高山慶と申します!
エンジニアと聞くと、「いかに多くの機能を実装するか」「どれだけ高度なことができるか」といった“足し算の世界”を想像する人が多いかもしれない。確かに技術を積み上げていく力は重要だ。しかし、本当に優れたエンジニアは、「引き算の美学」を理解している。
無駄をそぎ落とし、本質だけを残す。その姿勢こそが、洗練されたプロダクトを生み出し、結果としてユーザーにとって最も価値ある体験を提供するのだ。
便利 ≠ 複雑
私たちが普段使っているアプリやWebサービスの中で、「便利だ」と感じるものには共通点がある。それは「シンプルであること」だ。
たとえば、Googleのトップページ。機能的には検索バーとロゴがあるだけ。それでも世界中のユーザーが迷うことなく使える。逆に、ボタンやリンクが多すぎるサイトは、それだけでユーザーの思考を停止させてしまう。
これはシステム開発にも同じことが言える。クライアントから「こんな機能も欲しい」「あれもできたらいい」と要望が出たとき、すべてを鵜呑みにして実装するのは簡単だ。しかし、機能を詰め込みすぎると、ユーザーは混乱し、使われなくなる。
だからこそ、エンジニアは「本当にそれは必要か?」と問い続けるべきだ。
引き算は「勇気ある選択」
何かを削るという行為は、決して後ろ向きな判断ではない。むしろ「最も重要なものに集中する」という前向きな選択だ。
たとえば設計段階で、複数の機能候補が並んだとする。その中で、ユーザーが最も求めていることは何か、事業上のインパクトが大きいのはどれか──。そういった視点で選別し、「やらないことを決める」ことが、プロダクトの方向性を明確にする。
これは技術選定にも通じる。多機能で高度なフレームワークを選んだ結果、開発スピードが落ち、チームが混乱するのでは意味がない。必要最小限の技術で、最短距離で価値を届ける。引き算は、経験を積んだエンジニアほど自然に選ぶ戦略なのだ。
コードも引き算で美しくなる
「少ないコードで同じ機能を実現する」ことに、美しさを感じたことがあるだろうか?
冗長なif文、ネストの深いロジック、何度も同じ処理を繰り返すスニペット。最初は動いていたとしても、保守性や可読性が損なわれ、あとで必ず自分や他の誰かが苦労することになる。
逆に、余計な処理を削り、関数を分割し、意味のある命名をするだけで、コードはぐっと読みやすくなる。「この人、気が利くな」と思わせるようなコードを書く人は、引き算の感覚を身につけている。
成熟したエンジニアは「削る」ことで信頼される
駆け出しのころは「何でもできます」「こんな機能もつけられます」とアピールしたくなる。だが、成熟したエンジニアは違う。
「その機能は、今回は不要です」
「この仕様は複雑になるので段階的にしましょう」
といった“提案型の削除”ができる人は、クライアントやチームから信頼される。
なぜなら、単に実装するだけではなく、プロダクトの成功を本気で考えていることが伝わるからだ。
終わりに:足すことは誰でもできる。削ることは、信念がいる。
エンジニアは、技術を積み重ねる職業であると同時に、「何をあえてやらないか」を判断する職業でもある。
だからこそ、機能を増やすときにはワクワクしつつも、それを“削る”ときにはもっと真剣であれ。
プロダクトもコードも、人の心も──
本質だけを残すことで、美しさと強さが際立つのだ。
「引き算の美学」。それを心得たとき、あなたは一段階上のエンジニアになる。