はじめに
AIの進化により、「コードが書ける」だけではエンジニアとしての価値は頭打ちになると感じている。ChatGPTをはじめとする生成系AIの登場で、一定レベルの実装は誰でも再現できる時代になった。
だからこそ今、エンジニアには「何を作るべきか」「なぜそれを作るのか」を自分で考え、Valueに変えていく力が求められている。
今期、業務の中でオペレーション改善や業務自動化といった“コードの外側”に踏み込む場面が増えた。
その中で実感したのは、「動くものを作る」だけでは、事業の成果にはつながらないということだ。
エンジニアのValueは「実装できるか」だけではなく、「事業にどう効くか」を考えて動けるかで決まる。この記事では、そうした背景から見えてきた「事業に貢献するエンジニアに必要なこと」を6つの視点にまとめる。
1. 技術で“課題を解決する”姿勢を持つ
事業側の課題は、必ずしも「システムでこうしてほしい」という明確な形では届かない。
むしろ「最近これが面倒で」「もっと簡単にならないか?」といった雑談ベースで現れることもある。
このとき、エンジニアに求められるのは「どう作るか」ではなく、「本質的に何が困りごとなのか」を読み解き、最適な手段を考えることだ。
機能提案やツール導入にとどまらず、「この業務はなくせないか」「他の業務と統合できないか」という視点で課題に向き合うことができれば、プロダクト視点ではなく“事業視点”でValueを出せるエンジニアになれるのではと思う。
さらに、見過ごされがちなのが「表現の違い」による誤解だ。表面上の言葉だけを捉えるのではなく、背後にある目的や感情に気づける感度が、事業に寄り添う開発には必要だ。
2. 依頼の“解像度”を上げる
非エンジニアからの依頼は、具体と抽象のレベルが曖昧なことが多い。
「いい感じにして」「データを見たい」と言われても、それだけでは何をすべきかわからない。
ここで重要なのは、相手の言葉を翻訳することだ。
- 「つまり何を判断したいのか」→抽象化して目的を掘る
- 「たとえばこの列を足すとイメージ通りか?」→具体化して提案する
こうした往復の中で、依頼内容の意図や背景が見えてくる。エンジニアが能動的に解像度を上げることで、相手の“本当にやりたかったこと”を一緒に実現できる関係性を築ける。
また、依頼が「本当にそのまま実装すべき内容か?」を一歩引いて考えることで、チームの負荷や仕様の複雑化を防ぐことにもつながる。要望に応えるだけでなく、本当に必要なものかを一緒に再定義することが、信頼されるエンジニアの振る舞いだ。
3. 解決策を“仕組み”に落とす
「便利な処理」や「うまくいった対応」を都度手作業で続けていると、いずれ属人化やミス、スケーラビリティの壁に直面する。
だからこそエンジニアには、再現性のある形に変換する力=仕組み化の視点が求められる。
単に関数やバッチ処理を組むだけでなく、
- 将来の運用者が見ても理解できるようにする
- エラーが起きたときに原因が特定できるようにする
- 他の業務にも転用できる柔軟性を持たせる
こういった観点で設計された仕組みは、個人の成果ではなく、チームや組織の資産として残る。
また、仕組み化には「技術」だけでなく「運用者の体験」を織り込む視点も重要だ。マニュアル、通知など、“運用に寄り添う仕組み”を設計できると、現場からの信頼が一段と高まる。
4. 信頼される“伝え方”を工夫する
良いアウトプットでも、「ちゃんと伝わる」状態にしなければValueは半減する。
特に非エンジニアに対しては、実装の詳細よりも「どんな影響があるのか」「どう楽になるのか」といった成果ベースの伝え方が求められる。
- Before / After の図示をする
- トラブルが起きたときの対応方針を共有する
- なぜこの構成にしたかの簡潔な理由を添える
こういった情報を添えて共有するだけで、「任せても大丈夫」という安心感が生まれる。
Slackでのちょっとした一言、ドキュメントの構成図、運用フローのコメント。すべてが「伝わる品質」を上げる材料になる。
そして、何より大事なのは「聞く姿勢」だ。意見が出にくい場面で「なにか引っかかってることありませんか?」と声をかけられるエンジニアは、“話せる存在”として自然と頼られるようになる。
5. “他者視点”で設計する
エンジニアとしてValueを発揮するには、自分の作ったものが“誰にとって、どんな状況で使われるのか”を想像しながら設計することが欠かせない。技術的に正しいだけでは不十分で、使う人の視点を取り入れて初めて、本当に役立つ仕組みになる。
また、「このデータはある」と伝えるのと、「このデータをこう見せたら使いやすくなる」と提案するのでは、受け取られ方が大きく違う。利用者の温度感やスキル感覚をくみ取りながら、ちょうどよい設計を選ぶことができるエンジニアは、組織全体にとって大きなValueを持つ。
ユーザーや他職種の視点に立つには、日々のやり取りの中でどんな言葉が出てくるか、どこで詰まっているかに敏感になることが役立つ。「なぜこの質問が出るのか」「何が伝わっていないのか」を観察することが、設計改善のヒントにつながる。
6. “改善が続く”状態を設計する
一度作ったものを「完成」と見なさない。
むしろ、運用を通じて見えてくる改善ポイントを拾い、継続的に育てていくことが、事業を支える開発の本質だ。
そのためにできること:
- フィードバックが集まる導線を意図的に設ける
- 誰でも軽く改善案を出せる空気を作る
- 小さな改善を積極的に反映し、「改善してOKなんだ」という文化を作る
こうした地道な仕掛けによって、エンジニアがいなくても回り続ける仕組みと、改善が止まらないチームが作られていく。
また、「改善余地があることを否定しない姿勢」も大事だ。機能をリリースしたあとに出る指摘は、自分のミスではなく、プロダクトが成長していくチャンスでもある。そう捉えることで、チーム全体が前向きに改善と向き合えるようになる。
おわりに
事業を動かし、チームを支え、非エンジニアのパートナーとしてValueを出すには、
- 問題の本質を捉えること
- 会話を通じて意図を翻訳すること
- 仕組みとして再現・継続させること
- 安心感を与える伝え方をすること
- 改善を止めない設計をすること
こうした“見えにくいスキル”が、これからのエンジニアにとってますます大切になっていく気がしています。
と偉そうなことを書いてしまいましたが、どれも日々の業務の中で少しずつ意識してきたことです。自分も試行錯誤の連続なので、何か一つでも参考になれば嬉しいです!