さっき「関数型プログラミング」でGoogle検索したら最初に表示された「関数型プログラミングはまず考え方から理解しよう」というページ、本文はもちろん、活発な議論がなされたコメント部分も、とても面白かったです。
ただ、コメント中のHaskellの美しいコードは、無限リストが使えるからこその書き方なんですよね……。このやり方は、JavaScriptだとちょっと辛い。コメント中でHaskellと同様のやり方をJavaScriptで書いてくださっている方も、繰り返す数を指定することで対処しています。
うんやっぱりHaskellはすげーなぁというのは当然なんだけど、JavaScriptを気に入っている私としては、実はJavaScriptもそれなりにすごいんだよということを示しておきたい。だから、JavaScript(EcmaScript)に関数型プログラミング向けライブラリのRamdaをインポートして、同じお題でプログラミングしてみました。
元ページのお題
詳しくは元ページを見ていただくとして、簡単に書くとこんな感じ。
- 唐揚げ弁当がいくつかあります。唐揚げを何個か、つまみ食いしたいです。
- バレづらいように、最も唐揚げの数が多い弁当からつまみ食いしましょう。
とりあえず、関数型で書いてみた
#後で述べますけど、このコードはかなりヘッポコです……。後で修正しますから、ここで見捨てないで。
というわけで、とりあえず関数型プログラミングした結果は以下の通り。
// ES6なのでrequireじゃなくてimport。
import R from 'ramda';
// 元ネタから、データ構造をちょっと変更。
const lunchBoxes = [{'唐揚げ': {count: 10}, '玉子焼き': {count: 1}},
{'唐揚げ': {count: 8}},
{'唐揚げ': {count: 6}}];
// つまみ食い。
function eatWithFinger(foodName, lunchBoxes) {
// foodNameの数量が最大の弁当のインデックスを取得します。
const canEatIndex = R.apply(R.reduce(R.maxBy(([lunchBox, i]) => lunchBox[foodName].count)),
R.juxt([R.head, R.tail])(R.addIndex(R.map)(R.constructor(Array), lunchBoxes)))[1];
// canEatIndexの弁当のfoodNameの数量を1減らした、新しいリストを返します。
return R.assocPath([canEatIndex, foodName, 'count'], lunchBoxes[canEatIndex][foodName].count - 1, lunchBoxes);
}
export default function main() {
// 唐揚げを5回つまみ食い。
const eatKaraageWithFingerFiveTimes = R.apply(R.pipe)(R.repeat(R.curry(eatWithFinger)('唐揚げ'), 5));
console.log(eatKaraageWithFingerFiveTimes(lunchBoxes));
}
// [10, 8, 6] → [9, 8, 6] → [8, 8, 6] → [7, 8, 6] → [7, 7, 6] → [6, 7, 6]となるので、
// 各弁当の唐揚げの数は、6個、7個、6個になります。
以下、Ramdaの使い方の解説です。Ramdaをご存知の方は飛ばしてください。
R.apply
は、f(a, b, c)
という関数を[a, b, c]
という引数で呼び出せるように変換する関数です。で、Ramdaが提供する関数はすべてカリー化されていて、だからR.apply(f)
とやると[a, b, c]
を引数にとる関数が返ってきます(R.apply(f(a))
なら、[b, c]
が引数になる)。で、上のコードでR.reduce
をR.apply
しているのは、R.reduce
の引数はR.reduce(f, initialValue, xs)
となっていて、初期値(initialValue
)を必ず指定しなければならないためです(JavaScriptのArray
のreduce
では、初期値を指定しない場合は自動でArray
の最初の要素が初期値になるのに……)。
でR.maxBy
は、R.maxBy(pred, x, y)
とするとpred(x)
とpred(y)
を比較して、大きな方(x
かy
)を返す関数です。これも当然カリー化されているので、R.maxBy(pred)
すると引数を2個とる関数が返されて、それはR.reduce
の第一引数の関数にちょうどよいというわけ。なので、上のコードではR.reduce(R.maxBy())
して最大の要素を求めています。
R.juxt
は、複数の関数に同じ引数を渡すための処理です。R.juxt([foo, bar])(x)
とすると[foo(x), bar(x)]
が返ってきます。R.head
は最初の要素、R.tail
は二番目から最後までのリストを返すので、これでやっとR.reduce
の引数が揃います。
で、そのR.juxt
した関数に渡しているのは、R.addIndex(R.map)(R.constructor(Array))
したlunchBoxes
です。R.addIndex
はインデックス対応バージョンの関数を返しますので、これで[[lunchBox[0], 0], [lunchBox[1], 1] ...]
が手に入るというわけ。あ、R.constructor
は、扱いが面倒なコンストラクタを関数化する関数です。あと、[lunchBox, index]
のうち、canEatIndex
として表現したいのはindex
の方なので、最後に[1]
を追加しています。
あとは、R.assocPath
で、lunchBoxesを修正した新しいlunchBoxesを返すだけ。この関数をR.curry
でカリー化して、R.repeat
で5個並べて、R.pipe
で順に呼び出すようにしています(R.pipe(a, b, c)(x)
とするとc(b(a(x)))
になります。a
してb
してc
するのを順序どおりに表現できるので、私はこの関数が大好きです)。
これで、繰り返し回数をつまみ食いする関数から分離できました(R.repeat
の引数に移動しただけという気もしますが……)。元ページみたいにつまみ食いした途中のlunchBoxesを取得したい場合は、R.tap
するとか(デバッグのときに便利です)、R.pipe
じゃなくてR.reduce
するとかで大丈夫かと。
以上、Ramdaの解説終わり。ふう、これで関数型プログラミングのコードができあがりました。
念のため、手続き型で書いてみた
でも、関数型プログラミングのコードだけあっても、良いか悪いか判断できませんよね? 異なる手法でプログラミングしたコードと比較しないと。というわけで、手続き型で同じ処理を書いてみました。
const lunchBoxes = [{'唐揚げ': {count: 10}, '玉子焼き': {count: 1}},
{'唐揚げ': {count: 8}},
{'唐揚げ': {count: 6}}];
function eatWithFinger(foodName) {
let canEatIndex = 0;
for (let i = 1; i < lunchBoxes.length; ++i) {
canEatIndex = lunchBoxes[i][foodName].count > lunchBoxes[canEatIndex][foodName].count ? i : canEatIndex;
}
lunchBoxes[canEatIndex][foodName].count--;
}
export default function main() {
for (let i = 0; i < 5; ++i) {
eatWithFinger('唐揚げ');
}
console.log(lunchBoxes);
}
……あれ? さっきの関数型より、この手続き型の方が簡単で分かりやすい?
もう一度、関数型で書いてみた
……冷静になれ、私。
最初のコードをよく見てみると、Ramdaがxだからyしているという部分があって、その結果としてコードが複雑になっています。たとえばR.reduce
の引数に初期値が必要とかね。でもこれはRamda的にはしょうがなくて、Ramdaはカリー化を前提にしているので引数の数によるオーバーローディングができないんですよ。だから、R.reduce
では必ず初期値を指定するしかない。
でもね、私が今書いているのはJavaScriptで、JavaScriptでは引数の数によるオーバーローディングは当たり前の技術で、Array
のreduce
は初期値の省略が可能になっています。だから、サクっとreduce
の別バージョンを作っちゃいました(Ramdaの公式サイトのサンプルでも、その場で関数をじゃかじゃか追加しているしね)。内容が単純なので、ラムダ式で書きます。
const reduce = (pred, xs) => R.apply(R.reduce(pred), R.juxt([R.head, R.tail])(xs));
あとあれだ、最大の要素を探すときにR.maxBy
とR.reduce
を組み合わせるのも面倒くさかった。なので、別バージョンを。
const maxBy = (pred, xs) => reduce(R.maxBy(pred), xs);
// カリー化を活用してconst maxBy = reduce(R.maxBy(pred))の方が短いけど、引数が消えるとわかりづらくなりそうだったので……。
インデックス化もね。
const indexed = (xs) => R.addIndex(R.map)(R.constructor(Array), xs);
あれ、今作ったmaxBy
とindexed
を組み合わせると、最大の要素のインデックスを取得する関数も作れちゃう?
const maxIndexBy = (pred, xs) => maxBy(R.apply(pred), indexed(xs))[1];
// JavaScriptは引数の数が足りない場合は単純に無視するので、R.apply(pred)するだけで大丈夫。
ついでに、assocPath
の値ではなくて関数を取るバージョンを、adjustPath
として定義しちゃいましょう。
const adjustPath = (path, func, xs) => R.assocPath(path, func(R.path(path, xs)), xs);
関数型プログラミングは関数という小さな単位が基本要素なので、組み合わせの際に小回りが利いて実に便利ですな。サクサク新しい関数を作れちゃう。今回作成した関数群は唐揚げ弁当問題に特化していない、汎用的なものなので再利用できそうですしね。
というわけで、これらの関数群をutility.mjs
としてまとめた上で、もう一度関数型プログラミングしてみましょう。
import R from 'ramda';
import {adjustPath, maxIndexBy} from './utility';
const lunchBoxes = [{'唐揚げ': {count: 10}, '玉子焼き': {count: 1}},
{'唐揚げ': {count: 8}},
{'唐揚げ': {count: 6}}];
const canEatIndex = (foodName, lunchBoxes) => maxIndexBy(R.path([foodName, 'count']), lunchBoxes);
const eatWithFinger = (foodName, lunchBoxes) => adjustPath([canEatIndex(foodName, lunchBoxes), foodName, 'count'],
R.dec,
lunchBoxes);
export default function main() {
const eatKaraageWithFingerFiveTimes = R.apply(R.pipe)(R.repeat(R.curry(eatWithFinger)('唐揚げ'), 5));
console.log(eatKaraageWithFingerFiveTimes(lunchBoxes));
}
おお、ちょー短い。canEatIndex
は数量が最も大きい食材のインデックスを返すこと、eatWithFinger
はその食材の数量をデクリメントすることが、コードからすぐに分かります(adjustPath
という関数が何するのかは、R.adjust
から推測できるはず……ということにしてください)。
で、上のコードで注目して頂きたい点が、もう一つあります。
今回書き直した際にcanEatIndex
を別の関数に分割したわけですけど、手続き型の場合は、このように関数を分割するのはかなり勇気がいります。だって、別にした関数の中でlunchBoxes
を変更していないことを確認するには、その関数の中身を確認しなければならないわけですからね。今回みたいに単純なプログラムならいいですけど、でも、大きなプログラムだったり、複数人で開発していたりしたら? 関数型プログラミングは副作用を嫌いますから、関数型プログラミングしていればそんな心配は不要となります(ちなみにeatWithFinger
にも副作用はありません。新しいリストを返しますから)。うん、私は関数型プログラミングな人で良かったなぁと。
参考
関数型プログラミングはまず考え方から理解しよう ←元ネタ。
唐揚げつまんでみた ←Haskellやっぱりすげー。Haskell的な書き方をJavaScriptでもやっていてすげー。
PHPでも唐揚げつまんでみた ←PHPでHaskellライクにやってます。すげー。
Ramda ←とても便利。おすすめ!
functional-programming-with-es6-and-ramda ←本稿で作成したコードです。