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AMD Zen 5 における AVX-512 命令の実行方式と並列性に関する詳細解説

Last updated at Posted at 2025-02-01

はじめに

近年、CPU アーキテクチャの進化とともに、SIMD 命令の実行効率がアプリケーション性能に大きな影響を与えるようになっています。特に、AMD の Zen シリーズでは、AVX 系命令の実装方式により、演算性能や電力効率が大きく変化します。
本記事では、Zen 4Zen 5 における AVX-512 命令の実行方式の違い、さらに SMT(Simultaneous Multithreading)と SIMD ユニットの関係について詳しく解説し、16 コア/32 スレッド環境での並列実行の可能性についても考察します。


1. Zen 4 における AVX-512 命令の実行方式

1.1 内部データパスと実行サイクル

  • 内部データパス幅
    Zen 4 では、AVX-512 命令はサポートされていますが、内部的なデータパスは 256 ビット幅 です。
    そのため、512 ビット幅の AVX-512 命令を実行する際は、内部的に 256 ビット単位に分割され、2 サイクルで実行される「ダブルポンプ」方式が採用されています。

  • メリットと課題
    この方式は、既存の 256 ビットデータパスを有効活用する一方、1 サイクルでの実行ができないため、ベクトル演算のスループット面で制約があります。また、全コアで高負荷の AVX-512 命令を実行すると、システム全体の電力供給・熱設計面での課題も顕在化する可能性があります。

1.2 Zen 4 の特徴を表で整理

項目 Zen 4 の特徴
内部データパス幅 256 ビット
512 ビット AVX-512 命令の実行方法 256 ビット単位に分割し、2 サイクルで実行(ダブルポンプ方式)
実際の同時実行可能数 1 コアあたり 1 SIMD ユニット(物理コア数分)

2. Zen 5 における AVX-512 命令の実行方式の改良

2.1 Zen 5 の主な改良点

  • 内部データパスの拡張
    Zen 5 では、内部のデータパスが 512 ビット幅 に拡張されました。
    これにより、512 ビットの AVX-512 命令を1 サイクルで実行することが可能となり、従来の Zen 4 に比べて大幅なスループット向上が実現されています。

  • 電力・熱管理の改善
    高い実行効率を実現するため、システム全体での電力供給や熱設計の改善も施されています。
    ただし、全コアで AVX-512 命令を連続して高負荷実行する場合、システムリソース(電力・熱・メモリ帯域など)のバランスが重要となります。

2.2 Zen 5 の特徴を表で整理

項目 Zen 5 の特徴
内部データパス幅 512 ビット
512 ビット AVX-512 命令の実行方法 1 サイクルで実行可能
実際の同時実行可能数 各物理コアが 1 SIMD ユニットを持つ(16 コアなら最大 16 並列実行)

3. SMT と SIMD ユニットの関係

3.1 SMT(Simultaneous Multithreading)について

  • 基本構成
    現代の多くの CPU(AMD Zen 4/Zen 5 含む)は、1 コアあたり 2 スレッドの SMT を採用しています。これにより、1 物理コア内で論理的には 2 つのスレッドが存在します。

3.2 SIMD ユニットの共有

  • 1 コアあたりの SIMD ユニット
    Zen 5 においては、各コアは 512 ビット幅の AVX-512 命令を 1 サイクルで実行可能な 1 つの SIMD ユニット を搭載しています。
    SMT により 2 つのスレッドが存在しても、この SIMD ユニットは共有されるため、同時に 2 つの AVX-512 命令を独立して実行することはできません。

3.3 並列実行可能な命令数

  • 16 コア/32 スレッド環境の場合
    • 物理的には 16 コア分の SIMD ユニットが存在するため、最大 16 個の AVX-512 命令が同時に 1 サイクルで実行可能です。
    • 32 スレッド全てで同時に 512 ビット幅の AVX-512 命令を実行することは、各コアの SIMD ユニットが共有されるため、物理的に不可能となります。

3.4 SMT の利用に関する注意点

  • AVX-512 の性能を最大限に発揮するには
    場合によっては SMT を無効化し、物理コア単位で並列処理を行う方が、AVX-512 命令の実行効率が向上することもあります。
    これは、1 コアあたり 1 つの SIMD ユニットがあるため、論理スレッド数を増やしても実際の並列実行能力は変わらないためです。

3.5 SMT と SIMD ユニットの関係を示す図


4. Zen 4 / Zen 5 における「ダブルポンプ方式」と「ネイティブ 512 ビット」の比較イメージ

以下の Mermaid 図では、Zen 4 のダブルポンプ方式と Zen 5 のネイティブ 512 ビット実装を簡易的に示します。

Zen 4 では、同じ 512 ビット長の命令を実行するのに実質的に 2 サイクルが必要ですが、Zen 5 では 1 サイクルで実行できます。
ただし、高負荷時には周波数スケーリング(後述)が発生する可能性があるため、常に 2 倍の性能が出るというわけではありません。


5. まとめ(Zen 4 / Zen 5 の比較早見表)

Zen 4 と Zen 5 の違いを、主に AVX-512 命令実行の観点からまとめます。

アーキテクチャ Zen 4 Zen 5
内部データパス幅 256 ビット (AVX-512 はダブルポンプ) 512 ビット (AVX-512 をネイティブ実装)
512 ビット命令実行 2 サイクルで実行 1 サイクルで実行
周波数スケーリングの傾向 AVX-512 実行時にクロックダウンしやすい可能性あり ネイティブ化により緩和される見込みだが実測依存
SMT (1コアあたり) 2 スレッド 2 スレッド
SIMD ユニット数 1 コアあたり 1 ユニット 1 コアあたり 1 ユニット
最大並列実行数(例) 16 コアで合計 16 命令 (32 スレッドでも同じ) 16 コアで合計 16 命令 (32 スレッドでも同じ)
電力・熱管理 高負荷時には供給・放熱設計に注意 高効率化されているが同様に注意が必要

6. 実運用上の考慮点

6.1 周波数スケーリング(クロックダウン)と AVX-512

AVX-512 命令を高負荷で使う場合、CPU は熱設計や消費電力をコントロールするために、全体クロックを引き下げる(クロックダウンする)可能性があります。Zen 5 で内部データパスが 512 ビットに拡張され、より効率的に AVX-512 を実行できるようになったとはいえ、

  • 全コアで AVX-512 をフル稼働
  • ベクトル演算が非常にヘビーな HPC/ML ワークロード
    などでは、周波数スケーリングによって単純な倍増スループットが得られないケースも考えられます。
    実運用やベンチマークで高負荷をかける場合は、実際に発揮できる周波数や熱・消費電力のトレードオフを把握することが重要です。

図のように、AVX-512 命令を大量に発行すると、CPU 内部で発熱や電力消費が増大し、熱/電力制御ロジックが周波数引き下げを行う場合があります。

6.2 新しい命令セット・機能の有無

Zen 5 での AVX-512 対応に加え、新たな命令セット (例: BF16、VNNI 等) がサポートされる可能性があります。
特に 深層学習推論ワークロード では、単なる倍精度 (FP64) や単精度 (FP32) のみならず、混合精度 (FP16 / BF16) や INT8 などの演算性能が重要になります。
AMD の公式ドキュメントや今後の製品リリース情報を確認し、どの程度の新命令が追加・最適化されているかを把握すると、アプリケーション最適化のヒントになるでしょう。

6.3 他アーキテクチャとの比較

AVX-512 はインテル系 CPU で先行して利用されてきましたが、一部の世代ではダブルポンプ方式を採用していたり、高負荷ベクトル演算時にクロックダウンが発生するなど、同様の制約が存在します。
Zen 5 では、内部 512 ビット幅をネイティブに実装することにより、理論上はインテル系 CPU と同等、もしくはそれ以上のスループットが期待できますが、最終的な性能は周波数、キャッシュ構成、メモリ帯域、ソフトウェア最適化など複合要素で決定されます。
自社のワークロード特性を踏まえた上で、他アーキテクチャとの性能比較を行うことも有用です。

6.4 ソフトウェア最適化とコンパイラサポート

AVX-512 を最大限活用するには、以下の点に注意が必要です。

  1. コンパイラの最適化フラグ
    • GCC や Clang、ICC、LLVM などで適切なフラグ(-mavx512f-march=znver5 など)を指定
  2. ライブラリの活用
    • BLAS(OpenBLAS や MKL)や FFT ライブラリなど、AVX-512 最適化済みのライブラリを利用
  3. 手動ベクトル化
    • 非常に性能がシビアなコードであれば、アセンブリレベルで AVX-512 を活用する、もしくは Intrinsics(C/C++)を使った手動ベクトル化を検討

ソフトウェアやアルゴリズムのベクトル化が十分に行われていない場合、たとえハードウェアが AVX-512 に対応していても想定ほどの性能向上が得られないケースがあります。

6.5 実運用のワークロード例

  • HPC(科学技術計算): 気象シミュレーション、分子動力学シミュレーション、有限要素法など
  • 機械学習 / Deep Learning: 推論だけでなく、学習フェーズでも AVX-512 が効果を発揮する場合がある
  • 画像/映像処理: 高解像度動画のエンコード、画像のフィルタリング・変換など、大規模ベクトル演算に最適
  • 金融解析: オプション取引、リスク解析など、大量の行列演算や乱数生成でベクトル演算が多用される

それぞれのワークロードの特性(演算強度、メモリ転送量、分岐の多さなど)を踏まえて AVX-512 の利点を活かせるかを検討すると良いでしょう。


7. まとめ

Zen 5 世代での AVX-512 命令のネイティブ実装は、CPU の SIMD 演算能力を大幅に向上させると期待されます。一方で、周波数スケーリングの問題や SMT 共有の制約、ソフトウェア側の最適化状況など、実際の性能を左右する要素は多岐にわたります。
本記事では、Zen 4 と Zen 5 における AVX-512 命令実行方式や SMT による並列性の違い、そして運用上の注意点などを解説しました。AVX-512 を活用した最適化を行う際は、電力・熱設計、コンパイラオプション、ベクトル化の度合いなど、多角的に検証することが重要です。


参考情報・参考文献

以上、AMD Zen 4 と Zen 5 における AVX-512 命令の実行方式および並列性に関する解説でした。
本記事が、CPU の SIMD 命令やアーキテクチャの最新動向を理解する一助となれば幸いです。


以上

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