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RAGにおけるRerankモデルの役割と最近の動向

Last updated at Posted at 2025-06-16

はじめに

RAG(Retrieval Augmented Generation)は、大規模言語モデルと情報検索技術を組み合わせた技術として広く利用されています。質問に対して関連する文書を検索し、その情報を基にLLMが回答を生成する仕組みです。

しかし、初期検索ではキーワードマッチやベクトル類似度による単純な方法で文書を選ぶため、質問との関連性が低い文書が含まれることがあります。この問題を解決するのがrerankモデルです。検索で得られた文書群を再評価し、本当に必要な情報だけをLLMに渡すことで、より正確な回答生成を実現します。

RAGにおけるRerankの位置づけ

一般的なRAGのプロセスは以下の3段階で構成されます。

Retrieval(検索): BM25やベクトル検索などの高速な手法で、大量の文書から初期候補を取得します。

Rerank: 初期候補の文書群を、より精密な手法で再評価します。単純なキーワード一致を超えて、文脈や意味レベルでの関連性を判定します。

Generation(生成): rerankされた高品質な文書を参照情報として、LLMが最終的な回答を生成します。

Rerankモデルの必要性

rerankモデルがRAGシステムに欠かせない理由は複数あります。

初期検索では処理速度を優先するため、文脈や意味を十分に考慮できません。rerankモデルはより高度な言語理解能力を使って、質問との関連度を正確に評価します。

また、全文書に対して高精度な関連性判定を行うと計算コストが膨大になるため、まず簡易検索で候補を絞り込んでから精密な評価を行う二段階のアプローチが効率的です。

さらに、LLMは入力された情報に基づいて回答を生成するため、関連性の低い文書が混入していると誤った情報を生成する可能性があります。rerankモデルによって適切な文書のみを選別することで、このリスクを軽減できます。

主要なアーキテクチャ

Cross-encoder vs. Bi-encoder

rerankモデルを理解するには、テキスト類似度計算の2つの主要アプローチを知る必要があります。

Cross-encoderは質問と文書を同時にエンコードし、両者の相互作用を直接モデル化するため高精度ですが、各ペアを個別に処理する必要があり計算コストが高くなります。

一方、Bi-encoderは各テキストを独立してエンコードします。文書を事前にベクトル化してデータベースに保存できるため、検索時はクエリのエンコードだけで済み、大規模データセットでも高速に処理できます。ただし、テキスト間の相互作用を十分に捉えられないため精度は劣ります。

RAGでは通常、Bi-encoderで初期検索を行い、Cross-encoderでrerankを実行することで、精度と効率のバランスを取っています。

代表的な手法

従来のLearning-to-Rankでは、用語頻度や意味的類似度などの特徴を使って機械学習モデルを訓練します。Pointwise、Pairwise、Listwiseの3つのアプローチがあります。

BERTは質問と文書のペアを入力として関連度スコアを出力します。双方向の文脈理解により、より深い意味把握が可能です。

Sentence-BERTはBERTを改良して文全体のベクトル表現を効率的に獲得できるようにしたモデルです。

LLMベースのrerankerでは、GPTやClaudeなどの大規模言語モデルに質問と文書群をプロンプトとして入力し、関連度に基づいた並び替えを行います。高精度が期待できますが、利用コストが課題となります。

API提供サービスとして、CohereやJina AI、OpenAIなどが高性能なrerankモデルをAPIで提供しています。インフラ構築なしに最先端の技術を利用できる一方、コストやプライバシーの考慮が必要です。

性能比較

各手法の特徴を表にまとめると以下のようになります。

手法タイプ 精度 計算コスト 代表例
Cross-encoder BGE, sentence transformers, BAAI bge-reranker
Multi-vector ColBERT v2, Jina ColBERT v2
LLM オープンソース RankZephyr, RankT5
LLM API 最高 非常に高 GPT, Claude
Rerank API Cohere, Jina

実際の動作例

具体例で説明すると、「東京の桜の見頃はいつですか?」という質問に対して以下のような処理が行われます。

初期検索では「東京」「桜」「見頃」のキーワードを含む文書を10件程度取得します。この段階では、東京の桜に関する記事、全国の開花予想、観光スポット情報、桜の種類解説など、関連度にばらつきのある文書が混在します。

rerankモデルは「見頃」という時期に関する質問の意図を理解し、時期情報を含む文書を優先的に評価します。「東京都内の桜の見頃は例年3月下旬から4月上旬です」や「新宿御苑では例年3月25日頃から桜が咲き始めます」といった文書が高評価を受け、「日本には山桜、ソメイヨシノなど様々な桜の種類があります」のような文書は低評価となります。

最終的に、関連性の高い上位文書を基にLLMが適切な回答を生成します。

適用事例

rerankモデルは様々な分野で活用されています。

企業の社内検索システムでは、従業員が必要な文書をより簡単に見つけられるようになります。サイロ化された情報の中から、本当に必要な知識を効率的に取得できます。

カスタマーサポートのチャットボットでは、顧客の質問により適切に答えられるようになります。関連する情報を正確に検索することで、より的確な応答が可能になります。

課題と今後の展望

rerankモデルには解決すべき課題もあります。

計算コストの問題では、特にCross-encoderベースのモデルで顕著です。効率性と精度のバランスを取る新しいアプローチの開発が進んでいます。

学習データのバイアスを継承する可能性があり、特定のトピックや表現に対して偏ったランキングが生じる場合があります。バイアス検出と軽減技術の研究が重要になっています。

説明可能性の課題では、なぜ特定の文書が高ランクになったのかを説明できないブラックボックス性があります。特に企業や規制環境では説明可能なモデルが求められています。

ドメイン適応では、専門用語が多い分野での性能低下が課題となり、ドメイン固有のファインチューニングが必要になることがあります。

多言語対応についても、英語以外の言語での性能向上が継続的な課題となっています。

最新の技術動向

新しいアーキテクチャ

最近では、ElasticのDeBERTa v3ベースの「Elastic Rerank」が、既存システムへの統合のしやすさと40%の性能向上を実現しています。Alibaba NLPの「gte-multilingual-reranker-base」は70以上の言語に対応し、8192トークンまでの長文処理が可能です。

LLMの活用拡大

推論言語モデルの技術を活用したRank1のような新しい手法も研究されています。OpenAIのo1やDeepseekのR1などの推論モデルを蒸留して、小型モデルの性能を向上させるアプローチです。

効率化と実用性

bi-encoderとcross-encoderを組み合わせたハイブリッドアプローチが主流となっています。また、非自己回帰型生成モデルのような効率的な手法により、推薦システムでの高速な候補生成も可能になっています。

評価においても、精度だけでなく多様性や公平性を同時に考慮するLLM4Rerankのようなフレームワークが開発されています。

実装面では、マイクロサービス化やElasticsearchとの統合、主要クラウドサービス(AWS、Azure、Google Cloud)との連携が進み、大規模システムへの導入が容易になっています。特にCohere Rerank 3.5のようなAPIサービスは、Amazon BedrockやMicrosoft Azure AI Foundryを通じて簡単に利用できるようになっており、企業での導入ハードルが大幅に下がっています。

まとめ

rerankモデルは、RAGシステムにおいてLLMに渡す情報の品質を向上させる重要な技術です。Cross-encoderとBi-encoderの特性を理解し、用途に応じて適切な手法を選択することが、システム全体の性能を左右します。

計算コストやバイアス、説明可能性などの課題は残っていますが、継続的な研究開発により改善が進んでいます。新しいアーキテクチャやLLMの活用、効率化技術の進歩により、rerankモデルはより実用的で高性能なものになっています。

今後もRAGシステムの性能向上において、rerankモデルの役割はますます重要になると考えられます。より洗練された技術の登場により、様々な分野でより正確で信頼性の高い情報検索が実現されることが期待されます。

参考・関連書籍

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