#目的
熱力学的な内部状態の正体を古典論を元に理解することを目的とします。
あくまで、理想気体と関連付けられた話のみに限定します。
###注意点
※本記事で議論するのは、混合気体ではなく、単一の気体のみで話を進めます。
混合気体の場合は、ドルトンの分圧の法則を使えば簡単に「混合気体での理想気体の状態方程式」は導出できるのですが、本質を外れそうなので、本記事は単一気体のみとします。
単一気体の理想気体の状態方程式
$PV=nRT・・・(☆)$
#概要
果たして熱力学で登場する内部の状態を表す変数、すなわち「温度、圧力、体積、(場合によっては質量も)」など・・・・それは実態は何なのでしょう?
体積と質量などは感覚的にわかるでしょう。
体積
イメージ通り閉じた空間のことです。
※開いていても良いが、開いていると今考えようとしている何か実態が逃げていきそうなので・・・
それは視覚的にもとてもわかりやすいでしょう。
空間が膨張すれば気体は膨張しますし、空間が縮小すれば気体は縮小するでしょう。
質量
これもイメージができるでしょう。
理想気体の気体は、その名の通り気体分子なので分子の質量のことを言っています。
では、温度や圧力は?
これらがわかりづらいな~って思ったので、この記事を書き始めました。
これらを、内部の状態として「ふんわりと表現」することとします。
#温度や圧力は知っているが実態は?
温度や圧力の実態が何かを考えるということはしないのに、なぜ温度や圧力という言葉を使って物事を考えることができるのでしょう。
別に不思議なことではありません。
何も理論的な背景を知らない人が、生まれ持って理論的に考えるなんてことはしません。
無意識に観測したデータや数値を、客観的に大きいか小さいかしか理解していないはずです。
普通に過ごしていると、「暑くてすごしにくいな~」「寒くて凍えそうだ」と感じるのは、その名の通り感覚器官が感じているだけですよね。
それを定量的に気温として観測し、数値化するから「暑い・寒い」の程度が数値的に定義付られます。
そしてその温度を、ず~っと身近に感じているとその意味を考えなくなります。
「暑いから・・・・こうなる」「冷たいと・・・・・こうなる」と・・・・
それは、理論的に理解しているというわけではなく、単に相関関係が頭にしみついているだけです(個人的にそう思っています)。
圧力の場合は、力という考え方で説明することができるでしょう。
例えば、ペンの先で自分の顔に押し付けるととても痛いですが、手のひらで顔を押してもまあ知れているでしょう。
両者の押している合計の力は同じですが、感覚的に「ペンの先」で押した方が痛いと感じるのは、単面積当たりにかかっている圧力がとても大きからですよね。
実際は、単位面積当たりの力を両者で同じにしたら、手のひらで押そうがそりゃー痛いはずです。(ペンの先より面積が広い分、広範囲で顔面が痛いことになるが)
圧力がこのように、どのように作用するかは力という考え方を借りて理解することができます。
では、気体が存在している状態で「圧力」とは何を意味しているのでしょう?
さらに、これだけでは温度とはどのように理解すればよろしいでしょう?
#そこに気体分子があると"考えられる"
気体の圧力考えるときに、そこに何があるかを考えるべきでしょう。
やはり、気体分子がそこにある以上は、気体分子の運動が「圧力」を生みだし、「圧力」や「温度」というものを我々に観測させていると言えるでしょう。
しかし、もう少し正確な表現をしておくことにします。
「そこに何があると考えれば様々な問題にロジックの飛躍無しに答えることがことができるでしょう」とした方がいいかも知れません。
気体分子が存在しているということを前提にしているけれども、「誰か気体分子が存在していることを目で確認したのでしょうか?」と反論がありそうです。
だから、前段で強調しているのです。
古典力学の範疇での理想気体の気体分子運動論であると・・・・
低温にすると、「気体も液体や固体になるので理想気体ではなくなりますね」などという意味で強調しているわけではなく、理論はその現象を理解し予測さえできれば良いので、気体分子があると考えて物事の話を進めるという程度の意味しか持っていないということを強調しておきたいです。
例えば、$2.7K$にしてもようやく液体になるヘリウムなどはほとんどの温度域で気体なのです。
だからと言って、「結構な温度域で気体粒子として扱えますね」とはならないのです。
※あえて気体粒子と、粒子という言葉を強調しました。
粒子と言っているのは、そこに分子という粒々があると考えると1つ・2つ・・・・と数えていけば良いですですが、「では粒々同士の隙間には何も存在しない空間があるのでしょうか?」という点からも、よく考えてみましょう。
そうすることで、古典論にも限界があることが見えてくるのではないでしょうか?
それは、「それだけの低温域で量子力学的効果が出てこないのか?」という問いにつながるからです。
すなわち、
例え気体であっても、その低温度域で、
「気体分子のような粒子として考えることが通用するのか?」
「状態は気体としても、量子力学的な効果の特徴である波の性質が現れるのではないか?」
と・・・・・
※詳細は省きますが、物理学では「波」と「粒子」は定義が分かれています。
上記の低温域(とてもミクロな現象など)では、古典的な力学の考えを放棄し、量子力学の考え方に以降しなければなりません。
だから、下記のように強調したいのです。
**「そこに気体分子があるからこのように考えられる」ではなく、「気体分子があると考えてこのように考える」**というのが正しい表現であると言えるでしょう。
なので、「気体分子がそこにある」と考えて、圧力と温度が何かを理解していこうという姿勢に立って始めて納得いく議論へと展開できるのです。
#気体分子運動論
やっと本題に入ります('_')
なぜ上記のようなごちゃごちゃ述べたかと言いますと、これが理論の全てではないからです。
ちょっと環境下が違えば、通用しない理論なんていくらでもあります。
それが低温領域であり、ミクロな現象をミクロな視点で理解しようとしたときに古典論では限界があるということを言いたいのです。
だからといって悲観的になる必要もないでしょう。
物事の何を見ようとしているかによって、考え方を変えるだけで、ずいぶんと見通しの良い理論展開ができるのです。
シンプルな仮定でも現象をできれば、それで十分なのです。
何もてんこ盛りの理論でごっちゃがえすこともないでしょう。
現象と違うのであれば、理論を少し追加すればいいだけなのです。
※ただ、量子力学はそんな古典力学のちょっとした補正程度ではないですが(-_-)
さて、本記事の本題は、
「内部状態の実態は何か?」であります。
ここでは、人が観測しうる圧力や温度とは何か?ということに関心があります。
だから、ミクロな視点での興味ではなく、マクロな視点(粒子集団が圧力や温度を生み出す)で見つつ、「マクロな物理量を、気体分子の運動によるもの」と考えて、力学的に考えた時、どのように解釈できるかということに関心ごとがあります。
問題設定ですが、下記の絵のように、体積$L^{3}$の閉じた空間に$N$個の質量$m$の気体分子(粒子)が存在しているとしましょう。
##ひとつの分子が壁に与える力
問題を簡単にするために、1次元($x$方向のみ)で、かつひとつの粒子の運動について考えます。
このように、$x$方向に$v_{x}$の速度をもっていた粒子が壁に当たると、衝撃力のようなものを与えるというものでイメージできるでしょう。
それは、粒子の運動量変化として、壁に力を与えます。
これが、圧力というものであると解釈できます。
具体的には、この衝撃力は次のように考えることができます。
完全衝突で(粒子は壁に当たっても、運動量を失うことなく、同じ運動量で反射する)あると考えると、運動量変化は、
$$mv_{x}-(-mv_{x})=2mv_{x}・・・(1)$$
と書けます。
では、$\Delta t$秒間に何回、この灰色の壁に力を与えるでしょうか?
算数での考え方です。
粒子が1辺が$L$の空間に対して、1往復したときに1回衝突すると考えれば良いです。
ですので、「粒子が$v_{x}\Delta t$進む間に、何回壁に衝突しますか?」を考えると、
$$\frac{v_{x}\Delta t}{2L}・・・(2)$$ですね。
わかりにくければ、下記の絵のように箱をつなげればわかりやすいですかね。
そうすると、(1)(2)よりひとつ粒子が$\Delta t$秒間に壁に、
$$2mv_{x}\times \frac{v_{x}\Delta t}{2L}=\frac{mv_{x}^2\Delta t}{L}・・・(3)$$
の衝撃力を与えることになります。
さてここで、$x$方向だけを考えましたが、$x$方向は何か特別な方向でしたでしょうか?
$x$方向は、問題を簡単に考えるために選んだ方向であって、$y$でも$z$でも良かったのです。
ですから、この場合は方向に特別な意味はなく、等方的だと考えましょう。
なので、粒子の速度の**大きさ$v$**は、
$$v^2=v_{x}^2+v_{y}^2+v_{z}^2・・・(4)$$
と書けます。
$x,y,z$のどの方向かは問題にならないので、$v_{x}=v_{y}=v_{z}$としても良いでしょう。
すると(4)式は、
$$v^2=v_{x}^2+v_{y}^2+v_{z}^2=3v_{x}^2・・・(5)$$
とすることができます。
この(5)式を、(3)式に代入すると、
$$\frac{mv^2\Delta t}{3L}・・・(6)$$
となります。
##N個の粒子へ拡張
先ほどまではひとつの粒子に対して考えていましたが、N個の粒子へ考え方を拡張しましょう。
単に(6)式を、$N$倍するだけでしょうか?
いや、もう少しちゃんと考えよう。
(A)粒子同士の衝突は?
ひとつ目が粒子同士の衝突の話です。粒子同士衝突するとは、Aという粒子とBという粒子が同じ位置(粒子の直径分離れているが)に来るときに衝突すると考えるべきでしょうが、そもそも粒子同士に分子間力が働いているので、接近しただけで粒子同士の運動は乱されます。
だから、(6)のよりも幾分か小さい値であると予想されます。
しかし、本記事の冒頭に書きましたが、今は理想気体を考えているですから、
(1)分子間力を考慮しない
(2)希薄である
という元での理論なので、この(A)による影響は初めから考えないものとしているのです。
ですので、「(A)粒子同士の衝突(分子間力なども)」の影響は除外できます。
(B)すべての粒子が同じ$v$で運動するのでしょうか?
イメージしてみましょう。
社会に出れば活発的な人もいれば、冷めた人もいるでしょう。
粒子だって同じです(笑)
「あ~運動したくないよ~」ってやつもいれば、「目をぎらぎらさせて日々走り回っている気違いなほどアクティブな人」もいるでしょう。
それらを含めて、平均化された集団としての評価で特徴が決められます。
なので、速度$v$は$N$個の粒子を考えるときは、集団としての平均速度$v$として考えるのが正しいのです。
例が悪かったかもしれないですが、「マクスウェル分布」ってもので理論的には説明されています(笑)
なので、今回は(B)だけ意識しつつ、(6)式を$N$倍して、$v$を平均速度$\bar{v}$に替えれば$N$個の粒子の場合へ拡張できたことになります。
$$\frac{Nm\bar{v}^2\Delta t}{3L}・・・(7)$$
#壁に与える力
ここで粒子の運動量変化はわかりましたが、その分壁へ力を与えているはずです。
その力を$F$とします。
(7)式は、$\Delta t$秒間での運動量変化であったので、それと同じ物理量は、$\Delta t$秒間に与える力、すなわり力積です。
$$F\Delta t=\frac{Nm\bar{v}^2\Delta t}{3L}・・・(8)$$
ここで再び協調しておきますが、この$F$は一瞬での力を表しているものではありません。
上で書いたように、(7)平均化された運動量変化であったので、この$F$も$\Delta t$秒間での平均化された力を意味しています。
($\Delta t$秒間で、強い力で壁に激突するときもあれば、弱い力で激突しているときもあるでしょう。それらを$\Delta t$秒間平均すると$F$であるという意味。)
では、(7)式は両辺に$\Delta t$があるので、
$$F=\frac{Nm\bar{v}^2}{3L}・・・(8)$$
と書けます。
##圧力
ようやく(8)式で、壁に与える力というものを数式で表現することができました。
まず初めに知ることができるのは、圧力でしょう。
圧力を$P$と書くとき、圧力は「単位面積当たりの力」であるので、
$$P=\frac{F}{L^2}・・・(9)$$
です。
なので、(8)式は、
$$P=\frac{Nm\bar{v}^2}{3L^3}・・・(8)$$
と書くことができました。
ここで、「おや、$L^3$は箱の体積ではないか」ということに気付きます。
箱の体積を$V=L^3$と置くと、
$$P=\frac{Nm\bar{v}^2}{3V}・・・(9)$$
となります。
ここで、「気体粒子の運動」を考えると、圧力の意味が見えてきました。
圧力は、
「多数の粒子が動き回って、ポカポカ壁に激突したときの単位面積当たりの力なのか」
と。。。
#温度
ここで、(9)式が何かに見えてこないでしょうか??
(☆)式の理想気体の状態方程式です。
$PV=nRT・・・(☆)$
(9)式を、
$$PV=\frac{Nm\bar{v}^2}{3}・・・(10)$$
とすればなおさら、(☆)と形が似ています。
どうやら温度というものは、(10)式の右辺で何か表現できそうであることがわかります。
$$nRT=\frac{Nm\bar{v}^2}{3}$$
より、
$$T=\frac{Nm\bar{v}^2}{3nR}・・・(11)$$
##運動エネルギーの導入
$$T=\frac{Nm\bar{v}^2}{3nR}・・・(11)$$
「これはなんでしょう???・・・・」
「お、運動エネルギー$\frac{1}{2}m\bar{v}^2$というのを作ってみよう。」
$$T=\frac{2N}{3nR}\frac{m\bar{v}^2}{2}・・・(12)$$
「あと、もう少しなんだけどな~」
ではここで、粒子数$N$は、アボガドロ数$N_{A}で$モル数$n$のとき、
$$N=nN_{A}・・・・(13)$$
と書けるでしょう。
そうすると、
$$T=\frac{2N_{A}}{3R}\frac{m\bar{v}^2}{2}・・・(14)$$
そしてよく見てほしい!!
アボガドロ数$N_{A}$と気体定数$R$は定数ですよね?
であれば、これをまとめて、
$$k_{B}=\frac{R}{N_{A}}・・・(15)$$
と置きましょう。
これを**ボルツマン定数**と呼びます。
(14)式は、
$$\frac{3}{2}k_{B}T=\frac{m\bar{v}^2}{2}・・・(16)$$
とすることができました。
これを見ると、温度は、
粒子の平均の運動エネルギーと関連付けられる量であることがわかります。
温度というものの実態は、「気体分子の運動を考える」ならば運動エネルギーと等価なものだったのです。
ボルツマン定数がついているが・・・・
#まとめ:なるほど~(^^)
気体分子運動論で考えると、当初の疑問は、払拭された・・・・という気持ちにさせてくれる(笑)
圧力は、
多数の粒子が動き回って、ポカポカ壁に激突したときの単位面積当たりの力
温度は、
粒子の平均の運動エネルギーと関連付けられる量
このように解釈すれば良いのかと。
#エネルギー等分配則:一応コメントしておきます
$$\frac{3}{2}k_{B}T=\frac{m\bar{v}^2}{2}・・・(16)$$
の左辺の$\frac{3}{2}$の$3$はどこから来ていたでしょうか?
これを、そもそも$x$方向だけで考えていたら、
$$\frac{1}{2}k_{B}T=\frac{m\bar{v}^2}{2}・・・(17)$$
なのですよね。
お気づきでしょうが、この$3$は(5)式からずっと引きづって来ていますよね。
そうです。
3次元空間だから3なのです。
正確には、
3自由度だから3なのです。
ならば、回転運動が入る2原子分子であれば5自由度(並進運動3自由度+回転の2自由度)だったら?
5自由度だから5なのです。
ただし、回転運動のエネルギーが2乗であらわされる場合だけですよ。
2乗??
では、調和振動子ポテンシャルのような$\frac{1}{2}\omega^2 x^2$のような場合は?
その場合も2乗なので、1自由度とカウントできます。
ここで例をひとつ出しましょう。
1次元調和振動子ポテンシャルに閉じ込められた粒子であれば、
ハミルトニアン
$H=\frac{mv^2}{2}+\frac{1}{2}\omega^2 x^2=\frac{p^2}{2m}+\frac{1}{2}\omega^2 x^2$
とかけて、この2乗の形が重要なのです。
※ここでの$p$は圧力ではなく、運動量$p=mv$です。座標と運動量で表現されたエネルギー量のことを、特に「ハミルトニアン」と呼びます。
解析力学の範疇では、もはや座標$x$も運動量$p$もそれ自体そのような名前を名付けること自体に意味を成しません。
力学的状態を位相空間での運動で考えるとき、座標と運動量という変数に対して正準変換すると数学的には同じ扱いにされてしまうのです。
なので、この場合は2乗というのが2個あるので、
$$\frac{2}{2}k_{B}T=\frac{m\bar{v}^2}{2}・・・(16)$$
となります。
お分かりいただけましたでしょうか?
ポテンシャル(運動エネルギー、調和振動子ポテンシャル)が2次関数で書けるとき、その数だけ$\frac{1}{2}k_{B}T$が足されるのです。
それでは、2乗のものが$f$個あると?
$$\frac{f}{2}k_{B}T=\frac{m\bar{v}^2}{2}・・・(17)$$
と表現されていきます。
これをエネルギー等分配則と言います。