はじめに
はじめまして.九大理学部数学科2年の郡司泰生と言います.自主ゼミは数学をいろいろ(ただ最近は体調を崩していてほとんでできていませんが)と物理だと量子論をやっています.哲学なんかも前期はやっていましたし今も自分で哲学書を読むことはあります.
ただ今日は思いっきり数学をしますがどうぞお付き合いください.具体的に何をするかというと, そんなに知名度は高くない気がしますが, ゲーベル数列という数列を紹介します.この数列はあとで定義しますが, 明らかに有理数なのはわかるのですがなぜか整数がそれなりに続くという不思議な数列です.これは一般化もあってそれもかなり面白いのですが,まずは普通のゲーベル数列について考えようと思います.前提知識は高校数学以上のものはほとんどなくて大丈夫ですが, 分数の合同式について慣れているとわかりやすいかもしれません.(ご存じなくても大丈夫な気がします)
ゲーベル数列とは
まず最初にゲーベル数列というものを紹介します.
定義1(ゲーベル数列)
次の初項と漸化式で定義される数列 $(g_n)$ をゲーベル数列という.
$g_o=1 \quad g_n=\dfrac{1+g_0^2+g_1^2+\cdots g_{n-1}^2}{n} \quad (n=1,2,\cdots)$
このように定義された数列 $(g_n)$ は明らかに有理数列なわけですが, $g_1=2$, $g_2=3$, $g_3=5$, $g_4=10$, $\cdots$ というようになんと $g_{42}$ まで整数が続くのです.そして $g_{43}$ で初めて整数ではなくなります.
定理2
ゲーベル数列 $(g_n)$ に対して
$g_1,g_2,\cdots, g_{42} \in \mathbb{Z}$ , $g_{43} \notin \mathbb{Z}$
今回はこの事実を証明したいと思います.
整数性の証明
さて, ゲーベル数列の整数性をどのように証明しようかと思うわけですが, その前にひとつ漸化式を少し変形した形を用意します.
補題3
ゲーベル数列 $(g_n)$ に対して, 以下が成り立つ.
$(n+1)g_{n+1}=g_n(n+g_n)\quad (n=1,2,\cdots)$
これは定義1の式を少しいじくるとわかります(興味のある方は自分で証明してみてください).
そして本題ですが, まず, 素数 $p$ に対して,$\mathbb{Z}_ {(p)}=\{{\frac{a}{b}\in \mathbb{Q} :p\nmid b }\}$ という集合を考えます.つまり有理数のうち, 分母が $p$ で割り切れないようなもの全体をとってきます.なんでこんなものを考えるかというと, 任意の素数 $p$ に対して $g_n\in \mathbb{Z}_{(p)}$ であれば $g_n\in \mathbb{Z}$ と言えるからなんです!つまり, $g_n$ を既約分数表示したときに分母が2でも3でも5でも, $\cdots$ どんな素数でも割り切れないならそれは整数しかないということですね.これがこの証明の肝の部分で, 個人的にかなり面白いところだと思っています(最初は理解に苦しみましたが笑).そしてこの方針は補題で示した漸化式を逐次用いることでうまくいきそうです.
・$p>43$ のときは明らかに補題の漸化式の形から $g_n \in \mathbb{Z}_{(p)}$ $(n=1,2,\cdots ,42)$がわかりますね($g_1=2$ と漸化式より帰納的に $1\leqq n \leqq 42$ のときは $n+1$ で割っても分母に43より大きい素数 $p$ は出てこないですね).
・$p=43$ のときは $g_{42}$ までは同様に心配ないですが $g_{43}$ が整数かどうかは計算してみないとわからないです(実際整数ではなくなります).
$p<43$ のときは何回か $p$ で割らないといけないポイントが出てきて少し大変です.
・まず $23\leqq p \leqq 41$ のときは $n=p$ のときだけ $p$ で割れるかを考えないといけないので心配です.このあたりから(分数の)mod計算をしないといけないですが,これは個別に計算することで問題ないことがわかります(これ以降はさすがに計算機を頼りましょう).
・$p=17,19$ のときは $n=p$ , $n=2p$ のときまで考えないといけません( $2p<42$ なので).ただひとつ今まで通りにいかない部分があって, mod $p$ で計算すると, $n=p$ のときに $g_p\in \mathbb{Z}_{(p)}$ までは言えても mod $p$ で何と合同かまでわからないと $n=2p$ のときまで計算することができません泣. なのでここでは mod $p^2$ を考えます. これでこの問題は解消されています(ここは興味ある方は実際手を動かしてみてほしいです).そしてこの場合も $g_n\in \mathbb{Z}$ $(1\leqq n \leqq 42)$ がわかります.
・$p<17$ のときはさらに $p$ で割り切れるポイントが出てくるのでもう少し大変になります. $p=13$ なら $n=p$ , $n=2p$ , $n=3p$ の3通り出てくるのでmod $13^3$ を考えます.これは $p=11$ でも同様で, $p=7$ のときは $n=6p$ まであるのでmod $7^6$ , $p=5$ だと, $g_{25}$ のときに $g_{24}(24+g_{24})$ が5で2回割り切れるかをcheckしないといけないので, 同様に計算するとmod $5^9$ で考えればよいとわかります.つまりmod計算の指数部分は 42! が $p$ で割り切れる(最大の)回数ということがわかります.ということで $p=3$ のときはmod $3^{19}$ , $p=2$ のときはmod $2^{39}$ で考えればよいとわかります.
(ただ例えば $p=7$ のときには $n=7$ 以降は mod $7^5$ , $n=14$ 以降は mod $7^4$ というように指数を落として考えて問題ないので少しは計算が楽になっていきますね)
以上まとめると, 任意の素数 $p$ にたいして $g_1, \cdots ,g_{42} \in \mathbb{Z} _ {(p)}$ つまり $g_1, \cdots ,g_{42} \in \mathbb{Z}$ が言えたことになりますね.そして $g_{43}$ が整数でないことは『せいすうたん1』計算結果が載っているので興味のある方は是非手に取ってみてください.ここまで読んでいただいてありがとうございました.
参考文献
[1] 小林銅蟲 , 関真一朗 , せいすうたん1: 整数たちの世界の奇妙な物語, 日本評論社,2023, pp.30-36