はじめに
AWS DRS(AWS Elastic Disaster Recovery)は、オンプレミス環境や他のクラウドからAWSへの災害対策(DR: Disaster Recovery)を簡素化・自動化するサービスです。この記事では、AWS DRSの導入に際して検討すべき観点を整理します。
1. Market(市場・外部環境)
導入の背景
デジタルシフトの進展により、ITシステムの可用性・復旧性の要求が高まっている
災害・障害時の業務継続性(BCP)の強化が企業課題となっている
競合サービスとの比較
CloudEndure(旧製品)との違い:DRSはより簡素化され、AWSマネジメントコンソールで統合管理可能
他社クラウドDRソリューションとの違い:AWSネイティブとしての統合性・スケーラビリティ
2. Economic(経済性・コスト構造)
メリット
オンデマンド方式によるコスト最適化(実際の切り替え時までEC2等のリソース非起動)
エージェント方式のため、既存インフラへの大幅な変更が不要
デメリット
リカバリ対象となるリソースが多いと、スナップショットやストレージコストがかさむ
一部の環境(高頻度なRPOを要求されるミッションクリティカル系)では別方式の検討が必要
3. Strategy(戦略的フィット)
適用シナリオ
オンプレミスシステムをAWSへ段階的に移行したいケース
他クラウドからのDR先としてAWSを検討するケース
海外拠点から日本リージョンをDR拠点とする構成
移行パスとの連携
Rehost戦略との親和性が高く、移行前のDRからスムーズに本番化可能
他の7R戦略(Replatform, Refactor等)との併用も柔軟
4. Execution(実装・運用)
メリット
コンソールからのシンプルな操作でリカバリが可能
テストフェイルオーバー機能で定期的な検証が容易
マネージドサービスで、パッチやメンテナンスの手間が不要
デメリット
AWS DRSエージェントのインストールが必要(Windows/Linuxそれぞれ対応)
セキュリティ上、アウトバウンドのインターネット接続が必要なため閉域構成には工夫が必要
フェイルオーバー時にIAMやネットワーク設定など、若干の手作業を要する場合がある
5. Use Cases(ユースケース)
ユースケース1:オンプレミスの業務サーバのDR対策
中堅企業が自社データセンターの老朽化に伴い、AWSをDR先として設定。AWS DRSを活用して、月次でフェイルオーバーテストを実施し、BCPの信頼性を確保。
ユースケース2:多拠点展開企業のDR統合
国内外に複数拠点を持つ企業が、各拠点のオンプレミス環境をAWSの単一リージョンに集約。DRSによりシンプルかつ統一的なDR環境を構築。
ユースケース3:クラウド移行前の段階的導入
将来的なクラウド本格移行を見据え、まずはDR先としてAWSを導入。DRSを通じて既存システムの複製を確保しつつ、安定運用後に本番切り替え。
ユースケース4:東京リージョンと大阪リージョンを用いた国内DR構成
国内にDR環境を構築したい企業が、東京リージョンを本番、災対先として大阪リージョンを設定。DRSにより、地理的冗長性を確保しつつ、高速復旧を実現。
6.まとめ
AWS DRSは、コスト効率と実装の容易さを両立した災害対策の選択肢であり、特に“移行前のDR環境整備”や“段階的クラウド導入”において高い効果を発揮する。導入にあたっては、RPO/RTO要件、ネットワーク設計、監査・セキュリティ要件も含めて慎重に設計する必要があります。