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【Ruby】pryによるREPL駆動開発

Last updated at Posted at 2020-12-15

Rubyの強力なREPLであるpryの基本的な使い方と、RubyのREPL駆動開発について記します。

REPL駆動開発とは、REPLを中心とする開発スタイルのことです。REPL駆動でない一般的な開発フローは、

  1. プロジェクトのソースコードを編集する
  2. 実行可能な段階になったら、開発環境にデプロイするなどして動作を確認する
  3. 上手くいかないところを直す
  4. 1.に戻る

ですが、2.の段階まで仕上げるのは結構時間がかかり、その間に間違いも犯しやすいです。一方、REPLを開発の中心に据えると、コードを手軽に実行でき、内部の状態も把握しやすいため、コーディングのフィードバックが非常に早く得られます。

pryのインストール

pryをインストールするには、以下のコマンドを実行します。

$ gem install pry pry-doc

MacやLinuxで、ルート権限でない場合は、以下のコマンドを実行します。

$ sudo gem intall pry pry-doc

pryは本体。pry-docがあると、Ruby組み込みのクラスやメソッドのドキュメントやソースコードを見ることができます。

インストールできたらpryを起動します。

$ pry
[1] pry(main)>

少し触ってみると、まずirbとは異なり、シンタックスハイライトや、Tabによる入力補完が効くことが分かります。

コードを書いてファイルに保存する

とりあえず、適当なコードを書いてみます。

[1] pry(main)> def fizzbuzz(num)
[1] pry(main)*   1.upto(num) do |n|
[1] pry(main)*     if n % 3 == 0
[1] pry(main)*       print "Fizz\n"
[1] pry(main)*     elsif n % 5 == 0  
[1] pry(main)*       print "Buzz\n"
[1] pry(main)*     elsif n % 15 == 0  
[1] pry(main)*       print "FizzBuzz\n"
[1] pry(main)*     else   
[1] pry(main)*       print n.to_s + "\n"
[1] pry(main)*     end  
[1] pry(main)*   end  
[1] pry(main)* end  
=> :fizzbuzz
[2] pry(main)> fizzbuzz(15)
1
2
Fizz
4
Buzz
Fizz
7
8
Fizz
Buzz
11
Fizz
13
14
Fizz
=> 1
[3] pry(main)> 

3の倍数ならFizzに、5の倍数ならBuzzに、15の倍数ならFizzBuzzに変換して、1から15までの整数を出力するコードです。でも、何かおかしいですね。15がFizzBuzzではなく、Fizzになっています。15は3の倍数でもあるから、3つ目の条件n % 15 == 0よりも先に、1つ目の条件n % 3 == 0にマッチしてしまったのが原因です。

fizzbuzzメソッド を書き直さなければいけません。しかし、また13行もタイプするのは面倒です。editコマンドを使えば、指定したメソッドをエディタで編集できます。

[3] pry(main)>edit fizzbuzz

起動したエディタで、メソッドの内容を以下のように修正し、保存してエディタを閉じれば、pryのセッションに戻ります。

def fizzbuzz(num)
  1.upto(num) do |n|
    if n % 15 == 0
      print "FizzBuzz\n"
    elsif n % 3 == 0
      print "Fizz\n"
    elsif n % 5 == 0
      print "Buzz\n"
    else
      print n.to_s + "\n"
    end
  end
end

修正したfizzbuzzメソッドをREPLで実行してみます。

[4] pry(main)> fizzbuzz(15)
1
2
Fizz
4
Buzz
Fizz
7
8
Fizz
Buzz
11
Fizz
13
14
FizzBuzz
=> 1

今度は上手くいきました。

ちなみに、editコマンドで立ち上がるエディタはデフォルトでは、MacやLinuxではnano、Windowsではnotepadだと思いますが、pryの設定ファイルで変更できます。pryの設定ファイルは、~/.pryrc、エディタのプロパティは、Pry.editorです。したがって、たとえばエディタをvimに変更したければ、以下のようにします。

$ echo "Pry.editor = 'vim'" >> ~/.pryrc

'vim'の部分は、'emacs'でも'code'でも、PATHの通ったディレクトリにある任意のエディタを指定して下さい。

プログラムが完成したので、このメソッドはファイルに保存します。ファイルに保存するには、save-file {メソッド名} --to {ファイル名}を実行します。たとえば、fizzbuzzメソッドをカレントディレクトリのfizzbuzz.rbに保存したければ、次のようにします。

[5] pry(main)>save-file fizzbuzz --to './fizzbuzz.rb'

新たにpryを起動する時に、既存のファイルを読み込む場合は、-rオプションを使います。たとえば、fizzbuzz/rbを読み込んでpryを起動したければ、以下のようにします。

$ pry -r "./fizzbuzz.rb"

コードをデバッグする

続いて、もう少し複雑なプログラムを書いてみます。バブルソートを書くことにします。隣り合う要素を比較し、昇順になっていなければ順番を入れ替えるアルゴリズムです。

[6] pry(main)> def bubble_sort(nums)
[6] pry(main)*   right_end = nums.length - 1
[6] pry(main)*   while right_end > 0
[6] pry(main)*     (0..right_end).each do |i|
[6] pry(main)*       if nums[i] > nums[i + 1]
[6] pry(main)*         nums[i], nums[i + 1] = nums[i + 1], nums[i]
[6] pry(main)*       end  
[6] pry(main)*     end  
[6] pry(main)*     right_end -= 1
[6] pry(main)*   end  
[6] pry(main)*   return nums
[6] pry(main)* end  
=> :bubble_sort
[7] pry(main)> bubble_sort([3, 2, 1])
ArgumentError: comparison of Integer with nil failed
from (pry):5:in `>'
[8] pry(main)> 

エラーが出てしまいました。Integerとnilを比較することはできないと言われています。例外がスローされているのは5行目ですから、iが何れかの値の場合に、num[i]またはnum[i + 1]nilとなり、それを比較しようとしたのが原因です。エラーの原因を突き止め、修正します。エディタでbubble_sortを編集します。

[9] pry(main)>edit bubble_sort

エラーが発生するiの値を確かめるために、以下のコードを挿入します。

def bubble_sort(nums)
  right_end = nums.length - 1
  while right_end > 0
    (0..right_end).each do |i|
      binding.pry if nums[i].nil? || nums[i + 1].nil? # <= 挿入したコード
      if nums[i] > nums[i + 1]
        nums[i], nums[i + 1] = nums[i + 1], nums[i]
      end
    end
    right_end -= 1
  end
  return nums
end

binding.pryがRuby処理系に評価されると、そのコンテクストでpryが起動します。どういうことかというと、こういうことです。

[10] pry(main)> bubble_sort([3, 2, 1])

From: /XXXXXXXX/pry-redefined(0x3fdb8dc62bec#bubble_sort):5 Object#bubble_sort:

     1: def bubble_sort(nums)
     2:   right_end = nums.length - 1
     3:   while right_end > 0
     4:     (0..right_end).each do |i|
 =>  5:       binding.pry if nums[i].nil? || nums[i + 1].nil?
     6:       if nums[i] > nums[i + 1]
     7:         nums[i], nums[i + 1] = nums[i + 1], nums[i]
     8:       end
     9:     end
    10:     right_end -= 1
    11:   end
    12:   return nums
    13: end

[1] pry(main)> 

bubble_sortの5行目を実行した時点で時が止まっています。この状態では以下のように、このスコープ内の変数などをREPLで評価することができます。

[1] pry(main)> i
=> 2
[2] pry(main)> nums[i].nil?
=> false
[3] pry(main)> nums[i + 1].nil?
=> true
[4] pry(main)> nums.length
=> 3
[5] pry(main)> 

エラーが出る直前の変数を調べて判ったことは、iが2のとき、i + 1が配列の境界外を指しているため、nums[i + 1]nilになってしまったということです。つまり、numsi番目とi + 1番目を参照するのだから、「iが0からright_end」までではなく、「i + 1が1からright_endまで、すなわちiは0からright_end - 1まで」の範囲を動かなければいけないということです。したがって、そのように修正します。

コードを再実行するには、exitを実行します。

[5] pry(main)> exit

元のコンテクストに戻ってきたら、edit bubble_sortでコードを修正します。

def bubble_sort(nums)
  right_end = nums.length - 1
  while right_end > 0
    (0..(right_end - 1)).each do |i| # <= right_end を right_end - 1 に
      # binding.pry を削除
      if nums[i] > nums[i + 1]
        nums[i], nums[i + 1] = nums[i + 1], nums[i]
      end
    end
    right_end -= 1
  end
  return nums
end

編集内容を保存して、pryのセッションに戻り、修正を確認します。

[10] pry(main)> bubble_sort([3, 2, 1])
=> [1, 2, 3]
[11] pry(main)> bubble_sort([3, 2])
=> [2, 3]
[12] pry(main)> bubble_sort([3])
=> [3]
[13] pry(main)> bubble_sort([])
=> []
[14] pry(main)>

修正が確認できましたので、ソースコードを保存します。

[15] pry(main)>save-file bubble_sort --to './bubble_sort.rb'

上の例では、変数iの値を参照しただけでしたが、もちろん通常REPLで行うのと同じように、ローカル変数に値を再代入してからコードを再実行することもできます。

[1] pry(main)> def add_tax(price)
[1] pry(main)*   tax = 1.08  
[1] pry(main)*   binding.pry
[1] pry(main)*   return (price * tax).to_i
[1] pry(main)* end  
=> :add_tax
[2] pry(main)> add_tax(1000)

From: (pry):3 Object#add_tax:

    1: def add_tax(price)
    2:   tax = 1.08
 => 3:   binding.pry
    4:   return (price * tax).to_i
    5: end

[1] pry(main)> tax = 1.10
=> 1.1
[2] pry(main)> exit
=> 1100
[3] pry(main)> 

このように、pryを使うことでコードの検証や修正が非常に迅速に行えます。

コンテクストを移動する

コンテクストとは、今どのオブジェクトやメソッドの内部にいるのかという情報です。コンテクストを移動すると、そのオブジェクトのインスタンス変数やメソッドのローカル変数を、参照したり変更したりできます。

例として、FIFOのデータ構造を表すクラスQueueと、そのインスタンスを2つ作成します。

[16] pry(main)*   def initialize(initial_list)
[16] pry(main)*     @queue = initial_list
[16] pry(main)*   end  
[16] pry(main)*   
[16] pry(main)*   attr_reader :queue
[16] pry(main)*   
[16] pry(main)*   def enqueue(value)
[16] pry(main)*     @queue.push(value)
[16] pry(main)*   end  
[16] pry(main)*   
[16] pry(main)*   def dequeue()
[16] pry(main)*     @queue.shift
[16] pry(main)*   end  
[16] pry(main)* end  
=> :dequeue
[17] pry(main)> q1 = Queue.new([])
=> #<Thread::Queue:0x00007fa61bf0b4f0 @queue=[]>
[18] pry(main)> q2 = Queue.new([])
=> #<Thread::Queue:0x00007fa617f08240 @queue=[]>
[19] pry(main)> q1.enqueue(1)
=> [1]
[20] pry(main)> q2.enqueue(2)
=> [2]
[21] pry(main)> q2.enqueue(3)
=> [2, 3]
[22] pry(main)>

コンテクストを移動するには、cd {移動先のオブジェクト}を実行します。たとえば、先程作成したq1に移動するには、以下のようにします。

[22] pry(main)> cd q1
[23] pry(#<Thread::Queue>):1>

lsで、現在のコンテクストで参照可能なオブジェクトを一覧できます。

[23] pry(#<Thread::Queue>):1> ls
Thread::Queue#methods: <<  clear  close  closed?  deq  dequeue  empty?  enq  enqueue  initial_list  length  marshal_dump  num_waiting  pop  push  shift  size
self.methods: __pry__
instance variables: @queue
locals: _  __  _dir_  _ex_  _file_  _in_  _out_  pry_instance
[24] pry(#<Thread::Queue>):1> @queue
=> [1]
[25] pry(#<Thread::Queue>):1>

現在のコンテクストから抜けて、元のコンテクストに戻るには、exitを実行します。

[25] pry(#<Thread::Queue>):1> exit
=> #<Thread::Queue:0x00007fa72c80ca48 @queue=[1]>

同様に、q2のコンテクストも覗いてみると、インスタンス変数@queueの値が異なることが確認できます。

[26] pry(main)> cd q2
[27] pry(#<Thread::Queue>):1> ls
Thread::Queue#methods: <<  clear  close  closed?  deq  dequeue  empty?  enq  enqueue  initial_list  length  marshal_dump  num_waiting  pop  push  shift  size
self.methods: __pry__
instance variables: @queue
locals: _  __  _dir_  _ex_  _file_  _in_  _out_  pry_instance
[28] pry(#<Thread::Queue>):1> @queue
=> [2, 3]
[29] pry(#<Thread::Queue>):1> exit
=> #<Thread::Queue:0x00007fa72429c4d0 @queue=[2, 3]>
[30] pry(#<Thread::Queue>):1> 

また、前セクションに書いたように、binding.pryを用いれば、実行中のメソッドのローカル変数を確認することもできます。

ドキュメントを読み書きする

作成したクラスにはドキュメントを付けておきます。ドキュメントは、所定の形式で記せばpryから閲覧することができますし、他のコマンドラインツールでHTMLなどに自動で変換することもできます。

まずは、先程作成したQueueクラスをファイルに保存します。カレントディレクトリのqueue.rbに保存するには、以下のようにします。

[30] pry(main)> save-file Queue --to './queue.rb'
queue.rb successfully saved
[31] pry(main)>

edit {ファイル名}で、保存したソースコードを編集できます。今回は、RubyのメジャーなドキュメンテーションスタイルであるYARDに従ってドキュメントを書きます。

[31] pry(main)> edit './queue.rb'
queue.rb
# FIFOのデータ構造
class Queue
  def initialize(initial_list)
    @queue = initial_list
  end

  # @return [Array] 現在のキュー
  attr_reader :queue

  # キューに値を格納する
  # @param value [*object] キューに格納するオブジェクト。
  # @return [Array] 値を格納した後のキュー
  def enqueue(value)
    @queue.push(value)
  end

  # キューから値を取り出す
  # @return [object | nil] 最も古い要素。要素が一つもない場合はnil。
  def dequeue()
    @queue.shift
  end
end

保存してエディタを閉じると、pryのセッションに戻り、編集後のコードが自動で読み込まれます。

ドキュメントを閲覧するには、show-source {クラス/メソッド名} -dを実行します。show-sourceには$というエイリアスもあります。

[32] pry(main)> $ Queue -d

From: queue.rb:1
Class name: Thread::Queue
Number of lines: 23

FIFOのデータ構造

# ソースコード。長いので略。
[33] pry(main)>
[33] pry(main)> $ Queue#queue -d

From: queue.rb:7:
Owner: Thread::Queue
Visibility: public
Signature: queue()
Number of lines: 3

return [Array] 現在のキュー

attr_reader :queue
[34] pry(main)>
[34] pry(main)> $ Queue#enqueue -d

From: queue.rb:10:
Owner: Thread::Queue
Visibility: public
Signature: enqueue(value)
Number of lines: 7

キューに値を格納する
param value [*object] キューに格納するオブジェクト。
return [Array] 値を格納した後のキュー

def enqueue(value)
  @queue.push(value)
end
[35] pry(main)> 
[35] pry(main)> $ Queue#dequeue -d

From: queue.rb:17:
Owner: Thread::Queue
Visibility: public
Signature: dequeue()
Number of lines: 6

キューから値を取り出す
return [object | nil] 最も古い要素。要素が一つもない場合はnil。

def dequeue()
  @queue.shift
end
[36] pry(main)>

その他

binding.pryで停止した後にステップ実行するにはpry-byebugが、pryをRailsで使うにはpry-railsがあります。

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