はじめに
こんにちは。グリー/POKELABO(グリー子会社)の品質管理を統括しております、Shumai-himeです。
私たちの組織はグリーグループで品質管理(審査/QA/CS)をしており、毎年各領域の取り組みの内容をアドベントカレンダーにまとめています。
2024年の締めくくりの記事は、ゲームQAの人材について、今感じている課題やそれに対しての対応策について書かせていただきます!
現状の課題
ゲームQAの環境はこの5‐10年で大きく変わってきていると思いますし、この先数年でさらに変わっていくように感じています。その要因をいくつかのカテゴリーにわけてまとめてみました。
モバイルゲームの変化に伴う、QA人材要件への変化
1.開発体制の多様化
昨今はモバイルゲームの規模が二極分化してきた印象を受けます。リッチなつくりで、コンテンツボリュームも多く、海外やマルチプラットフォーム対応の大規模開発のものが増えた一方で、シンプルなつくりのカジュアルゲームも一定開発されています(2024年のTOKYO GAME SHOWでインディーゲームコーナーがあるということもその裏付けかと思います)。これに伴い、QAとしても必要とされるスキルに変化があり、前者の大規模開発であれば、QAの稼働が大きくなるため、属人化したものではなく標準的なテスト知見がないと品質の担保や管理が難しいですし、後者の小規模開発であればアジャイル的な開発をされることが多いので、アジャイルテストの知見はもちろんのこと、状況によってはスクラムマスター要素のニーズが高まります。
2.サービスの複雑化
前述のモバイルゲームのリッチ化に伴い、10年前と比べるとテストの規模拡大および複雑化が進んでいます。
弊社の例ですと、モバイルゲームの新規リリースにかけるQAにおいて、2013年を基準とすると、ざっくりとした数字ではありますが、テスト工数が2023年には2倍、テスト費用が2023年には3~5倍というデータがあります。
これら2点を踏まえると、テストの必要性・重要性は高まっている一方で、変化する開発にあわせて技術の向上が必要だと感じています。
労働環境の変化
1.人口減少
まず人口減少については、ゲームQAに限った話ではなく、各業務において課題視されている問題です。2020年の実績では15~64歳のいわゆる労働力となる世代が7500万人いましたが、2040年には6200万人、2070年には4500万人と予想されています。人手不足、待ったなしです。
2.有期雇用上限
次に、2018年に施行された有期雇用5年上限ルールです。ゲームQAの現場は過去の様々な背景から、一番のボリュームゾーンであるテスト実行リソースは、アルバイトなど有期雇用であることが大半です。今までは特に雇用の上限年数がなかったため、個人の成長スピードに合わせて、例えば10年テスト実行をしてなんとなく任せられるようになってきたから契約社員に、さらに成長したら正社員にということがこの業界は少なくありませんでした。これが、5年の間で育成する、もしくは終了して新しい方を採用するという対応を迫られています。
これらを踏まえると、今までのように、「とりあえず人手を集めてテストすればOK」というわけにはいかず、今までよりは少数精鋭もしくは、人手をかけずに自動化や効率化を進めるということが避けて通れない状況です。
待遇の差
求められる能力はあがってきているのに、人手は減るわ育成もしないといけないわ、で苦難続きのゲームQAですが、最後のダメ押しで待遇格差があります。
元々、QAという職種がハイサラリーとは言い切れない状況ですが、同じQAでも業界によって給与差がある状況です。
これは個人の所感なのですが、給与差を表すと
「命に関わる製品のQA(車、医療関連)」
>
「組込製品(電化製品など)」≒「SaaSなどWebサービス」
>
ゲームQA
というレベル感のような気がします(採用サイトなどを見てもおそらくすごい間違っているとかはないかと)。事業会社なのか、委託される検証会社なのかでもまた少し違いはあるかと思いますが、一旦そこは割愛します。
では、給与が高いほど品質担保が難しいのか?給与が低いほど簡単なのか?と考えると、必ずしもそうではないように思います。ゲームのQAもけっこう難しいことをやっている。が、なぜ他の業界よりも低いのか。それは過去の経緯ということも大いにありますが、加えてゲームの開発現場はフレキシブルな対応を求められることが多く、テスト技術よりも調整能力やコミュニケーション能力、マルチタスク実行能力など、「わかりやすいQAスキル」とは違うものが必要であり、その重要性を可視化できていないこともあるように思います。
すごく雑なイメージ
※ちなみに、『JSTQB FL』というのはJSTQB Foundation Levelの略で、QAについての基礎的な知識という意味合いで記載しています。
例えば、業界的に仕様書がきっちり作られるわけではないので、サービスに対しての知見を元に補完しながらテスト設計をしたり、テスト実行開始のタイミングで開発がFIXしていないことはよくあるので、何は完了していて何は完了していないのか、途中でどこに修正が入るのか細かく確認しながらテスト管理をしないといけません。そしてそれを短期間でやりきらないといけない(例えば3日間とか)が、テスターは30人ぐらい動いている などなど、かなりフレキシブルな対応が求められるというイメージです。
こんなに大変なのに、他業界のほうが給与が高いとなると、よっぽどゲーム好きでなければ、これはより給与が高い業界に転職したくなりますよね(実際にあるある)。
ということで、いよいよ何とかしないといけない、と思っているわけです。
どうする?ゲームQA人材の価値向上
改めて整理すると
- そもそもやっていることが難しい
- さらに必要なスキルも増えている
- 人手も減っていく
- 給与も他業種より低い傾向にある
さて、どうするべきか。
とりあえずQA人材の給与や発注単価をあげればよいのでは?そしたら優秀な人材が集まりやすいし、人手も確保できるのでは?と思いますよね。そうしたい、のですが、それができたら苦労しないのです!
事業会社の立場からすると、もっと給与をあげたほうがよいことは百も承知だけど、「例えば、今まで100万でできていたものを150万にするってことは難しい。事業的な影響がでる」となります。そう、ただ単に給与をあげることは難しいのです。
あげるためには、シンプルにまとめると下記の二つになるかなと。
- 効率をあげる
か - 付加価値を加える
ということで、ここから後半戦に入ります。
効率をあげる
『効率をあげる』をシンプルな例で考えると100時間かけていたことを50時間で品質担保できるようにする、ということが挙げられます。ということはつまり、他の人に比べて倍の価値を生み出すことができるので給与が上がるに足る理由となります。
さて、どうしたらできるか?
これもまたシンプルに考えるならば
- 担保する領域を精査する
- やり方を変える
の二つが例として挙げられます。
1.担保する領域を精査する
雑に言えば、以下のことを確認してみるのも良いかと思います。
- 100時間かけて実施しているテストの内容は適切か?
- 過去もやっていたからという理由だけでやっていないか?
- そもそも開発と握ったテスト範囲か?
- テスト技法を使えばテストケースを削減できないか?
ゲームだと定常的に新規仕様などのアップデートが入るため、そのままにしておくと、テスト工数は体感で年間115%ぐらい増えていきます。仕様の増加に伴ってテストを増やすことは簡単ですが、品質担保をしつつテストを削減することは難しいため、放っておくと純増することになります。
定期的に、適切なテスト範囲やボリュームになるよう見直しをかけるためには、なんとなくで精査・削減をすると品質リスクが高くなります。テストをせずとも品質担保がされているかをロジックを踏まえて判断する必要があり、そのためにはテスト技術(主にテスト設計技術)を強化する、という対応策が圧倒的に重要です。
2.やり方を変える
こちらも雑に言えば、以下のことを検討してみると良いかと思います。
・それはテストフェーズで防ぐべきか?上流で担保することはできないか?
・手動でやるべきか?
・簡易的なツール等で代替できないか?
・自動化/AI化の検討の余地はないか?
・ただし、これは、テスト範囲の中でも向き不向きあり。イレギュラーがすくないとか、定型化しやすいとか、そういう観点でも考えていかないと開発工数>削減工数になるのでご注意を!
付加価値の創出
地位/待遇をあげるもう1つの方法として付加価値の創出があげられます。
例えば、時給1000円のテスト担当者の方がいたときに、どうしたら2000円になっても良いなと思えますか?(直接時給を払うわけではないけれども、自分たちのにその分付加されるという意味で)
ぱっと思いついた例として以下のようなものがあります。
- 開発も想像していない、市場にでるとやばいクリティカルな不具合を検出してくれる
- 競合の製品を踏まえて仕様に対しての合理的な意見をくれる
- 社内の他部署との連携が必要な内容について、それも含めてやってくれる
- 仕様としては問題ないが、ユーザビリティについての合理的な意見をくれる
- 自発的にテスト改善活動を進めてくれる
付加価値の創出というと難しく考えがちですがゼロから生み出す必要はなく、既存の業務を「広げる」とか「深める」という観点がヒントになりそうです。
「広げる」であれば、エンジニアやプランナーの領域を一部できるようにする、等がイメージしやすいでしょうか。自動化エンジニアとか、もっと細かくいえば、ビルドつくるところからテストまでは全部対応してくれちゃう、とかでしょうか。プランナー領域であれば、開発スケジュールの管理などQAにお願いされやすい部分(かつ、これを気楽にお願いされるのはゲームのQAならではかもしれません)から入っていくなんていうのも「広げる」に該当しそうです。
「深める」であれば、これはもうテスト技術の強化です。専門知識を高め、より品質高く、より効率的に、洗練されたQAを実現しましょう。
またしても求められるテスト技術の強化!
そして、その上で、価値を正しく測り、評価し、合意をとるプロセスの設計が重要となるので、最後に簡単に触れたいと思います。
向上した価値を広く認知させるために
QA人材の価値向上として、効率アップと付加価値向上について触れてきましたが、上記二つをやったところで、ただ「すごいね」で終わらせないことが大切です。それらには価値があるということが認知され、言語化されていることが重要で、それがあるだけで次の世代にとっても目指すべき指標となり、成長のスピードがあがるはずです。これについては現場が頑張るというより管理職が真面目にやる必要があると思っています。(耳が痛い)
あくまで参考にですが、なんらかカテゴリー分けをして可視化すると、理解がしやすいですし、夢と希望を持つことができてよさそうですよね。
参照:IT関連産業の給与などに関する実態調査
そして、IT業界においては、やはりスキルが給与に大きな影響があるようです。スキルよ、スキル。
これだけだと、まぁそうだよね(以上)、となりそうなので、現在私がイメージしているアウトプットになります。一気に現場の話になりますがご容赦ください!
ゲームQAのキャリアマップ
マネジメントラインとスペシャリストに大分され、スペシャリストの中でも、テストマネージャ/テストアナリスト と QAエンジニア で分けたほうがスキル的には良さそうと、現場メンバーの特性を見ていると感じています。
こういったもので、メンバーのスキル感を社内外に認知してもらう材料にしていきたいです。
※本当は業界標準があったほうがより説得力はあるので、それはそれで検討中。一方で、JSTQBで認定試験をやっているので、そういうものも活用したいですね!
次に、それぞれに求められるスキルをマッピングした一例です。
これは外向けというよりは現場向けのもので、具体的に何ができたらよいのか、どういう成果を求められているのか、イメージしやすくするための補助資料です。
先ほどの効率をあげるとか、付加価値を高めるに紐づく内容が含まれています。
これらを持って、QA人材のスキル面での価値を高めつつ、市場価値も高められれば、事業的にも携わる人にも良い未来になるのでは…と考えています。
さいごに
ゲームをはじめ、製品/サービスの品質向上には、QAは必要不可欠だと思っています。その担い手がいなくなる(または減る)ということは、サービスの品質にも影響があること。
今後間違いなく、ゲームのQAは変わっていくと思うので、そこに対して、課題にきちんと向き合い、今できることをやっていければと考えています!
好き勝手書いてしまいましたが、こんな課題を持って右往左往しながらなんとかやっている人間もいる@2024 をご認識いただければ幸いです。
それでは、来年もよりよい一年となりますように!
メリークリスマス!