磁性に関して第一原理計算業界での共通認識とハバードモデル業界の認識はかなり違っている。
第一原理計算業界での認識は以下のようなもの。
まずクーロンの長距離力によって局所的電荷中性が強く強要される。これにより、磁気的なゆらぎのみが残り得る。交換相互作用により、電子を半分ずつ詰めるよりも、片側のスピンに一個詰めるのが安定である。これはLDAという単純な近似でもそこそこ再現できる。そして、強磁性が発現する場合は、スピンが揃うことで運動エネルギーゲインを得ることができる場合である。占有電子数とも関係している。実際Slater-Polingカーブなどはかなりうまく再現できる。これは1980頃に理解された話であり金属強磁性の理解には何の困難もない。インシュレータでは結合的な軌道(反強磁性)に入ることになるし、もっと広い世界で一般化もできる。しかし、ハバードモデルではどうもそういうシナリオにはならないらしくて話が噛み合わない。
ハバードモデル
第一原理ハミルトニアンからハバードモデルを導出するシナリオを考えてみる。
ダイアグラム展開で言えば、クーロン力の波線を点にシュリンクさせたのがハバードモデルというのが単純な理解であるーこのときシュリンクさせたために区別のつかなくダイアグラムが発生する。これは符号だけが逆転しており、キャンセレーションが発生する。これを交換ペアダイアグラムと呼ぶ。一言で言えば、交換ペアダイアグラムのキャンセレーションをあらかじめ組み込んだのがハバードモデルである。$\langle n_\uparrow(1)n_\uparrow(2) \rangle$は1=2のときにゼロにならないといけないが交換ペアダイアグラムを取ることでこれが保証される。
そして交換ペアダイアグラムをきっちりとるとFLEXとよばれるRPA近似になる。これがいいか、と言われると現実的には問題が多いだろう。そもそもハバードモデルが電荷ゆらぎと磁気ゆらぎの対称性を強要する点が問題である。理論的にはフェルミ統計がキッチリ入ってるし、ネーターの定理の意味で保存近似(Baym-Kadanoff)になってて汎関数から導けるとか、気持ちいいのだがそもそも対称性を強要する点にかなり問題が多い。
クーロン力を真面目に考えるとき、ハバードモデルでは、上述のような近似をしてしまうので問題がある。電荷ゆらぎとスピンゆらぎの非対称性を乱暴に対称化してしまっている。スピンゆらぎなどを評価するラダーダイアグラムにはスクリーンされたクーロンを用いてよいが、横につながる電荷ゆらぎダイアグラムには裸のクーロンを用いないといけない。あるいは何を問題にしているのかを考えてモデルと解法を選択する必要がある。すなわち、モデルを真面目に解くと良くない。磁気ゆらぎだけ入れて解きなさい(あらかじめヒルベルト空間を絞っときなさい)ということもありえる。
問題になるのが電荷ゆらぎである。クーロンを真面目に考えないと、当然ながらゴールドストン定理によりプラズマ振動(プラズモン分散)がq->0でomega->0になってしまう。長距離性があるクーロン力ではゴールドストン定理が破れ大きいエネルギにプラズモンは存在する。