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Cloudflare「AI Labyrinth」技術概要と主要機能

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はじめに

クラウドセキュリティ大手のCloudflareは2025年3月、セキュリティイベント「Security Week 2025」にて新機能「AI Labyrinth」を発表しました。

これは、AI生成コンテンツを利用して無断クロールを行うボットを“迷路”に誘い込み、時間とリソースを浪費させるという革新的な戦略です。
従来の「不正アクセスを検知したら即ブロックする」といった対策とは大きく異なり、「知らぬ間にボットを足止めし、攻撃者のコストを上げる」 ことを狙った新手法が注目されています。

背景には、近年急増するAIクローラー(AIモデルの学習用にWebを大量クロールするボット)の存在があります。
Cloudflareによれば、同社ネットワークには1日あたり500億件以上のAIクローラー由来リクエストが到達しており、これは全トラフィックの約1%にもなるそうです。
こうした膨大なAIアクセスが、Webサイトの負荷や無断データ収集のリスクを高めています。

Cloudflareはその対策として、フリープランを含む全ユーザーが無償で導入できる「AI Labyrinth」をリリースしました。
これにより、サイトオーナーは追加のコード変更や複雑な設定を行うことなく、手軽にボット対策を強化できます。


AI Labyrinthとは?

AI Labyrinthの最大の特徴は、悪意あるAIクローラーをただブロックするのではなく、AI生成の「迷路」コンテンツを用意してボットを誘導・徘徊させる点です。
具体的には次のような流れをとります。

  • 不審なアクセスを検知
    CloudflareのBot管理システムが、アクセス元IPやアクセスパターンを解析し、AIクローラー特有の振る舞いを判定。
  • 迷路コンテンツへ誘導
    正常ユーザーや善意のクローラーには通常ページを返す一方で、不審と判定したボットにはAI生成のダミーページ群を見せて、本来のコンテンツに辿り着けないよう誘導。
  • ボットの時間と計算資源を浪費
    迷路ページにはさらにダミーのリンクが貼られており、次々と無益なクロールを続けることで、攻撃側のリソース消費を引き上げる

このアプローチによって、攻撃者に防御策の存在を気づかせることなく(ブロック通知などをせずに)静かにボットを絡めとるのが狙いです。


主要機能の解説

1. AIクローラー検知と自動誘導

Cloudflareのネットワークには日々膨大なトラフィックが流入しており、その中から悪質なAIクローラーを高精度で判別する仕組みが存在します。
検出されたクローラーに対しては、通常ページの代わりに隠しリンクを介して迷路コンテンツへ誘導するのがAI Labyrinthの核となる仕組みです。

2. 生成コンテンツ迷路の仕組み

誘導先として用意されるのが、AIが事前生成した多彩なトピックのダミーHTMLページです。
見た目は自然な文章で、本物のWebサイトのように見えますが、実際にはサイト固有の情報は含まれていません。

ボットがリンクを辿ると次々と別のページへ進んでしまい、必要なデータをほとんど取得できないまま計算資源を費やすことになります。

3. 隠しリンクとSEOへの影響回避

生成コンテンツへのリンクは、HTMLに nofollownoindex のタグが付与され、検索エンジンや正規クローラーに無害な形で埋め込まれます。
CSSによって人間の利用者には表示されないため、SEOやユーザー体験を妨げる心配がないのも大きなメリットです。


アーキテクチャと技術スタック

実装面では、Cloudflareのエッジサーバーレス基盤「Workers」「Workers AI」(エッジ上でAIモデルを動かす技術)が中心的な役割を果たしています。
迷路コンテンツはバックグラウンドの事前生成パイプラインでまとめて作られ、CloudflareのオブジェクトストレージであるR2に保存・キャッシュされます。

以下のようなフローを想定すると分かりやすいでしょう:

  1. クライアントがWebサイトにアクセスすると、まずCloudflareエッジがリクエストを受け付ける
  2. ボット検知エンジンがAIクローラーを疑うアクセスを判定したら、ページ内に隠しリンクを注入
  3. ボットはこれを踏み、AI生成のダミーページを巡回し続けてしまう
  4. 迷路ページやリンクはCloudflareのR2から直接返されるため、オリジンサーバー負荷を増やさない

Workers AIでは、オープンソースの大規模言語モデルを活用して様々なトピックの文章を生成し、その内容をサニタイズ(不正スクリプトや機密情報を除去)して配信します。
こうして常にボットが見破りにくい多様なページ
を用意することで、より効果的に足止めできる仕組みになっています。


他製品との比較・利点

従来の対策手法との違い

従来のボット対策では、CAPTCHA静的なハニーポットリンク、あるいは即時ブロックといった方法が主流でした。
これらは攻撃者にすぐ対策を悟られて手法を切り替えられる、誤検知でユーザーを煩わせる、といったデメリットがありました。

一方、AI Labyrinthはボットに対して「ブロックされている」ことを悟らせず、偽のページを延々とクロールさせるため、攻撃者は容易に対抗策を練りにくくなります。
さらに、この迷路設計自体が巧妙なハニーポットとして機能し、辿ったボットの指紋や行動パターンをCloudflare全体で共有することで、「一度の検出が全ユーザーの防御強化に繋がる」 というネットワーク効果も得られます。

ネットワーク効果と防御効果

Cloudflareには世界中のサイトが接続しているため、どこか1つのサイトで捕捉した不審ボット情報が他のすべてのサイト保護にも役立つ点が大きな利点です。
加えて、正規ユーザーや検索エンジン(GoogleやBingなど)には通常ページをそのまま返すため、サイト訪問者の利便性を損なう心配がありません。


導入事例・効果と今後の展望

導入手順と運用方法

導入は非常にシンプルです。Cloudflareダッシュボードの「SecurityBots」設定画面内にある「AI Labyrinth (Beta)」のスイッチをオンにするだけで、追加設定やコード修正なしに迷路機能が有効化されます。

また、既知のAIクローラー(OpenAIなど)を直接ブロックするオプションもあり、用途に応じてブロックと迷路誘導の両方を柔軟に切り替え可能です。

期待される効果と将来のアップデート

AI Labyrinthは発表直後の新機能ですが、Cloudflareは「今後さらに生成コンテンツの巧妙化・自動最適化を進め、ボットが見破りづらい迷路を継続的にアップデートしていく」と述べています。
特に不正なスクレイピングやAIモデルへの無断データ収集を抑止できる効果が期待され、サイトの負荷軽減独自コンテンツの流出防止といった恩恵が得られるでしょう。


まとめ

  • AI Labyrinthは、無断クロールするAIボットを静かに「迷路」へ誘導し、時間と計算リソースを浪費させる革新的な防御策。
  • 従来の即ブロック型対策と異なり、攻撃者に気付かれにくいため、いたちごっこ的な対策変更を最小化できる。
  • Cloudflare Workers/Workers AI事前生成パイプラインを活用し、サイト固有の負荷を増やさない設計。
  • フリープランを含むすべてのCloudflareユーザーが手軽に導入可能で、ボット検知データはクラウド規模で共有されるため、ネットワーク効果による防御強化が期待できる。

今後はさらにコンテンツ精度を上げていく計画が示されており、悪質なAIクローラーの対抗策として継続的なアップデートが進む見込みです。
ITセキュリティ担当者Web管理者開発者にとって、注目しておきたい最新トレンドと言えるでしょう。


参考資料

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