概要
Scrum Inc.認定資格スクラムマスター研修に行ってきました。
その内容や気付いたことをレポートします。
Scrum Inc.とは
日本のサイトはこちら(Scrum Inc. Japan)です。
KDDI株式会社、株式会社永和システムマネジメントとScrum Inc.の3社での合弁会社です。
Scrum Inc. Japan #TeamworkMakesTheDreamWork
https://scruminc.jp/
で、本家サイトはこちら。
スクラムの提唱者であるJeff Sutherland氏が作った会社です。
Scrum Inc Home - Scrum Inc
https://www.scruminc.com/
Scrum Inc.の研修と資格
Scrum Inc. Japanの研修一覧はこれです。
Scrum Inc. Japan #TeamworkMakesTheDreamWork | セミナー
https://scruminc.jp/training/
研修のラインナップとしては、Scrum@Scaleという組織全体をアジャイルな企業にする研修と、Scrum@Hardwareという製造業に適用するための研修が特徴的です。
Scrum Allianceの研修との違い
Scrumのスクラムマスターやプロダクトオーナーの研修というと、Scrum Allianceの研修のほうがメジャーです。
パブリック研修(Scrum Alliance®公認研修)|オッドイー
https://www.odd-e.jp/service_01/
双方の違いは、Scrum Inc. Japanのサイトには下記のように掲載されています。
スクラムアライアンスから認定されるCertified Scrum Master(CSM) / Certified Scrum Product Owner(CSPO)との主な違いは、
LSM/LSPOは、スクラムのオリジナル考案者であるジェフ・サザーランド博士が創業したScrum Inc.から認定されます。
LSM/LSPOの資格保有者は、専用オンラインサイトで、スクラムに関する質問をすることが可能で、質問にはジェフ・サザーランド博士を始め、Scrum Inc.のコンサルタントが回答します。
LSM/LSPOの資格保有者は、Scrum Inc.のスクラム教育オンラインコンテンツに一定期間、無料でアクセスでき、世界最高基準のスクラム教育サービスを日本語で受けることが可能です。KDDIと永和システムマネジメントによる、無料セミナーが提供されます。(予定)
んん?専用オンラインサイトの話は無かったな。聞いてみよう。
研修内容
Scrum Inc.の講師に聞いた話では「Scrum Allianceの研修は人によって内容がぜんぜん違うけれど、Scrum Inc.の研修は誰でも同じです」だそうです。
Scrum Allianceの研修は同じ資格を持っていても受けた講義や内容が変わったりするので、研修の受講者同士で同じ認識を持ちやすいのはScrum Allianceの研修なのかも知れません。
あと、Scrum Inc.は「会社全体を変えたい」という思いがあるそうで、講義の内容でも複数のスクラムチームがいかにうまく関わり合うか、という話などがちらほら出てきました。
資格の更新
まだScrum Inc.のHPには掲載されていませんが、Scrum Inc.の資格は2年更新だそうです。いま更新用のプログラムを作っているらしいです。
更新間隔はScrum Allianceと同じですね。更新の費用や難しさなどはまだわかりません。
研修の内容
全体の流れ
二日間の研修を、それぞれの午前と午後で合計4スプリントと想定して、バックログに置いてある研修を進める形で進めていきました。
この写真は、1日目が終わった状態です。
チームバックログ
研修の最初は、軽く説明があった後に、チーム作りとチームのバックログ作りをしました。
チーム作り
チーム作りは、まず研修参加者が全員で、スクラムの経験順で並びます。(経験した期間の長さで並びました)
次に何人かにインタビューをして、未経験者がどれくらい、半年以上がどれくらい、1年以上がどれくらいいるのかがわかりました。
私の経験は1年8ヶ月で、30人弱の参加者の中で上から2番目でした。
その後で、「5人から6人のチームを作ってください」と言われ、各自で自由にグループを作りました。
このグループで一つのスクラムチームという想定で、この二日間の研修を進めていきます。
ただ、所属会社、経験度合い、業種などを多様にするようにアドバイスされ、
私のチームはweb系企業、SIer、製造業、コンサルといったバラバラなチームが出来上がりました。
後でわかりましたが、住んでいる場所も福岡、大阪、東京、北海道とバラバラでした。結構色んな所から来るんですね。
もちろんスクラムの経験もバラバラで、未経験の方もいるという感じでした。
次にチームの中で、プロダクトオーナー(以下PO)とスクラムマスター(以下SM)を決めました。
未経験者は「最初は見てみたい」ということだったので、SMをやりたい本職POの私がSMをやり、POをやりたい本職SMがPOをすることになりました。
その後、2日目の午前と午後でそれぞれ別の方が担当したので、うちのチームではPOとSMを3人が経験したことになります。これはチームに任されていたので、チームによってかなり違うようでした。
あと、このタイミングでチームの名前も決めました。(めちゃくちゃ時間がかかった)
バックログ作り
次に、各チームで「この研修で学びたいこと」を出して、それをチームのバックログとしました。
この写真は、1日目が終わってある程度進んでいる状態ですね。
チームバックログ後の研修
チームが決まってからは、座学とワークショップをやるという感じでした。
座学
座学の内容はまあまあ私にとってはおさらいな所も多かったのですが、
たまに「これが当たり前」と思っていることが、実はそうじゃなかったりして、それは知識の整理ができてとても良かったです。
スクラムを始める時にはあまり区別できていなかった、スクラムとして定義されているものなのか、プラクティスの一つなのかが切り分けられていったように思います。
説明でも、そのどちらなのかを結構丁寧に話してくれました。
ワークショップ
あまり詳しく書くとネタバレになるので書きませんが、ワークショップではスクラムで行われる振り返りによる改善や、規模の見積もりによる早さ&正確さなどを体感できました。
ワークショップはどれもめちゃくちゃ盛り上がるし面白かったです。
懇親会
スクラムで人が集まると飲み会があるという印象(偏見)ですが、こちらの研修でも会場で軽くビールを飲みながら自己紹介&名刺交換する会がありました。
自分がめちゃくちゃ使ってる&好きな会社の人とかがいて、おおー!ってなったりしました。
それが結構早く解散になったので、うちのチームは追加で飲み会に行きました。
研修全体を通しての感想
構成としてうまく出来てるなと思いました。
いくつか気になった点を挙げておきます。
「スクラムを回した」という経験は出来ていない
研修を受けた皆さん、会社に帰ってスクラムを始めたりすると思います。
「実際に自分たちで1スプリント回す」という経験がこの研修にはないので、未経験の人がこの研修を受けて会社に戻って、他のメンバーに説明しながらスクラムを始めるのは、めちゃくちゃ難易度高いなーという気がしました。
もちろん部分的に流行ってるのですが、ちょっと厳しい気がします。
あと1日追加して、スクラムチームの立ち上げと1スプリントを経験する研修構成だと、より良いかなと思いました。
日数も費用も増えてしまうので、難しいかなぁ。二日目の午後を自分たちで回せたりすると・・・いや研修だとコントロールできる事が少なくて難しい気がするなぁ。
プラクティスの説明が足りていない
WorkingAgreementやDoD(完成の定義)などの説明はしっかりとされていましたが、インセプションデッキやスパイクなど、説明したほうがいいけど無いなーというものもありました。
ユーザーストーリーマッピングなどの研修がある
逆に、これはあるんだって思いました。
ペルソナを作って、エピックからストーリーを出すワークショップもやりました。
自チームのバックログをメンテナンスする時間があまり無かった
むしろゼロに近い感じで、各チームで休憩時間の合間に動かすという感じでした。
ただ、そもそも動かしているチームがかなり少なかったです。
全体的に考える時間が短め
研修にありがちで時間の都合でしょうが、もう少し長めにとってもらえると良かったなと思います。
写真撮って良い等のアナウンスがない
二日目に聞いたら「全然撮ってください!」って言われました。
全体的にあまり積極的にネットに拡散してほしいという感じがなく、日ごろ行ってる勉強会にありがちな「写真撮影OKです」とか「ハッシュタグこれです」とかは皆無でした。
この研修自体が、会社に導入する過程でその会社の人に来てもらう想定だったりするようで、あまり積極的に情報を出していないのかなと思いました。
自分のチームとスクラム研修で異なったこと
貢献時間はおよそで良い
スプリントプランニングをするための、今スプリントでどれだけの貢献時間があるか。
今のチームは各自が「xx時間」まで出して計測している。
そこまでやるのはやりすぎらしい。
まあ最終的には、プランニングにかける時間とチームのコミットできる度合いのバランスな気がしますが、試しに10%単位でざっくり出してみて、早さを体験してもいいかもしれない。
プランニングの時にタスクを全て洗い出す必要はない
タイムボックスが決まっているので、途中までしか出来なかったら、
まずはそこまでのタスクで走り始めましょうという話。
優先順位の高いものからタスクを出しているはずなので、
時間が来ちゃっても最初の着手には問題ないということなのでしょう。
今のチームはタスクの時間の合計と、自分たちの貢献時間の合計を見て最終的なコミットラインを決めているので、タイムボックス内で終わらなくても、そのまま終わるまでやって、コミットラインを確認している気がします。
レトロスペクティブで出た改善を、ストーリーにしてバックログの一番上に置く
これは今のスクラムガイドに明記されていますね。
私のチームではやっていませんでした。
障害リストを公開
スクラムチームが見るスプリントボードに、障害リストを公開しているようでした。
今まではスクラムマスターだけが他の人には見せずに管理しているものだと思っていたので意外でした。
まあ、実際は「スクラムチームの誰かが問題」みたいな公開しづらいものは別途内緒で持つような気もするけど、全部オープンにできるチームがあったらそのチームの透明性は凄いと思います。
その他印象に残ったもの
複数人PO
POが忙しすぎて時間が取れないなどの場合、
1人を外向きのPO、もうひとり補佐的な人を付けて内向きのPOとするケースが割とあるらしいです。
POは1人だというのがスクラムガイドに明記されているので、複数人POのケースを取り扱うことにちょっとびっくりしました。
セイルボート
振り返りのプラクティスとして、セイルボートというのを紹介してくれました。
自分たちを船に見立てて、向かい風となっているものは何なのか、追い風になるものはなんなのか、眼の前の岩はなんなのか、という話をするそうです。
幸福度指標
メンバーの幸福度が上がると、チームのスピードが向上するそうです。
そのため、それをスプリントごとに計測すると良いよ、というプラクティスです。
メンバーの幸福度を1から5でスコア付けする
- あなたの役割についてどう感じる?
- あなたのチームについてどう感じる?
- あなたの会社についてどう感じる?
- もっと良い感じになるには何があると良い?
幸福なチームはスプリントごとに5%〜10%ベロシティが向上するそうです。
これは、ちょっと、本当かなって気がしました。
スプリントバックログの進み具合が良くないとメンバーの幸福度は下がるし、良いと上がる気がします。なので、幸福度がベロシティに影響すると言うよりかは、ベロシティが幸福度に影響しているような気がします。
人事評価はムダ
既存組織のプロジェクトマネージャー or リーダーがやっている仕事をスクラムチームがやるとして、どんなものがありますか?また、どの役割の人がそれを担いますか?というワークショップがありました。
そこで、人事評価はムダ、むしろ邪魔になる、でもじゃあどうすれば良いかという答えは出ていない、という話がありました。
個人的にスクラムチームの人事評価に悩んでいるので、「あーそうなのかー」と思いました。
遠隔
人は8m離れると話さなくなる。
それは対面の話だけではなく、ツールを使ったオンラインコミュニケーションでも、物理的な距離が影響している。
だそうです。アレン曲線と言うらしいです。
物理的な距離がもたらす コミュニケーションへの影響 | Hello, Coaching!
https://coach.co.jp/view/20180808.html
研修の後の流れ
webサイトにログイン
翌日くらいにメールが送られてきて、Webサイトにログインできるようになります。
そこに、下記コンテンツが準備されています。
- 受講した資料
- 解説動画
- スクラムの基本(約1時間)
- スクラムの立ち上げ方(約1時間)
試験
上記webサイトで試験を受けます。
23問/30問の正解で、晴れて資格を取得できます。
ちらほら(これ、どっちとも取れるぞ・・・?)みたいに考える問題があって、私は結構ギリギリでした。
もし落ちたら、連絡して追加で25ドル支払えば再度試験を受けることが出来ます。
合格
名刺やWebサイトなどに貼れるであろうバッジが貰えます。
今後
LSPOとScrum@Scale受けてみたいなー。
あと、11月くらいに、日本にJeff Sutherland博士を呼ぶ計画があるらしいです。