漸近展開とは
漸近展開は, 複雑な関数$f(x)$を$x\rightarrow x_0$の極限において別の単純な関数の列$\{\phi_j(x)\}$を使って近似する方法である.
テイラー展開のように関数の定義域全体にわたって近似するものではなく, あくまでも$x\rightarrow x_0$における近似値を与えることを目的とする.
展開した数列は必ずしも収束するとは限らないが, 適当な個数の項によって元の関数をよく近似することができる.
定義
関数$f(x)$と$g(x)$が,
$$\lim_{x\rightarrow x_0}\frac{f(x)}{g(x)} = 1$$
という関係を満たすとき, 「$x\rightarrow x_0$において$f(x)$は$g(x)$に漸近する」といい,
$$f(x) \sim g(x) \quad as \quad x \rightarrow x_0$$
と書く. 一般的に$f(x)$は複雑な関数, $g(x)$は単純な関数である.
$f(x) = o(g(x))$という記号(small "o")は, $x\rightarrow x_0$のときに$f(x) \ll g(x)$, つまり$\lim_{x\rightarrow x_0}\frac{f(x)}{g(x)}=0$を意味する.
$\{\phi_j(x)\}$は, $x\rightarrow x_0$で$\phi_{j+1}(x) = o(\phi_j(x))$となるとき, $ x \rightarrow x_0$での漸近関数列という.
$f(x)$は, $\{\phi_j(x)\}$が漸近関数列で,
$$f(x) - \sum_{j=1}^{n}a_j\phi_j(x) = o(\phi_n(x))$$
となるとき, 漸近展開
$$f(x) \sim a_1\phi_1(x) + a_2\phi_2(x) + \cdots $$
を持つ, という.
別の言い方をすると, 関数$f(x)$を漸近関数列で展開し, $n$項目までの和を$S_n(x)=\sum_{j=1}^{n}a_j\phi_j(x)$, $n+1$項目以降の和を$R_n(x)=f(x)-S_n(x)$としたとき, 近似に利用する最後の項$\phi_n(x)$よりも, 無視する部分$R_n(x)$が非常に小さくなるような展開が漸近展開である.
漸近展開の例
大きな正の実数$x>0$について次の積分を考える. 普通に計算するのは難しい.
$$f(x)=\int_{0}^{\infty}\frac{\exp(-xt)}{1+t}dt \tag{1}$$
そこで, 展開
$$\frac{1}{1+t}=1-t+t^2-t^3 \cdots \tag{2}$$
を式$(1)$に代入し, ガウス積分の公式
$$\int_{0}^{\infty}t^n \exp(-xt)dt= \frac{n!}{x^{n+1}} \tag{3}$$
を使うと, 次のような数列で書くことができる.
\begin{eqnarray}
f(x)&=&\int_{0}^{\infty}\frac{\exp(-xt)}{1+t}dt\\
&=&\int_{0}^{\infty}\exp(-xt)\lbrack1-t+t^2-t^3 \cdots \rbrack dt\\
&=&\frac{1}{x} - \frac{1!}{x^2} + \frac{2!}{x^3} - \frac{3!}{x^4} \cdots \tag{4}
\end{eqnarray}
この数列の第$n$項は$g_n(x)=(-1)^{n-1}\frac{(n-1)!}{x^n}$である. ダランベールの収束判定法を使うと, どんなに大きな$x>0$をとっても, それよりもさらに大きな$n$については,
\begin{eqnarray}
\Bigg\lvert\frac{g_{n+1}(x)}{g_n(x)}\Bigg\rvert=\frac{n!}{(n-1)!} \cdot \frac{x^n}{x^{n+1}}=\frac{n}{x} > 1\tag{5}
\end{eqnarray}
となり, 数列は収束しない.
しかし, たとえば$x=10$ と置いて4次の項まで計算すると,
\begin{eqnarray}
f(10) &\approx& \frac{1}{10} - \frac{1!}{10^2} + \frac{2!}{10^3} - \frac{3!}{10^4} = 0.0914
\end{eqnarray}
となり, 数値計算によって正確に求めた $f(10)=0.09156 \cdots $とよく一致する.
これは, $f(x)$を, $x\rightarrow \infty$における漸近関数列$\phi_n(x)=\frac{1}{x^n}$と係数$a_n=(-1)^{n-1}(n-1)!$で,
$$f(x) \sim \sum_{n=1}^{\infty}a_n\phi_n(x)$$
と漸近展開した形になっており, 適切に項数を選ぶことにより良い近似が得られることが確認できる.
参考
Asymptotics and perturbation methods - Lecture 1: Asymptotic expansions