動作確認
前回の投稿にありますように、ラムダ算法の簡約器を作っていました。 その簡約器が動作するようになったため、いよいよ本命である Montague 文法に応用してみました。残っていた簡約器の仕様不適合も修正し、Montague 文法により生成したラムダ式から論理式を生成するところまでを達成しました。
以下は、自然言語から生成される様子です:
DCGの活用
Montague文法の記述には、N-Prolog のライブラリである DCG(Definite Clause Grammar)を活用しました。
以下は、そのコードの一部です:
:- use_module(dcg).
:- use_module(lambda).
sentence(Sem) -->
noun_phrase(NP),
verb_phrase(VP),
{ Sem = [NP, VP] }.
% every man → l(P, forall(X, implies(man(X), [P, X])))
noun_phrase(l(p, forall(x, implies(man(x), [p, x])))) -->
[every, man].
% loves Mary → l(X, loves(X, mary))
verb_phrase(l(x, loves(x, mary))) -->
[loves, mary].
% ?- phrase(sentence(S), [every, man, loves, mary]).
% ?- phrase(sentence(S), [every, man, loves, mary]),reduce(S,X).
このように、DCGにより文法構造を簡潔に記述することができます。
現状ではまだ「外延」と「内包」などの意味論的な理解は浅いですが、文法の拡充を通じて、より深い理解に到達することを目指しています。
ニューロシンボリックの可能性
近年話題となっている LLM(大規模言語モデル)は非常に強力ですが、以下のような弱点があります:
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出力が確率的で、推論の根拠が不透明であること
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膨大な電力・計算資源を必要とすること
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意味論的な整合性や推論力に限界があること
一方で、人間の脳はわずかなエネルギーで非常に高度な論理的推論を実現しています。
これは、おそらく「前頭葉の発達による論理思考能力」によるものと考えられます。
古典的な論理プログラミングで研究されてきたシンボリックな推論は、まさにこの「論理思考」に相当します。
これを LLM と統合することができれば、より効率的かつ意味的に信頼性の高い人工知能が実現できるのではないかと考えています。
Montague文法は 20世紀にすでに存在した理論ですが、Prolog による動作する実装例はこれまでほとんど見られなかったように思います。今回の私の実装はささやかなものではありますが、これをきっかけに古典的な理論に再び光が当たることを願っています。
日本の第5世代コンピュータ計画をふり返って
1980年代、日本は「第5世代コンピュータプロジェクト」という国家的プロジェクトを立ち上げました。これは新たな計算モデルの構築を目指す意欲的な試みでしたが、期待されたような成果は得られず、一般には「失敗」と捉えられています。個人的には、当時のハードウェア能力に対して理想が高すぎたのではないかと感じています。しかし、プロジェクトの方向性そのものは決して間違っていたとは思いません。その後、ハードウェアの性能は飛躍的に向上し、深層学習が現実のものとなりました。同様に、かつては力不足だった古典的理論の実装も、現代の計算環境では十分に実用化できる時代になっています。
今後の展開
今回の試みはあくまで個人的な趣味的研究ですが、なにかしら世の中のお役に立てたら嬉しく思います。
Prolog は大学では今でも教えられている言語ですが、学生たちはその意義を実感しにくいように思います。しかし、LLM に代表される現代AIの限界や課題に立ち向かううえで、Prolog や論理プログラミングは再評価されるべきだと私は信じています。
本研究が、そうした学生たちの知的好奇心を刺激し、学びへの意欲につながるのであれば、私自身の小さな努力も何らかのかたちで世界に貢献できるかもしれません。
これからも、心のおもむくままに研究を続けていくつもりです。