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強化学習モデルで支える取引アルゴリズムの機械学習基盤設計: AWS、シンプルなプロトタイプ構成

Last updated at Posted at 2025-08-02

はじめに

近年、金融市場におけるアルゴリズム取引、特に機械学習(ML)を活用したシステムトレーディングは、多くのエンジニアや投資家にとって魅力的な領域となっています。市場の膨大なデータをリアルタイムで分析し、人間では捉えきれない複雑なパターンを抽出することで、新たな収益機会を創出する可能性を秘めているからです。

しかし、アイデアを形にし、予測モデルを構築するだけでは、実用的なトレーディングシステムとして成功させることはできません。開発したモデルをいかにして24時間365日、安定的に、かつ効率的に本番環境で運用し続けるかという、より実践的なエンジニアリングの課題が立ちはだかります。

本シリーズでは、MLシステムトレーディング基盤を構築する上で直面するであろう、様々な技術的課題に焦点を当てます。MLモデルの継続的な学習とデプロイを自動化するMLOps、クラウド費用を最適化するアーキテクチャ、市場の急変動やシステム障害に耐えうる可用性とレジリエンス、そして迅速なアイデア検証を可能にするプロトタイピングまで、多角的な視点からその設計思想と実践的なノウハウを解説します。

本稿では、その中でも特に「シンプルなプロトタイプ構成」に焦点を当て、その具体的な構成と実装のポイントを深掘りしていきます。

この記事は個人の勉強・練習のために書いたもので、所属企業や業務とは一切関係ありません。

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ストーリー

弊社では近年のアルゴリズム取引におけるAI活用の進展を受けて、深層強化学習を活用した自動トレーディング手法の実証を進めている。本プロジェクトは、初期フェーズとして、リスクを抑えつつも迅速な検証が可能なシンプルなクラウド構成を実現することを目的としたプロトタイプの構築である。

背景・目的

  • 社内での機械学習を活用したトレーディング戦略の探索が増えており、特に深層強化学習によるポートフォリオ最適化やエントリー/エグジット判断のアルゴリズムへの関心が高まっている。
  • 検証のたびに手作業でインフラ構築を行う非効率を排除し、継続的な学習・評価を可能とするMVP(Minimum Viable Product)を構築したい。

利用者・規模

  • 主な利用者: 社内のクオンツエンジニア、データサイエンティスト
  • 同時アクセス数: 数人程度(並列実験は最大5ジョブ程度)
  • 利用時間帯: 平日9:00〜20:00中心(但し、夜間バッチ処理も想定)

要件定義

  • 機能要件:
    • 過去の株価データを元に深層強化学習モデルを訓練・評価したい
    • 複数のハイパーパラメータ設定での実験を簡単に切り替えたい
    • 学習済みモデルの保存・再利用ができること
    • トレーディングロジックのシミュレーションと結果の可視化が可能であること
  • 非機能要件:
    • パフォーマンス: GPUによる学習を活用し、1実験を数時間以内に完了したい
    • 可用性: 低可用性でも許容(実験失敗時のリトライで対応可能)
    • コスト: 初期構築と月額運用で数万円〜十数万円程度を目標
    • セキュリティ: 社外にデータが漏洩しないようIAM管理とアクセス制限を徹底

制約

  • 使用技術の制限: 主要なクラウド(AWS/Azure/GCP)の中から1社を選定、オープンソース利用を前提とする
  • チーム体制・スキルなど: 少人数(2〜3人)での開発・運用を想定。クラウド/MLに一定の知見あり

予算規模

  • 初期構築費: 〜30万円
  • 月額運用費: 5〜10万円以内を目安

期待収益

  • 中長期的にはトレーディング戦略の自動化による運用効率化
  • 将来的にはアルファ戦略の商用展開に活用するための基盤を提供

成功基準

  • 深層強化学習モデルによる複数回の学習・評価実験が安定して実行できること
  • システムのセットアップが自動化されており、新しい戦略検証に即時着手できること
  • 学習済みモデルの保存・呼び出し、結果の可視化までが一連のワークフローで完結すること

awsのシステム構成

レイヤー 使用サービス
操作画面(フロントエンド) Amazon ECS Fargate(Web UIホスティング、最小構成でデプロイ)
API / バックエンド AWS Lambda(ビジネスロジック処理) + Amazon API Gateway(HTTP API)
トレーディング実行環境 AWS Lambda(イベント駆動で簡易にトレード処理)
学習環境 ローカル環境(学習処理) + Amazon S3(学習済みモデル(.h5)アップロード先)
学習用データ保存 Amazon S3(構造化・非構造化データ保存、低コスト・高耐久)
学習済みモデル保存 Amazon S3(h5ファイルをアップロード・APIで使用)
認証・認可(必要最低限) IAMロール(Lambda・S3アクセス用の最小構成)
ログ・監視(簡易) Amazon CloudWatch Logs(Lambdaのログ確認)
ネットワーク・セキュリティ デフォルトVPC(最小構成)、IAMポリシーでのアクセス制御

aws.png

まとめ

このプロトタイプ構成は、深層強化学習によるシステムトレーディングのPoC(概念実証)を迅速かつ低コストで回すことを目的とした最小限の設計である。将来的な本番構成やレジリエンス設計に向けた足がかりとして、まずはシンプルかつ継続的に改善可能なアーキテクチャを立ち上げることが本プロジェクトのゴールである。

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