概要
OpenSourse Summit Japan 2024やJapan SBOM Summit 2024などのイベントに参加してみて、また、プロフィールに記載しているオープンソースに関わる諸活動を介して、現在のオープンソース(OSS)について、主にメンテナー/コントリビューターの視点から、開発者がなぜソースコードをオープンにするのかについてざっくばらんに述べてみたいと思います。
歴史家でも法律家でも事業家でもないので、過去や事実、ライセンス、ビジネスに関する細かいことには触れませんし、間違いもあるかもしれません。
投稿内容や記載内容はすべて私個人の見解であり、所属する組織を代表するものではありません。
オープンソースとは
「オープンソース」とは Open Source Initiative (OSI) が定義した言葉です。さらには、OSI がオープンソースと認めるライセンスの一覧があり、ユーザーがOSSの選択を容易にし、商用でも使いやすくし、OSS とユーザーや企業を結びつけ、巨大なエコシステムが形成され、OSS 利用がここまで普及(プロダクトのソースコードの7割超を占めるほどと言われる)するに至りました。
ところが、前述のオープンソースの定義を見ると、ほとんどの部分をライセンスの説明に費やしており、利用者視点での言い分が多くを占めていることがわかります。この定義の目的がユーザー視点であることについては本家の偉い人もそのように言ってますし(詳細は公開できませんので悪しからず)、同様に「フリーソフトウェア」においても「利用者の目的が問題で、開発者の目的は問題ではありません」としています。
ソースコードをオープンにしてくれているのは開発者なのに、彼らのモチベーションや目的であるところの、「なぜ開発者はソースコードをオープンにするのか」については、語られていない部分が多いわけです。
オープンソースという開発手段と文化
「オープンソース」でも「フリーソフトウェア」でも、「派生」や「変更」について言及しています。これらの単語は、ソースコードを入手し、ユーザーが「変更」を加え、「派生」させる、という文脈を想起させます。つまりは、まるっとソースコードを頂いてきて、別のものとして提供するし、公開する手段も様々、というやり方ではなかったでしょうか。一方、現在のオープンソースにおいては、「貢献」や「アップストリームファースト」など、一つのソースコードをみんなで作る・改善する、というやり方です。GitHubの登場により、みんなで作業することが飛躍的に容易になり、その利用が増え、デファクトスタンダードなやり方となり、現在のオープンソースの開発手段となっています。
オープンソースの価値とは
オープンソースの価値の認識についても変化が起きています。旧来からの OSS 利用による「コスト削減」という価値だけでなく、OSS 貢献による「スキルアップ」や「コラボレーション」、「オープンイノベーション」をオープンソースの価値として語られることが多くなっています。マイナスの低減からプラスの創造へ価値観が移っていると見ることができます。OSS 貢献の成果は、開発者にとってオープンでグローバルな実績となり自らの評価にも繋がるのです。昨今の「なぜ開発者はソースコードをオープンにするのか」という問いに対する答えはこのあたりにあると考えられます。
そしてその創造力や創造する場としての価値が数字としても出始めています。欧州委員会は「OSS貢献が10%増加すると、GDPが0.4〜0.6%/年の上昇する」(Commission publishes study on the impact of Open Source on the European economy 2021-9-6)と述べています。この発言の元となった 約390 ページに亘る研究成果(Study about the impact of open source software and hardware on technological independence, competitiveness and innovation in the EU economy 2021-9-2) においては、以下のような結果が示されています。
- OSSの利用と貢献のROIは8倍以上と約51%が回答
- OSS への投資と企業の従業員 1 人あたりの売上高の間には正の相関関係がある
- GitHub への貢献者の数と企業の売上高の間にのみ有意な正の相関関係が明らかになりましたが、コミット数と関連する労力に依存すると、その相関関係は明らかではない
- 従業員 1 人あたりの売上高は、貢献者数、コミット数、労力などのどの指標とも正の相関関係がない
つまり、属人的なOSS貢献ではなく、組織全体としてOSS貢献できるようになっていることが企業の成長に影響を与える、ということが考えられます。
Google は、2023年に約10%のフルタイム従業員がOSSに貢献したと発表しています。OSS貢献を実践している企業が世界に名だたる企業であり続けている例と言えるでしょう。
一方で、「オープンソースの開発に貢献せず搾取するだけの大企業」の解決方法をDrupal開発コミュニティが示す (Gigazine)、などと「企業が貢献しないくせに修正は求めてくる」ことや「貢献せず利益だけを得ている」ことに嫌悪感を露わにすることも少なくありません。
個人も企業もOSSを利用するエコシステムの一員としてのインテグリティが問われており、個人として、企業として、国として、自らだけでなくエコシステム全体の成長を考える必要性があるのだと思います。
アップデートの必要性
年月を重ね、技術が進歩し、価値観までも変わってきた現在、自らのオープンソースに対する認識も改める必要性を感じます。2006 年に公開された OSI の「オープンソースの定義」は、OSS の利用を大いに推進してきたと思いますが、そろそろ20年を迎えようとしている今、この定義の捉え方もアップデートすべき時が来ているのではないでしょうか。