約一年ぶりの記事になってしまいました。ここ最近開発現場から離れてマネジメントをすることが多くなり、なかなか技術的なことが書けなくなってしまいました。最近texta.fmというポットキャストを見つけて、和田卓人さんがvalue objectやら契約による設計やら、防御的プログラミングについて話しているのを聞いて、久々にプログラミングって楽しいよなぁと思い、それについての記事を書いてみようかなと思ったのですが、書く時間が無くなってしまいました。
この記事は私が所属するLIFULLアドベントカレンダーの2日目の記事です。
ということで、一年を締めくくる記事になるのですが、今年は長年取得してみたいと思っていたスクラムマスターの資格を取得することができましたので、資格の取得にかかる費用や手順、研修内容、問題の難易度なんかについて書きたいと思います。ちなみに私が取得したのはScrum Incが発行しているLisenced Scrum Master(LSM)です。Scrum AllianceのCSMのほうが昔からありますし、メジャーなのでそちらの記事は多いのですが、LSMとなるとあんまり情報はないみたいですね。なので少しでも参考になれば幸いです。
また、2020年現在において、スクラムマスターの資格を取る意義についてや、近年のスクラムの動きなんかについてもつらつらと振り返ってみたいと思います。
なんで取得したのか
スクラムとかアジャイル開発をキャリアの中心の一つにしようと思ったからです。アジャイル開発をやるようになって5年以上が過ぎていますが、やればやるほど新しい発見があり、自身の開発手法がどんどん良くなって来ているのを感じています。スクラムは計画やプロジェクトをどう管理するかといった点において非常に強力ですが、それ以外にもチームワークをどうやって高めるか、どうやって信頼関係を構築していくか、どうやってみんなでパフォーマンスを上げていくかと言った、チームづくりにおけるノウハウも非常に参考になります。なので、チームで仕事をしていてどんどん楽しくなるんですよね。安心感や信頼感、達成意欲が向上していくので、すごいフレームワークだなぁと思うわけです。
なので、自分のチームだけではなく、他のチームや会社組織全体に、どうやってスクラムやアジャイル開発を会社に浸透させるかが次第にテーマになってきました。そういった活動をする上で、資格を持っていることは非常に大事です。何かの能力を有していることが形になっているので、いろんな人の協力を得やすくなったり、社内で何かを推進するのに非常に役に立つわけです。
また社外のイベントに参加したときや、初めて会う人に対しても、ライセンスを持っていることで、私がどれくらいスクラムについて知っているのか・関心を持っているのかが分かりやすいのではと思います。ネットワーキングをする上でもライセンスがあると便利な面もあるのではと思います。
なんでLSMにしたのか
一番大きかった理由はCSMに比べて10万円安かったからです(CSMは30万円)。CSMは昔からあるし有名だし、実績もあるし、なんとなくCSMのほうがいいんだろうなぁとは思っていました。ただ、私の会社の都合上、スクラムマスターの資格に対する金銭的な補助は受けにくかったので自腹を切ることになったので、この10万円の差は個人的に非常に大きかったのです。30万円って個人が払うお金としてはなかなかのものですよね。ただ自分のキャリアに対して自分で責任を持つのは当たり前です。自腹というよりは自身への投資だと思ってやったので、覚悟を持って臨めたというのもありました。。会社の費用で取得すると後ろめたさや義務感も出てきちゃいますしね。
でもよくよくLSMのことを調べてみるとそんなに悪くないんじゃないかという気がしてきました。まず、ジェフ・サザーランドが監修しているのだから、品質が悪いってことはないだろう、と。ちょっとずつではありますが、Qiitaとか個人ブログとかでもLSMのことをちらほら聞くようになってきたというのもありました。あとは日本を代表するアジャイル開発の第一人者の一人である平鍋健児さんがScrum Inc Japanの設立に関わっていることを知って、これが結構大きかったように思います。
ちなみにコロナ禍以降、zoomで参加できるようになってから、受講受付開始してもすぐ満席になるくらいには人気のようです。
研修の内容は?受けてみてどうだった?
研修内容はスクラムの歴史や背後にある価値観、スクラムにおけるロールや各種スクラムイベントについての説明を受け、ワークショップを通じて理解を深める、といった内容になります。
ワークショップが多めなのはいいですね。実際に自分の手や頭を使うと、理解が深まる感じがしますね。自分が他の人にスクラムの何かを説明したり、理解してもらう際にも体験したワークショップを使うと理解が得やすかったりします。
研修ではいろいろ気づき、学び直し、振り返りができ、正しい知識が身につきました。間違って理解していたことがいくつかあったことも分かりました。これは会話ができる研修ならではのメリットですよね。書籍などだとどうしても一方的になってしまいますから。やはりプロのトレーナーと直接いろんな話ができたのは非常に良かったです。
試験はどんな感じだったか
- 2日間のセミナーを受講しないとそもそも受験資格がもらえない
- そのへんはCSMと一緒(CSMはオンラインになってから研修日数が3日から5日になっていたような気がする)
- 試験自体も自宅からPCで受験することができます(詳しくは言えません)。
- 早ければ30分くらいで終わる
- スクラムガイド+研修受けてないと回答できない問題多数。
- 研修受けててもスクラムを経験してないと分からない問題が数問出る。
- 私の正答率は93%。合格ラインは70%前後
- 落ちても一回だけリトライできる
- 2回目以降は数千円かかる
研修・試験の難易度
- スクラムもアジャイルも全く知らない人が受けるのはちょっとつらいかも知れません
- なんとなく以下の条件のうち最低でも2つくらいは満たせていたほうが、有益そうな気がする
- スクラムガイドを読んだことがある(できればスクラムの実践をするなかで、分からないところは繰り返して読んでいる)
- スクラムやアジャイルに関する書籍を読んだことがある(例えば以下のうち一冊でも)
- SCRUM BOOT CAMP THE BOOK
- アジャイルサムライ
- カイゼンジャーニー
- 実際にスクラムをやったことがある
実際、アジャイルもスクラムも全く知らない人が参加していましたが、理解が難しかったのか結構キツそうでした。ある程度知識がある状態で、より発展的に理解を深めるのに良さそうな難易度です。
ライセンスの発行と更新について
- 有効期間は1年間
- 試験後、すぐに合否判定が出て合格してるとライセンスが発行される
- 更新料は5,000円だそうです
申し込みについて
- Scrum Incのウェブサイトから申し込みをします。
- 月末に翌月分のセミナーが公開されることが多そうです
- 結構すぐ埋まってしまうことが多いので、受検を検討している方は定期的にウォッチしておくと良いです。私は気づいたら埋まっていたというのを3回くらい経験しました。最終的にはサイトのニュースのRSSをサブスクライブして新しい日程が公開されたらすぐに申し込めるようにしました。
- 申し込みをすると支払い方法や受講方法のご案内のメールが届くので、それに従って支払いを済ませます。支払は銀行振込のみです。クレジットカードは使えないので注意してください。
今さらスクラムマスターってどうなの?
と、ここまでLSMについて書きました。業界的にはスクラムはほぼ浸透しきっていて、スクラムマスターというのも特段珍しいものではないようになってきたかなと思います(ただし、正しく運用されているかどうかは別)。
最近のアジャイル
ここ最近はアジャイル周りでいろんな動きがありますね。大規模アジャイルの話は結構いろんなところで聞くような気がします。個人的には「スクラムな人」もXPのプラクティスを用いているし、作る内容をどう決めるかに関してはリーンスタートアップをフル活用しているし、そこにきてプロダクトマネジメントがホットなトピックになってきたりと、アジャイル内の垣根が随分低くなって、相互に見分けがつきにくいところまで来ているような印象です(ちょっと言い過ぎたかな)。Alistair Cockburnはアジャイルソフトウェア開発宣言まで巻き戻って、改めて原点回帰的な動きをしていたりとか、UMLのような統合理論の試み(SematとかEssenceとか)がされたりとか、まぁまだまだ元気な領域なんだなと思っています。
そのなかでも今年のプロダクトマネージャーカンファレンスが盛況だったのは印象的でした。登壇されている方はスクラム・アジャイル開発で有名な人ばかり。内容もやはりアジャイル的なものも多かったですね。その数週間後に発売された吉羽龍太郎さん翻訳の『プロダクトマネジメント』も結構話題になりました。ただ、衝撃的だったのは吉羽さんも本著の冒頭で触れていますが、プロダクトマネジメントからのアジャイルに対する痛烈な批判でした。「スクラムやアジャイル開発はどうやって作るべきかについては触れているけど、作るべきものをどうやって探して決めていくかについては何も話してないじゃないか!!」といった内容です。確かにスクラムガイドにはそういったことは細かくは書かれていないですよね。ただ、エッセンシャルスクラムやアジャイルサムライなど、実践的な書籍ではそういったこともかなり書かれているので、こうした批判は意外でした。スクラムやアジャイルと言っても、一枚岩的ではなく多様な解釈、派閥があります。ちなみに2019年に発売されたプロダクトマネジメントの本、『INSPIRED』でもほぼ同じような批判がされていますね。
そしてそんななかスクラムガイドが11月に改定されましたね。特に「ゴールや成果を明確にし、それにコミットすること(特にスクラムマスターが)」が強調されているところが気になりました。プロダクトマネジメント側からの批判に少し答える形にはなったのかなと思うものの、もうちょっとリーンスタートアップとかプロダクトマネジメントとか、作るプロダクトやサービス・ビジネスについての見解や関連性も補足としてでもいいからあっても良かったのかなぁ思います。
スクラムガイドの最後にはこんなことが書かれています。
ここで概要を述べたように、スクラムフレームワークは不変である。スクラムの一部だけを導入することも可能だが、それはスクラムとは言えない。すべてを備えたものがスクラムであり、その他の技法・方法論・プラクティスの入れ物として機能するものである。
確かにスクラムガイドはただのルールブックだから、いろんなケースでの適用方法や応用編については無いほうがいいとは思うけど、この書き方だとちょっと厳しいんじゃないか。変化への適応や柔軟性が大事なんじゃなかったっけ?そりゃプロダクトマネジメントの人も批判したくなる。というかアジャイルの中からも批判は出ている(ユーザーストーリーマッピングで有名なジェフ・パットンさんとか)。
いろんなアジャイル開発の系統
ということで最近のアジャイル開発は
- スクラムガイドを原典とするスクラム厳格派
- 大規模アジャイル派(既存枠組みの発展形?)
- リーンスタートアップやプロダクトマネジメントなど、アジャイルのやり方や考え方をビジネスやプロダクトの成長に適用した派(アジャイル開発そのものはメインではない)
- 脱フレームワーク派(XPやスクラムなどの固有のフレームワークに捕らわれない派)
- 原点回帰派(アジャイルソフトウェア開発宣言を振替つつも時代にあったアジャイルの価値観を模索する派
- 統合理論派(XPやスクラムを抽象・汎用化し適切にプラクティスを選択・組み合わせられる)
になんとなく分けられそう。なので、「アジャイル」と名乗ってもそれがどの立場から言っているのかによって受け取り方が随分変わってきてしまいそうな気がします。(同じ宗教でも宗派が違うとそれぞれ前提が違うみたいに)
と、こうしたことはあまり重要ではないのですが、ビジネスにおいてもアジャイルは依然として重要なキー概念だし、開発においてもアジャイルを超えるフレームワークはまだ出ていない(と思っている)。そんな時代においてはまだまだアジャイルは学ぶ価値があるし、スクラムマスターとして経験を積む意味もあると思うのです。ただ、スクラムガイドに忠実なスクラムではなく、もうちょっとアジャイルの先端にあるいろんな視点からアジャイル開発を試していけると良いのかなと思います。