6
3

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

東大卒業後、HPIビザを利用して新卒で渡英しエンジニアとして就活した話

Posted at

はじめに/自己紹介

自分は2023年に東京大学の修士課程を卒業し、3月からロンドンに移住してエンジニアとして就活し始め、5か月ほど就活に費やした末、8月から現地のテック系スタートアップ企業でバックエンドエンジニアとして働き始めました。
イギリスで働こうと思った動機やイギリスでの就活について説明することで、キャリアの浅いエンジニアやエンジニア志望の学生が海外で働くことを一つの選択肢として検討する助けになれれば幸いです。

簡単に渡英時の状況について述べると、

  • 工学系研究科技術経営戦略学専攻(TMI)出身、経営学寄りのためハードウェアやネットワークの基礎的な内容が抜けていますが一応情報系の専攻です
  • 大学の先輩が起業したAIの会社で3年半ほどフルスタックエンジニアとしてバイトしていて、渡英後もリモートワークしていました
  • 9歳までアメリカに住んでいたのでそれなりに英語は話せます(が、所詮小学校低学年レベルなのでネイティブからは程遠いです)
  • 貯金は100万円ちょっとありました

就職するまでなかなかの紆余曲折があり、参考になる部分は少なからずあると思うので紹介していきます。

動機

修士1年の夏、友達に誘われてコンサルやIT系企業など何社かの就活に参加しました。業界研究して志望動機を考えてエントリーシートを提出し、SPIなどの試験を受けてグループ面接。普通であれば頑張って就活対策をして突破するところですが、自分はこう思ってしまったんです。

「これ、しょうもなくないか」

フェルミ推定などの本来地頭の良さを測る試験がパターン問題化していることにも疑問を感じましたし、就活ガチ勢がSPI攻略のために問題を網羅して暗記してる様を見て、就活はこんな非本質的な努力を強いられるのかと嫌気がさしてしまいました。
ここで我慢して突破することも勿論可能ではあったんですが、入社時に我慢を強いられるような会社は入社後には更なる我慢を強いてくるに決まっています。そもそも、学生の本分は勉強だろうが!

また、実家で24年間ぬくぬくしてきた自分にとって、就職することへの切迫感がなかったのも問題でした。姉が海外の大学院を卒業後1年くらい実家でニートをしていたのも悪影響だったと思います。働きたいと思ってないのに志望動機をつらつらと述べるのに違和感がありました。

このような状態でしばらく就活をせずにぷらぷらしていましたが、父の友人に就活の相談に乗って貰ったり、キャリアについて考えたりしていく中で次の結論に至りました。

「海外行けばいいじゃん」

正直自分は海外に住みたいと思ったことは全くなく、一生日本で暮らしたいと思っていました(今も思ってます)。
ただ、このまま東京の実家で自堕落な生活を送っていくよりは、環境を激変させた方が面白いかなと思い、海外就職を視野に入れ始めました。

将来的に英語環境で働くことを想定した場合、日本でしっかりエンジニアとして働いて後から開発の仕方への適応や英語力で苦労するか、今苦労して海外でゼロからエンジニアとしてのキャリアを始めるかの2択になると思います。
これに対し、エンジニアとしてある程度技術力があるのに英語力が足枷となって自分のやりたいことをできないのはかなりの苦痛だと思いますし、日本企業の開発の仕方が身についてから別のやり方に適応するより最初からそのやり方に慣れてしまった方が良いと考え、とりあえず海外に行こうという気持ちになりました。

進路について多少考えるようになり、アメリカのソフトウェアエンジニアの求人を見て応募したりしましたが、アメリカは就労ビザの取得難易度が高く、経験の浅い外国人エンジニアが就職できる可能性は限りなくゼロに近いように思えました。
このとき、東大・京大卒業後5年以内ならばほぼ無条件で就労ビザ(HPI: High Potential Individual ビザ)が降りるというニュースが話題になりました。これを受け、とりあえずイギリスに行って就活してみることにしました(唐突)。

目標とする就職先

まず、前提として、日本・海外に関わらず大企業よりはスタートアップ寄りの企業で働きたいと思っていました。
自分のキャリアの一つの目標として、実現したいサービスをある程度独力で開発できるようになりたいと思っていて、そのためには大企業でサービスの一部の開発に携わるよりはシステムの全体像を把握できるくらいの規模感の会社で働いた方が良いと考えたためです。

エンジニアとして良いコードを書けるようになるだけでなく、経営陣がやりたいことに対するソフトウェア面から見た実現可能性を検討したり、システムアーキテクチャについて考えたりする経験を積むことで、こういうサービスがあったらいいなと思ったときに、それを実現するためにはどのような技術スタックを利用すれば良いかやどれくらいの開発コストがかかるかを判断できるようになりたいと思っています。

したがって、イギリスで発展しているフィンテック業界を中心に、ある程度軌道に乗ったテック系スタートアップ企業に就職することを目標としました。

海外就職について思うこと

HPIビザに関するニュースへのコメントやXの投稿を見るとあまりにも的外れな意見が多いので、ここで自分の海外就職に対する考えを述べます。

まず声を大にして言いたいのは、海外で働くということは、自分の強みを一つ捨て、不利を背負って勝負することになるということです。日本人の中で多少英語が得意であっても、実際に競合するのは現地のネイティブや海外大学を卒業した人材であり、英語力は真に完璧になって初めてディスアドバンテージではなくなります。自分は「英語が話せるから海外に行く」のは浅慮だと思いますし、「英語力でできるだけ差をつけられずにほかの能力で勝負する」のが海外での就職だと思っています。また、今後就労ビザが必要になるか否かというのは採用される際には一つの重要な基準になると思われます。

これは逆の立場になってみたら簡単にわかることだと思います。トップ企業が日本語力を売りにしている外国人を採用しますか?日本語力と英語力を両立していることに価値を見出す場合は採用するかもしれませんが、英語が得意でない場合や英語を頻繁に扱う職場でない場合にはよほどのことがない限り採用はしないと思います。

したがって、日本語力を活かさずに海外で就職することはリスクのある選択であり、英語力を長所として日本で就職するのが圧倒的に手堅い選択であると言えます。
大多数の人は普通に就職してキャリアを積みますし、キャリアを積んだ人は自分のビザを自分でサポートする必要がある場面に直面することは少ないと思うので、実際にこのビザを利用して渡英する人はかなり少ないのではないでしょうか。

自分の場合はモチベーションを高く維持することが何よりも重要なので、これらを踏まえたうえで丁度いいハンデだなくらいの気持ちでイギリスに来ました。

求人・就活の流れについて

新卒一括採用が主な日本と違い、海外では空いたポジションを埋めるために通年で採用を行います。
募集の際にはジョブディスクリプション(職務記述書)に以下の募集要項が記されます。

  • ポジション
    バックエンド、フロントエンド、フルスタック、QA、DevOps、セキュリティ、機械学習エンジニアなど
  • レベル
    Associate (Junior) -> Mid -> Senior -> Principal -> Staff というような、キャリアに応じたレベル分け
  • 技術スタック
    その会社で使っている技術スタック、および応募者に求める技術スタック

就活の際には、以下のサイトを利用しました。

  • LinkedIn
    応募する際にはほぼ確実に記入欄があり、LinkedInは採用プロセスにおいて重用されていると感じました。
    求人を探す際にも便利で、自分のレベルや技術スタックに合った仕事を見つけやすいうえ、Easy Applyを利用すれば何も記入することなく簡単に応募することができます。
  • Glassdoor
    Glassdoorは日本でいうところのOpenWorkで、会社の口コミやポジション別の年収、面接で聞かれることなど多くの情報が載っているサイトです。求人もあります。

ターゲットとした企業がスタートアップ寄りだったため、就活エージェント等は利用せず、スタートアップ企業のリストから興味のある企業を選び、その企業のウェブサイトのキャリアページから応募しました。

バックエンド・フルスタックエンジニアの就活は、だいたい以下のような流れになっていたと思います(もちろん一部省略している企業もありました)。

  • 一次面接
    人事等、採用担当者との面接。
    自己紹介、志望動機、経験、カルチャーフィットの確認が主。
  • 二次面接
    実際に入る開発チームの責任者(エンジニアリングマネージャー)との面接。
    一次面接の内容に加え技術的な質問も。
  • コーディング試験
    与えられた課題に対してコードを提出。面接しながら行う場合も。
    効率の良いコードを書くよりも保守性や拡張性のあるコードが好まれると思います。
    自分は初めてのコーディング試験を競技プログラミング感覚でやってしまって失敗し、大きく反省しました。
  • コーディング試験を踏まえた面接
    コードの設計や内容についての面接。
  • 最終面接
    CEOなど、役員と面接。

面接では主に仕事の経験について聞かれ、大学時代に勉強したことや研究について聞かれることはほとんどありませんでした。

就活Tips

ここで、自分が就活するにあたって貰ったアドバイスや、経験を通じて重要だと感じたことをいくつか述べます。

  • 履歴書は盛る/募集要件の技術スタックに合わせる
    まず、書類選考を通過しないことには話になりません。盛りましょう。
    自分は語学力の欄に英語力:ネイティブレベルと書き、面接はパッションで乗り切りました。
    また、できるだけ自分がそのポジションに合った能力を持っていることを示す必要があるので、要求に合っていればそれほど自信がないスキルでも書いた方が良いです。

  • 自分が書いたコードを見せる
    履歴書だけではコーディングスキルを判定できないため、githubに自分が書いたコードをあげたり、ポートフォリオを作成したりする必要があります。
    自分はそういったことを全くしていなかったのですが、バイト先に許可をもらってバイト先で書いたコードを限定公開のGoogle Driveにあげていました。

  • 無理そうなポジションでもダメ元で応募する
    レベルや技術スタックが合っていなくても、応募して損はないので出した方が良いです。
    自分はKotlinエンジニアのポジションに応募して5分で不採用通知を送られた会社に、1か月後にPythonエンジニアのポジションで面接してもらいました。

  • 希望年収はできるだけ言わない
    仕事に応募する際、ほとんどの場合に希望年収を聞かれます。
    このとき、低い数字を入れれば買いたたかれ、高い数字を入れれば採用してもらえません。
    そこで、「Negotiable(交渉可能)」と入力し、聞かれた際も「Market Range」と答えてできるだけ数字を言わないようにしました。どうしても数字しか入力できない場合はGlassdoorを参考にしました。
    キャリアがあれば強気に行くところですが、ないのでここは逃げるしかありません。

  • 面接ではストーリーを一つ用意する
    面接では、自分が過去に携わったプロジェクトや困難を乗り越えた経験、ジョブディスクリプションに書かれた各技能を証明するエピソードなどを求められます。
    このとき、ひとつひとつ別のエピソードを考えるのではなく、一つのストーリーでそれらをある程度網羅できるようにするとスムーズに話がしやすいと感じました。
    面接では英語にリソースを割く必要があるので、日本語での面接以上にその場で考えることを減らす必要があると思います。

全体的に、自分に不利なことは言わず、強気に攻めることが重要だと感じました。

タイムライン

11月にビザの申請を開始しました。
まず、ECCTISという機関に卒業証明書を送り、大学卒業の条件を満たしていることを確認する書類を取得しました。このとき、卒業見込みの証明はめんどくさそうだったので、学士の方の卒業証明書を利用しました(ビザの期間は博士号取得者が3年、その他は2年なのでそれで十分でした)。
続いて、語学力の証明のためにIELTSという英語の試験を受けました。
他には、資金力の証明のためにある程度残高のある通帳のコピーを送る必要がありました。
これらの書類を日本語訳する必要があるかもしれないという情報をネットで見ましたが、とりあえず日本語でゴリ押ししたら通ったので気にする必要はないと思います。

12月頭にビザ申請センターで生体認証を行い、パスポートを提出することで手続きが完了しました。
ここで留意しなければならないのが、ビザの有効期限はこの日から2年ということです。
さらに、この日から3ヶ月以内に渡英しなければならないという決まりがあります。
HPIビザに関する情報が全くない中で適当に申請していた自分にとってこれは青天の霹靂で、結果的に大学の卒業式に参加できないという事態になってしまいました。
このビザを使う予定の人はこれだけ覚えて帰ってください。

2月には修論を提出し、渡英の準備を始めないといけないなという気持ちになりました。
なんとかやる気を出してmixbという日本人向けの掲示板で住む家を探し、渡英する一週間前に住居を確保しました。

2月末、ロンドンに着きました。ロンドンについてからは父の友人に人を紹介してもらったり、その人にさらに人を紹介してもらったりとネットワーキングしつつ就活を始めました。仕事に繋がる・繋がらないに関わらず良い経験ができたと思います。

4月には、怪我していた肘が治ったので近所のブラジリアン柔術の道場に通い始めました。この道場通いを生活の軸としたことでメンタル面・健康面共に安定し、この後続く不採用通知ラッシュを耐え抜くことができたと思います。暇だったので週5で通っていました。

6月には、高校の同級生(無職)とヨーロッパ旅行をしました。このとき、最終面接まで行っている企業があり、旅行直前にどうしても今週もう一回面接させてほしいと言われたので、ドイツのホテルで最終面接を受けました。合計5人と1時間ずつくらい面接していたので、採用を確信し豪遊していたんですが、数日後にベルギーでワッフルを頬張っているときに不採用を通知されました。
ここまで不採用が続き負け癖がついてしまっていましたが、これをきっかけに気合を入れなおしました。具体的には、リモートでのアルバイトの頻度を下げたり、応募する企業の幅を少し広げたり、面接の頻出質問に対する回答を用意して多少暗記したり、ネットワーキングの基礎について勉強しなおしたりしました。

7月に入り、25歳の誕生日の翌日にようやく内定をもらえました。コーディング試験で得意なPythonではなくJavaを使ったためにあたふたしてしまったこともあり、手応えがなかったのでこれはかなり意外でした。
それまでに応募した企業は100社以上、面接した企業は10社余りだったと思います。日本に涙目敗走する未来も見えてきていたころだったので、とても安心したのを覚えています。

まとめ

少々長くかかりましたが、なんとか当初の目的通り就職することができました。
この経験を通じて、以下のものが得られたと思います。

  • 労働意欲
    物価が高く、円安がどんどん進行していったこともあり、心の底から働きたいと思うようになりました。これだけでも就活に費やした5か月は無駄ではなかったと思います。

  • 強靭なメンタル
    初めての一人暮らし・初ヨーロッパで、物価が高騰し貯金が減っていく中で毎日不採用通知を受け取り続けたことで精神が鍛え上げられました。

  • 強靭な肉体
    暇に任せて頻繁に道場に通っていたので、肉体も鍛え上げられました。ブラジリアン柔術青帯を取得し、100kg近い外国人とも問題なく組めるようになりました。

実際に働いてみて良かったこと・難しかったこと、海外スタートアップでのアジャイル開発、技術関連記事など、他にも書けることは色々あるので、気が向いたらまた記事を書こうと思います。

6
3
1

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
6
3

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?