この記事は NSSOL Advent Calendar 2020 16日目の記事です。
なにを書くかなーと考えてたときに、この記事が書きかけのまま放置されていたのでこれを機に書き上げることにしました。
新しいツールを使おう
使おう、なんていきなり言ってみましたが、皆さんは新しいツールを使っていますか?
最近はほんとに便利なものが多くて、今年はコロナによる生産性の危惧もあり、よりツールを求める気持ちが多い年だったのではないでしょうか。
今回は、そんな「 新しいツールを使う 」とき、個人的に気にしていることを整理してみます。
ところで、ツールってどこまで?
ツールと言っても、
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ソフトウェアツール
- ZoomやらSlackなど、何か論理的なもの
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ハードウェアツール
- イスやモニタといったファシリティからドライバーなどの工具まで、何か物理的なもの
のように、実体の有無で大別されるところはありますが、「 何かを便利にし、不便を解決するもの 」という大きな意味での存在理由に変わりはないでしょう。
モノによっては特に違う考えが必要な場合もあると思いますが、今のところ特に強く意識しないように考えてみます。
それは、何をするツールなのか?
一番大事なことですが、今目の前にあるそれが「 何をするツールなのか 」というのは実はとても大事です。
マルチなツールにおいては、それこそ数多の「こういう使い方もできる」側面を持っていることと思いますが、そういったマルチさで何かを犠牲にしている場合があるので、本来的に何をするツールなのかということは、色々考えるほどにとても大事に思えてきます。
例1. Zoom
今年、特にITが関連するデスクワーカーにおいて大きく注目されたのは Zoom でしょう。
これはほとんど特徴的ですが、単に Zoom と呼ぶだけでなく「 ビデオ会議ツールZoom 」と呼ばれることも多いと思います。
このようにツール本来の特徴を知る場合には、名前につく冠や説明の枕詞がとても大事です。
実際に、Googleで検索してみても、
Zoom is the leader in modern enterprise video communications , ... (略)
と自ら宣言していますので、
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modern
- legecyなツールがあるとすれば?
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enterprise
- consumerなツールがあるとすれば?
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video communications
- video以外のツールがあるとすれば?
など、「legacyではなくmodern」「consumerではなくenterprise」「***ではなくvideo」といった特徴が感じられます。
Zoomを良く知りたいと思う場合、競合であるTeamsやWebExなどと比較して特徴を掴むことになりますが、結局は「 私はビデオ会議ツールである 」っていう根っこの部分が差別化要因に強く結びついていたりしますね。
実際に、ビデオ会議ツールであることを強く意識している Zoom はビデオ会議中のチャット機能を強化しようとする様子がなく、基本的にはSlackなどのチャットツールに任せるべく、連携機能を強化しているように見えます。餅は餅屋ということで、チャットはチャットツールに、ビデオ会議はビデオ会議ツールにということですね。
例2. Dell P2419HC(23.8インチ USB Type-Cディスプレイ)
続いてはハードウェアツールとして、ディスプレイです。
一見なんの変哲もないディスプレイですが、プロフェッショナルシリーズの名を冠するだけあって、インターフェースが豊富です。
そして、特筆すべきはこのディスプレイが デイジーチェーン接続 に対応したディスプレイであるということです。
要するに、2ディスプレイを出力する場合であっても、PCからはUSB Type-Cまたはディスプレイポート1本でよく、あとはディスプレイ間の接続がディスプレイ信号をリレーしてくれるというわけです。端的に言ってこの状態になります。
USB-Type-C接続を使うと、USB PDによってPCへの給電も兼ねることができます。
また、ディスプレイ自体がUSBハブの機能を持っていることになるので、様々なものをケーブル1本にまとめることができ、PCの配線が非常にシンプルになりそうです。
何を解決するために作られたのか
果てしなく革新的なものでない限り、おそらくそのツールには類似のツールがあり、「他のものでもなんとかなるのでは?」と思うものが他にあるはずです。
しかし、後発であったとしてもそれが世に出てくるということは、何か先人に成し遂げられなかったものを成し遂げるべく登場したのではと思うことができます。
例1. Zoom
ご存じの方も多いですが、新興ビデオ会議ツールであるZoomの創業者は、かつて競合ツールであるWebExの技術責任者であったことでも知られています。
上の記事の中で、Zoom創業のきっかけとして、WebExにおける苦い思いを語っています。
私は1997年から最初のエンジニアの一人としてWebExの開発を担当しました。そしてWebExがCiscoに買収された後、最終的に技術部門のVice Presidentを務めました。しかし当時、ユーザーにヒアリングをしたところ、 WebExには誰も満足していないとわかった のです。
その時私が思ったのは「私がこの問題を作った」ということでした。そしてとても恥ずかしく思いました。自分が約14年間かけて作った製品が誰にも好かれていなかった。毎日会社へ行くのも嫌になるくらいでした。最初は問題を解決するため、WebExの再構築をCisco内で提案しました。しかし会社を説得することができず、Ciscoを去ることを決めたのです。
そして、WebExで果たせなかった思いを胸に、Zoomを創業することになります。
Ciscoを退職した後、私の目標はただ一つでした。それはカスタマーを幸せにするソリューションを提供することです。
こうしたことから、Zoomが目指すところには徹底した「 使いやすさ 」があるようですね。
例2. Dell P2419HC(23.8インチ USB Type-Cディスプレイ)
そしてまたディスプレイの話に戻ります。
PCディスプレイを取り巻くトレンドを振り返ってみると、概ねこんな感じになります。
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画面サイズの大型化
- Windows 95時代では15-17インチ程度だったものが、今や24-27インチ程度が主流に
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解像度の高精細化
- 同じくXGA(1024×768)だったものが、フルHD(1920×1080)を経て、4K(3840×2160)へ
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アスペクト比の拡大
- 4:3の四角から16:9になり、最近ではウルトラワイドの21:9やそれ以上に
そんな中にあって、ディスプレイが担ってきた機能は「ユーザに映像情報を伝える」ことでした。
それは画面サイズを大きくすることであったり、解像度を上げることで、より見やすく、より多くの情報を伝えられるようにしてきました。
しかし、人間の視野からしてこれ以上大きなディスプレイを使うことはないでしょうし、目の分解能からしてこれ以上の解像度を望むこともないかもしれません。
最も最近のトレンドでは曲面を採用したウルトラワイドディスプレイですが、これは「ディスプレイを曲げる」ことで、人間の視野をうまくカバーしつつ、インプットできる情報量を上げた製品でした。
ディスプレイの大型化や高解像度化は液晶技術の進歩によってもたらされましたが、長らく難しいとされてきた曲面技術で可能になった新しいディスプレイの姿でした。
少し前置きが長くなりましたが、今回のP2419HCの特徴とするデイジーチェーン接続は、USB Type-Cやディスプレイポートといった高い転送レートを持つ接続規格によって実現した新しい接続の形です。
これにより、何が可能になったかというと、「 より便利にディスプレイを使うこと 」だと思いました。
画像からだと少しわかりにくいのですが、この男性が使っているキーボードはPC本体に繋がっていません。
PCから伸びているのはUSB Type-Cの1本で、 キーボードのレシーバーはディスプレイ側 に挿さっています。
仕事をしていると、会議などの都合でノートPCが支給されると思いますが、自席ではマルチディスプレイにしたり、お気に入りのキーボードにしたいときもあると思います。
とはいえ、電源ケーブルからディスプレイケーブル、さらにはキーボードやマウスといったものを都度繋いだりするのも 面倒 です。
そんなところ、このディスプレイであれば、自席でしか使わないものはディスプレイ側に接続し、持ち出し先でも使うものはPC側に接続するといった綺麗な住み分けができ、その接続を行うのはUSB Type-C1本で済むというのがミソです。
こういったビジネスユースを鑑みて、「 プロフェッショナルシリーズ 」として売り出されているものと思いますが、非常によく考えられた製品デザインだなと思いました。
[参考] 技術選定の審美眼
このあたりの、「 何を目指して生まれたものなのか 」ということを考える際には、 t_wada さんの「 技術選定の審美眼 」をいつも思い出します。
こちらは今回話しているツールより、さらにメタな「技術」という観点で書かれているので、今回の流れからすると強引な引用に見えるかもしれませんがぜひ紹介したいのでご容赦ください笑
デブサミなど数多くのイベントに登壇し、この名プログラムで講演されていますが、毎年アップデートされているため復習を兼ねて毎年の公開資料を楽しく(?)読んでいます。
見たことない方はこれを機にぜひ一度読んでみてください。とても素晴らしいです。
中でも、この10ページにある「振り子と螺旋」の話はとても好きです。
ツールや技術、そしてそれらのトレンドといったものを追っていると、それらは「いつか見たような、振り子のようなもの」に感じることも多くなってきます。老害入門編かもしれませんが...。
しかし、全く同じものが再発見され、再発明されるわけではなく、一見いつか見たようなものに 新たな何かを引っ提げて回帰している というのがこのスライドで言っていることです。
ツールもまた然りで、一見して似たようなツールはたくさんあり、色々なツールが生まれては消えていきますが、そういった流れの中にもこういった振り子や螺旋が隠れていると思って試したり調べたりしています。
先に挙げたディスプレイの話なども、大きな流れで見てみると、大型化などのディスプレイ機能そのものの強化から、USB Type-Cによる利便性の強化など、それを可能にした技術を眺めていくと、それによって可能になった螺旋としての機能向上を感じることができます。
ツールのインプット/アウトプット
ツールの特徴を大づかみにみたら、あとはそのツールのインプットとアウトプットに着目します。
技術者としてはつい中身の仕組みに興味を持ったりすることも多いですが、ツールはある意味そういった仕組みをブラックボックスに覆い隠し、簡単に使わせてくれる存在とも言えます。
なので、私たちユーザがどういったインプットを与えることで、どういった素晴らしいアウトプットをしてくれるのかがツールとしての力の見せどころです。
インプットとアウトプットに着目して比較するとき、基本的な比較軸は
- より少ないインプットで同じアウトプットが出せた
- 同じインプットでよりよいアウトプットが出せた
のようなところになるでしょう。
インプット、というとピンとこないかもしれませんが、「 手間なく簡単に使えるZoom 」であったり「 USB Type-C1本で入力と出力をこなせるP2419HC 」っていうのもより少ないインプットの一例ですね。
新しいツールと出会い続けるために
きっとどこで働いていてもツールを使いこなすという点では本質的に同じだと思いますが、IT業界はソフトウェアツールに長けている観点で、他の仕事よりもツール開拓に幅があると思います。
さらに、自らその道のプロフェッショナルになるべき立場だということで、自ら発見し、自ら使い慣れていく必要があると思っています。
新しいものが日夜生まれ、日夜廃れてしまう中では、何を大事にしたらいいのか分からなくなることもあるかと思いますが、「振り子と螺旋」然り、自分なりのスタンスで新しいものを色々と見つけ、使いこなしていきたいと改めて思いました