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多様な AI エージェント設計パターン22選を比較

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はじめに

近年、LLM(大規模言語モデル)の普及により、「AIエージェントをどう設計するか?」が非常に注目を集めています。
単純に「1回のプロンプトで応答する」だけでなく、複数ステップに分割したり、ツールや他のエージェントと連携するなど、多彩なワークフローが生まれました。

これまでAIエージェントのワークフローについて解説してきましたが、この記事では解説したAIエージェントの簡単な比較をしていきたいと思っています。

本記事では、前回までの連載で扱った各種パターン(Anthropic Cookbook の 5 大パターンから始まり、ReAct、Self-Reflective、Tree-of-Thoughtなどの拡張、さらにはメモリ重視型やデジタルツインベースなどの「さらに先を行く」アプローチまで)を一挙に整理します。

最後には、それらのパターンをいくつかの評価軸で星(★)をつけて比較した表も掲載します。
すべてをマスターする必要はありませんが、どのようなタスクに、どの構成が向いているかのヒントになれば幸いです。


1. Anthropic Cookbook の 5 大パターン

Anthropic が公開している Cookbook に掲載されている代表的な 5 つのワークフローです。
いずれも「基本の型」として非常に参考になるので、最初に押さえておくことをおすすめします。

  1. Prompt-Chaining

    • 複雑なタスクを複数ステップに分割し、前段結果を次のプロンプトに引き継ぐ。
    • 順序依存が高い処理や、ドキュメント分析などに好適。
  2. Parallelization

    • 依存がないサブタスクは並列実行して高速化。
    • 同型タスクの一斉処理(大量のレビュー要約など)に有効。
  3. Routing

    • 入力内容によって「どの LLM / プロンプトを使うか」を自動で切り替え
    • 多岐にわたる問い合わせを扱うサポートなどに向く。
  4. Evaluator-Optimizer

    • 生成 → 評価 → 修正を繰り返して、品質をブラッシュアップする。
    • コード生成や論文作成など、高精度が必須のタスクで効果大。
  5. Orchestrator-Workers

    • 中央のオーケストレーターがタスク分割し、複数のワーカーエージェントで並行または段階実行。
    • 専門性が異なるサブタスクを一元管理するときに有効。

2. 拡張パターン 6 種

上記 5 パターンだけでも十分使いこなせますが、さらに一歩進んだ拡張パターンも存在します。

  1. ReAct (Reason+Act)

    • Reason(思考)とAct(行動)を交互に実行し、ツール呼び出しの結果(Observation)を反映しながら進める。
    • 検索や計算など外部APIをうまく活用したいケースに。
  2. Self-Reflective(内省)エージェント

    • 同一モデルが自分の出力を自己チェック&修正するフローを組み込む。
    • 別の評価モデルを使わずに改善できる手軽さが魅力。
  3. Tree-of-Thought (ToT)

    • 複数の思考パスを並列に分岐・探索して、途中で評価しながらベスト解を選ぶ。
    • アイデアブレストや複雑なパズル解答に向く。
  4. Plan & Execute

    • まず全体の計画(Plan)を立て、それに沿ってステップを実行(Execute)。
    • 大きなタスクで工程管理がしやすく、複数のLLM/人員との連携もしやすい。
  5. Human-in-the-Loop

    • 要所要所で人間がレビュー・修正する仕組みを組み込み、安全性や品質を担保。
    • 法的リスクの大きい文書などに必須。
  6. RL(強化学習)ベース or 自己学習エージェント

    • 報酬を設定し、エージェントが試行錯誤しながら自律的に最適化を行う。
    • ゲームAIや継続的なマーケティング戦略最適化などに応用。

3. さらに発展したパターン 6 種

ここからは、やや研究色が強くなるパターンです。

  1. Hierarchical / Modular Multi-Agent

    • Orchestrator-Workers を多層構造に拡張し、各レイヤーに専門エージェントを配置。
    • 大規模プロジェクトや組織的分業の反映に適する。
  2. Emergent Behavior in Multi-Agent Systems

    • 多数のエージェントを相互にやり取りさせることで、創発的なアイデアや解が生まれることを狙う。
    • 戦略シミュレーションやブレスト用途で面白い結果が期待できる。
  3. Hybrid Symbolic-Neural

    • ルールベース / シンボリック推論 と、柔軟なニューラルモデル(LLM) を組み合わせる。
    • 医療や法律など厳密性が求められる領域で、誤りをルールでカバーしやすい。
  4. Continual Learning (継続学習) エージェント

    • 運用しながら新情報を取り込み、モデルを常に更新していく。
    • 最新性が重要な分野(ニュース、SNS動向など)で効果的だが、学習設計は要注意。
  5. Memory-Centric アーキテクチャ

    • 大容量の外部メモリ(ベクトルDBなど) をフル活用し、長期的な文脈を参照。
    • ユーザの履歴管理、長期的アシスタントなどで威力を発揮。
  6. Socratic (対話駆動) エージェント

    • エージェントがユーザーに質問を返しながら最適解を共創する。
    • コンサルティングや教育現場でのインタラクティブ活用に。

4. 「さらに先を行く」5 種

ここでは、未来志向の研究トピックとして挙げられるパターン群をご紹介します。

  1. Evolutionary (遺伝的) エージェント

    • 遺伝的アルゴリズムを組み込み、エージェントを世代交代しながら進化させる。
    • ロボット制御やゲームAIなどで高パフォーマンスが期待される。
  2. Digital Twin / Simulation-Based エージェント

    • 物理空間や製造ラインなどをデジタルツインで再現し、仮想環境で安全に試行錯誤。
    • 工場の自動化、交通システム最適化、自動運転シミュレーションなどに。
  3. Neuromorphic / Brain-Inspired エージェント

    • スパイキングニューラルネットなど脳型ハードウェアを利用し、超並列・低電力を目指す。
    • エッジAIやリアルタイム処理に有効だが、まだ研究的要素が強い。
  4. Self-Aware / Meta-Cognitive エージェント

    • エージェントが自分の知識や認知限界を理解し、不足があれば他エージェントや外部情報にアクセス。
    • 新規領域への挑戦やリスク管理が必要なシナリオに。
  5. Large-Scale Socioeconomic Agent-Based Modeling

    • 大量の「経済主体(家計、企業、行政)」をエージェント化し、社会経済の複雑な動きをシミュレーション
    • 政策評価や都市計画、環境問題などマクロな観点の研究に利用。

5. パターンの関連性

これらのパターンは相互に組み合わせやすく、階層的に発展しながらも、「特化した役割をどう協調させるか」「評価・フィードバックをどこで入れるか」「外部ツールやメモリをどう活用するか」といった設計要素で繋がっています。
以下の図は、4つの記事で紹介された AIエージェント・パターンをまとめた全体像です。基本パターン → 拡張パターン → 高度パターン → 未来的パターンの順に階層的に配置し、類縁のあるパターン同士を矢印で簡易的につないでいます。


6. パターン別:星(★)を使った比較表

ここまで紹介した合計 22 パターンを、5 つの評価項目(実装難易度 / スケーラビリティ / 精度向上 / 可解釈性 / 追加コスト)でざっくり比較しました。

パターン 実装難易度 スケーラビリティ 精度向上の余地 可解釈性 追加コスト
1. Prompt-Chaining ★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★
2. Parallelization ★★ ★★★★★ ★★ ★★ ★★★
3. Routing ★★★ ★★★★★ ★★★ ★★★ ★★
4. Evaluator-Optimizer ★★★ ★★ ★★★★ ★★★ ★★★
5. Orchestrator-Workers ★★★★ ★★★★ ★★★ ★★ ★★★
6. ReAct [Reason+Act] ★★★ ★★★ ★★★ ★★★★ ★★★
7. Self-Reflective [内省] ★★★ ★★★ ★★★ ★★ ★★★
8. Tree-of-Thought [ToT] ★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★ ★★★★
9. Plan & Execute ★★★ ★★★★ ★★★ ★★★ ★★
10. Human-in-the-Loop ★★ ★★ ★★★★ ★★★★★
11. RL [強化学習] ベース ★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★ ★★★★
12. Hierarchical / Modular Multi-Agent ★★★★★ ★★★★★ ★★★ ★★ ★★★★
13. Emergent Behavior [Multi-Agent] ★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★★★
14. Hybrid Symbolic-Neural ★★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★
15. Continual Learning ★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★ ★★★★
16. Memory-Centric アーキテクチャ ★★★ ★★★ ★★★ ★★ ★★★
17. Socratic [対話駆動] ★★ ★★ ★★★ ★★★★ ★★
18. Evolutionary [遺伝的] ★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★★★★
19. Digital Twin / Simulation-Based ★★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★ ★★★★★
20. Neuromorphic / Brain-Inspired ★★★★★ ★★★★ ★★★ ★★ ★★★★★
21. Self-Aware / Meta-Cognitive ★★★★★ ★★★ ★★★★ ★★ ★★★★
22. Large-Scale Socioeconomic ABM ★★★★★ ★★★★★ ★★★★ ★★★★★

星評価の簡単な見方

  • 実装難易度
    • ★1~2:比較的導入しやすい
    • ★4~5:アーキテクチャ設計や管理がかなり複雑
  • スケーラビリティ
    • ★5:大規模データや大量同時リクエストでも対応しやすい
    • ★1:小規模・限定的環境向け
  • 精度向上の余地
    • ★5:高度なタスクほど効果が見込める
    • ★1~2:単純タスクに向く
  • 可解釈性(デバッグ容易性)
    • ★5:ステップや根拠が追いやすい
    • ★1:ブラックボックス化しやすい
  • 追加コスト(APIコール、学習、ツール連携など)
    • ★5:大幅にコスト・リソースがかさむリスク
    • ★1:比較的安価に回しやすい

7. AIエージェントの組み合わせ例

実際のプロジェクトでよく見られるパターン同士の組み合わせ例を 3 つ紹介します。
単独で使うよりも、複数パターンを組み合わせることで相乗効果が期待できます。

組み合わせ例1:Prompt-Chaining + ReAct + Evaluator-Optimizer

  • 基本構造

    1. [Prompt-Chaining] でタスクを複数ステップに分割
    2. [ReAct] スタイルで必要なツール呼び出しや外部APIの結果を適宜反映
    3. [Evaluator-Optimizer] で出力内容をチェック&修正し品質向上
  • ねらい
    1回で終わらせず何度か思考・行動を繰り返しつつ、最終段階で評価と修正を入れることで精度と安全性を高める

図解

  1. Prompt-Chaining:まず大きなタスクを複数ステップに整理
  2. ReAct:思考プロセスを逐次的に可視化しつつ、必要に応じて外部ツール・APIを呼び出す
  3. Evaluator-Optimizer:最終的な出力を検証し、必要があれば修正して品質を底上げ

組み合わせ例2:Routing + Orchestrator-Workers + Memory-Centric

  • 基本構造

    1. [Routing] によりタスク内容やドメインに応じてエージェント/LLMを振り分け
    2. [Orchestrator-Workers] で複数の専門エージェントを一括管理
    3. [Memory-Centric] な外部データベースを参照し、長期的・横断的な情報を共有
  • ねらい
    多彩なサブタスクが同時進行しても一元管理しやすく、かつ長期情報を使い回すことで効率を上げる。

図解

  1. Routing:ユーザのリクエスト内容から、どのエージェント/LLMが最適かを振り分け
  2. Orchestrator-Workers:振り分けられたタスクを複数の専門エージェントが担当し、進捗をオーケストレーターが管理
  3. Memory-Centric:やり取りの履歴や外部データを一括管理し、長期的なコンテキストや横断的な情報活用を可能に

組み合わせ例3:Tree-of-Thought + Emergent Behavior + Human-in-the-Loop

  • 基本構造

    1. [Tree-of-Thought] でアイデアを分岐・探索しながら最良解を模索
    2. [Emergent Behavior] として複数エージェント同士で議論させ、新たなアイデアが出るのを期待
    3. [Human-in-the-Loop] で重要なステップは人間がレビュー・フィードバック
  • ねらい
    エージェントだけでなく、複数モデル&人間が関わる形を取り、創発的な解を得つつ重要局面での安全性・妥当性を担保する。

図解

  1. Tree-of-Thought:問題解決のために複数の思考パスを並行して試行し、候補を広げる
  2. Emergent Behavior:複数のエージェントを協調・議論させることで、思いもよらないアイデアを創発
  3. Human-in-the-Loop:最終的・重要なステップで人間が介入し、レビューや微調整、責任の所在を明確化

8. まとめと活用のヒント

  1. シンプルに始めたいなら…
    • Prompt-ChainingParallelization などが比較的取り組みやすい。
  2. 複数領域の問い合わせや専門モデルを使い分けたいなら…
    • RoutingOrchestrator-WorkersHybrid Symbolic-Neural などを検討。
  3. 精度重視でリスクが許されないなら…
    • Evaluator-OptimizerSelf-ReflectiveHuman-in-the-Loop の併用が有効。
  4. 高度な創造性や試行錯誤が欲しいなら…
    • Tree-of-ThoughtEmergent BehaviorEvolutionaryRLベース といったアプローチ。
  5. 長期間のやり取り・大規模シミュレーションが必要なら…
    • Memory-CentricContinual LearningDigital Twin / SimulationLarge-Scale Socioeconomic ABM などが視野に入る。

参考リンク


おわりに

AIエージェントの設計手法は、今まさに進化し続けている領域です。
Anthropic Cookbook に載っている基本パターンや、ReAct、Tree-of-Thought のように論文で提案された先端的手法、さらにはメモリ重視やデジタルツイン型など、組み合わせ次第で無限の可能性が広がるといっても過言ではありません。

まずはシンプルなものから試し、慣れてきたら徐々に拡張パターンを取り入れるのが王道です。
最終的には、自社や自分のプロジェクトに最適化された独自のエージェントアーキテクチャを作ってみてください!

本記事が、その第一歩となれば幸いです。

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