投影座標系と球面座標系の使い分けについて
衛星データを扱い始めたばかりの頃、「緯度経度のデータでバッファ処理をしたらとんでもない結果になった」「ゾーン統計量が NULL
ばかりになる」といったトラブルにぶつかりました。原因は座標系の違いを理解していなかったことです。この記事では衛星解析初心者がつまずきやすい 球面座標系(Geographic Coordinate System) と 投影座標系(Projected Coordinate System) の違いと、その使い分けについて解説します。実際にQGISで作業する際の注意点や、富山県におけるUTMゾーンの選び方などもまとめました。
球面座標系とは?
球面座標系は「地球の表面」を三次元の楕円体として扱い、地点を緯度・経度という角度で表現する座標系です。例えばWGS84(EPSG:4326)が代表的で、GPSから得られる座標や世界地図はこの座標系で表されます。球面座標系では次のような特徴があります。
- 単位は度(°) … 緯度・経度は角度で表されるため、北緯40°と北緯41°の距離は場所によって異なります。
- 全球に適用可能 … 地球全体を一つの座標系で表せるので、広域の位置合わせや国境をまたぐデータ共有に便利です。
- 距離や面積の計算には不向き … 緯度・経度は角度のため、距離や面積を直接求めると大きな誤差が生じます。バッファ処理や面積計算は別の投影座標系で行う必要があります。
投影座標系とは?
投影座標系は地球の球面を2次元の平面に投影し、地点を x,y
座標(通常はメートル)で表現する座標系です。代表的な例がUTM(Universal Transverse Mercator)です。投影座標系では以下の特徴があります。
- 単位はメートルやフィート … バッファ距離5mと指定すればその通りの距離で処理できます。UTMでは座標がメートル単位で表されます。
- 地域ごとに最適化 … 地球は一枚の地図にぴったりと映し出せないため、各地域に適した投影法が用意されています。UTMでは地球を経度6度幅のゾーンに分割し、それぞれのゾーンで独立した投影を行います。
- 歪みは局所化 … 投影法によって形・距離・面積のどれかに特化して歪みを抑えます。広域をカバーすると歪みが大きくなるため、用途に適した座標系を選択することが重要です。
EPSG:4326 と EPSG:32653 の違い
項目 | EPSG:4326 (WGS84) | EPSG:32653 (UTM ゾーン53N) |
---|---|---|
座標系の種類 | 球面座標系 (緯度経度) | 投影座標系 (メートル) |
単位 | 度 (°) | メートル (m) |
用途 | 全球的な位置表示、GPSデータ | 日本本州中部(132°E〜138°E)の距離・面積計測 |
バッファ処理への適性 | 不適。指定した距離が角度になり、実際の距離が場所によって変わる | 適。メートル単位で正確にバッファ距離を指定できる |
面積計算への適性 | 不適。計算結果は角度単位で得られる | 適。m² 単位で直接計算できる |
富山県は経度 136〜137°E に位置しており、UTMゾーン53N(EPSG:32653)が適用範囲の中心に近いため、距離や面積を計算する際はこの投影座標系に変換するのが適切です。
QGIS における座標系の使い分け
投影座標系への変換手順
衛星データ(Sentinel-1/2等)は多くの場合EPSG:4326やEPSG:3857で提供されます。バッファ処理やゾーン統計量の計算を行う前に、次の手順で投影座標系に変換することが推奨されます。
- ラスタの場合 – QGISメニューで「ラスタ → 投影変換(ワープ)」を選び、入力レイヤを指定します。ソースCRSをEPSG:4326、ターゲットCRSをEPSG:32653に設定し、SAR画像なら最近傍補間、光学画像なら双一次補間を選択して実行します。
- ベクタ(筆ポリゴン)や点データの場合 – レイヤを右クリックし「エクスポート → 別名で保存」を選択して、出力CRSでEPSG:32653を指定して保存します。単にプロパティでCRSを変更するだけでは座標値が変換されず、地物が全く別の位置に移動してしまうので注意してください。
- プロジェクトCRSも合わせる – QGIS画面右下のCRS表示をクリックし、プロジェクトCRSをEPSG:32653に設定します。これにより、読み込んだレイヤがオンザフライで投影され、測量ツールやゾーン統計ツールが正しく動作します。
バッファ処理の注意
EPSG:4326 のままバッファ処理を実行すると、指定した距離が「角度」で解釈されます。例えば 5
と入力すると「半径5度」のバッファとなり、赤道付近では約555km、北緯45度では約393kmという具合に実距離が大きく変わってしまいます。投影座標系で処理すれば、5mなら5mのバッファが得られます。
ゾーン統計量が NULL になる原因
QGISのゾーン統計ツールで平均値や合計値がすべてNULL
になる場合、ラスタとポリゴンの座標系が一致しておらず、実際には重なっていないケースがほとんどです。以下を確認してください。
- レイヤのCRSが一致しているか – 片方がEPSG:4326、もう片方がEPSG:32653のままだと見た目は重なっていても内部的には交差していない扱いとなります。
-
ラスタの範囲とポリゴンが一致しているか – 解像度が粗すぎる、範囲外にある、NoData値が設定されている場合も
NULL
になります。
UTM ゾーンの選び方: 富山県の場合
UTM は経度6度ごとにゾーンが設定されています。UTMゾーン53Nは東経132°〜138°をカバーし、中心経線は135°Eです。富山県の経度は136°〜137°Eですのでゾーン53Nが適切です。ただし県境で138°Eを越える場合はゾーン54N(EPSG:32654)になるので、広域解析では平面直角座標系(JGD2011)など他の座標系を検討してください。
実行環境
この記事の動作確認は次の環境で行いました。お使いの環境によってはGUIやメニューの表記が異なる場合があります。
- OS: Windows 10 Pro (64bit)
- QGIS: 3.30.4 ‘s-Hertogenbosch’ (64bit)
- GISデータ: 農林水産省公開の筆ポリゴンデータ、Sentinel-2 Level-2A (L2A) タイル
- 投影座標系: EPSG:32653 (WGS 84 / UTM zone 53N)
- 球面座標系: EPSG:4326 (WGS 84)
まとめ
- 球面座標系は緯度経度を角度で表し、全球に使える反面、距離や面積の計算には向きません。
- 投影座標系は地域ごとに歪みを最小化し、メートルなどの単位で距離や面積を正確に計算できます。
- バッファやゾーン統計などの解析処理は必ず投影座標系に変換して実行し、元データのCRSはタグ付けではなく再投影で変換します。
- 富山県ではEPSG:32653 (UTMゾーン53N) が適切で、経度138°Eを越える場合はゾーン54Nや他の平面直角座標系を検討します。
この記事について
この記事は、OpenAI の GPT‑5 モデルを利用して作成しました。執筆者は衛星データ解析初心者であり、AIアシスタントと対話しながら得た知識を整理してまとめています。誤字脱字のチェックと内容の精査を行っていますが、最新の情報やソフトウェアの仕様は公式ドキュメントで確認してください。