※原文:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20170530/siryou1.pdf
Ⅰ IT戦略の新たなフェーズに向けて(「データ」がヒトを豊かにする社会の実現)
(※ヒト:ヒトがその構成員となり活動する法人等の組織も含む)
Ⅰ-1 これまでのIT 戦略
21世紀に入った約20年前、我が国では、「IT革命」という言葉が産業革命に匹敵する大転換をもたらすなどの考えの下、平成13年に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下「IT本部」という。)を設置し、超高速ネットワークインフラの整備、電子商取引、電子政府等のルール整備、人材育成等を柱とする「e-Japan戦略」(平成13年1月22日IT本部決定)を策定することにより、全ての国民がITを積極的に活用し、その恩恵を最大限に享受できるための取組を開始した。
当時の戦略においては、ネットワークインフラの整備に重点を置き、5年以内の超高速アクセスの利用可能環境の実現を掲げていたところ、当初の目標よりも早い約3年で達成した。その後、「e-Japan戦略Ⅱ」(平成15年7月2日IT本部決定)をはじめとする戦略の累次の見直しを行いながら、ITの利活用に重点を移しつつ、世界最先端のIT国家を目指して政策を推進してきており、ここ数年においては電子政府の実現に向けた情報システム改革・業務の見直し(BPR: Business Process Reengineering。以下「BPR」という。)等、一定の成果が出てきているところである。
Ⅰ-2 IT戦略の新たなフェーズに向けて(「データ」大流通時代の到来)
最初のe-Japan戦略から既に16年が経過しているが、この間においても、ITをめぐる技術進歩はとどまるところを知らない。そもそもIT革命が匹敵すると言われた産業革命は、18世紀後半から約70年かけて変化していったとされているが、この約70年という期間は、今年が戦後約70年(明治元年から起算して間もなく満150年)の節目であることを考えればIT革命における技術進歩のスピードは我々の想像を超えるほど早い。
日本でインターネットの商用開始が始まったのが平成5年であり、それからわずか約24年(9000日足らず)、特に、スマートフォンが世の中に登場してからのこの約10年(3650日)の間に、コミュニケーションの在り方をはじめ、仕事、観光、エンターテインメント、医療・介護等、あらゆる場面で企業活動や国民生活等を一変させるほど、ITの技術進歩は、最初のe-Japan戦略の策定当時には想定できなかったようなインパクトを持ちつつある。
その鍵となっているのがネット上を流通する多種多様かつ大量のデータである。多種多様かつ大量のデータが流通するようになった背景としては、この10年間で、ネットワークインフラ面の更なる発展とともに、利用環境面での技術進歩が相乗効果を挙げながらIT利活用の環境が作られてきていることが大きい。まず、ネットワークインフラ面では、有線系で最大速度1~10Gbpsの光ファイバー回線、無線系で最大速度500Mbps超のLTE-Advanced(4G)がアクセス回線として利用可能となっており、高画質な動画等を個人レベルでも送受信できるようになっている。今後、更に無線系においては、超高速(10Gbps)、多数接続(100万台/km2)といった特徴を持つ5Gの平成32年の実現を目指している。
利用環境面では、ネットワークインフラ面の技術進歩とあいまって、事業者等を中心に組織内でのデータの利活用やデータ連携が進展するとともに(一部の業界内ではデータの標準化も行われている。)、クラウドサービスの登場に伴い、データの流通量は国内外を問わず増大している。
また、個人レベルでも、平成20年頃からPC並みの処理能力とメモリーを備えたスマートフォンが登場し、それに伴い、単なる電子メールや検索サイトでの検索、ブログといった利用から、SNS(Social Networking Service)や動画投稿サイト等を通じた個人の情報発信能力(画像や映像等を含む。)の向上とともに、最近のウェアラブル端末の普及により、個人レベルに関するデータ流通量も飛躍的に増大している。
更に、端末などのセンサー技術の小型軽量化、低廉化により、モノのインターネット(IoT: Internet of Things。以下「IoT」という。)の爆発的な普及も始まっている。
このような状況の中、政府や地方公共団体においても、マイナンバー制度の導入、手続のオンライン化の促進、情報システム改革・BPR、オープンデータの推進、全国一元的な農地台帳システムをはじめ、各種データベースの整備(標準化を含む。)、API(Application Program Interface)連携などの取組も行われているところである。
このような環境の変化に伴い、近年、ネット上のデータ流通量の飛躍的な増大(データ大流通時代の到来)を背景に、多種多様かつ大量のネット上のデータ、特に、画像・映像等の処理による人工知能(AI: Artificial Intelligence。以下「AI」という。)ブームが再到来、更にはAIやネット上のデータ利活用を備えたロボットや小型無人機(ドローン)等の開発も活発化しており、人間の処理能力を超えた範囲でのデータの利活用が可能となってきており、このことからロボットは目を持ったと言われている。
今後、このような「ネットワーク化された」AIやロボット、ドローン等の開発は、医療診断や創薬、看護・介護の補助、防災・防犯、自動運転、物流の効率化(無人配送など)、農場、工場や建設現場等の生産性の向上・無人化、匠の技をデータ化することによる再現、マーケティング、資産管理、株式運用、保険、家電や住宅、家事の手伝い、インテリアなどのデザイン、音楽生成などの芸術活動、玩具、スポーツ(審判及び採点)等、あらゆる場面で、かつ、これまでのIT技術の進歩の早さを上回るスピードで、我々の生活を一変させていくものと考えられる。
また、データの利活用という意味では、企業活動に限らず、個人レベルにおいても、現時点ではAI等の活用というところまではいっていないが(将来的には個人レベルでも手軽にAI等を使い、データを利活用できる時代になることが想定される。)、防犯・防災をはじめ、地域の課題等を解決するため、国や地方公共団体のオープンデータを活用したアプリが開発されるなど、データの利活用に関する国民の意識や期待が一層高まってきている。
Ⅰ-3 「データ」の上で、ヒト、モノ、カネが活きる社会
このような状況をどのように捉えるのか。これからの社会は国内外を問わず、ヒトやモノがネットワークを通じ、いつでも、どこでも、相互につながり、多種多様かつ大量のデータがネット上を流通する。
現在はネット検索を行っても地球上の全てのデータにアクセスできるわけではないが、将来、ほとんど全てのヒト、モノがつながる時代を想像すれば、地球上のほとんど全ての知識、知恵を人類が共有することにつながることが想定される。
また、グローバル化という言葉が登場して久しいが、データには国境がなく、世界に瞬時にその利活用の効果とともに波及していく。更に、データはこれまでのように月毎、日毎という定期的な情報ではなく、リアルタイムで流通・蓄積され、過去のデータから連続して時系列で利活用が可能となりつつある。今後、個人相互間、一つの事業者や一つの業界等の中だけではなく、分野を越えて、データ、知識、知恵が分野横断的につながっていくことで、大きな変革をもたらしていくことが期待される。
「ネットワーク化された」AI、ロボット等の発展とともに、意識するにせよ、しないにせよ、データの利活用は人類の社会にとって当たり前の時代になっていくと考えられ、データ利活用によるヒト、モノの相互依存は避けられない状況になっていくと想定される。データの利活用を通じ、人類の知識や知恵を共有することにより、個人、家族、地域社会、事業者等、政府(国・地方公共団体)、世界が各々のレベルにおいて価値を高めていくことが可能な時代、「ヒト、モノ、カネ、データの資源併存」から「データの上で、ヒト、モノ、カネが活きる」時代となっていく。また、社会や経済構造自体も、規制の在り方も含め、大きく変化していくと想定される。
もちろん、これからの社会を全て予測することはできない。将来的には、データ利活用がもたらす現時点で想定している効果(生産性の向上やイノベーションの創出)以上のものを生み出していくことも否定できない。ITをめぐる環境は、技術開発やサービス提供におけるプレイヤーのこれまでの変遷にも見られるように、これからも想像を超える変革を続けていくものと考えられる。
世の中は様々なことが起こり得る。特に、ITをめぐる環境は想像していないことが起こりうるという認識に立ち、常にアップグレードし、アジャイル型1で環境の変化に柔軟に対応できるようにしておくことが重要と考えられる。
なお、データ利活用の促進に当たっては、個人情報やプライバシーの保護、サイバーセキュリティ対策、知的財産権の在り方、データの品質や信頼性・安全性の確保、AI、ロボット時代の倫理の在り方など、同時並行的に対策を講じておくことは言うまでもない。
Ⅰ-4 「データ」がヒトを豊かにする社会、「官民データ利活用社会」のモデル構築
このような中、今、我々に求められているのは、データ利活用が当たり前の時代になっていくことを見据え、我が国が世界に伍していくため、データ利活用を個人、家族、地域社会、事業者等、政府(国・地方公共団体)がいつでもどこでも円滑に行えるような環境を整備し、他国等に遅れをとらないよう備えておくことである。
我が国は世界の中でも最も早いスピードで超少子高齢社会に突入しており、この人口構造の変化への対応が急務となっているが、例えば、データの利活用を前提とした「ネットワーク化された」AIやロボット等の開発は人間の諸活動を補助し、生産年齢人口世代をカバーするのみならず、健康寿命の延伸により急増する高齢者が持つ知識や知恵を共有化・再現するとともに、高齢者の再活躍の場を提供するなどの効果をもたらす。
今後、更にヒト・ヒト、ヒト・モノ、モノ・モノがつながりを深め、ネット上を流通するデータの共有・利活用が進展するとともに、人間とAI、ロボット等が共存していく時代になっていくことが想定される中、先進国に先駆け、我が国のこれからの新しい社会のモデルを構築する絶好の機会と捉えて対応していくことが必要である。
このことは、当初のIT戦略(e-Japan戦略)が目指していた、「すべての国民がITを積極的に活用し、その恩恵を最大限に享受できる」状況を、データ利活用の促進を通じて実現できる時代にようやくなってきたということを意味する。
データの利活用は知識や知恵の共有につながるが、各々のデータが相互につながってこそ様々な価値を生み出すという認識を、官(国、地方公共団体等)・民(国民、事業者等)双方において共有することが必要であり、そのためには、これからのデータ利活用社会に対する意識の向上、官民の保有するデータの可能な限りの相互オープン化(オープンデータ)、データの分野横断的な連携の仕組みの構築、データの品質や信頼性・安全性の確保、データ利活用のための人材育成や研究開発等、総合的な対策を講じていくことが必要である。
平成28年12月、国が官民のデータ利活用のための環境を総合的かつ効果的に整備するため、官民データ活用推進基本法(平成28年法律第103号。以下「基本法」という。)が公布・施行されたところである。
政府としては、IT本部を司令塔として、平成25年5月に設置された、内閣情報通信政策監(以下「政府CIO」という。)を中心に、引き続き、国民や事業者等の様々なニーズを的確に把握しつつ、府省庁の縦割りを打破し、「横串」を通すことにより、これまでの成果やノウハウ(意識改革とトップマネージメント、一つ一つの事実認識、ノウハウ自体の共有や横展開)も踏まえつつ、政府一丸となって取り組む。
このような認識の下、最終的なゴールとして、全ての国民がIT利活用やデータ利活用を意識せず、その便益を享受し、真に豊かさを実感できる社会である「官民データ利活用社会」~データがヒトを豊かにする社会~のモデルを世界に先駆けて構築する観点から、我が国全体のIT戦略の新たなフェーズに向け、「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」を策定し、必要な施策を着実に実施していくこととする。
将来的には、このモデルを、我が国発で、今後、超少子高齢社会を迎えていく途上国をはじめとする他国に展開していくことを通じ、これまで以上に我が国がより高い尊敬の念を持って世界的に認められるよう、「官民データ利活用社会」の実現を目指していく。
Ⅱ 「官民データ利活用社会」のモデルの構築に向けて
Ⅱ-1 IT をめぐる諸動向
Ⅱ-1-(1) 技術・サービスの動向等
ITの進展は著しく早く、このことは、10年前、20年前の技術やサービス2と現在のそれとを比較すると明らかである。
特に、近年、スマートフォンの普及、IoTの進展3、有線・無線ネットワークの高速・大容量化により、個人や事業者等が、文字情報のみならず、画像・映像データ、位置情報、センサー情報などの、月毎、日毎という定期的な情報ではなく、リアルタイムで流通・蓄積されるデータについても、インターネットを通じて送受信できるようになっている。
その結果、個人等の情報発信力が高まるとともに、社会全体として、SNS、ウェアラブル端末、コネクテッドカー、家電等、ヒト・ヒト、ヒト・モノ、モノ・モノといった、インターネットを介した相互のつながりが深まっており、それに伴いデータ流通量も飛躍的に増大し、このつながり及び多種多様なデータを活用した新たな技術並びにサービス4が次々と登場している。
更に、データ流通量の飛躍的な増大に伴い、現在、AIブームが再到来している。
特に、現在のAIの主流な技術であるディープラーニングを用いた画像・映像解析技術が急速に進化しており、更にはAIやデータ利活用を前提としたロボット、ドローン等の開発や、VR・ARなどの新たなコンテンツ流通も活発化している。今後、このようなAI、ロボット、ドローンなどの技術によるデータ利活用をベースとした新たな技術やサービス5の開発等が更に進展していくことが想定される。
他方、このような中、個人においては、インターネット上に自らに関するデータが増加することにより、個人情報の取扱いやプライバシーに対する意識が高まるとともに、事業者等においては、レピュテーションリスク(風評リスク)への対応等が求められるようになっている。また、多種多様で大量のデータやAI、ロボット、ドローンなどの技術の活用に関し、個人情報やプライバシーの保護、サイバーセキュリティ対策、知的財産権の在り方、データの品質や信頼性・安全性の確保、AI、ロボット時代の倫理の在り方など、同時並行的に対策を講じておくことが求められる5。
Ⅱ-1-(2) データ利活用への期待の高まり
このようなデータ流通の飛躍的増大、それに伴う新たな技術やサービスの登場等を踏まえ、データ利活用に対する期待が高まっている。一般的に、データ利活用には、以下の2つの効果がある。
① データの「見える化」・比較分析による無駄の排除等
あらゆる事象を数値・画像等によって「見える化」することで、例えば、他の同様事例との比較分析が可能となり、新たな課題への気付き、更なる効率化や生産性の向上等が見込まれるという効果
② 分野横断的なデータの組合せによるイノベーションの創出等
これまでつながっていなかった分野横断的なデータの組合せにより、サービスの革新や異業種の連携が起こり、更なる付加価値の向上や新しいサービスやイノベーションの創出が見込まれるという効果
今後、ヒト・ヒト、ヒト・モノ、モノ・モノのインターネット上のつながりが更に深まるとともに、こうしたつながりの深化によってもたらされるデータ利活用に対する期待がますます高まるものと考えられる。
今後は、Ⅰ-4でも述べたとおり、データの利活用を通じ、人類の知識や知恵を共有することにより、個人、家族、地域社会、事業者等、政府(国・地方公共団体)、世界が各々のレベルにおいて価値を高めていくことが可能な時代、「ヒト、モノ、カネ、データの資源併存」から「データの上で、ヒト、モノ、カネが活きる」時代となっていくものと想定される6。また、社会や経済構造自体も、規制の在り方も含め、大きく変化していくのではないかと考えられる。
Ⅱ-2 我が国の置かれた状況等
Ⅱ-2-(1) 急速な人口構造の変化等に伴う諸課題
我が国は、主要先進国の中でも、高齢化率とその上昇スピードが高水準7であり、加えて生産年齢人口の減少8により、人口構造は急速に変化しており、65歳以上になっても元気に働く人が増えてきている。こうした変化に伴い、様々な社会的課題への対応が求められている。
具体的には、期待成長率の低下、生産性の低い働き方の継続、子育て環境等の改善、イノベーションの創出、地域の隅々へのアベノミクスの効果の波及、経済再生と財政健全化の一体的な実現、安全・安心な社会の実現といった諸課題に対し、現在、政府として様々な対策を講じているところである。
Ⅱ-2-(2) 今の国民が生活において求めるもの(国民視点での取組の強化)
今後、前述のような諸課題に対応するに当たっては、ITをめぐる技術やサービスの動向、特にインターネット上でのつながりが深化していくことを踏まえ、データ利活用により国民等の様々なレベルのニーズにきめ細かく対応することが可能となる環境が形成されていくとの認識の下、対策を講じていくことが必要である。
このため、国民等のニーズへのきめ細かな対応がこれまで以上に求められるが、その際には、国民が生活において求めるものを的確に把握することが重要である。
このような観点から考えると、現在、
- ①東日本大震災や熊本地震などの大きな災害の発生により顕在化したリスクへの対応をはじめ、安全・安心な生活への期待
- ②物質的な豊かさだけではなく、心の豊かさや、ゆとりのある生活、自己実現により重きを置く傾向による、人の豊かさの尺度(価値観)の変容(例えば、生活の利便性や快適性などの質(QoL: Quality of Life)の向上等の考え方)
- ③インターネット上のつながりの深化とともに、豊かさを実現する手段として、いわゆるシェアリングエコノミーに代表されるような、所有から共有へという考え方(各種サービス等におけるインターネット上での相互評価の仕組み等)
等、個々人の多様化するニーズや考え方にきめ細かく対応した安全・安心・快適なサービスの提供を通じて、ライフスタイルをデータ利活用により提案していくという考え方を各種対策にビルトインしていくことが必要である。
Ⅱ-3 「官民データ利活用社会」のモデルの構築
Ⅱ-3-(1) 我が国の置かれた諸状況を踏まえたデータ利活用による新たなライフスタイルの提案
このような認識の下、政府としては、急速な人口構造の変化に伴う諸課題を以下の3つの課題に整理し、AI、ロボットなどの先端技術によるデータ利活用を積極的に促進し、我が国における新たな技術やサービスの萌芽につなげる「チャンス」として捉え直し、安全・安心なサービスを通じて、国民・事業者等のニーズにきめ細かく対応した新たなライフスタイルを提案する総合的な対策を講じていくこととする。
その際、各種対策の効果を最大限に発揮していくためには、あれこれ手を出すのではなく、選択と集中、各種対策における事実関係の正確な把握とPDCA、各種対策の中で得られたノウハウの共有と横展開等を適時適切に行っていくことが必要である。
① 経済再生・財政健全化
- 社会保障制度改革を含む行財政改革の推進
- 生産性の向上(1人当たりの労働生産性の向上、中小企業の労働生産性の向上等)、イノベーションの創出と人材の強化(成長戦略の推進、コネクテッド・インダストリーズ9への変革等)、働き方改革の実現(若者、女性、障害者等への支援や子育て支援、豊富な知識・知恵を有する高齢者の活躍推進等)
② 地域の活性化
- 地域資源の有効活用、地域の中小企業や篤農家等の匠の技の蓄積・継承等
③ 国民生活の安全・安心の確保
- 東日本大震災や熊本地震等の経験を踏まえた防災・減災対策等
Ⅱ-3-(2) 官民データの利活用に向けた環境整備
ヒトやモノの相互のつながりの深化に伴い、データの利活用は知識や知恵の共有につながり、新たな気付き、新たな技術やサービスの開発を促していくものと考えられるが、各々のデータが相互につながってこそ様々な価値を生み出すという認識を、官(政府、地方公共団体)・民(国民、事業者等)双方において共有することが必要である。
国民・事業者等のニーズにきめ細かく対応した新たなライフスタイルの提案に向け、AI、ロボットなどの技術進展を踏まえた、官(国、地方公共団体等)と民(国民、事業者等)が保有するデータ(以下「官民データ」という10。)を相互につなげて共有し、利活用が容易になるよう、国と各地方公共団体等が一体となって環境整備を行うことが必要であり、このような観点から、基本法に基づき、以下の基本的施策を実施する11。
国、地方公共団体等のオープンデータの促進
官民データを様々な主体が容易に活用できるようにするため、国、地方公共団体等におけるオープンデータを推進する。また、国や地方公共団体等は事業者等の利益や国の安全等が害されることがないよう、競争的領域と公益の増進に資する協調的な領域に配慮しつつ、事業者等の協調分野でのオープンデータ的な取組を促進する。
紙中心の文化からの脱却
官(国、地方公共団体等)においては、従来の紙文化から脱却し、官民データ利活用に向けた行政手続等におけるオンライン化の原則、それに伴う情報システム改革・業務の見直し(BPR)を推進する。あわせて、行政手続等におけるオンライン化の原則を徹底するため、利用者側におけるオンライン化対応についても促進する。
官民データの取扱いに係るルール整備
官民データの利活用のためには、官民問わず流通したデータの取扱いのためのルール整備が求められる。そのため、個人の関与の下での多様な主体による官民データの利活用ルールの整備、円滑なデータ流通に関連する制度の見直し(コンテンツ流通、知的財産制度の在り方等)、電子委任状の法整備等を推進する。
官民データ連携のための標準化等の促進
官民データ流通の基盤となる、データの標準化(語彙、コード、文字等)やAPIの連携、認証機能等による分野横断的なサービスプラットフォームを整備する。
デジタルデバイド対策、研究開発、人材育成、普及啓発等
データ利活用を促進する上で、利用の機会等の格差是正(デジタルデバイド対策、データ利活用における公平性、平等性等の確保)、研究開発、人材育成、普及啓発等を推進する。
国と各地方公共団体等の施策の整合性確保
上記の各施策を国や各地方公共団体等において実施するに当たっては、行政区域に関係なく官民データが流通し、横断的に利活用されるものであるとの認識の下、個々に実施するのではなく、国と各地方公共団体等、各地方公共団体等の間で施策の整合性が確保されるよう、国は全体を俯瞰しつつ総合的に進める。
また、特に官民データの利活用に向けた環境整備を進めるに当たっては、データの信頼性・安全性を高める手段として、ネットワーク上の認証基盤としてのマイナンバー制度の普及展開を推進する。
Ⅱ-3-(3) 我が国が目指す社会の構築等
これらの施策等を講ずることにより、最終的なゴールとして、全ての国民がIT利活用やデータ利活用を意識せず、その便益を享受し、真に豊かさを実感できる社会である「官民データ利活用社会」~データがヒトを豊かにする社会~のモデルを世界に先駆けて構築することを目指す。
このような官民データ利活用社会モデルを世界に先駆けて構築することで、今後、超少子高齢社会を迎えることが予測される諸外国(アジア等)に当該モデルを展開していく。
Ⅲ 推進体制
Ⅲ-1 官民データ活用推進基本計画のPDCA
政府は、官民データ利活用社会のモデルの構築に向けて、府省庁の取組の歯車がかみ合い、力強く目標に向かって進むよう、俯瞰的かつ具体的に関与し、「横串」を通す調整を行うことで、機敏にかつ適切にPDCAサイクルを推進し、スパイラルアップを目指す。特に、官民データの利活用環境の整備を強力に進めるため、IT本部の下に設置された、内閣総理大臣を議長とする官民データ活用推進戦略会議において、全体を俯瞰しつつ、横断的に取組を進めることとする12。
[政府CIO によるフォローアップ]
後述の第2部で指定する重点分野のうち、重点的に講ずべき施策については、四半期に1回、政府CIOにより、官民データ利活用推進の観点からフォローアップを行い、進捗状況や成果を確認し評価を行う。その際、一つ一つの事実を徹底的に把握し、課題の可視化と因果関係の整理を行った上で評価を行う。その評価結果を踏まえ、「政策効果」、「目標」、「KPI13」等について、不断の見直しを実施する14。
重点的に講ずべき施策以外の施策については、年1回、同様のフォローアップを行う。
[重点的投資に係る仕組み]
重点的に講ずべき施策については、政府CIOの評価を基に、既存の施策を見直しつつ、特定の施策に重点的に投資できるよう予算に反映する。
[EBPMの推進]
EBPMサイクルを構築15するため、①各府省庁にEBPM推進に係る取組を総括するEBPM推進統括官16を設置17し、府省庁におけるEBPM推進に係る取組を総括するとともに、②EBPM推進統括官等から構成されるEBPM推進委員会を官民データ活用推進戦略会議の下に置き、政府横断的なEBPMの推進に取り組む(同委員会の活動は、有識者がチェック・指導・助言を行う。)。
[司令塔機能の強化]
IT技術の進展等のスピードに対応しつつ、コストの適正化と政策の適切な実現を可能とするため、情報システムの整備・運用に関し、調達の在り方の見直しと、計上された予算を柔軟かつ適切に執行できるよう調整する方策について検討を行う。
[相談窓口の設置]
官民データに関する事業者からの相談に応じるため、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(以下「IT総合戦略室」という。)に総合的な相談窓口を設けるとともに、各府省庁にも相談窓口を設置する。事業者及び国民に対しては必要な情報提供を行うほか、地方公共団体に対しては課題ごとに関係する省庁と適宜連携を図り、地方公共団体毎の課題に配慮しつつ地方公共団体が主体的に行う計画策定を支援する。以上によって、官民データの積極的な利活用を促進する。
Ⅲ-2 他の推進本部等との連携
ITに関する政府全体の政策の推進に当たっては、ITが社会変革の中心になりつつあることを踏まえ、従来にも増して、例えば、知的財産戦略本部、サイバーセキュリティ戦略本部、規制改革推進会議、個人情報保護委員会等における、次の取組とも密接に連携しつつ、推進を図る。
データ利活用促進のための知財制度等の構築(知的財産戦略本部の取組)
「知的財産推進計画2017」(平成29年5月16日知的財産戦略本部会合決定)を踏まえ、データ利活用に関する契約の締結を促し、かつその内容を適正なものとする観点からの契約ガイドライン等の策定や、価値あるデータの保有者及び利用者が安心してデータを提供し、かつ利用できる公正な競争秩序を確保するためのデータの不正取得の禁止や技術的な制限手段の保護強化等についての法制度上の措置の検討、データ構造の特許審査に係る事例の周知等の取組を進める。
サイバーセキュリティの確保(サイバーセキュリティ戦略本部の取組)
官民データの安全な利活用に資するため、官民データを保有する官と民それぞれにおいて、サイバーセキュリティ対策の強化を図ることとしている。その際には、サイバーセキュリティ戦略(平成27年9月4日閣議決定)を踏まえ、「政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準群」、「重要インフラの情報セキュリティ対策に係る第4次行動計画」等に基づき各種取組を実施するとともに、サイバーセキュリティ戦略本部において検討されている「2020年及びその後を見据えたサイバーセキュリティの在り方について~サイバーセキュリティ戦略中間レビュー~」の検討結果を踏まえた取組を実施する。
IT に関する規制改革の推進及び行政手続コストの削減(規制改革推進会議の取組)
規制改革推進会議では、平成29年5月23日に、税・社会保険関係事務のIT化・ワンストップ化、官民データ活用、IT時代の遠隔診療・遠隔教育を含む「規制改革推進に関する第1次答申」を取りまとめた。内閣府は、規制改革実施計画に定められた措置を積極的に推進するとともに、その実施状況に関するフォローアップを行う。また、事業者目線で規制改革、行政手続の簡素化、IT化の一体的な取組を推進するため、「行政手続部会取りまとめ~行政手続コストの削減に向けて~」(平成29年3月29日規制改革推進会議行政手続部会決定)に沿って、平成32年3月までに事業者の行政手続コストを20%削減する。
個人情報等の適正な取扱いの確保(個人情報保護委員会の取組)
個人情報又は匿名加工情報(以下「個人情報等」という。)を含む官民データの利活用の推進に当たっては、基本法第3条(基本理念)に「官民データ活用の推進は、(中略)個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号。以下「個人情報保護法」という。)(中略)による施策と相まって、個人及び法人の権利利益を保護しつつ情報の円滑な流通の確保を図ることを旨として、行われなければならない」と定められていることを踏まえ、個人情報保護委員会による個人情報等の保護及び適正かつ効果的な活用に係る施策と連携しながら、個人情報保護法の規定に則った個人情報等の適正な取扱いが確保されるよう留意しつつ、推進を図る。
Ⅳ 地方公共団体との連携・協力
官民データ利活用には、国と各地方公共団体等、各地方公共団体等の間の施策について、一定の整合性を確保し、官民データを円滑に利活用することが必要不可欠である。
基本法においては、都道府県は官民データ活用の推進に関する施策の基本的な計画(「都道府県官民データ活用推進計画」)の策定が義務付けられ、市町村は官民データ活用の推進に関する施策の基本的な計画(「市町村官民データ活用推進計画」)の策定に努めること(努力義務)と定められている。
このため、国は、各地方公共団体による官民データ活用推進計画の策定が円滑に図られるよう、平成29年度秋頃を目途に、特に地方公共団体の取組を促すものを選定した上で、地方公共団体における計画の雛型を作成する18。
また、地方公共団体における計画の策定や施策の実施等に係る負担に配慮しつつ、国は、国が策定する「官民データ活用推進基本計画」の周知広報、地方公共団体からの求めに応じた国からの情報提供、法制上の措置も含め必要な支援等を行う。
都道府県及び市町村による計画が可能な限り早期に策定され、関連する施策との連携が図られることで、国全体として官民データの利活用が一体的に進むよう、地方公共団体との連携・協力を強力に推進することとする。
Ⅴ 事業者等との連携・協力
今後、ヒト、モノが相互にネット上でつながっていく時代において、政府や地方公共団体といった官のみならず、事業者等においても、自らが保有するデータを抱え込むのではなく、分野を超えて利活用し、様々な知識や知恵を共有することが新たな技術やサービスの開発等を促すものという認識を有することが重要である。
このような観点から、基本法では、事業者についても、データのオープン化も含め、積極的に官民データ活用の推進に努めることや、契約の申込みその他の手続に関し、オンライン処理を促進するために必要な措置を講ずることなどが規定されているところである。
他方、事業者等が保有するデータは自らの事業等を展開する中で収集したデータであり、この中には個人や法人の権利利益に関するもののほか、事業活動における他者との競争上重要なデータ(競争領域のデータ)も含まれている一方、災害時における官民のデータの共有による被災者支援をはじめ、自動運転の開発での一部のプローブ情報の共有などに見られるように事業活動そのものにおいても、データの共有が新たな付加価値を生むようなデータ(協調領域のデータ)も含まれているものと考えられる。
このため、事業者等の保有するデータについても、例えば、業界団体等において協調領域のデータについてはできる限り共有する方向で取り組むことが望まれるとともに、政府においても、個人や法人の権利利益や国の安全等が阻害されることのないよう配慮し、競争領域と協調領域にも留意しつつ、官民データの相互の連携が可能となるよう、事業者等に対する意識の啓発、標準化やAPI連携も含めたプラットフォームの整備など、官民データの利活用を促進する上で、事業者等との連携や協力を積極的に推進し、そのための環境整備を行っていくことが必要である。
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ソフトウェア開発手法の1つで、開発対象を多数の小さな機能に分割し、反復(イテレーション)と呼ばれる短い開発期間単位ごとに1つの機能を開発、ソフトウェア・リースを行う手法である。短いサイクルで一連のPDCA(Plan, Do, Check, Action)を回す開発手法であり、日々生じる変化にすばやく適応することに主眼が置かれている。 ↩
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個人レベルでは、例えば、20年前(平成9年)は携帯電話のショートメッセージ等のテキストデータが主流であったが、10年前(平成19年)には、Apple社が発表したiPhoneなどのスマートフォンによる、映像、画像データを含む多種多様で大量のデータ伝送が可能となったほか、SNSを通じた情報発信が盛んとなった。現在(平成29年)では、AIを用いて個人の位置情報や購買履歴等を分析し、一人一人に合わせたレコメンドを行うサービス等、データを活用した新たなサービスが登場してきている。 ↩
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平成27年末において、携帯電話の普及率は95.8%、スマートフォンの普及率は72.0%(「通信利用動向調査」(平成28年7月22日総務省))。IoTデバイス数については、平成27年時点で154億個、平成32年までに304億個まで増大するとされている。(「平成28年度版 情報通信白書」(平成28年7月29日総務省)) ↩
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例えば、シェアリングエコノミーサービス、テレマティクス等を活用した安全運転促進保険等、子どもやペット等の遠隔見守りサービス、無人工場等が挙げられる。 ↩
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フェイクニュースが社会問題となる等、情報の正確性について、社会的な注目も高まっている。 ↩
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IT技術を金融に融合させ、金融サービスの革新を図る「FinTech」サービスの出現も、この一例である。 ↩
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G7各国における高齢化率を比較すると、日本の高齢化率は1980年代までは下位(約10%)、1990年代には中位(約13%)であったが、平成17年には最高水準(20.2%)になっている。高齢者1人を支えるために必要な現役世代の人数は、平成27年時点で2.3人(高齢化率26.7%)となっており、平成72年には1.3人(高齢化率39.9%)になると推計されている。(「高齢社会白書」(平成28年度版内閣府)) ↩
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生産年齢人口(15~64歳)は、平成7年に8,716万人でピークを迎え、その後減少に転じ、平成25年には7,901万人と昭和56年以来32年ぶりに8,000万人を下回った。(「高齢社会白書」(平成28年度版内閣府)) ↩
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コネクテッド・インダストリーズ(Connected Industries)とは、多様なデータ、技術、人、組織などがつながることで新たな付加価値の創出や社会課題の解決をもたらす産業の在り方であり、第四次産業革命による技術革新を踏まえた日本の産業の目指すべき姿として、平成29年3月の安倍内閣総理大臣訪独時に世界に発信したもの。 ↩
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基本法における「官民データ」とは、電子データであって、国や地方公共団体、独立行政法人、その他の事業者によりその事務・事業の遂行に当たり、管理・利用・提供されるものをいう(国の安全を損ない、公の秩序を妨げ、又は公衆の安全の保護に支障を来すことになるおそれがあるものを除く。)。(基本法第2条第1項) ↩
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基本法第3章基本的施策(第10条から第19条まで)。 ↩
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オープンデータに関しては、IT本部の下に設置された、データ流通環境整備検討会オープンデータWGにおいて各省が連携して取組を推進しているが、今後、官民データ活用推進戦略会議と連携し、官民ラウンドテーブルを開催し、民間企業の具体的ニーズを把握しつつ、オープンデータを積極的に推進する。 ↩
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KPI: Key Performance Indicator。 ↩
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施策によってメリットが生ずるまでの期間は区々であり、施策内容に応じてフォローアップの期間についても変動する。 ↩
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第2部Ⅰ-1-(5)を参照。 ↩
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仮称。 ↩
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EBPM推進統括官は、統計等データの利活用状況のモニタリングや利活用に関する指導・支援等を通じた、事実・課題の認識、政策の立案と評価における統計等データの取得・整備・利活用や評価の質の向上に取り組むなど、EBPMの取組を積極的に主導し、府省内におけるEBPMの浸透・徹底を図る。また、EBPM推進委員会への報告など、府省内の取組について対外的に説明する立場を担う。 ↩
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平成29年3月に神奈川県横浜市が、同市における官民データ活用推進計画の策定に係る条例を制定した。 ↩