 性別 | 時間帯 | 食べたいもの | 食べたい理由 | その時の気持ち |
---|---|---|---|---|---|
持部太郎 | 男 | 夜 | トンカツ | お腹いっぱいになれる | 仕事終わりでお腹が空いた... |
持部花子 | 女 | 昼 | たまごサンド | すぐに食べられる | すぐに食事を済ませて休憩明けのMTGの準備をしたい |
輪怐次郎 | 男 | 昼 | カレーうどん | すぐに食べられて、お腹いっぱいになれる | あまり待たずに、ボリュームのあるものが食べたい |
輪怐良子 | 女 | 夜 | からあげ定食 | からあげが好き | 好きなものをゆっくり食べたい! |
安藤三郎 | 男 | 昼 | たぬきそば | すぐに食べられる | すぐに食事を終わらせて、残り時間でゆっくり休憩したい! |
安藤美香 | 女 | 昼 | シーザーサラダ | ヘルシーだから | ダイエット中だからカロリーは取りたくない |
紫苑四郎 | 男 | 昼 | ラーメン | どのお店でどのメニューにしても当たり外れが少なく、すぐに頼める | 昼は好きなものをさっと食べたい |
紫苑静香 | 女性 | 夜 | 焼き魚定食 | 魚は好きだしヘルシーだから | 昼は忙しくて食べられないので、夜に好きなものをゆっくり食べたい |
こうして見てみると、性別・時間帯・食べたい理由・気持ちのどれもバラバラなので、無理に「カツサンドうどん」のようなメニューを出すのは得策ではないことがわかるでしょう(笑)。
プロダクト開発でも、このように「リアルな顧客」の感情/思考/行動を具体的に把握できれば、「カツサンドうどん」のように課題を一挙に解決しようとするような無理なソリューションを考えることはなくなります。
②ターゲットとする顧客層を絞る
「リアルな顧客」の感情/行動が明らかになっていても、ターゲットとする顧客層が絞れていなければ正しいソリューションは打てません。
その時々の具体的な判断軸を持って、ターゲットとする顧客層をできるだけ絞りましょう。
例えば上記の例を見てみると、男女問わず利用シーンはお昼時が多そうです。
そして「お昼時はすぐに食事を終わらせたい」と考えていることがわかります。
特に男性は麺類を好む傾向があるとわかります。
これらから一例として、「男性がお昼時にさっと食べられる麺類」を新メニューに据えると良さそうだということが推測できます。
プロダクト開発でも、適切な判断軸を元にターゲットとする顧客層を絞ることで、今本当に解決しなければならない課題(バーニングニーズ)を特定することができます。
③さらなるアプローチ:n1顧客に着目する
ここまででかなりターゲットとソリューションは絞れましたが、より具体的で刺さりやすいソリューションを考えるには
- より解像度高く「リアルな顧客」の感情/思考/行動をイメージして
- 高速で仮説検証を回す
ことが必要不可欠です。
そのために、n1顧客そのものをペルソナに設定することも大事なアプローチになります。
例えば、上記のデータから「あまり待たずに、ボリュームのあるものを食べたい男性」が多いという仮説が立つ場合、そのようなニーズを持つ輪怐次郎さんをペルソナに設定し、新しいメニューの検証に取り組むことができます。
(まずはカレーうどんから検証することになりますね!)
プロダクト開発でも、n1顧客をペルソナに設定し、仮説を立て、適切に依頼してソリューションの検証にもご協力いただくことで、本当に顧客に刺さるソリューションを高速でブラッシュアップしていくことができます。
最後に
「キメラ顧客」は意識しないと意外と簡単に生まれてしまいます。
そんな時に、この記事が「リアルな顧客」と再度向き合うきっかけになれば幸いです。
今後も、「リアルな顧客」の具体的な感情や思考・行動に注目し、本当に顧客の課題を解決し、満足していただけるプロダクトを作り続けたいと思います!