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逆演算可能性

Last updated at Posted at 2015-02-08

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はじめに

この記事では逆演算可能性という定理を紹介します。

この定理は群と関連があります。どのような関連があるか見てみましょう。

前回の復習

前回は群を紹介しました。群とは、次のような条件を満たす演算の対象と演算のペアでした。

群.txt
結合律   :∀a, b, c ∈G, (a ○b) ○c = a ○(b ○c)
単位元の存在:∃e ∈G, ∀a ∈G, e ○a = a ○e = a
逆元の存在 :∀a ∈G, ∃b ∈G, a ○b = b ○a = e

(Gは集合で、a, b, cは集合Gの要素、eは集合Gの単位元、○は集合Gの二項演算です。∀は要素に付け足すことで、任意の要素を意味します。また、∃は要素に付け足すことで、要素が存在することを意味します。)

少し冗長な説明になるかもしれませんが、小さな群 {a, b, c, e} を用いて、単位元と逆元を確認してみます。

まずは、単位元を確認します。単位元は次のような関係を満たします。

単位元.txt
e ○a = a ○e = a
e ○b = b ○e = b
e ○c = c ○e = c
e ○e = e ○e = e

次に、逆元を確認します。逆元は次のような関係を満たします。

逆元.txt
a ○a' = a' ○a = e
b ○b' = b' ○b = e
c ○c' = c' ○c = e
e ○e  = e  ○e = e

ここではa'をaの逆元とし、b'をbの逆元とし、c'をcの逆元としました。架空の集合なので、適当にa'をb、b'をc、c'をaとしてもよいです。

単位元と逆元を確認することで、二つ気付いたことがあります。

一つは、単位元は集合に一つあるようだということ。もう一つは、逆元は集合の要素ごとに一つあるようだということです。

しかし、単位元が二つあることもあるかもしれませんし、逆元が集合の要素ごとに二つあることもあるかもしれません。念のため、それらを確認してみましょう。つまり、単位元が二つあると仮定して、変なことが起こらないか?または、逆元が集合の要素ごとに二つあると仮定して、変なことが起こらないか?それらを確認します。

まずは、単位元が二つあると仮定します。ここでは単位元をeとe'とします。先程と同じように、単位元を確認します。

単位元の存在.txt
∃e  ∈G, ∀a ∈G, e  ○a = a ○e  = a
∃e' ∈G, ∀a ∈G, e' ○a = a ○e' = a

この確認結果は次のようになります。

単位元.txt
e ○a  = a  ○e = a
e ○b  = b  ○e = b
e ○c  = c  ○e = c
e ○e  = e  ○e = e
e ○e' = e' ○e = e' // ☆

e' ○a  = a  ○e' = a
e' ○b  = b  ○e' = b
e' ○c  = c  ○e' = c
e' ○e  = e  ○e' = e // ☆
e' ○e' = e' ○e' = e'

☆マークのあるところに着目します。e ○e' = e' ○eが同じですが、二項演算の結果がee'になります。二項演算は写像ですから、演算の対象が同じであれば、演算の結果が一つでなければいけません。従って、ee'は同じだということが証明されます。

次に、逆元が二つあると仮定します。ここではaの逆元をa'とa"とします。先程と同じように、逆元を確認します。

逆元の存在.txt
∀a ∈G, ∃a' ∈G, a ○a' = a' ○a = e
∀a ∈G, ∃a" ∈G, a ○a" = a" ○a = e

この確認結果は次のようになります。

逆元.txt
a ○a' = a' ○a = e // ☆
b ○b' = b' ○b = e
c ○c' = c' ○c = e
e ○e  = e  ○e = e

a ○a" = a" ○a = e // ☆
b ○b" = b" ○b = e
c ○c" = c" ○c = e
e ○e  = e  ○e = e

☆マークのあるところに着目します。

まずは、a ○a' = a' ○a = eを変形します。

a ○a' = a' ○a = e

// 両辺に左からa"を演算する
a" ○a ○a' = a" ○a' ○a = a" ○e

// a" ○e = a"より
a" ○a ○a' = a" ○a' ○a = a"

次に、a ○a" = a" ○a = eを変形します。

a ○a" = a" ○a = e

// 両辺に右からa'を演算する
a ○a" ○a' = a" ○a ○a' = e ○a'

// e ○a' = a'より
a ○a" ○a' = a" ○a ○a' = a'

a" ○a ○a' = a"a" ○a ○a' = a'に着目します。a" ○a ○a'が同じですが、二項演算の結果がa"a'になります。二項演算は写像ですから、演算の対象が同じであれば、演算の結果が一つでなければいけません。従って、a"a'は同じだということが証明されます。

以上のことから、単位元は集合に一つあり、逆元は集合の要素ごとに一つあるということが証明されました。

逆演算可能性

逆演算可能性とは、次のような定理です。Gは群で、○は二項演算です。

逆演算可能性.txt
∀a, b ∈G, ∃x, y ∈G, a ○x = b, y ○a = b

この記号を解読してみましょう。逆演算可能性を解釈すると「群Gの任意の要素aとbがあり、その任意の要素に対して、次の関係を満たす群Gの要素xとyが一つある。」というような解釈になります。(任意の要素とは、集合のすべての要素の中のどれか一つの要素という意味です。)

ここで問題になることは、本当に、「次の関係を満たす群Gの要素xとyが一つある。」かどうかです。

まずは、xが群Gの要素であるかどうかを確認します。

a ○x = b

// 両辺に左からaの逆元a'を演算する
a' ○a ○x = a' ○b

// a' ○a = eより(逆元の存在より)
e ○x = a' ○b

// e ○x = xより(単位元の存在より)
x = a' ○b

// a' ○b ∈Gより(群Gの二項演算より)
x ∈G

xが群Gの要素であることが確認できました。

同じように、yが群Gの要素であることが確認できます。ここでは省略します。

次に、xが一つであることを確認します。ここでは関係を満たす要素xとx'、または、yとy'があると仮定します。(当然、xとx'は別物、同様に、yとy'も別物とする。)

a ○x  = b
a ○x' = b

// 両辺に左からaの逆元a'を演算する
a' ○a ○x  = a' ○b
a' ○a ○x' = a' ○b

// 逆元の存在より
e ○x  = a' ○b
e ○x' = a' ○b

// 単位元の存在より
x  = a' ○b
x' = a' ○b

// 群Gの二項演算より
x = x'

仮定に反して、xとx'が同一であることが確認できました。従って、xが一つであることが確認できました。

同じように、yとy'が同一であることが確認できます。ここでは省略します。

あとがき

今回は逆演算可能性を紹介しました。そして、群であれば、逆演算可能であることを確認しました。

今回は省略しましたが、結合律があり、かつ、逆演算可能である集合であれば、群であることを確認できます。つまり、逆演算可能性が単位元の存在と逆元の存在の代わりになることを確認できます。

このような感じで数学の記事をなるべく簡単な言葉で書いてみようと予定しています。

間違いに気付きましたらコメントなどで教えていただければ幸いです。

参考書

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