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射影行列

Last updated at Posted at 2018-02-19

射影行列とは

射影行列は、あるベクトルに作用させると、そのベクトルの部分空間成分を取り出すような行列である。

射影行列がなぜ重要かというと、線型方程式系の最小二乗解と密接に関係しているからである。
最小二乗解は一般逆行列を使って求められるが、一般逆行列の表式の意味を理解しようとすると、射影行列を知っておくのが一番てっとり早いのである。

射影行列の表式

ストラングの教科書1に従って、行列$A$の列ベクトルたちの張る空間を列空間と呼ぶことにする2
このとき、$A$の列空間への射影行列は $ A (A^T A)^{-1} A^T $ であることが知られている3

この記事ではこの表式を導出したいと思う。

導出の前置き

前出のストラングの教科書では、直交性を使って示されている。
しかし、ここでは、双対基底というものを使うことで、射影行列がより簡潔かつ一般的に書けることを示した上で、元々の表式も導出してみる。

双対基底については簡単に説明するが、後半で、計量テンソルを使った反変・共変成分の変換計算4を説明なしに使う。

導出

(Step1) 双対基底

$A$の列ベクトルたち $ \{a_i\} $ が張る空間(列空間)の基底を $ \{a_i\} $ にとる。
これに対して、正規直交性 $$ a^i a_j = \delta ^i_j $$ を満たすような基底を双対基底 $ \{a^i\} $ と呼ぶ。
この式は、$a^i$ と $a_j$ の内積を表しており、$ \{a_i\} $ を縦ベクトルとすると、$ \{a^i\} $ は横ベクトルであることに注意。
双対基底と区別する意味を込めて、元の基底 $ \{a_i\}$ の方を自然基底と呼ぶこともある。

(Step2) 双対基底を使った射影行列の表式

正規直交性から、任意の(縦)ベクトル $x$ に、$a^i$ を掛けると $x$ の $a_i$ 成分が得られることが分かる。
つまり、Aの列空間への射影成分は
$$ x_{\mathrm{span}\{a_i\}} = \sum_i (a^i x) a_i $$ である。この式は
$$ x_{\mathrm{span}\{a_i\}} = \sum_i a_i(a^i x) = \sum_i (a_i a^i) x
$$ と書き換えられるので、射影行列は
$$ P=\sum_i a_i a^i $$ である5
このように、射影行列は、双対基底を入れることで、非常に簡潔な形で表せる。
ここまで来れば、あとは計量テンソルによる添字の上げ下げをするだけである。

(Step3) Aを使った式に直す

計量テンソルで双対基底を自然基底に戻す(添え字を「下げる」)と
$$ P=\sum_{i,j} a_i g^{ij} a_j $$ であり、行列で書くと、$ P = A G^{-1} A^T $ と書ける。
ここで、$ g^{ij} $は $G = (g_{ij})$ の逆行列の行列要素であることを使った。

自然基底の作る計量テンソルである $ g_{ij} $ は、$ g_{ij} = a_i \cdot a_j $であり、行列で書くと、$ G = A^T A $ であるから、結局、射影行列は、
$$ P = A (A^T A)^{-1} A^T $$ となる。

補足:行空間への射影行列

$A$の行ベクトルたちが張る空間は行空間と呼び、同様に射影行列を作ることができる。
列空間の場合と対比的に書くと、

  • $A$の列空間への射影行列は $ A (A^T A)^{-1} A^T $
  • $A$の行空間への射影行列は $ A^T (A A^T)^{-1} A $

行空間への射影行列の表式は、列空間への射影行列の式において、$ A \rightarrow A^T $と置き換えれば得られる。これは、$A$の行空間は、$ A^T $ の列空間と言い換えられるからである。

行空間への射影行列は、線形方程式系のノルム最小解と関連している。


  1. 『ストラング:線形代数イントロダクション』https://www.kindaikagaku.co.jp/math/kd0405.htm 

  2. 一般的な言葉でいえば、列空間とはAが表す線形写像の像(Image)です。 

  3. Aは実数行列とします。複素数の場合は、転置を共役転置に置き換えれば良いだけ。 

  4. 相対論でよく使うやつ 

  5. これは抽象的に書けば、$\hat{P}=\sum_i a_i \otimes a^i$ というテンソル積の和で表される写像であり、これを数ベクトル空間で表現したものが行列$P$である。 

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