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森羅万象プロジェクト Chapter01-02:加算器をつくる

Last updated at Posted at 2024-03-08

こんにちは!森羅万象プロジェクトです!
前回は「CPU自作のための環境構築」について説明しました。

今回は 足し算だけできるCPU(の一部) を作っていきたいと思います。

(定期宣伝)
ちなみにこの記事は、
CPUを作ったことのない人による、
CPUを作ったことのない人のための記事
ですので、CPU入門・初心者の筆者と一緒に勉強していただけたらと思っています!!

今回は、「加算器(Adder)」について、
1.加算ができるモノ ≒ 低機能CPU?
2.足し算プログラムなんて作ったことあるよ?
3.物理的に足し算ができるCPUを作りたい!
4.加算器をChiselでつくってみた!
に分けて説明していきます。

1.加算ができるモノ ≒ 低機能CPU?

・CPUに必要なパーツについて、ChatGPT(筆者はGPT-4をサブスクしています)に聞いてみた(ものを要約した)ところ、以下のような要素があるとのことでした。

  1. 演算処理ユニット(Arithmetic Logic Unit, ALU)

    • 数値演算: 加算、減算、乗算、除算などの基本的な算術演算を実行。
    • 論理演算: AND、OR、NOT、XORなどのビット単位の論理演算を行う。
      (これらは全部NANDを組み合わせるだけでできる。NAND最強。)
  2. 制御ユニット(Control Unit, CU)

    • 命令の解釈: プログラムから読み込んだ命令を解釈し、何を行う必要があるかを判断。
    • 命令の実行: 各種装置に対して命令を送り、実行を管理。
  3. レジスタ

    • 一時的なデータ保持: 処理中のデータや中間結果を一時的に保持。
    • 特定の機能を持つレジスタ: 命令ポインタ、ステータスレジスタなど。
  4. キャッシュメモリ

    • 高速アクセス: 頻繁に使用されるデータや命令を一時的に保持し、高速なアクセスを可能にする。
  5. バスインターフェースユニット

    • データ転送: CPUとメモリや他のデバイス間でデータを転送。
  6. 命令セットアーキテクチャ(ISA)

    • 命令セット: CPUが理解できる命令のセット。このセットに基づいてプログラムはCPUに命令を出す。
  7. パイプライン処理

    • 同時実行: 複数の命令を同時に処理することで、効率的な実行を実現。
  8. クロックとタイミング

    • システムクロック: CPUの処理速度を決定するタイミング信号。

・しかし、CPUの機能を全て個人で実装するにはノウハウや時間が足りない人も多いでしょう。(作ったことない人でばなおさら。)
・ここでよく言われるのが、「足し算ができるCPUを作成できれば、それは究極的に機能を制限したCPUといえる」という話で、
上の1.を作成しているとはいえるかもしれません。
まあ、いきなりメモリ機能やクロック機能を作れと言われてもできる気がしないし(と思っているのは筆者だけですか?)、
開発の時に「とりあえず動作確認のために加算器を作ろう」という流れになったというメタ的な事情もありますので、
今回は加算器を作成していきます。

2.足し算プログラムなんて作ったことあるよ?

・しかし、「足し算できるモノを作ってください」と言われたら、PythonやJavaでも作れます(筆者も大学講義でC言語とJavaやりました)。

# Python
class Adder:
    def __init__(self, a, b):
        self.a = a
        self.b = b

    def execute(self):
        return self.a + self.b

# 使用例
adder = Adder(3, 5)
print(adder.execute())
// Java
public class Adder {
    private int a;
    private int b;

    public Adder(int a, int b) {
        this.a = a;
        this.b = b;
    }

    public int execute() {
        return this.a + this.b;
    }
}

// 使用例
Adder adder = new Adder(3, 5);
System.out.println(adder.execute());

そこで、ChiselというDSLの出番なわけです。
ScalaはJavaベースなので、パッと見はJavaと同じように見えます。

// Scala
class Adder(a: Int, b: Int) {
  def execute(): Int = {
    a + b
  }
}

// 使用例
val adder = new Adder(3, 5)
println(adder.execute())

そして、ChiselはScalaのDSLなので、Scalaのコードを書くように見えます。

// Chisel
class Adder extends Module {
  val io = IO(new Bundle {
    val a   = Input(UInt(8.W))
    val b   = Input(UInt(8.W))
    val out = Output(UInt(8.W))
  })

  io.out := io.a + io.b
}

// 使用例
val adder = Module(new Adder)
adder.io.a := 3.U
adder.io.b := 5.U
printf("%d\n", adder.io.out)

めちゃめちゃ簡単に言うと、
PythonやJava、Scalaはソフトウェアを作成するためのプログラミング言語なので、実行するとソフトウェアができますが、
Chiselはハードウェアを作成するためのプログラミング言語なので、実行するとハードウェアができます。
(厳密にはハードウェアを作成するための設計図(FIRRTL?)みたいのを作り出すので、それを使って(Verilogなど(設計図を実行できる言語)を作りそれで)ハードウェアを作っています。)
前回わざわざChiselを入れたのにはこういう背景があります)

3.物理的に足し算ができるCPUを作りたい!

・プログラム(ソフトウェア上)でCPUの設計図が作っていくのですが、せっかくなら物理的に足し算ができるCPUが欲しいですよね。
ただ、いきなり基盤に(銅線を用意|はんだ付け)をするのはハードルが高すぎます。
(ここで宣伝:セキュリティ・キャンプでははんだ付けするゼミがありましたよ!!)
今回のプロジェクト(CPU編?)では最終的にFPGA(Field Programmable Gate Array)(写真のようなもの)を使って、物理的に作成する予定です。(って最初に言うべきだった、、)

  1. あらかじめパーツや回路がたくさん書き込まれているFPGAは、Chiselで作成した「設計図」を書き込むことで、 LUT(Look Up Table) を書き換えることができます。

  2. LUTは、入力に対して出力を決定するためのテーブルのようなもので、真理値表のようなものと考えると分かりやすいかもしれません。
    01_TANGnano9K.gif

  3. このLUTを書き換えることで、FPGA上の回路を変更することができ(いろんなものが搭載されているFPGAの好きな部分だけ取ってきてつなげることができ)、最終的にCPU(の機能を持った物理ユニット)になるというわけです。

4.加算器をChiselでつくってみた!

サンプルコード:筆者のGitHub

これが動けばOK!!

02_UgokebaOK.gif

とりあえず、サンプルコードをgit cloneしてきて、CPU-1中でtestが動けばOKです。
できる方はどんな手を使ってもよいので、どうぞ。

筆者はこうやりました

(参考までに、筆者はWindows11を使っています。 上手くいかない場合はインターネットや友人に相談してみてくださいね。(定期))

  1. Adder.scalaをChiselで書く

03_Adder-scala.gif

・上にも出てきていますが、一応解説しますね。

package core

import chisel3._
// Javadだと import java.util.* 、  
// Pythonだとfrom module import *みたいな感じですね  
  
// ModuleはChiselの基本的なクラス(IOやBundleなどの便利関数を持ってる)  
class Adder extends Module {  
   // IOは入出力を定義するためのクラス  
   // Bundleは複数の信号をまとめるためのクラス  
   val io = IO(new Bundle {  
      // CPU(今回はFPGA)は0,1を保持しておくもの(トランジスタで作られたフリップフロップ)をいっぱい持ってます  
      // そのうちの8個(とそれぞれにつながる導線&動線、だからW(idth)型)をaとして割り振る(b, outも同様)、という意味です
      // この8個のフリップフロップのカタマリを、a「レジスタ」と呼んだりします  
      val a        = Input(UInt(8.W))  
      val b        = Input(UInt(8.W))  
      val out      = Output(UInt(8.W))  
  })  
  // 8個の0,1では2の8乗(256)通りの組み合わせがあるので、0-255までの数値を表現できます  
  // なので大きい数を足し合わせると、、?(あとでやります)    
  io.out := io.a + io.b  
}  

・筆者の個人的ポイント:
やはり、コードを書けるようになるのではなく(書けるに越したことはないですが)、

  • 今回は「値を保存するもの」を物理的に用意しているのではあって「値」を入れているわけではない
  • ソフトウェア記述言語では、「値」が保存されるが、その裏では「値」を保存するために上のやつ↑が自動的に行われている
    というイメージができるようになった方が幸せかもしれません。(私は理解するのに3hかかりました)
    ちなみに、フリップフロップに電気信号を送る際は有名なものだと「0(電圧をかけない)で」「出力1」を表示するとありますが、
    これは裏でいい感じにやってくれてるくれてないとか、、?
    05.flipflop.png
  1. Top.scala(Adder.scalaをテストするやつ)をChiselで書く

04_Top-scala.gif

・これも上で出てきていますが、一応解説しますね。
(インポート部分で何ができるか詳しく知りたい方は、公式github
org.scalatest.flatspecなどをご確認ください)

package core  
  
// テストに使用するやつもインポート    
import chisel3._  
import chiseltest._  
import chisel3.iotesters._  
import org.scalatest.flatspec.AnyFlatSpec  
  
// Chiselのテストをするとき、ScalaTestとChiselScalatestTester(ScalaTestと組み合わせてChiselのモジュールをテスト)の機能を使う  
class TopTest extends AnyFlatSpec with ChiselScalatestTester {  
  
   // it must "runs Top" ≒ テストのゴール:Topが最後まで動くこと  
   // test(new Adder) ≒ Adderモジュールのインスタンスをテスト  
   // withAnnotations(Seq(WriteFstAnnotation)) ≒ FST(Fast Signal Trace)ファイルに波形データを書き出すためのアノテーションを追加  
   it must "runs Top" in { test(new Adder).withAnnotations(Seq(WriteFstAnnotation)) { c =>  

      // pokeで入力を与える、今回なら8個のフリップフロップ(のレジスタa)の内、下位2ビット分に電気信号を与えて1の状態にする(00000011 (2進数) ≒ 3(10進数))
      // peek(今は使ってませんが)で現在の状態を確認、確認するだけで間違いを指摘するわけではない  
      // expectで出力を検証、こっちは確認して間違ったら指摘してくれる

      // c.clock.step(1) で1クロック進める、poke, peek, expectは時間が止まった状態で行われるので、stepさせて(時間を進めて)初めてシミュレーションが進む  
      // aにpoke、bにpokeを(1クロック進めて)反映させるイメージ  
        
      // 通常のテスト  
      c.io.a.poke(3.U)  
      c.io.b.poke(5.U)  
      c.clock.step(1)  
      c.io.out.expect(8.U)  
      // オーバーフローしたときのテスト  
      c.io.a.poke(250.U)  
      c.io.b.poke(10.U)  
      c.clock.step(1)  
      c.io.out.expect(4.U)  
   } }  
}  
  

・筆者の個人的ポイント:シミュレーション特有の時間管理は要チェックですね、、。
オーバーフロー後に4が入るのは、250(11111001)+ 10(00001010)= (260(100000100)だけど8bitで表示できないので)4(00000100)というイメージです。
ちなみにずっと「U」int(符号なし整数)でやってるのは、 int(符号付き整数)だと計算結果のバグ等イロイロ面倒だからです、、。

  1. 実行(sbt test)したらこんな感じ
    正しく動くと上と同じ、全部「passed」になります。
    02_UgokebaOK.gif
    250 + 10 = 「4」を「2」にしてみるとこんな感じ。ちゃんと「違う!!」って言ってくれます。
    06_TestNG.gif

・足し算できましたでしょうか?
この記事を見てもできなかった・内容がおかしい等あれば、コメントやX(Twitter)で教えていただけると嬉しいです!

次回は、CPUのALU部分の続き、メモリやプログラムカウンタを用意していきます!

担当:Astalisks

次の記事は「01-03_命令を送る・受け取る」

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