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リーマンショックがもたらした広告革命 -オーディエンスターゲティング-

Last updated at Posted at 2018-12-03

はじめに

Adventカレンダー「エンジニアのためのWebマーケティング」の4日目です。
サクッと読める記事を目標に。異論・ツッコミ大歓迎。
できるだけ専門用語を使わないように気をつけます。

それでは参りましょう

広告の歴史おさらい

昨日の記事で、広告の歴史に触れました。

広告の種類 登場した年 何にコストを払うか
純広告 1994年 時間と場所
アフィリエイト広告 1996年 成果
リスティング広告 2002年 キーワードと機会
行動ターゲティング 2005年 集団と単価
オーディエンスターゲティング 2008年 個人と単価

だんだんと、広告がアプローチする対象が「マス」→「個人」へとフォーカスしていっているのがわかります。より効果がでるターゲットに対して、最大限のアプローチをするようになってきているわけですね。

今日はその中でも、最新の広告手法「オーディエンスターゲティング」について触れていきます。

リーマンショック

いきなり話題が変わるのですが、みなさんはリーマンショックの事件を覚えていらっしゃいますでしょうか。

2008年9月に世界を震撼させたニュースですね。

  • サブプライムローンが原因
  • それを、CDO(Collateralized Debt Obligation)などの形でごちゃ混ぜに大量販売
  • 実際の債務者が資金を返済できず、焦げ付きが発生。資金回収が困難に
  • 6130億ドル(日本円で約60兆円)もの負債を出してリーマン・ブラザーズが倒産
  • 連鎖的に世界規模の金融危機が発生した

日本にも大きな影響が出てしまい、空前の不景気・就職難が発生しました。
ちなみに筆者もこのリーマンショックの煽りを受け、就職に非常に苦労をしました。

※リーマンショックについてはこの本を読むと、詳しく解説書かれているのでおすすめです。

リーマンショックが起こした副作用

このリーマン・ショック、投資銀行の経営破綻が起こったために、金融関係の職についている人は連鎖的に大量の失業が発生しました。それはIT業界も例外にならず、大量の金融系エンジニアが職を失う結果となってしまいました。多くのエンジニアが路頭に迷う結果になったのです。

失業したエンジニアが持っていた技術

さて、この失業したエンジニアたちは、それまでどんなシステムを開発していたのでしょうか。

それは、株や為替の取引をするためのアプリケーションです。

株の相場や為替市場というものは、1秒単位(もしくはそれよりも短い単位)で値が変わっていきます。「よし、ここの会社の株を買おう!」と思った次の瞬間には、株価が上がっているかもしれませんし、下がっているかもしれません。デイトレーダー(Day trader)と呼ばれる人たちは特に、その1分1秒の売買に凌ぎを削っています。

そこで、もしシステムの調子が悪くて購入が1秒遅れたら?
そもそも株価のグラフの反映が2、3秒遅かったとしたら?

きっとトレーダーの方々は、怒ってそのシステムに文句を言うでしょう。
大きなお金が動く金融の現場だからこそ、即時即反映の非常に高速なシステム設計が求められたのです。

リーマンショックで失業したエンジニアたちは、そんな「如何にリアルタイムで早く処理を完遂させるか」という部分に全力で技術を投入するような仕事をしていました。

RTBの登場

前提知識:第三者配信

本題に入る前に、少し予習を。

通常広告というのは「広告主」と「出稿先」とのやりとりで完結するのが通常でした。
簡単に言うと、「広告を出したい人」が「広告を出せる所」に対してお願いして掲載する、というイメージです。

第三者配信の登場

昨日で少し触れた「コンテンツマッチ広告」の技術について少し述べます。

上でも触れたように、従来に広告は「広告主」と「出稿先」という2つの立場から成り立っていました。しかし、コンテンツマッチ広告では、それにプラスして「広告ネットワーク」というものが登場しました。

通常の広告場合

広告主は掲載先に対してお金を払う
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コンテンツマッチ広告の場合

広告主は、「何処かはわからないが、ユーザーがニーズを持っているであろうサイト」に対して出稿します。出稿先を決めるのは広告のネットワーク。広告のネットワークに対してお金を払い、あらかじめ「コンテンツマッチ広告を出してもいいよ!」というWebサイトに対して広告が露出されるようになります。
3pas (1).png

この様に、広告主でも掲載サイトでもない立場が配信することを第三者配信といいます。

広告×金融のテクノロジー融合が起こる

話を戻しましょう。

前述のリーマンショックで職を失ったエンジニアたちが再就職したのは、広告業界でした。
アドテクノロジーと金融テクノロジーがここで融合したのです。

先程の第三者配信の技術と、金融エンジニアたちの技術の結晶の登場によって、広告の形態は大きく変化を遂げました。

彼らが元々持っていた「リアルタイムで高速に取引を処理をする技術」と、ユーザーの行動をトラッキングして最適な提案をする「行動ターゲティングの技術」を融合した新たなシステムが世の中に生を受けるのです。

超高速競り=Real Time Biddingの誕生

それがRTBReal Time Bidding)です。

みなさんは「競り」をご存知ですか?
早朝の魚市場などで行われている売買のことです。「一番多くのお金を入札した人が購入の権限を得られる」というシンプルでありながらも、非常に理にかなった手法ですね。

RTBはこの「競り」を実現するシステムです。直訳すると「リアルタイム入札」ですしね。

今までの広告は、以下のようなタイミングで掲載される機会が決まっていました。

広告の種類 出稿されるタイミング 掲載されるタイミング 掲載する人
純広告 「この場所に、この期間」と広告枠を買った時点 掲載期間がやってきたら 広告主
リスティング広告 「このキーワードをいくらで」と買った時点 ユーザーがそのキーワードで検索をしたタイミング 広告主
アフィリエイト広告 「この商品を決済までいったらいくら」と条件を勝った時点 ブログなどのサイト主がおすすめの記事を書いた時点 掲載先サイト主

それに対して、RTBは競りで広告枠を勝ち取らないと永遠に掲載できないというシステムになっています。

RTBの仕組み ~SSPとDSP~

「RTBの仕組みを使った広告枠」が掲載されているWebサイトへ行くと、訪問した時点ではその広告枠に何が表示されるかがまだ決まっていません

実は、広告枠にどの広告が掲載されるか決まるのは、「来訪してきた瞬間にユーザーの属性を読み取り、競りが開催され、競りの参加者が一番高い入札を勝ち取った瞬間」です。

つまり、こんな感じで広告が表示されます

  1. ユーザーがWebサイトに来る
  2. ユーザーのCookie情報を元に、「どんな傾向のユーザーか?」が分析される
  3. 競りのオーナーが「こんなユーザーが来たぜ!誰かこいつに広告出したいやつはいるか?」と知らせて競りを初める
  4. 競りの参加者が「うちならいくらだす!」「いや、うちはいくら出すぞ!」と競りを行っていく
  5. 最終的に一番多くの額を出した参加者に広告を出す権利が与えられる。ハンマープライス!
  6. 広告が表示される

この間、わずかコンマ何秒の間です。人間はWebサイトに来た瞬間から広告が表示されていたかのように見えます。そうです、めちゃくちゃ早いのです

勿論、競りに参加しているのは人間ではありません。
システム同士が戦っているのです。

競りの開催者:SSP(Supply Side Platform)

先程の競りの流れで、「競りを開催」し、「一番高額の落札者」に広告の配信権利付与する立場のシステムをSSP (Supply Side Platform)と言います。

SSPの役割は、掲載先の収益を最大化することです。
一番高額の落札者に権利を渡すので、自然とそうなりますよね。広告枠を持っている掲載先サイトの人間は、より高額な報酬を得られるようになります。

競りの参加者:DSP(Demand Side Platform)

対して、「競りに参加するかを判断し、必要ならば入札を行なう」立場のシステムをDSP (Demand Side Platform)と言います。

彼らは、SSPから提示されたユーザーの属性を分析し、本当に枠を買い付けるのに値する人物かを評価します。このときに、昨日解説した行動ターゲティングの頭脳が生かされます。

簡単に説明すると、
DSPが抱えている広告の中に、化粧品のものがあったとします。
SSPが@cosmeのサイトに何度も足を運んだことがあって、メイク指導のブログにも足を運んだことのあるユーザーが来たぞ!」
と提示をすると
「これは化粧品を買う可能性が高い!広告を表示しなければ!!」
と買い付けを行なうわけです。

実際にはもっと複雑な仕組みになっていますが、超簡単にいうとこんな感じです。

DSPの役割は、広告主の費用対効果を最大化することです。
「一番効果がありそうなユーザーに対して広告を表示」することで、「不要な広告表示を抑えて」、広告主が届けたい消費者へアプローチをします。勿論、入札価格が高い場合は「この費用で効果が本当にでるか?」といったことも分析します。DSPのさじ加減で、広告一つの価値というものが大きく変わるのです。

時代はオーディエンスターゲティングへ

ここまで来ると、お気づきの方もいらっしゃると思います。

そう、純広告の時代は「時間と場所」というとても大きな集団(=マス)に対して広告を配信していたのに対し、この配信システムは消費者一人ひとりに対して配信をするのです。

この粒度の細かさへアプローチできることと、リアルタイムで処理できる技術は、金融系エンジニアのノウハウあってこそのものでした。

広告主の意識の変化

広告主は今まで、「場所」や「キーワード」に対してお金を払っていたのに対し、RTBのシステムの登場で商品を買ってくれそうな「人」に対してお金を払うようになります。

今日では、RTBで飛び交う広告費は数百億、数千億という単位にまで膨れ上がっています。
実際に、我々がネットサーフィンする中であちこちでその広告枠を見るようになりました。

技術の進化により消費者へのアプローチが柔軟になりましたが、その半面で、「消費者の傾向を正しく分析すること」が重要かつ困難になってきます。

そう、広告配信は分析することが非常に大事になってきます。
広告の分析の話はまた後日のAdvent Calendarで解説します。

どうでもいい話

上述のオーディエンスターゲティングで、
筆者はなぜか化粧品や生理用品の広告が頻繁に出てきます。
「そんなWebサイトに行った覚えはないのに・・・。」といつも思います。

裏を返せば、DSPの分析機能はまだまだ発展途上だということ。
これからの広告技術の向上が楽しみです。

ちなみにお笑いやライブDVD、ゲームソフトの広告もよく出ます。
それはすぐ釣られて買ってしまいます・・・。
読まれていますね。

おわりに

明日は、そんなWebユーザーの判別に役立っている「Cookieの技術」について記述します。

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