使い方
このチェックリストは議論を有意義なものとするためのチェックリストです。
各項目について自身の主張や相手の主張がその項目を満たしているかを確認し、満たしていない場合はその項目について議論を行うことで、より優れた議論を行うことができるようになります。
また、このチェックリストは議論の場での利用のみならず、報告・提案等の資料作成時にも利用することができます。
1. 前提
議論の場での行動原則
- 自身の見解が最も正しいものではなかったと判明しても、その事実を受け入れる姿勢があるか
- 最も正しい見解を追求する姿勢を持ち、相手がどんな立場であっても議論や反論を受け入れる姿勢があるか
- 混乱や誤解を招く言葉の使用は極力避けること。もしそのような言葉を使う必要がある場合には、その言葉の定義を明確にし、参加者全員とその定義について合意する姿勢があるか
2. 構造
根拠と結論の関係
- 結論を支持する根拠が1つ以上存在するか
- 結論を支持する根拠が論理的に矛盾していないか
- 根拠が互いに矛盾していないか
- 「もしAならばBだが、AでないからBでもない」という形式になっていないか (前件否定)
- 「もしAならばBだから、BなのでAだ」という形式になっていないか (後件肯定)
不適切な根拠
- 自分の議論が循環推論、つまり結論が根拠になっていないか
- 隠れた仮定がないか
- あった場合それらの仮定の理由や根拠などの説明ができるか
- 根拠を支持するための客観的な証拠(エビデンス)が存在するか
- またそれら証拠が信頼できるものであるか
3. 関連性
無関係な根拠
- 提示した根拠は現時点でも通用し、結論を支える根拠となっているか (現在の状態が変わっている場合、その根拠は不適切な可能性がある)
- 結論を主張するために無理やり正当化したり、言い訳を用いていないか
- 専門外の人や偏見のある人の意見で結論を裏付けようとしていないか
- 単に大多数が受け入れているという理由で結論を受け入れさせようとしていないか
- 逆に少数しか受け入れられていないという理由で、相手の主張を拒否させようとしていないか
- 根拠を提示するのではなく「この結論を受け入れなければ好ましくない状態になる」と脅迫的に主張していないか
- 根拠を提示せずに相手の感情に付け込んで結論を受け入れさせようとしていないか (同情に訴えたり、ご機嫌取りをしたり、忠誠心を優先したり、相手の羞恥心を利用したりしていないか)
4. 許容性
言語的混乱
- あるキーワードを議論の途中から異なる意味で使ってしまっていないか
- 異なる解釈が可能なキーワードや文法を、どの意味で使っているか説明せずに用いて、根拠のない結論へと導いていないか
- 曖昧な言い回しを用いてそれを根拠としていないか (根拠には具体的な数値や事実を用いることが望ましい)
無根拠な思い込み
- 「新しい」という理由だけでそれがより良いものだと判断していないか
- 量や程度が変わると結果も変わる可能性があるかを考慮しているか
- 実際とはかけ離れた極端な例を根拠として主張していないか
- 一部に当てはまるようなことを、全てに当てはまると思い込んでいないか
- 全てに当てはまるようなことを、それを構成する部分それぞれに必ず当てはまると思い込んでいないか
- 妥当と思えるすべての選択肢を考慮しているか (=選択肢は他にもないか)
- 現状維持すべき根拠を示す際、「現状そうなっているから」という理由だけで主張していないか
5. 十分性
根拠の欠如
- 提示する根拠は「数値的」にも「強さ的」にも結論を受け入れるに十分か
- サンプルを元に結論を導く際、そのサンプルの数は十分か (特に一つの個人的な気づきを根拠として主張することは議論ではなく意見であることに注意しているか)
- 代表的ではないサンプルや、偏ったサンプルから抽出したデータを用いて結論を導き出していないか
- 反する証拠が存在しないという理由だけで、自身の主張が正しい(または相手の主張は間違っている)と捉えていないか
- 仮説を証拠や事実であるかのように扱っていないか(「もし〇〇だったら□□だったはずだ」というフレーズに注意)
- 結論を裏付けるのに不可欠な重要な証拠が無いにも関わらず議論を進めようとしていないか
因果関係の思い込み
- 最低限必要なもの(必要条件)と、それだけで確実なもの(十分条件)を混同して用いていないか
- 因果関係を極端に単純化してしまっていないか
- 時間的な前後関係だけで因果関係があると推測してしまっていないか
- 原因と結果を混同していないか
- 2つの事象同士が関連があるように見えた時、それらに因果関係があると簡単にみなしていないか (「別の事象に重要な関係性があるのではないか?」と視野を広げることが重要)
- 過去における偶然の出来事が「未来の出来事にきっと影響する」として関連付けていないか
6. 反論の有効性
反証の誤謬
- 自身の結論に対する重大な批判(問題点)への反論を用意しているか
- 相手の議論を批判する場合は、その議論の中心(核)となる部分に焦点当てているか (揚げ足をとっていないか)
- 自分の立場に反するいかなる証拠も認めなかったり、受け入れないような態度をとっていないか
- 自分の立場にとって好ましくない証拠を無視したり、除外したりするような行動をしていないか
対人論証の誤謬
- 相手の批判や議論を受け入れられず、相手個人を不快にさせるような行動をしていないか
- 相手の個人的な状況や不純な動機を理由にして、相手からの批判や議論を拒絶していないか
脱線の誤謬
- 相手の議論を歪めたり過度に単純化したり、拡大解釈したりして相手を攻撃していないか
- 相手の注意を重要ではない部分にそらして、議論の中心(核)となる部分への批判を回避しようとしていないか
- 相手の批判や議論を避ける目的でジョークや冗談を使って議論から逃れようとしていないか
参考文献
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誤謬論入門 優れた議論の実践ガイド (T・エドワード・デイマー 著)
- 本チェックリストの作成にあたり上記書籍を参考にしました。殆どの項目は本書に記載されているものですが、専門用語をできるだけ避け、より現場での利用を想定したチェックリストとなるように一部の項目を追加・削除しています。
- 本書は誤謬論の入門書として非常に優れた書籍です。誤謬論について学びたい方はぜひ読んでみてください。
なぜこのチェックリストを作成したのか
業務での会議において「時間の無駄だ」「話が全然進まない」「議題から逸れている」といったような経験をしたことはないでしょうか?私はこれまで、そのような経験をしたことが何度もあります。「これを解決する方法は何かないか?」と考えていた時にちょうどこの本を見つけ、チェックリストを作成することにしました。
人間は感情の生き物であり、感情に訴えかけて主張を通す方法も世の中に存在します。しかし感情に訴えかけることで主張を通すことは、議論の場においては望ましくありません。このチェックリストを全て満たす議論を行うことは難しいかもしれませんが、少なくともこのチェックリストを意識することで、より優れた議論を行うことができるのではないかと考えています。