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WebAssembly 2.0 の GC サポートは Blazor/C# にどう影響するのか? 〜GC proposal の概要とメリット〜

Last updated at Posted at 2025-01-28

はじめに

WebAssembly(以下、Wasm)のエコシステムは近年加速度的に発展しており、Wasm 2.0 ではついに標準で GC(Garbage Collection)がサポートされる見込みです。
本記事では、そんな Wasm 2.0 の GC proposal(以下、Wasm GC) と、それによって C#(特に Blazor)などの言語ランタイムが受ける影響について解説します。また、Wasm GC を使うことで得られるメリットなども合わせてご紹介します。


現状:Blazor/C# は独自の GC を同梱している

なぜ独自 GC が必要だったか

現在(2025 年時点)、.NET(Blazor)を WebAssembly 上で動作させる場合、.NET ランタイムが持つ独自のガーベッジコレクタを一緒にバンドルして実行しています。なぜなら、従来の Wasm(1.x 世代)には GC をサポートする仕組みが標準では存在せず、C# のようにオブジェクトを必要とする言語にとっては 独自インフラを用意しなければならなかった からです。

今後の移行可能性

一方で、Wasm 2.0 (GC proposal) では、Wasm がネイティブに「参照型」や「GC機能」をサポートするようになります。これにより、ランタイム側の GC を同梱しなくても、ホスト(ブラウザやその他の Wasm ランタイム)側の GC を直接利用できる可能性 が生まれます。

ただし、以下のような要素があるため、すぐに完全移行とはならない見込みです。

  1. 仕様の標準化・実装状況

    • GC proposal 自体はまだドラフトや実験的実装の段階。安定版として広く使えるようになるにはもう少し時間がかかる。
    • ブラウザや各種ホスト環境がそろって GC proposal を実装・最適化し、プロダクションレベルの品質になるのを待つ必要がある。
  2. .NET (Blazor) 側の対応

    • Blazor のランタイムは .NET CLR と同様の GC 機能を持ち、長年最適化が進められてきた。
    • 新たに Wasm の GC を利用するには大幅なランタイムの変更が必要となるため、移行には時間がかかる。
    • Microsoft が公式に「いつ移行を完了する」と明確に発表しているわけではない(2025 年時点)。
  3. 過渡期のアプローチ

    • ブラウザ実装などで実験的に GC proposal を使うことが可能になったとしても、主要なブラウザ全てが十分にサポートするまでは、オプション的な扱いに留まる可能性が高い。
    • プロダクションで幅広く使われるには、「言語ランタイムの最適化」+「主要ブラウザの安定サポート」 がそろう必要がある。

そのため、当面は「独自 GC + WebAssembly」の構成で動作し続けながら、十分に標準化と実装が進んだ段階で段階的に移行していく、というシナリオが一般的と考えられます。


Wasm GC を使うメリット

では、Wasm 2.0 (GC proposal) の GC 機能を直接利用できるようになると、どのようなメリットがあるのでしょうか。主なポイントは以下の通りです。

  1. コードサイズの削減

    • 現状、言語ランタイムごとに独自の GC を同梱しているため、Wasm モジュールのサイズが肥大化する傾向にあります。
    • Wasm 側が標準で GC をサポートすれば、不要なランタイム部品を削除でき、ダウンロードサイズの大幅削減 が期待できます。
  2. 実行パフォーマンスの向上

    • ブラウザやホスト環境のネイティブ GC を利用するため、エンジン側で高度に最適化されたガーベッジコレクションが期待できます。
    • 特に、WebAssembly VM と統合された形で最適化が行われれば、独自実装の GC より高いパフォーマンス を発揮できる可能性があります。
  3. ホストとの相互運用性向上

    • 参照型の仕組みを活用することで、JavaScript など他言語のオブジェクトとシームレスにやり取りができるようになる可能性があります。
    • 現在はポインタやメモリバッファの受け渡しが中心ですが、ネイティブに GC を利用することで、オブジェクトレベルでのやり取り が洗練されることが期待されます。
  4. ランタイム実装の簡素化

    • 言語ランタイム開発者にとって、Wasm 上で独自 GC を実装・メンテナンスするコストが減ります。
    • 代わりに、Wasm 側の GC を利用するためのバインディングや最適化に注力すればよいため、保守性や開発効率 も向上します。

Wasm 1.x と Wasm 2.0 (GC proposal) の比較

Wasm 2.0 (GC proposal) が安定実装された際に想定される、現行(Wasm 1.x)との比較表を簡単にまとめました。

項目 Wasm 1.x Wasm 2.0 (GC proposal)
GC サポート なし (独自ランタイムに任せる) 標準で GC・参照型をサポート
言語ランタイムのGC 必要 (C#, Java などは独自GCを同梱) 不要 (ホストの GC を直接利用可能になる想定)
コードサイズ ランタイム + GC 分のサイズが大きくなりがち 不要なランタイム部品を削除でき、縮小が期待される
パフォーマンス ランタイムごとに最適化度合いが異なる エンジン側の最適化をフル活用できる可能性が高い
相互運用性 JavaScript 等とは基本的に数値/ポインタの交換 参照型を用いた高度な相互運用が可能
標準化・実装状況 広く安定実装(現行ブラウザ、ホスト) まだドラフト・実験段階。主要ブラウザ実装状況

上記の通り、Wasm 2.0 (GC proposal) が浸透すれば、GC を必要とする高級言語にとっては 大きなメリット が期待されます。


まとめ

  • 現状

    • C# (Blazor) は WebAssembly 上で動作する際、独自のランタイムと GC を一緒にコンパイルしている。
    • Wasm 1.x には GC 機能がないため、これはやむを得ないアプローチである。
  • Wasm GC (Wasm 2.0) の登場

    • 標準仕様として GC をサポートし、参照型などを活用できるようにする。
    • ただし、まだドラフトや実験的実装段階で、広く実運用されるまでには時間がかかる。
  • 将来的な移行

    • Blazor (.NET) などの GC を必要とするランタイムは、Wasm GC が安定かつ各ブラウザやホストで実装された段階で移行する可能性が高い。
    • パフォーマンス向上やコードサイズ削減、相互運用性向上などが期待される。
  • 今後の展望

    • 当面は独自 GC + WebAssembly という形で開発が進むものの、Wasm GC が十分に成熟すれば、ネイティブ GC に移行 する流れが一般的と予想される。

Wasm のエコシステムは依然として急速に進化しており、GC proposal を含めた標準仕様の拡張は今後ますます注目を集めるでしょう。Blazor/C# に限らず、Java, Kotlin, Dart など GC を必要とする他の言語ランタイム も恩恵を受ける可能性が高いため、引き続き動向をウォッチしたいと思います。


参考リンク

今後のアップデートによっては、大きな変化が予想される領域です。仕様が安定してきたら、再度チェックしてみようと思います。


以上

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