はじめに
- いつもはデータ分析手法やコーディング中心の記事なのですが、今回はビジネスにおけるデータ活用に向けた「考え方」について書いてみます。
- 日々行っている自分のデータ分析を基にフレームワークを考えてみました。
課題意識・検討背景
- データ分析を企業への価値創出に結びつけるには、そもそもの「ビジネス理解」が重要という認識は一般に広がってきている
- しかし、データ可視化、前処理、モデル評価の手法は様々な方法論やツールが登場しているのに対して、「ビジネス理解」に関する方法論やフレームワークに関する検討をあまり見かけない
- 初期ステップであるビジネス理解によって後続プロセスの組み立ても変わってくる為、正しくビジネス理解のプロセスを踏むことが重要である
- ケースバイケースの為、体系化が難しい一方で、基本的な観点をフレームワーク化し、データ分析の再現性を担保していくことが、今後、データサイエンスをより市場に普及させていく為に重要と考え、データ分析における「ビジネス理解」のフレームワーク化を試みる
既存のフレームワークレビュー
- "データマイニング"という言葉が流行した時代からデータ分析のフレームワークは研究されてきている
- ここでは代表的な(古典的な)3つのフレームワークをレビューする
イメージ from Business Broadway
CRISP DM
- 正式名称:Cross-industry standard process for data mining
- プロセス:Business understanding(ビジネス理解)、Data understanding(データ理解)、Data preparation(データ前処理)、Modeling(モデリング)、Evaluation(評価)、Deployment(展開)
KDD
- 正式名称:Knowledge Discovery in Databases
- プロセス:Selection(データ選択)、Preprocessing(前処理)、Transformation(変換)、Data mining(データマイニング)、Imprementation & Evaluation(実装と評価)
SEMMA
- Sample, Explore, Modify, Model, and Assessの頭文字
考察
- 共通点:
- データ分析は繰り替えし実行されるサイクルである(プロセスを行ったり来たりする、一度分析をして終わりではない)
- データの可視化(理解)、前処理や変換がプロセスとして定義されている
- 異なる点:
- CRISP DMだけが「ビジネス理解」をプロセスとして定義している
- 結論
- 既存のデータ分析のフレームワークにおいて、ビジネス理解の重要性は説きつつも、具体的な検討方法の設計は不十分である
「ビジネス理解」に向けたフレームワークの検討
- ビジネス理解は「ビジネスモデル」「ビズネスプロセス」「ビジネス観点からの分析設計」3つの要素から構成される
- 各要素における「アウトプット(何を作ればいいのか)」と「確認点(何を確認すればいいのか)」を定義し、フレームワークの具体化を試みる
- 「ビジネス理解」は一方方向のプロセスではなく、後続フェーズでの発見をもとに随時フィードバックとフォワードバックがなされる
1. ビジネスモデル理解
- ビジネスモデルを包括的に理解する為に「ビジネスモデルキャンバス」(フレームワーク)を活用する
- 定義されている 9個の要素について確認を行う
- 顧客セグメント(CS)
- 顧客との関係(CR)
- チャネル(CH)
- 提供価値(VP)
- キーアクティビティ(KA)
- キーリソース(KR)
- キーパートナー(KP)
- コスト構造(CS)
- 収入の流れ(RS)
- 複数の事業やサービス展開をしている顧客については、キャンバス上で最も重要である提供価値(VP)ごとにキャンバスを書いてみると情報整理がしやすい
2. ビジネスプロセスの理解
ビジネスプロセスは以下の3つの要素から構成される
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プロセス・ルール
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アウトプット:Process Flow Diagram(PFD)
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確認観点:
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対象となるプロセスはどういった手順でオペレーションが行われているのか?
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どういった業務上のルールが存在して、オペレーションの条件分岐が発生しているのか?
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季節や業務繁閑によってプロセスやルールが変更されることはあるか?
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システム
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アウトプット:システム構成図
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確認観点:
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存在しているシステムの全体像や各種システムのデータ連携状況?
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対象となるデータはどこから発生しているデータなのか?
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アプローチ(入手)可能なデータ範囲の特定?入手不可の範囲は外部データ(オープンデータ等)で補完・連携できるか?
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組織
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アウトプット:組織図・チーム構成表
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確認観点:
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どういった組織構造とチーム構成(人数・組織階層)から成り立っているのか?
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分析結果を活用する組織・チーム(意思決定者・メリット享受者)はどこか?
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分析結果の良し悪しを判断する責任者は誰か?
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最終的に分析結果を「成果」に繋げるには、上記の3つの要素に働きかける必要が出てくる
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早い段階で把握しておくことで、分析の手戻りや分析結果に基づくアクションの効率化ができる
3. ビジネス観点からの分析設計(課題設定)
- ビジネスモデルとビジネスプロセスに理解に基づいて分析設計を行う
- データサイエンス的な分析設計(例:コスト変数の最小化)ではなく、ビジネス観点での分析設計(例:利益最大化に向けた割引率の設定)とする
- ビジネスオーナーが理解できる分析ロジックとする
- ”良い”分析ロジックの条件
- ビジネスKPIの分解ロジックを可視化して、共通言語でコミュニケーションをとる(ここでビジネスモデル/プロセスの理解が重要になる)
- 目的変数をデータにより検証できるレベルまでロジック分解する
- 分解した指標に対して、影響しうる要素を仮説検討し、具体的なデータを示す(仮説を思いつく為にも、ビジネスモデル/プロセスの理解が必須となる)
- (補足) このあたりの分析における指標の考え方は「統計学が最強の学問である」で有名な西内啓氏の「アウトカム」と「解析単位」に関する書籍が大変参考になります
「ビジネスモデル」「ビジネスプロセス」「ビジネス観点からの分析設計」の完了イメージ
さいごに
- ビジネス理解の為に必要な観点をアウトプットを提示しつつ、可能な範囲で具体的にまとめてみました
- 実務に適用すると様々な課題も当然出てくると思いますが、データ分析・活用に必須であるビジネス理解のキッカケにでもなれば幸いです