はじめに
電子のシュレディンガー方程式を、コンピュータで解くプログラムを紹介します。
1次元の時間に依存しないシュレディンガー方程式を使って、井戸型ポテンシャルの波動関数とエネルギーを求めます。
下記のシュレディンガー方程式を使います
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+V\right)\psi=E\psi
m=9.109\times 10^{-31}kg\quad電子の質量
\hbar=1.055\times 10^{-34} J.s\quadディラックの定数
V(meV)\quadポテンシャル
E(meV)\quadエネルギー
\psi\quad波動関数
コンピュータで解く前の準備として、下図のような井戸型ポテンシャルを解析的に解きます。
ポテンシャルは、-a<x<aでは、V=0
x<=-a かつ a<=x では、V=∞
a は 10nm です。
ポテンシャルが 0 なので、シュレディンガー方程式は下記のようになります。
-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}\psi=E\psi
波動関数を下記のように予想します。
\psi=e^{\lambda x}
波動関数を2回微分します。
\frac{\partial^2}{\partial x^2}\psi=\lambda^2e^{\lambda x}=\lambda^2\psi
これをシュレディンガー方程式に代入します。
-\frac{\hbar^2}{2m}\lambda^2=E
λの値は下記のようになります。
\lambda=\pm\frac{\sqrt{2mE}\quad}{\hbar}i
波動方程式の一般解は下記のようになります。
\psi=Ae^{\frac{i\sqrt{2mE}\quad}{\hbar}x}+Be^{\frac{-i\sqrt{2mE}\quad}{\hbar}x}
-a と a では波動関数の値は 0 なので下記のようになります。
\psi(a)=Ae^{\frac{i\sqrt{2mE}\quad}{\hbar}a}+Be^{\frac{-i\sqrt{2mE}\quad}{\hbar}a}=0
\psi(-a)=Ae^{\frac{-i\sqrt{2mE}\quad}{\hbar}a}+Be^{\frac{i\sqrt{2mE}\quad}{\hbar}a}=0
上式から波動関数とエネルギーを求めると下記のようになります。
(式の変形は、少し複雑なので説明を省略します)
\psi=A_{1}\cos\left(\frac{n\pi x}{2a}\right)\quad nが奇数
\psi=A_{2}\sin\left(\frac{n\pi x}{2a}\right)\quad nが偶数
E=\frac{n^2\pi^2\hbar^2}{8ma^2}
上式から波動関数の形を描き、エネルギーを計算します。
n=1 では E=0.94meV
n=2 では E=3.76meV
n=3 では E=8.46meV
となります。
今度は、コンピュータを使って、波動関数の形とエネルギーを求めます。
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「高さ」「長さ」「傾き」を 0 のままで「ポテンシャルをセット」ボタンを押します。
E(meV)は 0.94、サンプリング幅は 1nm で、「実行」ボタンを押します。
(0.94 は前回シュレディンガー方程式を解析的に解いた n=1 の値と同じです。)
左のリストにはポテンシャルと波動関数の値が表示されます。右には波動関数の形が表示されます。(波動関数は規格化されていません)
次に、サンプリング幅を 0.5nm にします。
下記のように「サンプリング幅」「ポテンシャルをセット」「実行」の順にボタンを押します。
次に、サンプリング幅を 0.25nm にします。
下記のように「サンプリング幅」「ポテンシャルをセット」「実行」の順にボタンを押します。
「確率」ボタンを押すと、電子の存在確率を示す曲線が表示されます。
E(meV) に 3.76 と書き込み「実行」ボタンを押します。
(3.76 は前回シュレディンガー方程式を解析的に解いた n=2 の値と同じです。)
E(meV) に 8.46 と書き込み「実行」ボタンを押します。
(8.46 は前回シュレディンガー方程式を解析的に解いた n=3 の値と同じです。)
波形が複雑になると、誤差が積み重なってくるため「補正」ボタンを押して、誤差の修正を行います。
「確率」ボタンを押すと、電子の存在確率を示す曲線が表示されます。
サンプリング幅を 0.25nm で、「高さ」50、 「長さ」0.25、「傾き」0 に設定します。
下図のように、この井戸型ポテンシャルは左右対称になっています。
左右の端は V=∞ 中央は V=0 一段上は「高さ」で設定します。
「高さ」50 とは 50meV のことです。
「長さ」0.25 とは、井戸の全長の 25パーセントを意味します。(全長は 20nm です)
左右の端からそれぞれ、25パーセントを1段高くします。
「傾き」0 は外から電場がかかってない状態を示します。
全領域でポテンシャルが 0 のときは E(meV)=0.94 で波動関数の右端は 0 に収束しました。
今回の状態で E(meV)=0.94 にして「実行」ボタンを押すと下記のようになります。
E(meV)の値を予想します。2 にして「実行」ボタンを押すと下記のようになります。
あまり改善されないので 3 にして「実行」ボタンを押すと下記のようになります。
今度は右端が下がりすぎたので 2.5 にして「実行」ボタンを押すと下記のようになります。
数回、微調整を行うと E(meV)=2.727 で右端が0 になります。
「傾き」を 4 にし、「実行」ボタンを押します。
「傾き」が 4 とは、右端が +4meV 左端が -4meV になり、全体のポテンシャルが斜めに傾いた状態になります。
前回と同じ E(meV)=2.727 では右端が 0 にならないので、調整を行います。
数回、微調整を行うと E(meV)=2.6877 で右端が0 になります。
プログラムの仕組み
まず、2次の微分方程式①を2つの1次の微分方程式②③に置き換えます。
1次の微分方程式をコンピュータが処理できるように差分方程式に置き換えます。
2つの差分方程式を繰り返し計算すことで波動関数を求めます。
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+V\right)\psi=E\psi
\quad ・・・①
y=\frac{\partial}{\partial x}\psi\quad ・・・②
-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}y+V\psi=E\psi\quad ・・・③
おわりに
「確率」ボタンを押すと、電子の存在確率曲線が表示されますが、存在確率について解説します。
電子は観測するまでは、波として存在してますが、観測すると、一瞬で粒子に変化することが分かっています。
これを波束の収束と言いますが、この理論を採用すると、物理現象が非常に複雑になります。
なぜなら、未来の現象が過去に影響を与えることが可能になるからです。
この現象を回避するために、多数の並行宇宙の存在を考えます。
そうすると、存在確率とは波束が収束する位置の確率ではなく、観測者の意識がどの並行宇宙を選択するかの確率になります。
では現実はどうなっているのでしょうか。
実は「現実」というものがあるのか無いのかは誰にも分からないのです。
「現実」があったとしても、1つだけなのか、多数あるのか誰にも分かりません。
また「現実」「幻想」「夢」の違いを明確に区別ができる保証もありません。
確実なことは、「自分」には意識があり、世界を体験しているということだけです。
つまり、宇宙が1つ存在するのか、多数の並行宇宙が存在するのかは、考えやすい方を選べばよいだけです。