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Day 2

アクセシビリティカンファレンス福岡2024、現地で私が学んだこと・感じたこと

Last updated at Posted at 2024-12-02

はじめに

先日11/30(土)にアクセシビリティカンファレンス福岡2024が開催されました。
今年9月に行われたアクセシビリティカンファレンス名古屋で学びが多かったと感じていた私は、こちらのイベントも現地参加してきました。私が学んだこと、感じたことをレポートしてみようと思います。

障害は乗り越えられるべき課題なのか?(田中みゆきさん)

障害者の方と関わりながら、文化芸術分野で活動されている田中さんのセッションは、障害の様々な側面を Web に限らない範囲でお話されていて、初めて聞く言葉や概念も多かったです。Web アクセシビリティについて学んでいるつもりでいましたが、障害については深く知らないまま Web アクセシビリティに取り組んでいたなぁと考えさせられました。

「マニュアルができると守ることがゴールになってしまいがち」

制作ガイドライン・コーディングガイドラインなどに囲まれて日々の仕事をしている身としては、一瞬ドキッとしました。

ICF(国際生活機能分類)という枠組みがある

Web アクセシビリティの文脈では医学モデルと社会モデルという考え方はよく目にしますが、障害の分野では ICF(国際生活機能分類)という枠組みがあることを知りました。
初めて聞いた用語だったので、後で調べました。(ICF(国際生活機能分類)とICIDHの違いについて

『合理的配慮』は英語で Reasonable Accommodation

『合理的配慮』は英語で Reasonable Accommodation または Reasonable Adjustments と呼ばれ、障害者の完全な参加を可能にするための調整(Adjustments)や変更(Modifications)を指す概念です。しかし、日本では『配慮』という言葉が使われ、人権に関わる問題において周囲の気持ちに訴える表現になりがち、という話もありました。

アクセシビリティを捉え直す

田中さんはアートや表現活動でのアクセシビリティのご経験から、従来のように心身の特性によって得ることが難しい情報・構造を代替的に保証するという考え方ではなくて、それぞれが自分の体で主体的に物事と関わり、バラバラの想像・行動を行うための土台となるもの(スタートラインに立つためのもの)と捉え直したい、と話されていました。

障害者文化(Disability Culture)

  • 障害属性だけでその人がどういう情報を欲しているかは、他の人が決めることはできない
  • 一時的にその障害を疑似体験したとしても、その状態から生まれる障害者文化や経験を体験したことにはならない
  • その人の障害や状態に基づく固有の経験にどれだけ触れていくかが重要

なるほど。では、どのようなことができるのだろうと考えましたが、その一つのヒントが、次のセッションで紹介された SmartHR 坂巻さんの取り組みなのかな、と思いました。

エイブリズム(Ableism)

この言葉は初めて知りました。健常者の規範・基準にもとづいて障害のある人を差別することで、健常者中心主義とも訳されます。
テクノエイブリズムということを提唱されている方もいらっしゃって、障害者を支援するテクノロジーが、どのような身体や精神が望ましいのか、誰が価値ある存在と見なされるかを暗黙的に提示してしまい、エイブリズム的な価値観や優生思想を強化してしまうのではないか、と危惧する見方もあるということです。

エイブリズムに陥らないため、以下のような取り組みや姿勢を提案してらっしゃいます。

  • マジョリティ(多数派)が健常者の特権について意識的になること
  • 障害のある人がつくる側に立つための技術をアクセシブルにすること
  • 製作側/開発側に障害のある人が加わること

そして、どういうことが可能になれば、つくる人が多様化するのか?というきっかけになれば。という言葉でセッションを締められていました。

今の仕事や取り組み方について見つめ直す視点をいただいたように思います。
今年発売の著書『誰のためのアクセシビリティ?』も読んでみたいと思いました。

アクセシビリティをあたりまえにするまで(坂巻舞羽さん)

SmartHR 坂巻さんのセッションでは、SmartHR さんの本気を感じました。
最後のまとめでも話されていましたが、日本全体の Web アクセシビリティを高めることを目指されているということは本当なんだろうなというのは、サイトや活発なイベント登壇や情報発信から感じます。
私は受託の制作会社で働いていますが、そういう立場でどういう取り組み方や社会との関わり方ができるんだろうなと思いながら聞いていました。

アクセシビリティに取り組む組織のよくある問題と SmartHR さんの対策

  • アクセシビリティが必要なユーザーは現在いないだろうと考え、他人事とみなしてしまう
    → 開発フローにおいてアクセシビリティチェックに障害当事者メンバーが参加する仕組みを導入
  • アクセシビリティの重要性は理解しているものの、デザインや実装の段階でそれを考慮する余裕がない
    → デザインや実装のプロセスを整備して標準化することで、考慮しやすい環境を構築
  • 「サービスやユーザーにどのような影響があるのか?」と問われ、ビジネス成果との関連性を求められる
    → サービスの価値として伝わりやすい、発展的な施策に挑戦している

共感ですし、今のアクセシビリティに対する世間の理解などの複合的な要素が反映されているんだろうなと感じます。

開発の最低品質を効率的に担保する仕組みと品質検証フロー

また、品質保証を行うアクセシビリティテスターが在籍し、視覚障害や上肢障害のあるメンバーが自身の特性に基づいたユーザビリティテストや WCAG 達成基準に基づいたテストを実施しているということです。

そうした取り組みで WCAG シングル A 相当の品質はほぼ達成されているが、障害者を雇用している企業からは「利用が難しい」との意見が寄せらえるなど、「誰もが使える状況」にはまだ課題が残っている。

参考文献:
アクセシビリティを担保するためにESLintの独自ルールを作っている話

誰もが使えるサービス実現に向けた発展的な取り組み

「やさしい日本語」の活用を推進

  • まずはマニュアルなど、開発リソースを使わずにできるところから開始
  • 社内の当事者や当事者が身近にいる・いた人から意見を収集
  • 障害者雇用の現場でもユーザーテストを実施

アクセシビリティをあたりまえにするために

アクセシビリティを高める方法を柔軟に考える

  • サービスや Web サイトの先にはどんなユーザーがいるか?
  • ユーザーのアクセスにおいて、どんな課題があるか?
  • WCAG などの Web アクセシビリティ以外にも工夫できることがあるかもしれないと考える

ユーザーを知る/ユーザーの声を聞く

  • ユーザーの声なしにアクセシビリティを向上しても、正解がわからない
  • 多様なユーザーがいることや、実際の使い方や課題を知る
  • ユーザーの課題に対する解像度を上げる

手話CG KIKIが繰り広げるインクルーシブ社会の実現(小谷野崇司さん)

手話CGサービス

手話に特化したデジタルヒューマン開発を紹介されました。このサービスは、HTMLのテキストを手話動画に瞬時に変換することが可能で、PCで閲覧している際にはウィンドウ右下にKIKIがポップアップ表示され、手話で内容を読み上げてくれるデモも披露されました。

また、2025年6月28日から施工される EAA(欧州アクセシビリティ法)についても触れられました。この法律について調べたところ、2025年以前に市場に投入された既存の製品やサービスは、基本的に改定の対象外とされるものの、後のアップデートや大規模改修が行われる場合には、要件を満たす必要がある可能性があるようです。グローバル市場を対象とする企業がクライアントの場合、対応を検討する必要がありそうです。

なお、WCAG における手話に関する達成基準は 1.2.6 レベル AAA に該当し、事前に録画された同期したメディア(例: 動画)の音声コンテンツに手話通訳が提供されていることが要求されています。レベル AAA であるため、日常的に対応することは少ないかもしれませんが、対象ユーザーにとって非常に有効な支援となるため、このような技術やサービスを選択肢として持っておくことは重要だと感じました。

また、手話には日本手話、国際手話、アメリカ手話など、各国や地域、文化によって異なる表現やルールをもつ言語だということを知りました。これについては普段あまり意識することがなかったため、非常に興味深い内容でした。

手話に関する取り組みは、普段のサイト制作では意識する機会が少ない分野でしたので、今回のセッション内容をアーカイブで復習し、理解を深めたいと思います。

選挙のアクセシビリティ(野田純生さん)

選挙におけるアクセシビリティの課題と改善策についての内容が中心のセッションでした。
正直、私は選挙情報のアクセシビリティについて深く考えたことがなかったので、現状でまだまだ行き届いていないことや課題が世の中には多く存在することに驚きました。特に選挙は公共性が高く、公平性が求められる内容だと思いますので、是非改善が進んでほしい分野だと感じました。障害を持つ方々にとっては、必要な情報が不足していることで投票が困難になる状況も想像され、課題解決の重要性を改めて感じました。

視覚障害者が直面する情報取得のハードルをなくすことの重要性が強調され、具体例として、ヤフージャパンが提供していた「聞こえる選挙」サービスの終了や、選挙公報における Web アクセシビリティの問題点が挙げられました。それに関連して、ymrl さんの記事も紹介されており、参考文献として以下のリンクが共有されていました。

選挙は「聞こえる」ようになっているのか?

特に指摘があったのは以下の点です。

  • PDFのスクリーンリーダー対応の不備
    読み上げ順序や代替テキストの設定不足が原因で、視覚障害者が選挙公報を理解しづらいという問題。
  • 手話通訳と字幕の必要性
    聴覚障害者に配慮した情報提供が求められる状況。
  • 選挙公報削除や点字版選挙公報の法的裏付けの欠如

具体的な改善策として、以下の提案が紹介されました。

  • 音声ガイドやYouTubeを活用した選挙情報提供
  • 色と形を組み合わせたデザインの導入
  • ネット選挙の可能性の検討(エストニアの事例が紹介)

私の普段の仕事と関連が深い部分としては、PDFファイルのアクセシビリティ改善が挙げられます。特に、読み上げ順序や代替テキストの設定、Adobe Acrobatを用いたアクセシビリティ向上策は、実務でも応用可能です。この点については、伊原さんが紹介してくださっており、以下のリンクが参考になるとのことでしたので、確認したいと思います。

PDFのしくみとアクセシブルにする方法はこちら

最後に

全体として、技術的な話というより、アクセシビリティにどう向き合っていくかを考えされられる内容でした。

学びを共有するときは、できるだけ引用だけに頼らないように心がけていますが、初めて知った内容も多く、一部引用が中心になっている部分についてご了承ください。また、あくまで自分のメモや理解に基づいて書いているため、セッション内の資料とは書き方や表現が異なる部分がありますし、内容の理解に不備が含まれている可能性もある点をご承知おきください。

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