ビッグデータ、機械学習、ブロックチェーン、、、新しい技術が知られるにつれ、必ず付きまとうのが「ハイプ」です。
私は量子コンピュータに携わる人間ですので、特に量子コンピュータのハイプ(量子ハイプ)に対して問題意識を持っています。
ネットには量子ハイプが溢れていて、誤解している方も大勢います。そういったこともあり、次のような記事を書いたこともあります。
量子ハイプは、なぜいけないのでしょうか?
いくつかの観点から整理してみます。
景品表示法に違反する犯罪です
日本には不当景品類及び不当表示防止法(以下、景品表示法)という法律があります。
消費者庁のサイトから引用すると、次のような法律です。
消費者なら、誰もがより良い商品やサービスを求めます。ところが、実際より良く見せかける表示が行われたり、過大な景品付き販売が行われると、それらにつられて消費者が実際には質の良くない商品やサービスを買ってしまい不利益を被るおそれがあります。
景品表示法は、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを厳しく規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限することなどにより、消費者のみなさんがより良い商品やサービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守ります。
この景品表示法が禁止しているものに「優良誤認表示」があります。
消費者庁が公開している「事例でわかる景品表示法」には、優良誤認表示の説明として次のように記載されています。
商品やサービスの品質、規格などの内容について、実際のものや事実に相違して競争事業者のものより著しく優良であると一般消費者に誤認される表示を優良誤認表示として禁止しています。
また、次のようにも書かれています。
合理的な根拠がない効果・性能の表示は、優良誤認表示とみなされます。
適正な比較をしていないにもかかわらず、あたかも「大学合格実績No.1」であるかのように表示する予備校の合格実績広告などが、優良誤認表示の例として記載されています。
実際の性能を偽ってコンサルティングしたりサービス提供するのは優良誤認表示であり、景品表示法に抵触する犯罪です。
その技術に詳しくない一般の方をだまして不当に利益を得るのはよくないですよね。
程度が過ぎると「ハイプと言わずに景品表示法違反と言った方がいいのでは」と思いますし、消費者庁から改善指導が入ってからでは遅いですよ。。。
事実でないことを世の中に広めてしまう
事実でないことを広めてしまうと何が問題でしょうか。いくつか挙げてみます。
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誤った政策判断・投資判断をさせ、結果的に分野の発展を遅らせる
科学的エビデンスに基づかない判断としては、HPVワクチンの接種勧奨中止などが挙げられると思います。影響の大きな誤判断は生死に関わる可能性もあります。
量子ハイプで亡くなる方はいないかもしれませんが、非現実的なことに税金を投入して結果が出ないのはもったいないです。
科学的判断に基づいて分野の発展につながることに投資した方がいいですよね。 -
業界の信頼性が低下する
ハイプを許容し、はびこらせていても、いずれ化けの皮は剥がれます。そのとき、ハイプを許容していた業界はどんな目で見られるでしょうか?
量子コンピュータが発展すれば、知的財産に関わる計算を行いたくなるユーザも現れると思いますが、信頼できない人に大切なデータを預けるのは躊躇しないでしょうか? -
誤情報を元に誤った内容を学習してしまう
誤った情報があふれていると、量子コンピュータを学びたい方が、誤った内容を学習してしまう可能性が高くなります。実際、ネットを見ると、多くの方が誤情報に基づいた量子コンピュータ像を持っているように思います。
また、人間だけでなく、生成AIが質の悪いデータで学習してしまうのも心配です。
嘘も100回言えば真実になるため、量子ハイプはやめて欲しいです。
倫理観の欠如した業界になってしまう
せっかく量子コンピュータ業界に新たな人材が入ってきても、業界の先輩たちを見て「ハイプしても大丈夫なんだ」と思ってしまったら、将来的に倫理観の欠如した業界になってしまわないでしょうか?
私も新参者ですが、そういう業界になったら嫌です。
実用化まで険しい道だとしても、ハイプがはびこる倫理観の欠如した業界になって欲しくありません。
これらの観点から、量子ハイプはいけないと考えています。